ホテル稼働率と客室単価で読むインバウンド相場:限界利益が跳ねる局面の見抜き方

テーマ株

インバウンド相場という言葉はよく聞きますが、実際に株価が動くのは「訪日客が多い」だけではありません。ホテル業の利益は、稼働率と客室単価がある水準を超えた瞬間に一気に伸びます。理由はシンプルで、ホテルは固定費の塊だからです。建物や設備、一定数の人員、フロントや清掃の基本体制などは稼働が低くても消えません。つまり売上が増えた分の多くがそのまま利益になりやすい局面があるのです。

この「限界利益が跳ねる局面」を、初心者でも再現性高く見抜くために使えるのが、ホテル稼働率と客室単価です。ここでは、数字の意味をゼロから説明しつつ、どのデータをどの順番で見れば投資判断に落とせるのかを、具体例で徹底的に掘り下げます。

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ホテル業の利益構造:稼働率がある線を越えると利益が別物になる

ホテルの利益を理解する鍵は「固定費」と「変動費」です。固定費は稼働に関係なく発生しやすい費用で、建物の減価償却、賃料やリース料、基幹人員の人件費、システム費、光熱のベース部分などが代表例です。変動費は宿泊数に比例しやすい費用で、アメニティ、リネン洗濯、清掃の追加稼働、朝食原価の一部、OTA手数料などが入ります。

固定費の比率が高いビジネスでは、売上の増分に対する利益の増分が大きくなります。これが限界利益の高さです。ホテルは典型例で、稼働率が低い時期は赤字でも、稼働率が上がると急速に黒字化します。このとき株価が反応しやすいのは、利益の伸びが線形ではなく「曲がる」からです。

直感的に理解するために例を置きます。あるビジネスホテルが月の固定費として1億円を抱え、変動費率が売上の25%だとします。平均客室単価が1万2000円で、販売可能客室が300室、月30日なら、最大販売可能室数は9000室です。

稼働率50%なら販売室数は4500室、売上は5400万円程度です。変動費は約1350万円、固定費1億円を引くと大赤字です。稼働率80%なら販売室数は7200室、売上は8640万円、変動費は2160万円、固定費を引いてまだ赤字に見えます。ところが単価が少し上がり1万6000円になれば、稼働率80%で売上は1億1520万円、変動費は2880万円、固定費を引けば利益が出ます。さらに稼働率90%で単価が1万8000円になれば、売上は1億4580万円、変動費は約3645万円、固定費を引いた利益は約935万円です。単価と稼働率が同時に上がる局面の破壊力が分かります。

つまり投資家が見たいのは「訪日客数」だけではなく、稼働率と単価が同時に上がり、黒字化ラインを跨ぐタイミングです。ここに早く気づけると、決算発表前の材料不足の段階でも優位に仕込めます。

基本指標の整理:稼働率、ADR、RevPARを一枚の図にする

ホテルの需給を把握する指標は3つで十分です。稼働率、ADR、RevPARです。意味は次の通りです。

稼働率は販売可能な客室のうち実際に売れた比率です。需要の強さと供給余力を映します。ADRはAverage Daily Rateで客室単価の平均です。需要の質と価格決定力を映します。RevPARはRevenue per Available Roomで販売可能客室あたり売上です。式は「稼働率×ADR」で、需要と価格の合成指標になります。

初心者がやりがちなミスは、稼働率だけを見て単価を見ないことです。例えば稼働率が高くても、安売りで埋めているなら利益は伸びません。逆に稼働率がそこそこでも、単価が上がっていれば利益が伸びるケースがあります。RevPARでまとめて見れば、この罠を避けられます。

投資判断としては「稼働率が上がる局面」と「ADRが上がる局面」を分けて考えると分かりやすいです。稼働率は需要の量、ADRは需要の強さです。量が増えているのに価格が上がらないなら供給過剰か競争激化のサインです。量が増えず価格だけ上がるなら、高単価需要の回復か、供給制約のサインです。両方が上がる局面が最も強い相場になります。

限界利益の見抜き方:稼働率の閾値と単価の閾値を持つ

「この稼働率を超えると利益が出る」という閾値は、ホテルのタイプで大きく変わります。一般に、ラグジュアリーは人件費やサービスが重く、変動費も高めです。ビジネスホテルはサービスが標準化され、固定費比率が高い反面、運営効率が高いです。リゾートは季節性が強く、稼働率の変動が大きいです。ここで重要なのは、あなたが投資したい企業がどのタイプで、どの程度の稼働率で黒字化する構造なのかを把握することです。

