相場の世界で「暴落」は必ず定期的にやってきます。プロ投資家であっても暴落を完全に避けることはできません。しかし、暴落のときにどのような心理状態になり、どのように行動するかは事前に設計できます。本記事では、株・FX・暗号資産などあらゆるマーケットで共通する「暴落時の心理」と「具体的な対処法」を、初心者でも実践しやすい形で解説します。
暴落時に投資家の心理に何が起きているのか
まず押さえておきたいのは、暴落相場で大きな損失になる理由の多くは「知識不足」よりも「心理コントロールの失敗」にあります。同じチャートを見ていても、冷静な投資家とパニックになった投資家では、まったく逆の行動を取ります。
1. 否認:「そのうち戻るはずだ」
価格が急落し始めたとき、多くの人は最初に「否認」の心理になります。「一時的な調整だろう」「朝には戻っているはず」と考え、含み損を確定させる決断を先送りにします。その間にさらに下落が続き、気づいたときには損失が資金の大半を占めている、というパターンが典型例です。
例えば、100万円を株式に投資していて10%下落したとき、「まだ10%だから様子を見よう」と考える人は多いです。しかし、そこからさらに20%下落すると、トータルで約30%のマイナスになり、残りは70万円です。この段階になると、「今さら売っても手遅れだ」と考え、身動きが取れなくなりがちです。
2. 恐怖:「もう相場なんて二度とやらない」
否認の段階を過ぎると、「恐怖」のフェーズに入ります。チャートを見るのがつらくなり、ニュースの悲観的な見出しばかりが目に入ってきます。このとき、多くの投資家は「安値で投げてしまう」行動を取りがちです。
典型例として、株価がピークから30〜40%下落したタイミングで投げ売りをしてしまい、その後に相場が反発しても乗れない、というケースがあります。これは、価格だけでなく、自分自身の感情が限界まで追い詰められているために起こる行動です。
3. 後悔と自己否定:「あのとき売っておけば…」
暴落局面を経験したあと、多くの人が「なぜあのとき損切りできなかったのか」と強い後悔を感じます。この後悔を放置すると、「自分は投資に向いていない」「何をやってもうまくいかない」といった自己否定につながります。
重要なのは、「暴落で感情が揺れるのはあなただけではない」という事実です。プロも含め、ほとんどの投資家が同じ心理的プレッシャーにさらされています。違いは、事前にどれだけ準備していたか、感情に振り回されない仕組みをどれだけ用意していたかです。
暴落は「予測」するものではなく「前提」にしておくもの
暴落相場で生き残るための出発点は、「暴落は予測するものではなく、いつか必ず来る前提としてポートフォリオを設計する」という発想です。「次の暴落がいつ起きるか」を当てにいくと、ほぼ確実に空振りします。一方で、「暴落が来ても致命傷にならない設計」をしておけば、予測を外しても大きな問題にはなりません。
ここでは、暴落を前提にしたシンプルな準備の考え方を見ていきます。
1. 1回のトレードで失ってよい金額を決めておく
まず最優先で決めるべきは、「1回のトレードでどれだけ損失を許容するか」です。例えば、総資産が100万円なら、1トレードあたりのリスクを1〜2%(1〜2万円)に抑える、というルールを持つイメージです。
このルールを守れば、たとえ連続で負けても、資産が一気にゼロに近づくことはありません。逆に、1回のトレードで10%以上のリスクを取っていると、数回の失敗で致命傷になります。暴落時にはボラティリティが急上昇するため、この「1回の許容損失」を守ることが非常に重要になります。
2. 現金比率の「最低ライン」を決めておく
次に考えるべきは、「ポートフォリオのうち、必ず何%は現金で持っておくか」というルールです。例えば、常に総資産の20〜30%は現金で保持する、といったイメージです。
暴落時にすべての資金がリスク資産に突っ込まれていると、「買い増しをしたくても現金がない」という状態に陥ります。現金比率を一定以上確保しておけば、暴落時にも冷静に選別買いを検討できます。現金は「機会損失」ではなく、「次のチャンスに備えるオプション」と考えるのがポイントです。
3. 事前に「暴落シナリオ」を紙に書いておく
抽象的に「暴落が来ても慌てない」と考えていても、実際に価格が急落すると、ほぼ確実に慌てます。そこで有効なのが、「事前に暴落シナリオを書き出しておく」という方法です。
例えば、以下のようなチェックリストを作っておきます。
- 指数(例:S&P500)が前日比▲5%を超える下落をしたら、一度新規の買いを止める
- 自分の保有銘柄がピークから▲15%下落したら、チャートとニュースを再チェックする
- ▲20%を超えたら、事前に決めた損切りラインと照らし合わせて機械的に処理する
このように、「どのレベルまで下がったら何をするか」を事前に文字として残しておくことで、暴落時の迷いを最小限にできます。
