コーポレートボンドのYTM分布から割安債を探す裁定アプローチ

債券投資

コーポレートボンド(社債)は、本来は安定したインカム源として語られることが多い資産クラスですが、その利回り(YTM:イールド・トゥ・マチュリティ)の「ばらつき」に着目すると、小さな歪みからアルファを狙うことができます。本記事では、個人投資家でも取り組みやすい形で、YTM分布を手掛かりにした社債の割安検出と、実務的な裁定的アプローチについて解説します。

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コーポレートボンド投資の前提整理

まずは前提として、コーポレートボンドの基本構造を簡潔に整理します。株式しか触ってこなかった投資家でもイメージしやすいように、必要最低限の概念に絞って説明します。

クーポンと額面・償還

社債は一般に「額面100(円・ドル)」で発行され、投資家はその額面に対して年○%という形でクーポン利息を受け取ります。満期(償還日)が来ると、原則として額面100が返ってきます(デフォルトが起きなかった場合)。

YTM(最終利回り)とは何か

YTMは、「現在の市場価格で債券を購入し、償還まで保有したときに、クーポンと償還差益・差損を含めたトータルの年率利回り」を意味します。価格が額面より安くなっていればYTMはクーポンより高くなり、逆に高くなっていればYTMはクーポンより低くなります。

スプレッドという考え方

社債は、無リスク資産とみなされやすい国債に対してどれだけ上乗せの利回り(スプレッド)を提供しているかが、リスクに見合った水準かどうかを測る物差しになります。「同じような条件の社債の中で、スプレッドが妙に高い銘柄」があれば、それは割安候補になります。

YTM分布から割安・割高を見抜く発想

YTM分布とは、あるセクターや発行体グループの社債について、それぞれのYTMを並べたときの「ばらつき」のことです。ここに歪みがあるとき、個人投資家でも比較的分かりやすい形で割安債を見つけることができます。

比較の軸を揃えることが最重要

YTM分布を使って割安・割高を判断するには、以下の3つの軸をできるだけ揃えることが重要です。

  • 同一または近い残存年数(満期までの期間)
  • 同一または近い発行体の信用力(格付・財務体質)
  • 同一または近い通貨・市場(円建てかドル建てか、国内市場かなど)

この条件を揃えていくと、「ほぼ同じ性質なのに、なぜかYTMが高い(=価格が安い)債券」が浮かび上がります。

視覚的にとらえると分かりやすい

証券会社の画面などで社債一覧を取得し、残存年数や格付でフィルタしたうえで、YTMが低い順に並べ替えてみます。おおよそなめらかなカーブを描くはずですが、ときどき「明らかに上に飛び出した点」が現れます。これが割安候補です。

具体例1:同一発行体・異なる償還年限の歪み

イメージしやすいように、仮想的な例を使って説明します。ある大手企業A社が、以下の2本の社債を発行しているとします。

  • A社2028年満期債:残存約4年、クーポン0.4%、市場価格99.5、YTM0.52%
  • A社2030年満期債:残存約6年、クーポン0.6%、市場価格97.8、YTM1.05%

通常であれば、残存期間が長いほど金利リスクが高いので、YTMは長期債の方がやや高くなります。ただし、4年と6年という近い期間で、YTMが0.5%と1.0%といった大きな差になっている場合、「長期債だけ不自然に売られている可能性」があります。

ここで重要なのは、A社の信用リスク自体に大きな変化があったかどうかです。特段ネガティブなニュースがなく、他のA社債(2029年や2031年など)が「おおむね0.7〜0.8%」のYTMレンジに収まっているなら、2030年債だけがYTM1.05%と飛び出しているのは、割安シグナルとみなせます。

乗り換え戦略のイメージ

例えばすでにA社2028年債を保有している投資家であれば、以下のような乗り換え(ローテーション)を検討できます。

  • A社2028年債を市場で売却し、A社2030年債を購入する
  • 同じ発行体・同じ通貨で、残存期間だけ少し長くする対価として、YTMを約0.5%ポイント上乗せする

これは、同じ企業の信用リスクを取り続けながら、マーケット上の歪みを利用して利回りを改善する動きです。ただし、残存期間が長くなる分だけ金利変動による価格変動は大きくなるため、「満期まで持ち切る前提」でポジションサイズを決めることが重要です。