把握方法は難しくありません。決算短信や有価証券報告書のセグメント情報、ホテル事業の営業利益率、固定費の説明から推測できます。特に、稼働率が回復する局面で営業利益率がどれだけ改善したかを見ると、限界利益の高さが見えます。過去に稼働率が一段上がった年に、利益がどれだけ跳ねたかを探すのです。コロナ期の落ち込みからの回復局面は、この分析にとても使えます。

単価の閾値も同様です。同じ稼働率でも、ADRが数千円変わるだけで利益が別物になります。ここで初心者が持つべき発想は「稼働率は天井があるが、単価は天井が見えにくい」という点です。稼働率は100%が上限です。しかし単価は、イベント、為替、供給制約、ブランド力で上方の余地が残ります。したがって、相場の後半でも単価が伸び続ける企業は評価が剥落しにくいです。

データの集め方:月次で追うべき3つのソースと見る順番

初心者が迷うのは「どのデータを見ればよいか」です。ポイントは、完璧なデータを探すより、継続的に追えるデータを決めてルーチン化することです。私は次の3階層で見ます。

第一に、公的統計など広く取れる需要データです。訪日客数、国別構成、平均滞在日数、消費動向などです。ここで需要の方向性を掴みます。第二に、ホテル需給を直接映す稼働率とADRのデータです。地域別、都市別が取れるとなお良いです。第三に、個別企業の月次開示や決算で、実際にどの企業がその波を取っているかを確認します。

見る順番は「マクロ→市況→個別」です。いきなり個別銘柄のニュースに飛びつくと、材料の本質が分かりません。マクロで需要の背景を押さえ、市況で価格決定力が戻っているかを確認し、最後に個別企業の収益構造に落とします。この順番なら、短期のノイズで判断がぶれにくくなります。

具体例:東京のADR上昇が地方に波及するメカニズム

ここからは具体例で考えます。例えば、訪日客が増え始めた局面で最初に起きやすいのは、東京と大阪のADR上昇です。国際線の便数、観光動線、イベント集中などの理由で、都市部の需要が先に強まります。稼働率が高い状態で単価が上がれば、RevPARが強烈に伸びます。これが都市型ホテルの決算を押し上げ、関連株が動きます。

次に起きやすいのは「溢れ需要」の波及です。東京の中心部が高騰すると、周辺エリアへ需要が流れます。例えば、都心のビジネスホテルが高くて取れない場合、川崎や大宮、千葉方面に宿泊が分散します。大阪でも梅田や難波が高騰すると、堺や神戸方面に広がります。この時、地方のADRは遅れて上がります。つまり投資機会としては、都市部のデータで先行シグナルを取り、波及先の銘柄を先回りで検討する戦略が成り立ちます。

ここで重要なのは、波及先のホテルが「単に立地が近い」だけでは足りない点です。供給が過剰なエリアでは価格決定力が弱く、稼働が上がっても単価が上がりにくいです。供給が限られ、交通が便利で、観光やイベントの目的地にアクセスしやすいエリアが狙い目です。

イベントカレンダー投資:大型イベントは稼働率より単価を動かす

インバウンド需要を読む上で、訪日客数より即効性があるのがイベントです。国際会議、スポーツ大会、大型ライブ、展示会などは、特定期間に需要を集中させます。この時に起きるのは、稼働率の上昇というより、単価の急上昇です。もともと稼働が高い都市部では、稼働率は上限に張り付いていて変化が小さいため、価格で調整されます。

投資家の視点では、イベントは「価格決定力のテスト」になります。イベント期にADRがどれだけ伸びるかは、ホテル側のレベニューマネジメント能力とブランド力を映します。ここで強い企業は、平常時にも単価を維持しやすく、利益の底堅さが出ます。

初心者向けの実践としては、まず自分が知っているイベントから始めると良いです。例えば、都内で毎年開催される大型展示会の時期、春の卒業旅行と桜、夏の花火、秋の紅葉、年末年始などです。これらの時期に、主要都市の宿泊価格がどう動いたかを観察します。予約サイトで自分の目で見ても構いません。数字の裏側にある需給感覚が身につきます。

為替と客室単価:円安は需要だけでなく価格の上限を押し上げる

インバウンド相場では為替がよく語られます。円安は訪日需要を増やすからです。しかし投資判断でより重要なのは、円安がADRの上限を押し上げる点です。海外から見た宿泊費が割安に感じられれば、ホテル側は価格を上げても需要が落ちにくくなります。つまり円安は、稼働率の押し上げだけでなく単価の引き上げ余地を増やします。

一方で、円高局面でもインバウンドがすぐ崩れるとは限りません。旅行は計画期間が長く、航空便の供給や国際情勢にも左右されます。したがって短期の為替変動だけで判断すると外しやすいです。為替は「単価の天井」を動かす要因として扱い、実際の需給は稼働率とADRのデータで確認する。これがブレにくい見方です。

