VMA(出来高移動平均線)とは何か
VMA(Volume Moving Average、出来高移動平均線)は、価格ではなく「出来高」に対して移動平均をとったテクニカル指標です。一般的な移動平均線(価格のSMAやEMA)は「いくらで取引されたか」に注目しますが、VMAは「どれだけの量が取引されたか」に注目します。市場では、価格よりも出来高の変化が先に動くケースが多く、プロのトレーダーは必ず出来高を確認します。VMAは、その出来高のトレンドを一目で把握するための、シンプルで強力なツールです。
出来高の生データは日ごとにバラバラでノイズも多く、そのままではトレンドを把握しづらいです。VMAを使うと、出来高が「増加傾向なのか減少傾向なのか」「平常時と比べて異常に多いのか」などを、滑らかな線として視覚的に確認できます。特に株式、FX、暗号資産のように参加者の増減が価格に大きく影響する市場では、VMAを押さえておくことで、単純な価格チャートだけでは見抜きにくいチャンスを見つけやすくなります。
VMAの計算方法と基本的な考え方
VMAの計算方法は、価格の単純移動平均(SMA)とほぼ同じです。例えば「20日VMA」であれば、直近20日間の出来高を合計し、それを20で割るだけです。
20日VMA = (直近20日分の出来高の合計) ÷ 20
期間を10や50、100に変えれば、10日VMA・50日VMA・100日VMAになります。短期VMA(5〜10)は直近の出来高の変化に敏感で、急激な増加や減少をすぐ捉えます。一方、中長期VMA(20〜100)は、より大きなトレンドや資金の流入・流出の全体傾向を把握するのに向いています。
重要なのは、VMAは「絶対値」ではなく「変化」と「位置関係」を見る指標だという点です。例えば、今の出来高がVMAよりも大きいのか小さいのか、連日VMAを大きく上回っているのか、それともVMAを下回り続けているのか、といった視点で相場を観察します。
価格移動平均線との違いと組み合わせのメリット
価格の移動平均線(価格MA)とVMAは、似たような名前ですが役割がまったく異なります。価格MAは「トレンドの方向と勢い」を見るのに使われますが、VMAは「そのトレンドにどれだけ参加者がついてきているか」を確認するためのツールです。トレンドが続くためには、新たな参加者や継続的な資金流入が必要です。上昇トレンドなのに出来高が細っている場合、そのトレンドは息切れして反転しやすくなります。
価格MAとVMAを組み合わせると、次のような判断が可能になります。
- 価格が移動平均線の上で推移し、かつ出来高がVMAを上回る状態が続いている → 「トレンドに出来高が伴っている強い上昇」と判断しやすい
- 価格が移動平均線の上にあるものの、出来高が徐々にVMAを下回り始める → 「上昇トレンドは見えているが、買いの勢いが弱まりつつある」と警戒できる
- 価格がレンジ内で推移していても、出来高が急にVMAを大きく上回る → 「近く大きな方向性が出る前兆かもしれない」と注目できる
このように、価格だけでなく出来高のトレンドを重ねて見ることで、だましを減らし、信頼度の高いエントリーポイントとイグジットポイントを見極める助けになります。
VMAの基本的な読み方:3つの視点
VMAを使いこなすために、最低限押さえておきたい視点は次の3つです。
- ① 出来高とVMAの位置関係
- ② VMAの傾き
- ③ 出来高の「異常値」(スパイク)の把握
まず、日々の出来高がVMAの上にあるか下にあるかを見ます。出来高がVMAを上回る日が増えているなら、市場参加者が増え、相場が活発になりつつあるサインです。逆に出来高がVMAを下回る日が続くときは、トレンドが続いていても、勢いが弱まり始めている可能性があります。
次に、VMAの傾きに注目します。VMAが右肩上がりであれば、出来高が継続的に増加している状態です。上昇トレンド中にこの状態が続いていれば、トレンドが健全である可能性が高くなります。一方、VMAが横ばい〜右肩下がりであれば、市場に入ってくる資金が減っている、もしくは様子見ムードが強い状況と考えられます。
最後に、出来高がVMAを大きく上回る「スパイク」に注目します。ニュースやイベントがあった日などに、出来高が急増してVMAを大きく超えることがあります。こうした日は、トレンド転換のきっかけになることも多く、価格パターンと併せて慎重に判断することが重要です。
株式投資でのVMA活用例