具体例2:同一セクター・同一格付け内のアウトライヤー

次に、複数の企業に分散投資するケースを考えます。例えば、日本の信用力の高い企業の円建て社債のうち、格付Aランクで残存5年前後の銘柄を集めたとします。

仮に、10銘柄のYTMが以下のような分布になっているとします。

  • 0.45%〜0.55%:8銘柄
  • 0.60%:1銘柄
  • 0.80%:1銘柄

このとき、0.80%の銘柄は、他の銘柄と比べて明らかにYTMが高く、割安候補として強く意識されます。0.60%の銘柄もやや高めなので、候補に入れてもよいでしょう。

なぜYTMが高いのか理由を確認する

アウトライヤーを見つけたら、必ず以下の点を確認します。

  • 最近、その企業に特有のネガティブニュース(業績悪化・不祥事・格下げの示唆など)が出ていないか
  • コーラブル債(発行体が繰上償還できるタイプ)ではないか
  • 流動性が極端に低く、たまたま売りが集中しているだけではないか

もし特段の理由がなく、他のA格社債が0.5%前後で取引されているのに、その銘柄だけ0.8%を提供しているなら、「同じリスク水準に対して余計に利回りをもらえる」可能性があります。

個人投資家でもできるYTM分布のチェック手順

プロの債券トレーダーのように専門端末を使わなくても、個人のレベルでYTM分布をざっくり把握することは可能です。ここでは、一般的な証券会社の画面を想定した手順を示します。

ステップ1:対象ユニバースを決める

まず、以下のような条件でフィルタリングします。

  • 通貨:円建て / ドル建てをどちらかに絞る
  • 残存期間:例えば「3〜7年」といったレンジで絞る
  • 格付:A以上、BBB以上など、自分が許容できる信用力の範囲に絞る
  • 発行市場:国内発行か、外国債市場か

この時点で、数十銘柄程度にまで絞り込めれば、個人の目視でも十分に分析できます。

ステップ2:YTMでソートする

次に、抽出された銘柄をYTMの低い順または高い順に並べ替えます。エクセルにコピーできる場合は、YTMのリストをそのまま貼り付けて、簡単なヒストグラムを作成してもよいでしょう。

ステップ3:平均・中央値とアウトライヤーを確認する

YTMの平均と中央値をざっくりと把握し、その前後にどの程度銘柄が分布しているかを見ます。そこから大きく外れた高利回りの銘柄があれば、それが割安候補です。

ステップ4:候補銘柄の個別チェック

割安候補としてピックアップした銘柄については、銘柄ごとの情報を必ずチェックします。

  • 発行体の業績推移と財務指標
  • 直近のニュース・IR情報
  • 償還条項や繰上償還の有無
  • 発行残高と市場での流動性

このプロセスを通じて、「理由なき割安」なのか、「きちんとした理由があって安い」のかを見極めます。前者であれば機会となりえますが、後者の場合は追加リスクの対価として高いYTMがついているだけなので、慎重な判断が必要です。

裁定的アプローチ:割高債から割安債へのローテーション

機関投資家のような本格的なロング・ショート戦略は個人には難しいですが、保有債券の入れ替えという形で、よりシンプルな裁定的アプローチをとることは可能です。

既存保有債との比較

すでに社債を保有している投資家は、「自分の保有債のYTMが、同条件のユニバースの中でどの位置にあるか」をチェックします。もし保有債が明らかに低利回り側(=割高側)に位置しており、一方で似た条件で高利回りの割安候補があるなら、「売って乗り換える」ことで利回りを改善できる可能性があります。

税金と手数料を織り込んだ損益計算

ローテーションを行う際は、以下のコストも必ず織り込みます。

  • 売却時の売買手数料
  • 売却益・売却損に対する税金
  • 新規購入時の手数料

例えば、保有債を売却するときに小さな評価損が出る場合でも、その損失を確定させることで、他の利益と通算できるケースがあります。トータルでの税引き後リターンを見たうえで、乗り換えの是非を判断するのが実務的です。