暴落が始まったときにやるべき具体的なステップ
次に、実際に相場が大きく崩れ始めたときに、何から手を付けるべきかをステップ形式で整理します。ここでは、株・FX・暗号資産に共通する考え方を扱います。
ステップ1:まず「何もしない時間」を10〜30分確保する
暴落のニュースを見た瞬間、人はすぐに売買ボタンを押したくなります。しかし、感情が大きく動いている状態で判断すると、ほとんどの場合は後悔につながります。まずは10〜30分だけ「何もしない時間」を意図的に確保し、深呼吸をしてからチャートを見直します。
この短いクールダウンを挟むだけでも、「パニック売り」「衝動買い」の多くを防ぐことができます。特にスマホで取引している場合は、アプリを一度閉じて、紙に自分の保有ポジションを書き出すなど、物理的に距離を取る工夫が有効です。
ステップ2:ポジション一覧と含み損益を冷静に棚卸しする
次に行うべきは、「現在のポジションと含み損益の棚卸し」です。銘柄ごと、通貨ペアごと、暗号資産ごとに以下を整理します。
- 取得単価
- 現在価格
- 含み損益(%と金額)
- もともと想定していた損切りライン
- そのポジションを持っている理由(短期トレードか、中長期投資か)
ここで重要なのは、「今いくら損しているか」だけでなく、「そもそもこのポジションはどんな目的で持っていたのか」を思い出すことです。短期トレードのつもりで入ったポジションを、いつの間にか長期投資だと自分に言い訳していないかをチェックします。
ステップ3:撤退するポジションと残すポジションを分ける
棚卸しをしたら、「今すぐ撤退すべきポジション」と「計画どおりホールドしてよいポジション」を切り分けます。判断の基準としては、次のような視点が役立ちます。
- もともとの損切りラインを明確に超えているポジションは、原則として機械的にカットする
- レバレッジをかけているポジションは、想定以上の値動きが続く前にリスクを落とす
- 生活費に食い込むレベルのリスクになっている場合は、損益に関わらず建て玉を減らす
大事なのは、「一度にすべてを最適化しようとしない」ことです。100点の判断を目指すのではなく、「致命傷を避ける」ことを最優先に、80点の判断を素早く積み重ねるイメージを持ちましょう。
株・FX・暗号資産に共通する暴落時の具体的対処ルール
ここからは、実際に使える具体的なルール例を紹介します。あくまで一例なので、そのまま真似をするのではなく、自分の資金量やリスク許容度に合わせて調整してください。
1. 「最大ドローダウン目標」を決める
ドローダウンとは、運用資産がピークからどれだけ減ったかを示す指標です。例えば、資産が100万円から80万円に減った場合、ドローダウンは20%です。暴落時には、このドローダウンが一気に広がりやすくなります。
そこで、「年間を通じて、ドローダウンは最大でも▲20%までに抑える」といった目標を決めておきます。実際にドローダウンがこのラインに近づいたら、新規のリスクを減らし、ポジションサイズを落とすなど、防御的な行動を自動的に取るルールです。
2. レバレッジは「平時の半分」を上限にする
FXや暗号資産では、高いレバレッジをかけられる口座も多くあります。しかし、暴落時には普段の数倍のスピードで価格が動くため、平時と同じレバレッジで戦うのは危険です。
一つの考え方として、平時の最大レバレッジを5倍にしているなら、暴落や急変時には「2倍以下に落とす」といったルールを事前に決めておきます。これにより、ロスカットや強制決済のリスクを大きく下げることができます。
3. 「時間分散」と「価格分散」を組み合わせる
暴落時に一括で買い向かうのは、高度な判断が必要な上級者向けの戦い方です。初心者が真似をすると、たまたま一番悪いタイミングで買ってしまうリスクが高まります。
そこで有効なのが、「時間分散」と「価格分散」の組み合わせです。例えば、ある銘柄を合計50万円分買う予定なら、
- 10万円 × 5回に分けて購入する
- 指数が▲10%・▲15%・▲20%・▲25%・▲30%と下がるごとに順次買い増す
といったルールを決めておきます。これにより、暴落の「底」を完璧に当てられなくても、平均取得単価を無理なく下げていくことができます。
暴落を「チャンス」に変えるための準備と考え方
暴落はつらい局面ですが、長期で見ると「将来のリターンの源泉」になることもあります。価格が大きく下がることで、長期で見て魅力的な水準までバリュエーションが下がるケースもあるからです。とはいえ、何でもかんでも安いから買ってよいわけではありません。
1. あらかじめ「買いたい銘柄リスト」を作っておく
暴落が起きてから銘柄探しを始めると、情報量に圧倒されて冷静な判断ができなくなります。そのため、平常時から「本当は買いたいが、今は割高だと感じる銘柄リスト」を作っておくことが有効です。
