J-REITの配当利回り差を使った“金利×賃料”の読み解き:利回りスプレッドで狙う買い場と回避点

不動産投資

J-REIT(日本の上場不動産投資信託)は、株式よりも「配当(分配金)」に目が行きやすい資産です。ところが、単に配当利回りが高い=割安、低い=割高、という直感だけで動くと、金利環境が変わった局面で簡単に裏目を引きます。

この失敗を避けるために役立つのが、「配当利回り差(利回りスプレッド)」という考え方です。これは、REITの分配金利回りを、国債利回り(主に10年)などの「無リスクに近い金利」と比較して、REITが投資家に提供している上乗せ(リスクプレミアム)を見える化するものです。

ただし、ここで重要なのは「スプレッドが広い/狭い」だけを見て終わらないことです。REITは賃料(収益)金利(資金調達コスト)の両方に左右されます。つまり、スプレッドは“結果”であり、原因は賃料上昇と金利上昇の綱引きです。本記事は、その綱引きを初心者でも実務的に追えるよう、具体的な手順に落とします。

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【DMM FX】入金
  1. 「配当利回り差(スプレッド)」とは何か:まずは定義を固定する
  2. スプレッドが動く“原因”を分解する:賃料、稼働率、金利、そして希薄化
  3. 最初に押さえる「金利が上がるとREITは必ず弱い」という誤解
  4. 実戦の見方①:まず「スプレッドの水準」を大雑把に3段階で分類する
  5. 実戦の見方②:スプレッド拡大の原因を「金利主導」と「分配金主導」に分ける
  6. 賃料上昇と金利上昇の“相殺”を見える化する:初心者向けの簡易モデル
  7. セクター別に「賃料の強さ」が違う:オフィス・住宅・物流・ホテルの実務的な見方
  8. オフィスREIT:賃料は遅行しやすく、空室率が先に効く
  9. 住宅REIT:賃料は小刻みに動き、耐久力が高い
  10. 物流REIT:賃料は強いが“建設コストと供給”の影響を受ける
  11. ホテルREIT:賃料の伸びが速いが、変動が大きい
  12. 実戦例:同じ利回り4.8%でも“安全度”が違うケース
  13. チェックリスト:決算資料で最短で見るべき項目(初心者向け)
  14. 買い場の作り方:スプレッドだけでなく“スプレッドの変化速度”を見る
  15. 回避点の作り方:スプレッドが狭い局面で“増資ドリブン”を警戒する
  16. ポートフォリオの組み方:スプレッドを“銘柄入替のルール”にする
  17. 初心者がやりがちな失敗と、その回避策
  18. 今日からできる具体的な観察手順(10分ルーチン)
  19. まとめ:利回り差は“入口”、勝負は賃料と金利の相殺を読むこと

「配当利回り差(スプレッド)」とは何か:まずは定義を固定する

利回り差は、概ね次のように定義します。

利回りスプレッド = J-REITの予想分配金利回り − 日本国債10年利回り

たとえば、J-REITの予想分配金利回りが4.6%、10年国債利回りが1.2%なら、スプレッドは3.4%です。スプレッドが広いほど「金利に対してREITが高利回り」で、投資家が要求する上乗せが大きい(警戒 or 逆に好機)状態を示します。

ここで注意点が2つあります。

1つ目は、比較対象の金利です。一般的には10年国債が多いですが、REITは借入の平均残存期間(デュレーション)が数年〜10年程度に分布し、セクターや銘柄で違います。厳密には、5年国債や金利スワップを参照する方が噛み合うケースもあります。ただ、まずは10年で統一し、判断に慣れてから補助指標を足すのが現実的です。

2つ目は、REITの利回りが「予想」か「直近実績」かです。相場は予想に反応しやすいので、基本は会社予想(またはコンセンサス)ベースの利回りを採用します。直近実績は、減配・増配の転換点で遅れます。

スプレッドが動く“原因”を分解する:賃料、稼働率、金利、そして希薄化

スプレッドは「REIT利回り − 国債利回り」です。つまり、スプレッドが変化するのは次のどれかが動いた時です。

A:国債利回りが上がった/下がった(金利要因)

B:REIT価格が上がった/下がった(利回りは価格と逆に動く)

C:分配金予想が上がった/下がった(賃料・コスト・財務要因)

このうち、初心者が見落としやすいのがCです。分配金は賃料と運営コスト、借入コスト、そして増資(新口発行)による希薄化で変化します。特に、金利上昇局面で重要になるのが借入金のリファイナンス(借り換え)増資です。

