「国債は安全」とよく言われますが、実際に自分のお金を入れようとすると、利回りやリスクのイメージがつかみにくく、手が止まってしまう方が多いです。株や投資信託は始めたけれど、国債はまだ触っていないという人も少なくありません。
本記事では、日本の個人向け国債と海外国債を中心に、仕組み・メリット・リスク・具体的な活用パターンを、投資初心者の方にも分かりやすいように整理します。最終的には「自分のポートフォリオの中で国債をどう位置付ければよいか」がイメージできる状態を目指します。
国債とは何か:国家が発行する「借用証書」
国債は、国が投資家からお金を借りるために発行する「借用証書」です。あなたは国にお金を貸し、その見返りとして利息(クーポン)と満期時の元本返済を受け取ります。
企業がお金を集めるための手段が株式や社債であるのに対し、国がお金を集める手段が国債です。道路・インフラ整備、社会保障、財政赤字の補填など、さまざまな財政需要をまかなうために発行されています。
預金・株との違いを整理する
国債をイメージするには、銀行預金と株式と比較すると分かりやすいです。
- 銀行預金:相手は「銀行」。預金保険制度に守られ、元本1,000万円とその利息までは保護対象です。
- 株式:相手は「企業」。値上がり益や配当が期待できる一方で、業績悪化や倒産により大きく値下がりするリスクがあります。
- 国債:相手は「国」。国家が破綻しない限り利払いと元本返済が続く前提で設計されますが、金利変動やインフレ、為替などのマーケットリスクは存在します。
このように、国債は株式よりも価格変動がマイルドになりやすい一方で、「絶対安全」ではなく、市場環境の変化によって価格が動く金融商品です。
日本の個人向け国債の仕組みと特徴
まず、日本国内の個人投資家がもっともアクセスしやすいのが「個人向け国債」です。証券会社や銀行の窓口、ネット証券などから1万円単位で購入できます。
3つのタイプ:固定金利と変動金利
個人向け国債には、主に次の3タイプがあります。
- 固定3年:3年間の満期まで固定金利で運用されるタイプ
- 固定5年:5年間の満期まで固定金利で運用されるタイプ
- 変動10年:金利が半年ごとに見直される、10年満期の変動金利タイプ
固定タイプは、購入時点で満期までの金利が確定します。変動タイプは、長期金利の水準に応じて半年ごとに利率が変わるのが特徴です。
最低金利保証がある安心感
個人向け国債の大きな特徴が、「最低金利保証」があることです。市場金利が極端に低下した場合でも、利率がゼロにならないように下限が設定されています。超低金利環境でも、普通預金よりは高い利回りになるケースが多いです。
例えば、普通預金の金利が0.001%しかないときでも、個人向け国債は0.05%などの水準が提示されることがあります。数字だけ見ると小さいように感じますが、銀行預金よりは明確に有利な条件になりやすいです。
途中解約は「原則可能」だがペナルティあり
個人向け国債は、一定期間経過後であれば途中解約が可能です。ただし、直近2回分の利子相当額が差し引かれるというペナルティがあります。
具体例として、変動10年を5年目で解約した場合を考えてみます。
- 受け取った利子はこれまでの5年間分
- 解約時に、直近2回分(1年分)の利子に相当する金額が差し引かれる
結果として、長期保有前提で設計されている商品であり、短期売買には向いていません。「途中解約できるが、基本は満期まで持つ」というスタンスで考えるべき商品です。
国債投資のリスク:価格変動・インフレ・為替
「国債=安全」というイメージだけで判断すると、思わぬリスクを見落とします。代表的なリスクを整理しておきます。
金利上昇時の価格下落リスク
債券価格と金利には、一般的に逆相関があります。金利が上がると、既存の低金利債券の魅力が相対的に下がり、価格が下落しやすくなります。
個人向け国債のように満期まで保有する前提であれば、途中売却しない限り元本は額面で返ってきます。ただし、途中解約や市場での売却を考える場合には、金利上昇局面で売却すると元本割れする可能性があることを理解しておく必要があります。
インフレによる実質価値の目減り