株式市場では、出来高は特に重要な情報です。個別株には「人気化」のサイクルがあり、出来高が急増してVMAを大きく上回るタイミングでトレンドが加速することがよくあります。ここでは、シンプルな株式向けのVMA活用イメージを紹介します。
例えば、ある銘柄の終値と25日移動平均線、そして25日VMAを表示しているとします。株価が25日移動平均線を上抜けたあと、しばらくは出来高もVMA付近で落ち着いて推移していたとします。その後、決算発表や新製品のニュースなどをきっかけに、出来高が急増し、数日連続でVMAの2倍以上の出来高が入りながら株価が上昇した場合、「新しい参加者が一斉に飛び込んできている」と判断できます。
このような場面では、単に「移動平均線を上抜けたから買う」よりも、「移動平均線を上抜けたうえに、出来高がVMAを大きく上回ってトレンドが加速している」という条件を重ねてエントリーする方が、トレンドフォローとしての精度が高まりやすいです。逆に、株価が高値更新を続けているにもかかわらず、出来高がVMAを下回る日が増えてきた場合、「利確を検討するサイン」ととらえることができます。
FXでのVMA活用例
FXは株式ほど出来高データが明確ではない市場ですが、多くのプラットフォームではティックベースの出来高や、取引所型のFXでは実出来高を提供しています。ここでもVMAの考え方は有効です。例えば、1時間足チャートにティック出来高と20期間VMAを表示すると、相場が動きやすい時間帯とそうでない時間帯のメリハリがはっきりしてきます。
レンジ相場が続いている間、出来高がVMA付近で細々と推移しているケースが多く見られます。その後、あるタイミングで出来高が一気にVMAを大きく上回り、同時に価格がレンジ上限をブレイクした場合、「レンジブレイクに本物の参加者がついてきている」と判断しやすくなります。このタイミングで、小さめのロットでエントリーし、損切りをレンジ内に置いておくと、リスクを限定しつつトレンドの初動を狙う戦略が組み立てやすくなります。
逆に、価格がレンジ上限を一瞬だけ上抜けても、出来高がVMAをあまり上回らずに終わった場合は、「だましブレイク」の可能性を疑うことができます。このように、FXでもVMAは「どのブレイクが信頼できるか」を見極めるためのフィルターとして役立ちます。
暗号資産でのVMA活用例
暗号資産市場は、株式やFX以上に参加者の増減が価格に直結しやすい市場です。特に、ビットコインやアルトコインはSNSやメディアの話題性によって出来高が急増することが多く、VMAの変化がトレンドの初動を捉えるヒントになるケースもあります。
例えば、長く低迷していたアルトコインの価格が、まだ明確なトレンドを形成していない段階でも、出来高だけが先にVMAを大きく上回り始めることがあります。価格はまだレンジの中にあるものの、「出来高だけが明らかに増え始めている」状態が数日続くと、やがて価格がトレンドを形成し始めることがあります。こうした場面では、価格のブレイクアウトを待ちながら、出来高とVMAの動きをウォッチしておくことで、他の投資家より一歩早く注目銘柄を見つけられる可能性があります。
もちろん、暗号資産はボラティリティが非常に高く、出来高のスパイクも頻繁に発生します。VMAだけに頼るのではなく、サポート・レジスタンス、トレンドライン、他のオシレーター系指標などと組み合わせることで、よりバランスの取れた判断を行うことが重要です。
シンプルなVMAトレーディング戦略の例
ここでは、初心者でもイメージしやすい「トレンドフォロー型のVMA活用戦略」の例を紹介します。あくまで一例ですが、考え方を理解するには十分です。
前提条件として、日足チャートに次の3つを表示するとします。
- 価格の25日移動平均線(25日SMA)
- 出来高の25日VMA
- 出来高の棒グラフ
この状態で、次のようなルールを仮定します。
- エントリー条件(買い)
- 株価が25日移動平均線を上抜けている(終値ベース)
- その日または直近数日の出来高が25日VMAの1.5倍以上になっている
- 利確の目安
- 株価が短期の高値から5〜10%下落したとき
- または、株価が再び25日移動平均線を終値ベースで割り込んだとき
- 損切りライン
- エントリー直後の安値、または直近の押し安値を下回った場合
この戦略のポイントは、「トレンド発生」だけでなく「トレンドに出来高が伴っているか」を条件に加えている点です。単に移動平均線を上抜けただけのパターンに比べて、出来高条件を追加することで、勢いの弱いブレイクアウトをある程度ふるい落とし、より信頼度の高いシグナルに絞り込むことが狙いです。