金利が上がると、借入コストが上がり分配金が圧迫されます。一方で、賃料が上がるセクター(例:住宅・ホテル・一部物流)は分配金が支えられます。さらに、含み益が大きく物件入替がうまい銘柄は、賃料に頼らず収益を押し上げることがあります。スプレッドを見るとは、こうした複数要因の“合計”を眺める作業です。

最初に押さえる「金利が上がるとREITは必ず弱い」という誤解

確かに、REITは「金利上昇に弱い」と言われます。理由は単純で、REITは借入で物件を買い、分配金を出す構造だからです。ただし、金利上昇がいつも同じ意味を持つわけではありません。

金利が上がる背景には、少なくとも次の2パターンがあります。

(1)景気が強く、インフレや賃料が上がるために金利が上がる

(2)インフレは粘着的だが景気は弱く、金融引き締めだけが効いて金利が上がる

(1)は賃料上昇が同時に起きやすく、REITの分配金が支えられます。スプレッドが急に広がっても、賃料の伸びが確認できれば“過剰反応”の可能性があります。(2)は賃料が伸びず金利だけ上がり、分配金圧迫と価格下落が同時に起きやすいので、スプレッド拡大が長引きます。

つまり、スプレッドは「金利と賃料の相殺関係」を見抜くための入り口であり、金利だけを見てREIT全体を一括りにするのは危険です。

実戦の見方①:まず「スプレッドの水準」を大雑把に3段階で分類する

スプレッドは銘柄や指標の取り方で数値がブレますが、実務では“相対比較”が主役です。最初は次のように3段階で扱うと判断が速くなります(目安のため、絶対視しないでください)。

・スプレッドが狭い(楽観):REITが高く、利回りが低い。増資が通りやすいが、少しの悪材料で調整しやすい。

・スプレッドが中立:金利とREIT価格・分配金のバランスが取れている。

・スプレッドが広い(警戒または好機):REITが売られて利回りが高い。資金繰り懸念がある場合は危険だが、賃料が強いなら“買い場”になることもある。

ここでのコツは「広い=必ず買い」ではなく、広くなった理由を特定することです。次の章で、その特定手順を具体化します。

実戦の見方②:スプレッド拡大の原因を「金利主導」と「分配金主導」に分ける

スプレッドが急拡大した時、あなたが最初にやるべきことは、値動きを“分解”することです。手元のチャートで十分できます。

ステップ1:10年国債利回りの変化を見る(例:1週間で+0.20%か?)

ステップ2:J-REIT指数(または保有銘柄)の価格変化を見る(例:同期間で-5%か?)

ステップ3:分配金予想の修正が出ていないか確認する(決算短信・リリース)

もし国債利回りが急騰しているのに、分配金予想が大きく変わっていないなら、スプレッド拡大の主因は「金利主導」です。この場合、最優先で見るべきは借入の固定/変動比率平均調達金利の推移です。固定金利比率が高く、借換え時期が分散している銘柄は、短期的な金利ショックを吸収しやすいからです。

一方、国債利回りが大きく動いていないのにREITが急落し、同時に分配金見通しが下方修正されているなら「分配金主導」です。こちらは賃料・稼働率・修繕費・物件売買・増資計画など、銘柄固有の要因が中心になります。

賃料上昇と金利上昇の“相殺”を見える化する:初心者向けの簡易モデル

難しいモデルは不要です。初心者でも回せるよう、まずは「分配金の増減に効く要素」を2つに絞ります。

(i)賃料(NOI)の伸び:物件の賃料改定や稼働率で増える収益

(ii)支払利息の増加:借入金利が上がって増えるコスト

たとえば、あるREITの年間NOIが100億円、借入残高が1,200億円、平均金利が0.8%だとします。支払利息はざっくり9.6億円です(1,200×0.8%)。

ここで金利が0.4%上昇し、借入の半分が2年以内に借り換えと仮定します。年内に反映される金利上昇は0.4%×50%=0.2%相当。すると支払利息は約2.4億円増えます(1,200×0.2%)。

一方、賃料が更新で2%上がりNOIが2億円増えると、利息増2.4億円を賃料増2億円がほぼ相殺し、分配金への悪影響は軽微になります。逆に賃料が伸びないセクターなら、利息増がそのまま分配金を削ります。

