ハイイールド債は「高利回りの社債」のことで、しばしばジャンク債とも呼ばれます。名前だけ聞くと危険そうですが、仕組みを正しく理解すれば、株式と国債の中間に位置するリスク資産として、ポートフォリオの安定化や利回り向上に役立つことがあります。本記事では、投資初心者の方にも分かるように、ハイイールド債の基本からリスク、具体的な投資方法までを丁寧に解説します。
ハイイールド債とは何か ― 「高い利回り」の正体
ハイイールド債とは、信用格付けが投資適格(例:BBB以上)よりも低い企業が発行する社債の総称です。信用力が比較的低い分、投資家に多くの利息(クーポン)を支払うことで資金を集めています。例えば、同じ期間・同じ通貨建てでも、投資適格社債が年利2%程度なのに対し、ハイイールド債は年利5~8%といった水準になることがあります。
ここで重要なのは、「高い利回り=お得」ではなく、「高い利回り=高いリスクの裏返し」であるという点です。利回りが高いのは、倒産リスクや業績悪化リスクが織り込まれているからです。
株と国債の中間に位置するリスク資産
リスクの大まかな位置づけとして、以下のようなイメージを持つと理解しやすくなります。
- 国債(先進国)…最も安全性が高い代わりに利回りは低い
- 投資適格社債…国債より少しリスクを取る代わりに利回りがやや高い
- ハイイールド債…株式よりは債券の性質を持ちつつ、信用リスクは高い
- 株式…企業の利益成長を取りにいく代わりに、価格変動が大きい
価格の動き方も、国債よりボラティリティが高く、株式よりは低いことが多いです。リスクを取りすぎず、かといってリターンもあきらめたくない投資家にとって、「株と国債の間」を埋める存在として利用されることがあります。
利回りの源泉:クレジットスプレッドという考え方
ハイイールド債の高い利回りは、「クレジットスプレッド」と呼ばれる上乗せ金利によって生まれます。クレジットスプレッドとは、同じ通貨・同じ残存期間の国債利回りに対して、どれだけ上乗せの利回りを要求されているかを示す差のことです。
例えば、
- 5年物の米国国債利回り:年3%
- 5年物のあるハイイールド債利回り:年7%
この場合、クレジットスプレッドはおおよそ4%ポイントです。この4%ポイントの多くが、「倒産するかもしれないリスク」「景気悪化で価格が大きく下落するリスク」への見返りとして投資家に支払われている、というイメージです。
初心者の方は、単純に「利回り7%でお得!」と見るのではなく、「国債+何%のリスクプレミアムなのか」を意識する習慣をつけると、利回りの妥当性を冷静に判断しやすくなります。
ハイイールド債が活躍しやすい局面
ハイイールド債は、景気サイクルのどの局面で強みを発揮しやすいでしょうか。大まかには次のようなイメージです。
景気拡大局面
企業業績が改善し、倒産リスクが低下すると、ハイイールド債のクレジットスプレッドは縮小しやすくなります。その結果、
- 高いクーポン(利息)を受け取りながら
- 価格上昇によるキャピタルゲインも狙える
という「二重のリターン」が期待できることがあります。株式も好調なことが多いですが、ハイイールド債はクーポン収入によって下落局面のクッションがある分、値動きが比較的マイルドになりやすいです。
景気後退・信用不安局面
一方で、景気後退や金融危機のような局面では、ハイイールド債は大きく売られ、価格が急落しやすくなります。投資家が「倒産リスクが一気に高まるかもしれない」と感じると、クレジットスプレッドが急拡大するからです。
例えば、普段は国債+4%だったスプレッドが、一時的に国債+8%、+10%といった水準まで跳ね上がることがあります。そのとき既に保有していた投資家は、大きな含み損を抱える可能性がありますが、逆に新規で買う投資家にとっては、非常に高い利回りで仕込むチャンスになることもあります。
具体例:個人投資家がハイイールド債に投資するパターン
個別のハイイールド社債を直接選ぶのは、情報収集や分析のハードルが高く、初心者にはおすすめしづらいです。そこで多くの個人投資家は、以下のような手段を通じてハイイールド債に分散投資しています。
海外ETFを使うケース
米国市場には、ハイイールド債に分散投資するETFが複数上場しています。これらは数百銘柄以上の債券に分散して投資しており、1銘柄のデフォルト(債務不履行)の影響を緩和しやすい構造になっています。日本から投資する場合は、証券会社の外国株口座を通じてこれらのETFを購入する形が一般的です。
ただし、この場合は以下のような点に注意が必要です。
- ETF自体の信託報酬(運用コスト)
- 外国株取引手数料
- 為替スプレッドや為替手数料
- 配当課税や二重課税の影響
表面利回りだけでなく、これらのコストを差し引いた後の「実質利回り」をイメージしながら投資可否を検討することが重要です。