VMAを使う際の注意点とよくある勘違い
VMAはシンプルで使いやすい指標ですが、いくつか注意点があります。まず、出来高は銘柄や市場によって特性が大きく異なるため、同じVMAでも「普段の水準」が銘柄ごとに違います。たとえば、人気銘柄では日々の出来高が常に多いため、VMAも高い水準で推移しますが、マイナー銘柄ではVMA自体が低くなります。そのため、「VMAの絶対値」を他銘柄と比較するのではなく、「その銘柄の過去との比較」を重視する必要があります。
次に、出来高の急増は必ずしも「上昇のサイン」とは限らない点にも注意が必要です。急落局面でも、投げ売りによって出来高が膨らみ、VMAを大きく上回ることがあります。このような場面では、価格のローソク足の形(長い陰線かどうか、下ヒゲが出ているかなど)やサポート・レジスタンスの位置関係を合わせて確認することが重要です。
また、出来高データそのものが不正確な場合や、特定の時間帯だけ異常値が出る市場もあります。こうした場合、VMAに急なギザギザが入り、かえってノイズになってしまうことがあります。そのような銘柄や市場では、VMAの期間を長くする、極端なスパイクを無視して考えるなど、少し調整を加えると見やすくなることがあります。
VMAと他の指標を組み合わせるアイデア
VMA単体でも有用ですが、他のテクニカル指標と組み合わせることで、さらに実用性が高まります。例えば、次のような組み合わせが考えられます。
- 価格の移動平均線 × VMA
- 価格が移動平均線の上で推移し、かつ出来高がVMAを継続的に上回る → 「強いトレンド」の判定に使う
- ボリンジャーバンド × VMA
- ボリンジャーバンドの上限ブレイクと同時に、出来高がVMAを大きく上回る → バンドウォーク開始の可能性に注目
- オシレーター系指標(RSIやストキャスティクスなど) × VMA
- オシレーターが売られすぎ圏から反発し始めたタイミングで、出来高がVMAを上回り始める → 反転の信頼度を高める材料にする
このように、VMAは「その動きに本当に参加者がついてきているか」を確認するための補助指標として機能します。最初から複雑な組み合わせにする必要はなく、まずは価格移動平均線との組み合わせから始め、徐々に他の指標を追加していくと、無理なくステップアップできます。
初心者がVMAをチャートに導入するステップ
最後に、VMAをこれから使い始める初心者向けに、導入ステップのイメージをまとめます。
- ① チャートツールで出来高を表示する
- まずは、日足や4時間足など、自分が普段見ている時間軸で出来高を表示します。
- ② 出来高に移動平均をかける(VMAを追加する)
- 出来高に対して20〜25期間の移動平均を設定し、VMAとして表示します。
- ③ 過去チャートをスクロールして、「価格の転換点と出来高・VMAの関係」を観察する
- 大きく上昇した局面、大きく下落した局面で、出来高とVMAがどう動いていたかを振り返ります。
- ④ 自分なりの「VMAを条件に加えたエントリールール」を紙に書き出す
- 「移動平均線ブレイク+出来高がVMAの1.5倍以上」など、シンプルな条件から始めます。
- ⑤ 少額・デモで試し、結果を記録する
- 実際の資金を大きく投入する前に、少額またはデモトレードで試し、うまく機能するか検証します。
このプロセスを繰り返すことで、単なる「知識」としてのVMAではなく、「自分のトレードスタイルに組み込まれた道具」としてのVMAに育てることができます。指標そのものよりも、「どう使うか」「どう検証するか」が結果に直結します。
まとめ:VMAはトレンドの質を見抜くためのシンプルな武器
VMA(出来高移動平均線)は、価格ではなく「どれだけの量が取引されたか」に注目することで、トレンドの質を見抜くためのシンプルな武器となります。価格移動平均線だけでは読み切れない「勢いの有無」や「参加者の本気度」を、出来高とVMAの関係から読み解くことで、だましに振り回されにくくなります。
株式、FX、暗号資産など、どの市場でも「出来高の変化」は相場の重要なヒントです。まずはチャートにVMAを一本追加し、過去の大きなトレンド局面でどのように動いていたかを丁寧に観察してみてください。そのうえで、自分の得意なパターンや時間軸に合わせて、VMAを組み込んだシンプルなルールを作り、少額から検証していくことが、長く継続できるトレードへの近道になります。


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