名目利回りがプラスでも、物価がそれ以上に上昇していれば、実質的な購買力は低下します。たとえば、
- 国債利回り:年0.5%
- 物価上昇率:年2.0%
という環境では、数字上は利息がついていますが、実質的には年率1.5%ずつ購買力が減っていることになります。国債は元本保証ではあるものの、「実質価値」はインフレで減るという視点が重要です。
海外国債では為替リスクも加わる
円ではなく外貨建ての国債(米国国債など)を購入する場合、為替変動が収益を大きく左右します。利回りが高い海外国債でも、円高が進めば円ベースの評価額は下がり、利息以上に為替損が出ることもあります。
逆に、購入後に円安が進めば、利息に加えて為替差益も期待できます。つまり、海外国債は「金利」と「為替」の両方の要素が絡む商品だと理解しておく必要があります。
海外国債の魅力と注意点
最近はネット証券を通じて、米国国債など海外国債への投資も個人レベルで容易になっています。国内の低金利環境に不満を持つ投資家にとって、有力な選択肢となりえます。
海外国債の主な魅力
- 日本より高い金利水準が期待できる
- 通貨分散により、円の価値低下に備えられる
- 株式とは異なる値動きで、ポートフォリオ全体のボラティリティを抑えやすい
特に、長期的な円安を懸念する投資家にとっては、外貨建て資産の一部として海外国債を組み込む戦略は有力です。
為替ヘッジの有無による違い
海外国債に投資する方法としては、
- 為替ヘッジなしで外貨のまま保有する方法
- 為替ヘッジ付きの投資信託・ETFを通じて、円ベースで保有する方法
があります。為替ヘッジを使えば為替変動の影響を抑えられますが、その分ヘッジコストがかかり、利回りは低下します。「為替リスクを取りに行くのか」「金利だけを取りに行くのか」を明確にした上で、ヘッジの有無を選択することが重要です。
具体的な活用パターン:シンプルな3つのケース
次に、個人投資家が国債をどう活用できるか、具体的なパターンを3つに分けて考えてみます。
ケース1:生活防衛資金の一部として個人向け国債を使う
まず検討しやすいのが、「生活防衛資金」の一部を個人向け国債で運用するパターンです。
たとえば、
- 生活費6か月分は普通預金で完全に流動性を確保
- それを超える部分のうち、一部を個人向け国債(変動10年)で運用
というイメージです。こうすることで、完全な待機資金よりは少しでも利回りを上乗せしつつ、必要になれば途中解約で現金化も可能というバランスを取ることができます。
ケース2:株式比率を下げたいが現金に寝かせたくないとき
株式市場が高値圏にあると感じ、リスクを抑えたいと考えたとき、単に現金比率を高めるだけでなく、一部を国債に振り向けるという選択があります。
例えば、
- これまで:株式70%・現金30%
- 見直し後:株式50%・国債20%・現金30%
といった形です。国債部分は値動きが比較的安定しており、株式の変動を和らげるクッションになります。完全な現金よりは利回りを狙いつつ、株式ほどのボラティリティは取りたくない、というニーズにフィットします。
ケース3:長期的な通貨分散として海外国債を組み込む
日本の財政・人口動態・金利水準に不安を感じている投資家の中には、「一部の資産を外貨建てで持ちたい」と考える方も多いです。その一つの手段が、海外国債です。
具体的には、
- 日本株・日本の個人向け国債・日本円預金に偏っているポートフォリオに
- 米国国債など外貨建て国債を5〜20%程度組み込む
というイメージです。株式だけでなく、債券の通貨分散も行うことで、円の価値変動に対する備えを厚くできます。ただし、外貨建て国債は為替変動に大きく左右されるため、「短期では評価損が出る可能性が高い」ことを理解したうえで、長期スタンスで保有する発想が重要です。
国債投資を始める前に決めておくべき3つの軸
国債は「なんとなく安全そうだから」と曖昧な理由で買うと、金利環境や為替の変化で不安になりやすくなります。購入前に、次の3つの軸を自分なりに言語化しておくことをおすすめします。
軸1:運用期間(いつまで使わないお金か)
まず、「このお金は最低何年間は使わないつもりなのか」を明確にします。1〜2年以内に使う可能性のある資金であれば、個人向け国債よりも普通預金や定期預金の方が適しているケースも多いです。