供給サイドの重要性:新規開業と改装が相場を壊す

需要が強いときほど見落としがちなのが供給です。ホテルは建てれば増えます。新規開業が集中すると、稼働率は高いのに単価が伸びないという状態が起きます。これは投資家にとって最悪の組み合わせです。売上は増えるが利益が伸びにくく、評価が伸びません。

供給を見るときは、新規開業数だけでなく「どの価格帯の供給が増えるか」を見る必要があります。ラグジュアリーが増えるのか、ビジネスが増えるのか、サービスアパートメントが増えるのかで競争環境が変わります。例えば、都心にミドルレンジが大量供給されれば、最も影響を受けるのは同価格帯の既存ホテルです。逆にラグジュアリーの供給増は、観光需要の質に依存しやすく、景気感応度も高まります。

改装も供給の一部です。改装で客室が一時的に減ると、短期的に需給がタイトになり単価が上がりやすいです。逆に改装が終わり供給が戻ると単価が落ち着くことがあります。企業の発表を追うときは、改装による客室数の変化を必ず確認します。

投資判断のフレーム:月次データを四象限で整理する

ここまでの話を、実際の売買判断に落とすために、稼働率とADRを四象限で整理します。

一つ目は「稼働率上昇+ADR上昇」です。最強局面で、限界利益が伸びやすく、上方修正が出やすいです。二つ目は「稼働率上昇+ADR横ばい」です。需要は増えるが価格決定力が弱い局面で、供給過剰や安売り競争が疑われます。三つ目は「稼働率横ばい+ADR上昇」です。供給制約や高単価需要の回復が示唆され、ブランド力のある企業が優位です。四つ目は「稼働率低下+ADR低下」です。需給悪化で、短期では避けるのが無難です。

初心者が最初に狙うべきは一つ目と三つ目です。二つ目は罠が多いです。稼働が上がっているからといって飛びつくと、利益が伸びず失望されることがあります。三つ目は地味ですが、利益が安定しやすく、ディフェンシブに持てることが多いです。

銘柄選別の手順:ホテル運営会社と不動産オーナーを分けて考える

ホテル関連の投資先は大きく二種類あります。運営会社と不動産オーナーです。運営会社は稼働率と単価の変化が利益に直結しやすい反面、人件費や運営コストの影響も受けます。不動産オーナーは賃料収入が中心で、ホテル運営の変動を賃料体系を通じて受けます。固定賃料中心なら安定し、変動賃料が入る契約なら上振れ余地があります。

初心者が混同しやすいのはここです。稼働率が上がっても、固定賃料の契約ならオーナーの収益はすぐには増えません。一方、運営会社は増えます。逆に、稼働率が落ちても固定賃料ならオーナーは守られます。どちらが良いかは相場局面で変わります。強いインバウンド相場の初動は運営会社が動きやすく、成熟局面ではオーナー型が安定しやすいです。

実務的には、決算資料で賃料体系と運営形態を確認します。運営受託、フランチャイズ、マスターリース、自社保有直営などがあり、収益のブレ方が異なります。ここを押さえるだけで、同じホテル銘柄でも期待すべきリターンの形が見えてきます。

コスト側の落とし穴:人件費と清掃コストは単価上昇を打ち消す

インバウンド相場でよくある誤算が、コスト上昇です。稼働が上がると清掃が増えます。人手不足なら外注単価が上がり、利益が削られます。さらに最低賃金の上昇や人材確保のための賃上げが続くと、固定費側も膨らみます。

ここで見るべきは、ADR上昇がコスト上昇を上回っているかです。例えば、ADRが前年同月比で10%上がっているのに、営業利益率がほとんど改善していないなら、コストが吸収している可能性があります。逆に、ADRがそこまで伸びていないのに利益率が改善しているなら、運営効率化が進んでいる可能性があります。この観点で決算のコメントを読むと、単なる需要増ではなく企業の強みが見えてきます。

もう一つの落とし穴は、OTA依存です。予約サイト経由の比率が高いと手数料が重く、単価上昇の一部が手数料に消えます。直販比率が高い企業や会員プログラムが強い企業は、同じADR上昇でも利益の残り方が違います。初心者でも、決算の販売チャネルの説明を読めば差は把握できます。

短期トレードの実践例:月次開示で上振れを取りにいく

ここからは、短期の売買に落とす例です。ホテル関連は月次で指標を出す企業もあります。出していない企業でも、予約状況や稼働のコメントが決算説明資料に出ます。あなたがやるべきことは「月次の数字が良いか悪いか」ではなく「市場の期待より上か下か」を推測することです。