国内投資信託を使うケース
日本の投資信託にも、ハイイールド債を主な投資対象とするファンドがあります。円建てで購入でき、分配金も円で受け取れるため、為替の計算が難しいと感じる初心者には取り組みやすい方法です。
一方で、
- 信託報酬が比較的高いファンドが多い
- 毎月分配型で元本が削られているケースがある
といった点には注意が必要です。分配金の多さに目を奪われるのではなく、「トータルリターン(基準価額の値動き+分配金)でプラスかどうか」を冷静に確認してください。
ハイイールド債投資のメリット
1. 高い利回りでインカム収入を増やせる
ハイイールド債最大の特徴は、国債や投資適格社債よりも高い利回りです。低金利環境では、預金や国債だけでは資産形成が追いつかないと感じる投資家が、「一部をハイイールド債に振り向けてインカム収入を増やしたい」と考えることがあります。
2. 株式とは異なる値動きで分散効果を期待
ハイイールド債は、株式と同じく景気の影響を受けやすいものの、株式とは異なる要因(クレジットスプレッドの変動など)でも動きます。そのため、ポートフォリオに適度に組み入れることで、株式だけを持つよりも全体の値動きがなだらかになる場合があります。
3. 景気回復局面では株式に近いリターンを狙えることも
景気回復局面では、デフォルト懸念が後退し、ハイイールド債の価格が大きく戻ることがあります。このとき、高いクーポン収入と価格上昇の両方が得られれば、一時的に株式に近いリターンを期待できる局面もあります。
ハイイールド債投資のデメリットとリスク
1. 景気悪化局面での大きな価格下落
ハイイールド債の最大のリスクは、景気後退や金融ショック時に価格が大きく下落し、含み損が長期間続く可能性があることです。クレジットスプレッドが急拡大すると、利回りは魅力的に見える一方で、既存投資家のポジションは大きな評価損を抱えます。
2. デフォルト(債務不履行)リスク
発行体企業が利払いを停止したり、元本を返済できなくなったりする「デフォルトリスク」も避けられません。分散投資されたファンドやETFであっても、景気悪化時には一定のデフォルトが発生し、その影響で基準価額が下落することがあります。
3. 流動性リスク
ハイイールド債市場は、投資適格債や国債と比べて流動性が低い傾向があります。市場参加者が一斉に売却しようとすると、買い手がつきにくくなり、価格が急激に下落することがあります。ファンドやETFを通じた投資であっても、基準価額や市場価格にこの影響が反映されます。
4. 為替リスク(外貨建ての場合)
多くのハイイールド債は米ドル建てやユーロ建てで発行されています。そのため、日本の投資家が外貨建て商品に投資する場合、円高になると為替差損が生じ、債券部分のリターンが相殺されてしまうことがあります。為替ヘッジ付き商品を選ぶかどうかも重要な検討ポイントです。
初心者のためのステップバイステップ投資プロセス
ステップ1:ポートフォリオ全体の役割を決める
最初に考えるべきなのは、「ハイイールド債をポートフォリオの中でどんな役割にするか」です。例えば、
- 安定資産(預金・国債・投資適格債):60%
- 株式インデックス:30%
- ハイイールド債:10%
といった形で、全体の10%程度を「利回り強化ゾーン」としてハイイールド債に割り当てるイメージです。いきなり大きな割合を投じるのではなく、まずはポートフォリオの一部として小さく始めるのが現実的です。
ステップ2:商品タイプを選ぶ(ETFか投資信託か)
次に、自分の投資スタイルや口座環境に応じて、ETFか投資信託かを選びます。
- 取引コストを抑えつつ、自分で売買タイミングをある程度コントロールしたい→海外ETF
- 少額から積立でコツコツ買いたい、円建てでシンプルに管理したい→国内投資信託
どちらの場合も、目論見書や運用報告書などの資料を読み、
- どの地域・どの格付け帯に投資しているか
- 信託報酬はどの程度か
- 分配方針はどうなっているか(毎月分配型か、再投資型か)
といった点を確認しておきます。
ステップ3:一度にまとめて買わず、時間分散を意識する
ハイイールド債は景気や金利環境の影響を受けやすく、購入タイミングによってリターンが大きく変わることがあります。そのため、最初からまとまった金額を一度に投じるのではなく、数カ月~1年程度かけて少しずつ購入していく「時間分散」を意識することが有効です。
例えば、ハイイールド債に最終的に100万円投資したい場合、
- 毎月10万円ずつ、10カ月に分けて購入する
- 四半期ごとに25万円ずつ、1年間で合計100万円にする
といった形で、相場の上下を均すイメージで投資していきます。
ステップ4:定期的に評価とリバランスを行う
ハイイールド債は価格変動があるため、しばらく運用していると、当初のポートフォリオ比率からずれていきます。例えば、