逆に、5年以上使わない資金であれば、変動10年や海外国債なども選択肢に入ってきます。運用期間が長くなるほど、価格変動リスクを受け入れる余地が広がるからです。
軸2:通貨(円で持つか、外貨も持つか)
次に、「すべて円で持つのか、一部は外貨で持つのか」を決めます。円だけで資産を持つ場合、為替リスクはゼロですが、将来円の価値が下がったときには対応しづらくなります。
一方で、外貨建て資産を持つ場合は、円高局面で評価損が生じるリスクを受け入れる必要があります。自分のライフプランや仕事、収入の通貨(多くの人は円)とのバランスを考え、「どの程度まで外貨リスクを取れるか」をイメージしておくことが重要です。
軸3:利回りに対する期待値と許容ボラティリティ
最後に、「どの程度の利回りを期待するのか」と、「そのためにどれだけの値動きを許容できるか」をセットで考えます。
- 利回りは低くてもよいので、値動きは小さく抑えたい → 個人向け国債や円建ての安全性の高い債券が中心
- ある程度の値動きは許容してもよいので、インフレや円安に備えたい → 海外国債や外貨建て債券ファンドも選択肢
この軸を整理しておくことで、国債を「何となく買う商品」ではなく、「自分の投資方針に沿って組み込むパーツ」として扱えるようになります。
国債と他の資産クラスを組み合わせたポートフォリオ例
最後に、国債を他の資産とどう組み合わせるかのイメージを持てるように、シンプルなポートフォリオ例を見てみます。あくまで考え方の一例であり、特定の商品を推奨するものではありません。
例1:ごくシンプルな株+国債ポートフォリオ
株式インデックスと個人向け国債だけで構成する、ミニマルなポートフォリオです。
- 国内外の株式インデックスファンド:50〜70%
- 個人向け国債(変動10年中心):30〜50%
株式の成長性と国債の安定性を組み合わせることで、長期的な資産形成を目指しつつ、株式100%よりは値動きを抑えられる構成です。
例2:外貨建て国債を少しだけ加えた通貨分散ポートフォリオ
円だけでなく外貨建て資産も少し持ちたい、という場合のイメージです。
- 国内外の株式インデックスファンド:40〜60%
- 個人向け国債:20〜40%
- 海外国債(為替ヘッジなし・または低コストの債券ETFなど):10〜20%
外貨建て国債の比率を抑えめにしつつ、通貨分散のメリットを取りに行く形です。短期的には円高・円安の影響で評価額がぶれる可能性がありますが、長期保有を前提とした「通貨保険」のようなイメージで捉えるとよいでしょう。
例3:安定志向寄りの債券多めポートフォリオ
すでにある程度の資産を築いており、大きなリターンよりも資産の安定を優先したいという場合には、債券比率を高める構成も選択肢です。
- 株式インデックスファンド:20〜40%
- 個人向け国債・国内債券ファンド:40〜60%
- 海外国債(一部ヘッジ付き):10〜20%
このような構成では、株式相場が急落した際にもポートフォリオ全体の下落幅を抑えやすくなります。その代わり、株式中心のポートフォリオと比べて、上昇局面でのリターンは控えめになります。
まとめ:国債を「退屈だが頼れるパーツ」として味方につける
国債は、派手な値動きはありませんが、ポートフォリオ全体を安定させるうえで非常に重要な役割を果たします。特に、
- 生活防衛資金を少しでも有利に運用したい
- 株式の比率を落としたいが、現金に寝かせたくはない
- 長期的な通貨分散の一環として外貨建て資産を持ちたい
といったニーズがある個人投資家にとって、国債は選択肢に入れておく価値の高い資産クラスです。
大切なのは、「どのくらいの期間」「どの通貨で」「どの程度の利回りと値動きを許容するのか」という軸を自分なりに整理したうえで、国債をポートフォリオの中に組み込むことです。退屈に見える国債も、全体のリスクとリターンのバランスを整える重要なパーツとして機能します。自分の目標やリスク許容度に合わせて、少しずつ国債投資を検討してみてください。


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