金利の上昇と物価の上昇が止まりません。本記事は「極端な仮定」を置いたシミュレーションです。目的は、高インフレ×固定金利債務×実物資産という組み合わせが、なぜ債務者に有利に働くのかを、数字で理解することです。
前提(今回の条件)
- 2022年に3,500万円の35年固定住宅ローンを実行(名目の債務は固定)
- インフレ率:年7%が35年継続(物価が毎年7%上昇)
- 土地(地価部分):2,700万円が年5%で上昇
結論を先に言うと、この設定では固定ローンを組んだ側が圧倒的に有利です。理由は「借金の名目額は増えないのに、貨幣価値が減り続ける」からです。
1. インフレで“借金の実質価値”がどれだけ減るか
1-1. 35年後の物価倍率(貨幣価値の逆数)
年7%インフレが35年続く場合、物価倍率は次の通りです。
物価倍率 = (1.07)^35
概算すると、
(1.07)^35 ≒ 10.68
これは「同じモノの値段が約10.68倍になる」世界観です。裏返すと、1円の購買力は約1/10.68になります。
1-2. 3,500万円の債務は実質いくらになるか
ローン残高が名目で3,500万円だとして、その実質価値(現在の購買力に換算した重さ)は、
実質債務 = 3,500万円 ÷ 10.68 ≒ 328万円
つまり、年7%インフレが35年続く世界では、3,500万円の固定債務は“体感的に328万円相当”まで圧縮される計算になります。
ここがポイントです。固定ローンとは、言い換えると「将来の価値が下がった通貨で返済する権利」です。高インフレが長期で続くほど、この権利は強力になります。
2. 土地2,700万円が年5%で上がると、名目資産はどこまで増えるか
2-1. 35年後の土地価格(名目)
土地2,700万円が年5%で35年上昇すると、
土地価格 = 2,700万円 × (1.05)^35
概算で、
(1.05)^35 ≒ 5.52
土地価格 ≒ 2,700万円 × 5.52 ≒ 1億4,900万円
名目では約1.49億円まで増える計算です(名目増加額は約+1.22億円)。
2-2. ただし「実質」ではインフレ7%に負ける
ここで誤解しがちな点があります。インフレが7%なのに土地が5%しか上がらない場合、購買力(実質)では土地は目減りします。
実質倍率は、
実質倍率 = (1.05 / 1.07)^35
概算すると、
(1.05/1.07)^35 ≒ 0.52
つまり購買力ベースでは、土地の実質価値は約52%程度に低下する計算です。とはいえ、今回のテーマでは土地の「実質成長」が主役ではありません。主役は次です。
名目固定の債務が、インフレで“勝手に軽くなる”
土地がインフレに完全追随しなくても、債務圧縮の効果が大きすぎるため、構造的に債務者有利になります。
3. なぜ“得”が生まれるのか:実質金利という見方
インフレ下では、名目金利よりも実質金利が重要です。概念としては、
実質金利 ≒ 名目金利 − インフレ率
仮に固定金利が年1.5%だったとして、インフレが年7%なら、
実質金利 ≒ 1.5% − 7% = −5.5%
実質金利が大きくマイナスということは、経済全体の仕組みとして「借り手(債務者)が報われ、貸し手(債権者)が目減りを負担する」状態です。これは道徳の話ではなく、貨幣制度の力学です。
4. 直感で理解する:家賃とローンの決定的な違い
高インフレ下での住居コストを直感で捉えると、こうなります。
- 家賃:物価と一緒に上がりやすい(長期的にはインフレ転嫁されやすい)
- 固定ローン返済:名目で固定される(インフレで相対的に軽くなる)
つまり、インフレが続くほど「賃貸の住居コストは膨らみやすい」のに対し、「固定ローンの返済は相対的に軽くなる」。この差が、長期で非常に効いてきます。
5. “経済的利益”をどう定義するか(この記事の結論の置き方)
「どれほど得か」を厳密に算定するには、本来はキャッシュフロー全体が必要です。
- ローン金利(元利合計の総返済額)
- 固定資産税(評価替えで変動)
- 修繕費・保険料(インフレで上がりやすい)
- 賃貸に住んだ場合の家賃(インフレ連動)
しかし、今回の問いは「インフレが35年続くならローンはどれほど得か」という構造理解です。したがって、結論は次の一点に集約できます。
3,500万円の固定債務は、年7%インフレが35年続くと“実質328万円相当”に圧縮される。
この“債務の実質圧縮”が最大の経済的メリットです。土地の名目上昇(2,700万→約1.49億)も見栄えはしますが、インフレ7%という前提では、土地の実質成長より債務圧縮が本丸です。
6. 注意点:勝つための条件
6-1. 収入(名目給与・売上)がインフレにある程度追随すること
固定返済が軽くなるメリットを享受するには、家計の名目収入が物価上昇にある程度ついていく必要があります。もし収入が伸びないのに生活コストだけが7%で上がるなら、家計は先に窒息します。
6-2. 維持費はインフレで上がる
高インフレ下では、次のコストが重くなりがちです。
- 修繕費(材料・人件費が上昇)
- 保険料(再調達コスト上昇の影響)
- 固定資産税(評価見直しで上がる可能性)
「ローンだけ軽くなる」わけではありません。家計全体では、インフレは強烈なストレス要因でもあります。
6-3. インフレ率年7%が35年という前提
この仮定は、昨今の日本の状況をみればさもありなんな数字ですが、歴史的には稀です。日本で同水準が35年続くかは別問題です。ただし、ここで学ぶべきは“水準”よりも“方向性”です。
インフレが高いほど、固定債務は得になりやすい。
7. 追加:感度分析(インフレ率が変わるとどうなるか)
参考として、インフレ率ごとの35年の物価倍率をざっくり示します(概算)。
- 年3%:(1.03)^35 ≒ 2.81(借金の実質は約1/2.81)
- 年5%:(1.05)^35 ≒ 5.52(借金の実質は約1/5.52)
- 年7%:(1.07)^35 ≒ 10.68(借金の実質は約1/10.68)
インフレが2〜3%でも長期なら効果は大きいですが、7%は別格です。7%が35年続くなら、固定ローンはほぼ「実質債務が消える」に近い挙動をします。
まとめ:この条件なら“固定ローン+土地”は最強クラスのインフレ耐性
本記事の要点は次の通りです。
- 年7%インフレが35年続くと、3,500万円の固定債務は実質328万円相当まで圧縮される
- 土地2,700万円が年5%で上がると、名目では約1.49億円まで増える
- 土地の実質成長はインフレ7%には負けるが、債務圧縮が大きすぎるため構造的に債務者有利
- ただし、収入追随・維持費上昇など「家計の運用上の現実」を無視すると危険
高インフレ局面において、固定金利の長期債務は、理屈の上では最強のヘッジ手段になり得ます。だからこそ「インフレが来たら固定ローンが得」という話は、単なるネットの煽りではなく、経済の仕組みとして説明できます。


コメント