金利環境とクレジットスプレッドの関係

YTM分布から割安社債を探す際には、金利環境全体がどう動いているかも重要です。

金利上昇局面での注意点

金利が急上昇している局面では、社債全体の価格が下落し、YTMが一斉に上がる傾向があります。このとき、単に「YTMが高いから割安だ」と考えるのは危険です。あくまで「同一ユニバース内での相対比較」が重要であり、市場全体が動いているだけなのか、それとも特定銘柄だけが過度に売られているのかを見極める必要があります。

景気悪化局面とスプレッド拡大

景気後退懸念が強まると、投資家はリスク資産を売って安全資産に逃避するため、社債のクレジットスプレッドが拡大しやすくなります。この局面では、アウトライヤーとして見える高利回り銘柄が、実は「信用不安の先行シグナル」になっていることもあり得ます。財務内容や格付けのトレンドを慎重に確認することが大切です。

流動性リスクと個人投資家の立ち位置

YTM分布の歪みの一部は、流動性の小ささによって生まれます。出来高が極端に少ない銘柄では、たまたま一度大きな売り注文が出ただけで価格が大きく動き、YTMが一時的に高く見えることがあります。

流動性が低い銘柄にどう向き合うか

流動性が低い銘柄は、確かに長期保有前提であれば高いYTMを提供してくれる魅力的な候補になりますが、以下の点に注意が必要です。

  • 急に現金化したくなっても、希望価格で売却できない可能性がある
  • 買い増し・売却のたびにスプレッドコストが大きくなりやすい
  • 価格表示自体が「参考値」に近いケースもある

したがって、流動性の低い銘柄は、ポートフォリオ全体のうち一定割合にとどめ、現金ニーズに応じて柔軟に売却できる高流動性の債券・投資信託・MMFなどと組み合わせるのが現実的です。

ポートフォリオ構築への組み込み方

YTM分布から見つけた割安社債は、「ポートフォリオ全体の中のスパイス」として組み込むのがバランスの良いアプローチです。

コア&サテライトの発想

債券ポートフォリオを、次のように分けて考えます。

  • コア部分:国債や高格付け公社債投信など、流動性と安全性を重視した商品
  • サテライト部分:YTM分布の歪みを突いて選んだ割安社債

コア部分でポートフォリオ全体の安定性を確保しつつ、サテライト部分で少し高めの利回りや値上がり益を狙います。社債に偏りすぎず、他の資産クラス(株式、REIT、キャッシュなど)とのバランスも意識することが重要です。

分散の基本を守る

割安社債が魅力的だからといって、特定の企業や業種に集中しすぎると、個別リスクが大きくなります。最低でも複数の発行体に分散し、同じ業種でも複数社に分けるなど、分散の基本を守ることが、長期的な資産形成においては最優先事項です。

実務的なチェックリスト

最後に、YTM分布から割安社債を探す際に役立つチェックリストを整理します。投資判断の際のメモ代わりに活用できます。

  • 通貨・残存年数・格付など、比較の軸を揃えているか
  • ユニバース全体のYTMレンジ(平均・中央値)を把握しているか
  • 突出した高利回り銘柄について、その理由をニュースや財務データで確認したか
  • 流動性が極端に低くないか(出来高・気配・売買単位など)
  • 既存保有債との比較を行い、ローテーションのメリットを数字で検証したか
  • ポートフォリオ全体の中で、当該銘柄のポジションサイズが適切か
  • 金利環境や景気サイクルの局面を踏まえたうえで、過度なリスクを取っていないか

まとめ:YTM分布を味方につけて、小さな歪みを積み上げる

コーポレートボンドの割安検出は、一見するとプロの領域のように感じられますが、条件を絞り、YTM分布を丁寧に眺めることで、個人投資家にも再現可能な形に落とし込むことができます。重要なのは、「絶対利回りの高さ」ではなく、「同質の銘柄群の中での相対的な位置」を見ることです。

日々のマーケットの中では、需給や一時的なセンチメントの偏りによって、どうしても小さな歪みが生まれます。その歪みを発見し、リスクを十分に理解したうえで少しずつ取りにいくことは、長期的な資産形成のなかで有効なアプローチになりえます。

債券投資は、派手さはないものの、時間を味方につけてじっくりとリターンを積み上げるのに適した領域です。YTM分布というシンプルな視点を取り入れながら、自分なりの社債ウォッチのルーティンを作っていくことで、市場のなかに埋もれている小さな機会を発見しやすくなります。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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