例えば、
- 米国の大型インデックスETF(例:S&P500連動ETFなど)
- 日常的に利用しているサービスを提供している企業の株
- 長期的に成長が期待されるテーマ(クラウド、インフラ、デジタル資産関連など)
といった観点から、10〜20銘柄程度に絞り込んでおきます。その上で、「指数が▲20%以上の局面であれば、リスト内銘柄への投資比率を高める」といったシナリオを考えておきます。
2. 暴落時のニュースとSNSとの距離の取り方
暴落局面では、ニュースやSNSが極端に悲観的な情報であふれます。「歴史的な暴落」「市場崩壊の危機」といった刺激的な言葉が並び、冷静さを失いやすくなります。
情報収集自体は大切ですが、
- 1日にニュースを見る回数をあらかじめ決めておく(例:朝と夜の2回まで)
- 価格のチェックも決められた時間だけに絞る
- 不安をあおるだけの情報源からは距離を置く
といったルールを設けておくと、感情の振れ幅を抑えられます。チャートとルールに基づいて行動し、感情を増幅させる情報との接触を意識的に減らすことが重要です。
シミュレーションで「暴落を事前体験」しておく
実際に大きな金額を動かす前に、シミュレーションや少額運用で「暴落を疑似体験しておく」のも有効です。過去チャートを使って、「もしこのときに自分がこのポジションを持っていたら、どこでどう行動するか」を紙に書いてみます。
例えば、過去の大きな下落局面のチャートを見ながら、
- どのポイントでエントリーしていた可能性が高いか
- 自分ならどこに損切りを置いていたか
- 実際の値動きはその損切りラインをどう通過したか
といった視点で振り返ると、「自分のルールではこの値動きには耐えられない」「もっと損切りラインを浅くする必要がある」といった気づきが得られます。
自分のリスク許容度を把握する簡易チェック
暴落時にパニックになるかどうかは、「その損失が自分の生活や精神状態にどれだけ影響するか」で大きく変わります。ここでは、自分のリスク許容度をざっくり把握するための簡易チェックを紹介します。
- 1カ月で資産が▲10%になった場合、夜眠れなくなるか
- 3カ月で資産が▲20%になった場合、投資をやめたいと思うか
- 5年後にトータルでプラスであれば、途中の評価損はある程度許容できるか
これらの問いに対して、「かなりストレスを感じる」と感じる場合は、リスク資産の比率を下げる、レバレッジを減らす、現金比率を高めるなどの調整が必要です。逆に、「それでも長期的に続けられる」と感じるなら、暴落時の評価損もある程度は想定内として受け止められるでしょう。
暴落後の行動が次のパフォーマンスを決める
暴落そのものよりも重要なのは、「暴落が落ち着いたあとにどう行動するか」です。ここでやりがちな失敗は、次の2つです。
- しばらく相場から完全に離れてしまい、回復局面に乗れない
- 一発逆転を狙って過度なレバレッジをかけ、再び大きな損失を出してしまう
大切なのは、暴落後に一度立ち止まり、
- 今回の暴落で何がうまくいき、何がうまくいかなかったか
- どのルールが機能し、どのルールが機能しなかったか
- 次回に向けて、どの部分を具体的に改善するか
を言語化しておくことです。ノートや日記アプリなどに「暴落レポート」を残しておくと、次の局面で大きな財産になります。
まとめ:暴落は避ける対象ではなく、設計に組み込む対象
暴落相場は、誰にとっても精神的にきつい局面です。しかし、「暴落を予測するゲーム」から降りて、「暴落が来る前提でポートフォリオとルールを設計するゲーム」に切り替えれば、必要以上に恐れる対象ではなくなります。
本記事で紹介したポイントを整理すると、以下のようになります。
- 暴落時の心理(否認・恐怖・後悔)は誰にでも起こることを前提にする
- 1回のトレードの許容損失、現金比率、暴落シナリオを事前に決めておく
- 暴落が始まったらすぐ売買せず、まずクールダウンの時間を取る
- ポジションを棚卸しし、撤退すべきものとホールドすべきものを切り分ける
- レバレッジを抑え、時間分散・価格分散を活用してリスクをコントロールする
- 平時から「買いたい銘柄リスト」を用意し、暴落時に慌てて銘柄探しをしない
- ニュースやSNSとの距離をコントロールし、感情の振れ幅を抑える
- シミュレーションや少額運用で、暴落を事前に疑似体験しておく
株、FX、暗号資産のどの市場であっても、暴落そのものをコントロールすることはできません。しかし、「暴落にどう向き合うか」「どのようなルールで自分の資産を守るか」は、あなた自身がコントロールできます。感情に振り回されず、あらかじめ決めたルールに基づいて淡々と行動できるようになれば、暴落相場も長期的な資産形成の一部として受け止められるようになっていきます。


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