REIT(不動産投資信託)は「不動産の家賃収入を配当として受け取る商品」として語られがちですが、実際の値動きは“金利商品”としての性格も強く、賃料(NOI)と金利(割引率)の綱引きで決まります。
この記事では、投資初心者でも再現できる形で、REIT同士の配当利回り差(スプレッド)を使って「今、買うべきREIT/避けるべきREIT」を絞り込む実践手順を解説します。一般論で終わらせず、賃料上昇が金利上昇を打ち消す局面と、逆に打ち消せない局面を具体例で整理します。
- REITのリターンは「分配金+価格変動」:価格変動を支配する2つの変数
- 配当利回り差(スプレッド)とは何か:見るべきは“絶対利回り”ではない
- 最重要の分解:利回り差が広がる理由は2種類しかない
- 初心者向けの実戦手順:まず「賃料が上がる業種」を先に決める
- 具体例:同じ「利回り4%」でも意味が違う
- 金利上昇が効くメカニズム:借入の金利より「増資コスト」の方が痛い
- スプレッドで見る“買い場”の作り方:2段階で絞る
- 初心者が見るべきKPI:5つだけでいい
- “賃料上昇×金利上昇”の相殺を数式でイメージする
- タイミング論:買い増しは「利回りが高い時」ではなく「利回り差の拡大が止まった時」
- ポートフォリオの組み方:REITは「1銘柄集中」が一番危ない
- 注意点:高利回りの裏にある「構造的な減配要因」
- まとめ:REITは「利回り差」を見れば、初心者でも失敗率が下がる
REITのリターンは「分配金+価格変動」:価格変動を支配する2つの変数
REITの短期の成績は、分配金そのものよりも価格変動の寄与が大きくなりやすいです。価格変動を支配する変数はシンプルに2つです。
①賃料・稼働率(NOIの伸び):テナント賃料の改定、空室率、更新時の賃料上昇、インバウンド需要などが効きます。
②金利(割引率・資本コスト):国債利回り、社債スプレッド、借入金利、増資コストが効きます。
この2つが同時に動くのが厄介です。金利が上がるとREITは下がりやすい一方、賃料が上がるとREITは上がりやすい。つまり市場は常に「賃料上昇が金利上昇に勝てるか?」を値付けしています。
配当利回り差(スプレッド)とは何か:見るべきは“絶対利回り”ではない
初心者がやりがちな失敗は「利回りが高いから買う」です。利回りが高いのは、将来の減配・空室・資産価値の毀損が疑われているから、ということが普通にあります。
そこで使えるのが配当利回り差(スプレッド)です。実務で扱いやすい定義を2つ持っておきます。
A:REIT利回り − 国債利回り(同一通貨):金利に対して“どれだけ上乗せがあるか”。いわゆるリスクプレミアム。
B:同業種REITの利回り差:例えば物流REIT同士、オフィスREIT同士で比べる。市場が「どちらにリスクを見ているか」が見える。
重要なのは「利回りが高い/低い」ではなく、利回り差が“どの理由で”広がったかを分解することです。
最重要の分解:利回り差が広がる理由は2種類しかない
利回り差(スプレッド)が急に広がるとき、理由は大きく2つです。
①金利上昇で、REIT全体が下がって利回りが上がった(業種の問題ではない)
②そのREIT固有(または業種固有)の不安で価格が下がった(減配懸念、資産劣化、資金調達難など)
①なら、賃料が伸びる業種を選べばリバウンド余地が出ます。②なら、単なる“高利回り罠”の可能性が高い。
初心者向けの実戦手順:まず「賃料が上がる業種」を先に決める
最初に銘柄を探すのではなく、賃料の上がりやすさで業種を仕分けします。金利上昇期でも賃料が上がりやすい業種は「相殺に成功しやすい」からです。
賃料上昇に強い(相殺しやすい)
物流:賃料改定が比較的進みやすい。需給がタイトな局面では賃料上昇が明確に出る。
住宅:景気変動の影響を受けにくい。入替で賃料をじわじわ上げやすい。
ホテル:需要が戻る局面で賃料(実質はADR・RevPAR)が跳ねやすい。逆に景気後退に弱いので景気読みが必要。
賃料上昇に弱い(相殺しづらい)
オフィス:空室率が上がる局面だと賃料交渉が厳しい。大型テナントは契約期間が長く、賃料改定が遅い。
商業:立地とテナント構成で二極化。固定賃料中心だと上がりにくい。
具体例:同じ「利回り4%」でも意味が違う
ここで、ありがちな誤解を具体例で壊します。仮にAとB、どちらも分配金利回り4%だとします。
A:物流REIT、稼働率が高く賃料改定が進んでいる。将来の分配金が伸びる期待があり、4%は“妥当な水準”。金利が少し下がれば価格は戻りやすい。
B:オフィスREIT、空室率が悪化、テナント退去が続く。将来の分配金が下がる可能性があり、4%は“安い”のではなく“疑われている”。
同じ利回りでも、賃料の方向性が逆なら中身は別物です。利回りは“結果”でしかありません。
金利上昇が効くメカニズム:借入の金利より「増資コスト」の方が痛い
金利上昇は、既存の借入金利がすぐに全部上がるわけではありません。REITの借入は固定化されていたり、期限が分散されているからです。初心者が見落としやすいのは資金調達の詰まりです。
REITは成長のために物件を買い増すことがあります。そのとき、