この“簡易モデル”だけでも、スプレッド拡大の局面で「賃料で耐えられる銘柄」と「耐えられない銘柄」を切り分ける第一歩になります。

セクター別に「賃料の強さ」が違う:オフィス・住宅・物流・ホテルの実務的な見方

J-REITはセクターで性格が大きく変わります。スプレッドを使うなら、まずセクターの“賃料の値付け力”を把握してください。

オフィスREIT:賃料は遅行しやすく、空室率が先に効く

オフィスは賃料改定が遅れて効くことが多く、景気悪化が先に空室率に出ます。金利上昇局面でオフィスを触るなら、賃料よりも稼働率の下振れ余地が先に問題になります。スプレッドが広がって“利回りが魅力的”に見えても、空室が増える局面では分配金が下振れしやすいので、単純に飛びつかない方が安全です。

見方のコツは、決算資料の「平均賃料」の数字だけでなく、テナント入替の改定率(新規/更新)を確認することです。更新で下がっているなら、賃料底入れはまだ先です。

住宅REIT:賃料は小刻みに動き、耐久力が高い

住宅は景気変動に対して比較的ディフェンシブです。空室率が急変しにくく、賃料も小刻みに調整されます。金利が上がっても、賃料がジワジワ上がる局面なら、分配金が保ちやすいセクターです。

ただし住宅は物件の取得競争が激しく、スプレッドが狭い局面で増資を連発して成長するケースがあります。増資がうまく回っている間は評価されますが、金利が上がり増資が通りにくくなると、成長の前提が崩れます。「外部成長(物件取得)頼みか、内部成長(賃料改定)もあるか」を見てください。

物流REIT:賃料は強いが“建設コストと供給”の影響を受ける

物流は長期契約が多く、賃料の改定は更新タイミングに依存します。一方で、インフレ局面では新規賃料が強くなりやすい。ここで注意したいのは、供給増です。倉庫が増えすぎると、賃料上昇が止まります。

物流REITでスプレッドを見るときは、「足元の利回り」よりも、契約更新の年次分布周辺の新規供給に注目してください。更新が集中する年に、供給過多なら賃料が伸びず、金利負担だけが残りやすいからです。

ホテルREIT:賃料の伸びが速いが、変動が大きい

ホテルはインバウンドやイベント要因で収益が跳ねます。賃料(固定+変動)の構造上、好況期は分配金が伸びやすく、金利上昇を吸収できます。ただし、外部ショックで一気に落ちることもあるため、スプレッドが広いからといって“底打ち”と決めつけない方がいいです。

ホテルは「来期予想」のブレが大きいので、スプレッドを判断する際は、保守的な想定でも分配金が維持できるか(稼働率が落ちた場合の感応度)を確認してください。

実戦例:同じ利回り4.8%でも“安全度”が違うケース

ここで、初心者が陥りやすい罠を具体例で示します。A銘柄もB銘柄も、見た目の予想分配金利回りは4.8%だとします。10年国債が1.3%ならスプレッドは3.5%で同じです。

しかし中身が違います。

A銘柄:固定金利比率が高く、平均残存期間が長い。賃料改定率がプラスで、NOIが年+2%ペース。

B銘柄:変動金利比率が高く、2年以内に借換えが集中。賃料改定は横ばい。さらに増資で口数が増えて、1口当たり分配金が伸びにくい。

この2つは、同じスプレッドでも“金利上昇耐性”が別物です。Aは賃料増で利息増を吸収できる可能性が高い。Bは利息増が直撃し、分配金が下がると利回りの前提が崩れます。だから、あなたがやるべきは「利回り比較」ではなく、利回りの持続性の比較です。

チェックリスト:決算資料で最短で見るべき項目(初心者向け)