- 当初:ハイイールド債10%
- 価格上昇や追加購入により:ハイイールド債15%
といった状態になった場合、リスクが想定以上に高まっている可能性があります。このとき、一部を利益確定して他の資産に振り向けるなど、「リバランス」によって全体のバランスを調整することが大切です。
やってはいけない典型パターン
1. 利回りの数字だけを見て全力投資
「年利8%」「分配金利回り10%」といった数字だけに目を奪われると、リスクを正しく認識できません。実際には、価格変動やデフォルトリスク、為替リスク、運用コストなどを総合的に考える必要があります。表面利回りだけを基準に商品を選ぶのは避けましょう。
2. 毎月分配型ファンドで元本が減っていることに気づかない
毎月分配型のハイイールド債ファンドでは、見かけ上の分配金は多くても、実際には元本を取り崩して分配しているケースがあります。このような商品では、基準価額がじわじわと下がり続け、トータルリターンが思ったほど伸びないこともあります。
3. ポートフォリオの大部分をハイイールド債にしてしまう
利回りに惹かれて、ポートフォリオの大半をハイイールド債にすると、景気後退局面で大きなダメージを受けるリスクがあります。あくまで「スパイス」として、全体の一部にとどめることが現実的です。
シナリオ別:ハイイールド債がどう動くかをイメージする
ケース1:景気が緩やかに拡大するシナリオ
企業業績が改善し、失業率が低下していくような局面では、倒産件数も減少しやすくなります。このとき、ハイイールド債のクレジットスプレッドは縮小し、価格はじわじわと上昇しやすくなります。高いクーポンを受け取りつつ穏やかな値上がりが期待できる、ハイイールド債にとって比較的追い風の環境です。
ケース2:急激な利上げと景気減速のシナリオ
インフレ抑制のために急激な利上げが続くと、資金調達コストの上昇によって企業の負担が増し、財務基盤の弱い企業ほど苦しくなります。このとき市場は「倒産リスクが高まる」と判断し、ハイイールド債のクレジットスプレッドは急拡大し、価格は下落しやすくなります。
ケース3:金融ショックや信用危機のシナリオ
リーマンショックのような信用危機が起きると、投資家はリスク資産から一斉に資金を引き上げ、「安全資産である国債」へと逃避する動きを強めます。このとき、ハイイールド債市場は大きな売り圧力に晒され、価格は一時的に急落します。こうした局面では、新規で買うかどうか、ポートフォリオ全体のリスク管理と照らし合わせた慎重な判断が求められます。
ハイイールド債と他資産との組み合わせ戦略
ハイイールド債単体でリターンを追いかけるのではなく、他の資産と組み合わせることで、より安定的な運用を目指すことができます。
株式インデックス+ハイイールド債
株式インデックスの比率をやや抑え、その一部をハイイールド債に振り向けることで、
- 期待リターンを大きく落とさずに
- 値動きのブレを少し抑える
といった効果が得られる場合があります。例えば、
- 株式インデックス70%+国債30%
- 株式インデックス60%+ハイイールド債10%+国債30%
といったように、リスクとリターンのバランスを比較しながら配分比率を検討できます。
リスクパリティ的な考え方への応用
より一歩進んだ考え方として、資産クラスごとの「リスク量(ボラティリティ)」に応じて配分を調整するリスクパリティ的なアプローチがあります。ハイイールド債は、国債よりもボラティリティが高く、株式よりは低いことが多いため、
- 国債:大きめの比率
- ハイイールド債:中程度の比率
- 株式:やや抑えめの比率
といった構成にすることで、単純な金額ベースの配分よりもバランスの取れたポートフォリオを組める可能性があります。
まとめ:ハイイールド債は「利回り強化のスパイス」として慎重に使う
ハイイールド債は、高い利回りという魅力的な特徴を持つ一方で、景気悪化局面での価格急落やデフォルトリスク、流動性リスク、為替リスクなど、多くの注意点を抱えた資産です。単に利回りの数字だけを見て飛びつくのではなく、
- 国債などの安全資産とのバランスを取りつつ、ポートフォリオの一部として活用する
- ETFや投資信託を通じて、個別銘柄リスクを分散する
- 時間分散・リバランスを通じて、リスクをコントロールする
といった基本を押さえることが重要です。
ハイイールド債の仕組みとリスク・リターンの特徴を正しく理解すれば、低金利環境で利回りを少しでも高めたい投資家にとって、有力な選択肢のひとつになりえます。まずはポートフォリオの中でどの程度のリスクを許容できるのかを整理し、その範囲内で少額から試してみるとよいでしょう。


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