・借入金利が上がる(負債コスト増)
・株価が下がると増資の希薄化が大きくなる(自己資本コスト増)
この自己資本コストの上昇が、将来の成長を止め、結果的に分配金の伸びも止めます。よって、金利上昇局面では「借入期限が長い」「固定金利比率が高い」だけでなく、増資しても成立しやすい評価(P/NAVが極端に低くない)の方が重要になります。
スプレッドで見る“買い場”の作り方:2段階で絞る
ここからが実践です。スプレッドを使った絞り込みは2段階でやると失敗が減ります。
第1段階:REIT利回り−国債利回り(スプレッドA)で「市場全体の割安度」を測る
まずはREIT全体が金利ショックで売られているのか、それとも個別要因なのかを見ます。スプレッドAが短期間で広がった場合、全体要因が強い可能性が高いです。
この局面でやるべきことは「一番弱いものを買う」ではなく、賃料が伸びる可能性が高い業種の中で、財務が強い銘柄を拾うことです。リバウンド局面で“戻る銘柄”は、往々にして財務が健全です。
第2段階:同業種内の利回り差(スプレッドB)で「罠」を避ける
次に、同業種内で利回り差が大きい銘柄を見ます。ここで重要なのは、差が広がった理由を“文章で説明できるか”です。
説明できない高利回りは、だいたい危険です。理由が「物件が古い」「スポンサーが弱い」「含み損が大きい」「増資で希薄化しやすい」など、構造的な問題なら、スプレッドは縮まりにくいからです。
初心者が見るべきKPI:5つだけでいい
REITの資料には指標が山ほど出ますが、初心者は5つだけで十分です。これを“毎回”同じ順序で見てください。
①稼働率:落ち始めたら赤信号。賃料より先に崩れる。
②賃料改定(更新時の増減):物流・住宅ならここが最重要。上がっているか、上がる余地があるか。
③LTV(負債比率):高すぎると金利上昇で身動きが取れない。低すぎても効率は悪いので“業種平均との差”を見る。
④借入の平均残存年数と固定比率:金利ショック耐性。短いほど悪い。
⑤P/NAV(またはNAV倍率):増資しやすさの proxy。極端に低いと成長が止まる。
“賃料上昇×金利上昇”の相殺を数式でイメージする
難しく見える話も、イメージは単純です。
・分配金(NOI)が年+3%で伸びる
・一方で割引率(期待利回り)が年+0.5%上がる
このとき、価格は「伸びる分配金」と「上がる利回り要求」の綱引きになります。賃料上昇(NOI成長)が市場の要求利回り上昇に勝てば価格は保たれ、負ければ価格は下がります。
この綱引きに勝てるのは、短期で賃料が動く業種、もしくは需要が強く価格転嫁しやすい物件タイプです。だからこそ、金利局面で全体が売られても、物流や住宅は“戻りが早い”ことが多いのです。
タイミング論:買い増しは「利回りが高い時」ではなく「利回り差の拡大が止まった時」
買いのタイミングを「利回りが高くなったから」とすると、底値を掴めません。現実的には、
・スプレッドAの拡大が止まり、横ばいになった
・そのうえで、賃料指標(稼働率・改定賃料)が悪化していない
この2条件が揃ったときが、初心者にとって再現性の高い買い場です。相場は“悪化が止まった”だけで反転します。
ポートフォリオの組み方:REITは「1銘柄集中」が一番危ない
REITは個別要因(火災、災害、スポンサー問題、特定テナントの退去)で崩れます。よって初心者の基本は分散です。
実践的には、
・業種分散(物流・住宅・ホテルなど性格の違うもの)
・調達分散(固定金利比率や残存年数が異なるもの)
・スポンサー分散(同じスポンサー系列に寄り過ぎない)
この3点で事故が減ります。分散しても、スプレッドが広がった局面では“同時に安く”なるため、結果的に買い増しチャンスを拾いやすいです。
注意点:高利回りの裏にある「構造的な減配要因」
最後に、利回り差が縮まらないパターンを明確にしておきます。以下が複数当てはまる銘柄は、スプレッドが広がったままになりがちです。
・物件の競争力が落ちており、稼働率が戻りにくい
・更新時の賃料が下がり続けている
・LTVが高く、借換えで金利負担が増えやすい
・P/NAVが低く、増資による成長が成立しにくい
・含み損が大きく、売却損で分配金が削られやすい
高利回りは“ご褒美”ではなく、市場からの警告であることが多いです。警告が誤りだと判断できる材料がないなら、触らないのが正解です。
まとめ:REITは「利回り差」を見れば、初心者でも失敗率が下がる
REIT投資で勝率を上げるコツは、利回りそのものではなく利回り差(スプレッド)を使って、価格変動の理由を分解することです。
・まずスプレッドAで“全体要因かどうか”を確認
・次にスプレッドBで“高利回り罠”を排除
・賃料が上がりやすい業種を優先し、財務KPIを5つでチェック
この手順を守るだけで、金利上昇局面でも「賃料上昇が金利上昇を相殺できる」銘柄に寄せられます。相場は完璧な正解を求めるゲームではありません。避けるべき地雷を踏まないだけで、長期の成績は大きく改善します。


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