相場が大きく動き出す直前には、「一見なにも起きていない静かな時間帯」があります。この静かな局面を定量的にとらえ、次のトレンド発生に備えるための考え方として、本記事ではオリジナル指標である「冷え込み指数」をご紹介します。
冷え込み指数は、値動きの振れ幅(ボラティリティ)と出来高の両方が「普段より明らかに小さい状態」を数値化し、ブレイクアウトの「仕込み場」を見つけるためのシンプルなツールです。株、FX、暗号資産など、チャートと出来高が見られる市場であれば共通して使えるコンセプトです。
冷え込み指数とは何か
冷え込み指数は、過去の平均と比較して、
- 価格の振れ幅(ボラティリティ)がどれだけ小さくなっているか
- 出来高がどれだけ細っているか
をまとめて評価するための指標です。「相場が冷え込んでいる=参加者のエネルギーがたまっている」という発想に基づき、将来の大きな動きの前兆をとらえることを目的とします。
直感的には、「ローソク足が小さく、ヒゲも短く、出来高も少ない退屈な日が続いている銘柄ほど、どこかのタイミングで一気に動き出しやすい」という経験則を、定量化してスクリーニングに使えるようにしたものだと考えてください。
なぜ冷え込み局面に注目するのか
投資で利益を狙ううえで重要なのは、「どこで大きな値幅が取りやすいか」を見抜くことです。トレンドフォローにせよブレイクアウト戦略にせよ、値動きがほとんどない銘柄をいくら眺めていても、収益機会は限られます。
一方で、大きなトレンドは突然生まれるのではなく、事前に「エネルギーが蓄積される時期」を経てから始まることが多いです。具体的には、以下のようなサインが見られます。
- ローソク足の実体が小さくなり、値幅がどんどん縮小する
- 上値も下値も切り下げず、狭いレンジ内でもみ合う
- 出来高が減少し、マーケット参加者が様子見ムードになる
このような局面を「冷え込み」と呼び、冷え込みが十分に進んだあとにブレイクした方向へ素直に乗る、というのが冷え込み指数を使った基本的な発想です。
オリジナル冷え込み指数の定義
ここでは、個人投資家がチャートソフトやエクセルで再現しやすいように、シンプルな冷え込み指数の例を示します。
日足チャートを前提に、以下のように定義します。
- 短期期間:14日
- 長期期間:50日
まず、価格の振れ幅を表すためにATR(Average True Range)を使います。
- 短期ATR比率 = 14日ATR ÷ 50日ATR
次に、出来高の冷え込みを表すために、出来高の移動平均を使います。
- 短期出来高比率 = 14日平均出来高 ÷ 50日平均出来高
そして、これらを単純に平均して冷え込み指数とします。
- 冷え込み指数 = (短期ATR比率 + 短期出来高比率) ÷ 2
この冷え込み指数が「1」を基準として、
- 1より小さい:最近のATR・出来高が過去50日平均より小さく、市場が冷え気味
- 0.6未満:かなり冷え込んでいる(ボラティリティも出来高も明確に低い)
- 1を大きく超える:むしろ過熱気味(大きな値動きや出来高増加が出ている)
というイメージで活用します。実際には銘柄や市場ごとに最適な閾値は異なるため、0.5〜0.8の範囲で自分の取引対象に合う水準を検証していくとよいです。
冷え込み指数の具体的な計算ステップ
エクセルやスプレッドシートでおおまかに計算する場合の流れを整理します。
- ステップ1:終値、高値、安値、出来高のデータを日付ごとに並べる
- ステップ2:各日のTR(True Range)を計算する(当日高値−当日安値、当日高値−前日終値、前日終値−当日安値の絶対値の最大値)
- ステップ3:TRの14日移動平均と50日移動平均を計算し、ATR14とATR50とする
- ステップ4:出来高の14日移動平均と50日移動平均を計算する
- ステップ5:短期ATR比率と短期出来高比率を求め、平均して冷え込み指数とする
TradingViewなどチャートツールであれば、カスタムインジケーターとして組んでしまえば毎日自動計算できますし、慣れれば数式自体は難しくありません。
冷え込み指数を使った基本戦略
冷え込み指数は、それ単独で売買サインを出すよりも、「トレンド方向の判断」と組み合わせて使うことで真価を発揮します。ここでは、トレンドフォロー型のシンプルな戦略例を示します。
前提として、長期のトレンド方向は200日移動平均線で判定するものとします。
- 上昇トレンド:終値が200日移動平均線より上
- 下降トレンド:終値が200日移動平均線より下
この前提で、買い戦略の流れは以下の通りです。
- 条件1:価格が200日移動平均線の上で推移している(上昇トレンド)
- 条件2:冷え込み指数が一定水準(例:0.6未満)まで低下している
- 条件3:値幅の狭いレンジ(直近10〜20本の高値・安値で引けるボックス)を上にブレイクする
エントリーは条件3のブレイク時、損切りはレンジ下限や直近安値の少し下、利益確定はリスクリワード比やトレーリングストップなど、自分のスタイルに合わせて決めます。ポイントは、「冷え込みが十分に進んだあとでのブレイクのみを狙う」ことで、トレンド中の中途半端な押し目・戻りを無理に追わないことです。
株・FX・暗号資産ごとの使い分け
冷え込み指数は市場を選ばず使えますが、銘柄特性に応じた調整が必要です。
株式の場合、中小型株は出来高の偏りが大きいため、出来高比率の影響が極端になりがちです。その場合、ATR比率のウェイトを高める、あるいは異常に出来高の多い日を除外して平均を計算するなどの工夫が考えられます。