J-REITの決算資料は情報量が多いですが、最初は以下に絞ってください。これだけでスプレッドの“質”が読めます。

1)借入の固定/変動比率:変動が高いほど金利上昇の影響が速い。

2)平均調達金利とその推移:上昇が始まっているか。

3)借入の返済期限分布(リファイナンス集中):近い年に偏っていないか。

4)LTV(借入比率):高いほど金利上昇と資産価格下落の二重打撃を受けやすい。

5)稼働率と賃料改定(新規/更新):賃料の“地力”。

6)分配金の変動要因の説明:修繕費、物件売却益、減価償却の動き。

このチェックをすると、スプレッドが広い局面でも「怖い広がり」なのか「誤解されている広がり」なのかを判別しやすくなります。

買い場の作り方:スプレッドだけでなく“スプレッドの変化速度”を見る

投資はタイミングが重要です。スプレッドの水準だけでなく、スプレッドがどういう速度で広がったかを見ると、買い場の精度が上がります。

・短期間で急拡大:金利ショックや需給要因で投げが出ている可能性。銘柄の財務が健全なら、逆にチャンスになりやすい。

・じわじわ拡大:分配金の下方修正が続いている、または賃料の弱さが市場に浸透している可能性。安易に逆張りすると長期の含み損になりやすい。

特にJ-REITは指数連動の資金が大きく、リスクオフ局面で“まとめて売られる”ことがあります。この時、スプレッドは機械的に広がります。ここで、前章のチェックリストで「金利上昇耐性が高い」と判断できる銘柄を拾うのが、再現性のあるやり方です。

回避点の作り方:スプレッドが狭い局面で“増資ドリブン”を警戒する

スプレッドが狭い局面は、REITが高値圏で利回りが低い局面です。ここでは市場心理が良いので、増資(公募増資)が通りやすく、REITは物件取得を加速できます。

問題は、金利が上昇し始めると増資の前提が崩れやすいことです。増資で資金を集められない、あるいは希薄化が嫌われると、外部成長が止まり、評価が落ちます。

スプレッドが狭い時ほど、初心者は「安定している」と錯覚しがちですが、むしろ“成長の期待が織り込まれすぎ”の状態です。回避点を作るには、分配金が増資に依存していないか、決算資料の資本政策と物件取得計画を確認してください。

ポートフォリオの組み方:スプレッドを“銘柄入替のルール”にする

初心者におすすめなのは、スプレッドを「売買の思いつき」ではなく、入替ルールにしてしまうことです。たとえば次のようにルール化します。

ルール例(考え方のサンプル):

・スプレッドが急拡大し、なおかつ財務(固定金利比率・LTV・返済期限分散)が良い銘柄を“買い候補”にする。

・スプレッドが極端に狭く、かつ外部成長(増資)に強く依存している銘柄は“利確候補”にする。

・同じ利回りでも、賃料改定がプラスで内部成長がある銘柄を優先する。

このルールは、短期トレードにも長期保有にも使えます。短期なら指数急落時のリバウンド狙い、長期なら配当の持続性重視の積み上げになります。

初心者がやりがちな失敗と、その回避策

失敗1:利回りだけで高利回り銘柄に偏る

高利回りの理由が「財務悪化の織り込み」だと、分配金が下がり、利回りの魅力が消えます。回避策は、利回りを見る前にLTVと返済期限分布を確認することです。

失敗2:金利が上がったらREITを全部売る

賃料上昇が同時に起きる局面では、REIT全体が一律に弱いとは限りません。回避策は、セクターで分け、賃料改定率がプラスの領域(住宅・ホテル・一部物流)と、遅行しやすい領域(オフィス)で対応を変えることです。

失敗3:増資のニュースを“悪材料”と決めつける

増資は希薄化の側面がある一方で、物件取得が分配金を押し上げる場合もあります。回避策は、増資後に1口当たり分配金が増える計画か、取得物件の利回りと既存資産の資金コストを比較することです。

今日からできる具体的な観察手順(10分ルーチン)

最後に、初心者でも毎週回せる「10分ルーチン」を提示します。これを回すと、スプレッドが単なる数字ではなく“市場の空気”として掴めます。

1)10年国債利回りの週次変化を確認(上昇のスピードが速いか)

2)J-REIT指数の週次騰落を確認(金利に過剰反応していないか)

3)保有/監視REITの決算・リリース有無を確認(分配金予想の修正)

4)財務の3点だけを見る:固定/変動、返済期限分散、LTV

5)賃料の2点だけを見る:稼働率、賃料改定(新規/更新)

この5ステップで、スプレッド拡大が「買いの機会」か「構造的に危険」かの判定精度が上がります。重要なのは、完璧な予測ではなく、誤った理由で売買しないことです。スプレッドを使う意義は、そこにあります。

まとめ:利回り差は“入口”、勝負は賃料と金利の相殺を読むこと

J-REITの配当利回り差は、金利とREIT価格の関係を一枚の指標で示してくれます。しかし、本当に必要なのは、スプレッドが変化した理由を「賃料(NOI)」「金利(借入コスト)」「財務(LTV/借換え)」「資本政策(増資)」に分解することです。

これができると、同じ利回りでも“持続性”が違うことが分かり、買うべき局面と避けるべき局面がはっきりします。まずは10分ルーチンで、スプレッドを数字から手触りへ変えてください。

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