例えば、市況データで都心のADRが前年同月比で大幅に上がっているのに、株価が横ばいなら、市場がまだ織り込んでいない可能性があります。この時に、運営会社の月次稼働率や客室単価が開示されるタイミングで材料化しやすいです。逆に、株価が先に走っているのに、市況データが鈍化してきたなら、決算で失望が出るリスクが高いです。

初心者向けに具体的な手順を書きます。まず、毎月同じ日に市況データを確認します。次に、保有候補の企業のIRサイトで月次資料を確認します。最後に、株価チャートで材料発表前後の反応を観察します。これを3か月繰り返すだけで、どの企業が月次材料に反応しやすいかが分かります。反応しやすい銘柄は短期向き、反応しにくい銘柄は中長期向きという色分けができます。

中長期の視点:供給制約が続くなら単価主導の上昇が続く

中長期では、需要より供給制約が効く局面があります。例えば、都市部で建設コストが上がり新規開業が鈍れば、供給が増えにくいです。すると、稼働率が高止まりし、ADRがじわじわ上がります。これは最も持ちやすい相場です。逆に、開業ラッシュが来ると単価が天井を打ちやすく、投資家は先回りで評価を下げます。

したがって中長期のチェック項目は、建設コストと開業計画です。ホテルの供給は一気に変わらないため、早めに方向性を掴めれば優位になります。ここでのコツは、数値にこだわり過ぎないことです。開業計画が増えているのか減っているのか、どの価格帯が増えるのか。この二点を把握できれば十分です。

リスク管理:インバウンドは外生ショックに弱いので分割と損切り基準を決める

ホテル関連の最大リスクは外生ショックです。感染症、地政学、航空便の供給、規制、災害など、企業努力ではコントロールできない要因が需要を冷やします。ここは割り切って、ポジション管理で対応するしかありません。

初心者が取るべき実践策は三つです。第一に、分割で入ることです。市況データの改善が確認できた段階で第一弾を買い、企業の月次や決算で強さを確認して追加します。第二に、撤退基準を指標で決めることです。例えば、稼働率が前年割れに転じ、ADRも鈍化したら一度撤退するなど、数字で決めます。第三に、同じテーマ内で分散することです。運営会社とオーナー型を混ぜる、都市型とリゾート型を混ぜるなど、収益のブレ方が違うものを組み合わせます。

まとめ:稼働率と単価をセットで見れば初心者でも再現性が出る

ホテル稼働率と客室単価は、インバウンド相場の核心です。稼働率は需要の量、単価は価格決定力、RevPARはその合成です。固定費の大きいホテル業では、稼働率と単価が閾値を超えると限界利益が跳ね、決算で上振れが起きやすくなります。

あなたが今日からできることは難しくありません。毎月同じタイミングで、市況の稼働率とADRを確認し、四象限で局面を分類し、個別企業の運営形態とコスト構造を決算で確認する。このルーチンが回り始めると、ニュースに振り回されずにインバウンド相場を自分の言葉で判断できるようになります。結果として、買うべき局面と避けるべき局面がはっきりします。

上級一歩手前の視点:国別構成と滞在目的で単価の伸び方が変わる

同じ訪日客数でも、どの国から来ているか、何を目的に来ているかでホテルの単価は大きく変わります。例えば、団体観光が中心なら価格は上がりにくく、個人旅行が増えると高単価の部屋が売れやすくなります。ビジネス需要が戻ると平日稼働が底上げされ、週末偏重が緩和されます。平日が強くなると、ホテルは安売りで埋める必要が減り、ADRが上がります。

実践としては、国別の構成比が変わった月に注目します。航空便の増減や入国手続きの変化などで、特定国の回復が一段進むと、都市部の高単価需要が強まることがあります。ホテル株の短期材料としては、訪日客数そのものより「ミックスの変化」が効く場面が多いです。

ホテル関連REITを見る場合:賃料の仕組みと分配金の持続性を確認する

ホテル系REITを投資対象にする場合、稼働率と単価の見方が少し変わります。ポイントは、ホテル運営の好況がどの程度REITの賃料収入に連動する契約になっているかです。固定賃料中心なら景気敏感度は低く、分配金は安定します。変動賃料が入る割合が高いなら上振れ余地は大きいですが、逆風局面では下振れも大きいです。

初心者がやるべきチェックは三点です。第一に、ポートフォリオの地域分散です。第二に、主要ホテルの賃料体系が固定か変動かの比率です。第三に、金利上昇局面での借入コストと償還スケジュールです。インバウンドが強くても金利負担が増えれば分配金が伸びにくいケースがあるため、ホテル市況だけを見て判断しないことが重要です。

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