FXの場合、24時間市場であるため「営業日」の概念が株と少し異なります。冷え込みをとらえたい時間軸に応じて、日足だけでなく4時間足や1時間足に冷え込み指数を適用してもよいでしょう。特に東京時間でボラティリティが低く、ロンドン時間から一気に動き出す通貨ペアなどでは、時間帯による癖も意識すると精度が上がります。
暗号資産の場合、週末を含めて常に取引が行われるうえ、ニュースやフローによって突発的な動きが出やすい市場です。その分、冷え込みからのブレイクアウトも大きく動きやすく、リスク管理がより重要になります。冷え込み指数が低い状態で、出来高増加を伴ったブレイクが出たときのみエントリーするなど、フィルターを厳しめに設定することをおすすめします。
ダマシを減らすためのフィルター
冷え込み指数が低く、レンジブレイクも確認したのに、その後すぐに反転して損切りになってしまう、という「ダマシ」は避けられません。ただし、いくつかのフィルターを組み合わせることで、その頻度をある程度抑えることができます。
- 出来高の急増を伴ったブレイクのみを採用する
- ニュースや決算発表など、イベント直前のブレイクは見送る
- 上位時間軸(週足や日足)でも抵抗帯を上抜けしているか確認する
- 急激なギャップアップ・ギャップダウンは見送り、落ち着いたブレイクのみを狙う
特に重要なのは、「自分で決めた条件を毎回同じように適用すること」です。冷え込み指数はあくまで一つの定量的な物差しであり、チャートの形やニュース、時間帯など、定性的な情報も総合的に判断する必要があります。
具体的なシナリオ例
ここでは、イメージしやすいように架空の中型株A社の日足チャートを例にとります。
まず、A社の株価は200日移動平均線より上で推移しており、全体としては緩やかな上昇トレンドです。しかし、直近1〜2か月は上値も下値も切り上げることなく、狭いレンジの中で横ばいを続けています。ローソク足の実体は小さく、ヒゲも目立たず、「動かない退屈なチャート」に見えます。
この期間の冷え込み指数を確認すると、0.8付近から徐々に下落し、やがて0.6を割り込んでいます。これは、過去50日と比べて、直近14日の値動きの振れ幅も出来高もはっきりと小さい状態であることを意味します。
その後、ある日を境に出来高がやや増え、レンジ上限として意識されていた価格を終値ベースで明確に突破しました。この時点で、
- 200日移動平均線より上(上昇トレンド)
- 冷え込み指数は依然として低い水準
- 出来高は直近平均より増加
- レンジ上限を終値でブレイク
という条件がそろいます。ここでエントリーし、損切りはレンジ下限の少し下に設定します。その後、上昇トレンドが再開し、数週間かけて大きな値幅をとれたとすれば、冷え込み指数が「待つべき局面」と「動くべき局面」を見分ける手助けをしてくれたと言えるでしょう。
冷え込み指数の弱点と注意点
冷え込み指数は便利なコンセプトですが、万能ではありません。主な弱点として、以下の点が挙げられます。
- もともとボラティリティが低く、出来高も少ない銘柄では常に低い値になりやすい
- 長期間の冷え込みが続き、その間に何度も小さなブレイクと反転を繰り返すことがある
- 突発的なニュースによるギャップや急変動は事前に検知できない
そのため、冷え込み指数だけに依存するのではなく、
- 十分な流動性がある銘柄だけを対象にする
- ニュースやイベントカレンダーを確認しておく
- ポジションサイズと損切り幅を事前に固定し、想定外の動きには機械的に対応する
といったリスク管理のルールとセットで運用することが重要です。
実際のトレードへの組み込み方
冷え込み指数を使いこなすうえで大切なのは、「自分のトレードスタイルに合わせて指標のパラメータやルールを調整すること」です。例えば、短期売買が中心であれば、14日と50日の代わりに5日と20日を使うなど、時間軸を短くしてもよいでしょう。逆に、中長期投資であれば、20日と100日といった設定も考えられます。
また、過去チャートを使った簡易的な検証もおすすめです。特定の銘柄について、冷え込み指数が0.6を割り込んだタイミングと、その後の値動きを過去数年分確認してみると、自分の取引対象にどの程度フィットする指標なのか、感覚がつかめてきます。
最後に、冷え込み指数は「勝率を劇的に上げる魔法のツール」ではなく、「どの局面で積極的にリスクを取るかを決めるための補助指標」として位置づけることが現実的です。エントリーポイントの精度だけでなく、資金管理やメンタル管理も含めた総合的な仕組みの一部として組み込むことで、長期的なパフォーマンス改善につながりやすくなります。
まとめ
冷え込み指数は、ボラティリティと出来高の両面から「相場の静けさ」を数値化し、大きな動きの前触れをとらえるためのシンプルな考え方です。
- ATRと出来高の比率を組み合わせ、最近が「過去に比べてどれだけ静かなのか」を測る
- トレンド方向(例:200日移動平均線)と組み合わせることで、順張りのブレイクアウト戦略と相性が良い
- 株、FX、暗号資産など、さまざまな市場に応用できるが、銘柄特性に応じた調整が必要
- ダマシを減らすには、出来高増加や上位時間軸の抵抗抜けなど、追加のフィルターが有効
チャートを眺めるだけでは気付きにくい「静けさ」も、指標として定義することでスクリーニングや検証に乗せることができます。ご自身の取引スタイルに合わせて冷え込み指数をアレンジし、「どの局面で勝負するか」を明確にする一助として活用していただければと思います。


コメント