物価がじわじわと上がる一方で、給料はなかなか増えない――そんなインフレ環境で、多くの家庭に共通する課題が「毎月の固定費の重さ」です。その中でも、スマホ料金やインターネット回線などの通信費は、工夫次第で大きく削減できる領域です。
本記事では、通信費の構造を分解しながら、インフレ局面で実質的な可処分所得を増やすための「通信費見直し戦略」を体系的に解説します。投資のタネ銭を増やすという視点から、具体的なステップと数値例を交えてお伝えします。
通信費見直しがインフレ対策になる理由
インフレ対策というと、「インフレに強い資産に投資する」という発想になりがちですが、その前提として重要なのが「毎月のキャッシュフローを改善すること」です。特に通信費は、以下の理由からインフレ対策として非常に効率的な項目です。
- 一度見直すと、その効果が継続的(サブスクリプション型の削減)になりやすい
- 電力やガスと違い、自分で事業者を選びやすく競争が働いている
- サービス品質と価格の差が大きく、情報格差で損をしやすい分野である
例えば、毎月の通信費が合計30,000円かかっている家庭が、見直しによって20,000円まで下げられれば、年間で120,000円のキャッシュフロー改善になります。この12万円をそのまま生活費に回しても良いですし、積立投資の原資にすれば、将来の資産形成にも直結します。
ステップ1:現状の通信コストを「見える化」する
最初にやるべきことは、いきなり乗り換えることではなく、「今いくら払っているのか」を正確に把握することです。多くの人は、キャンペーンや割引の有無、オプション料金を含めた実質的な総額を把握していません。
以下の項目ごとに、直近3か月分の請求金額を確認して、平均値を出してみてください。
- スマホ(本人)料金:基本料+通話料+オプション
- スマホ(家族)料金:家族全員分
- 自宅のインターネット回線(光回線・ケーブルなど)
- ポケットWi-Fiやモバイルルーター
- 通信関連のサブスクリプション(クラウドストレージ、セキュリティソフトなど)
例えば、ある家庭の例は次の通りです。
- 本人スマホ:月9,000円
- 配偶者スマホ:月8,000円
- 子どもスマホ:月4,000円(×2人=8,000円)
- 自宅光回線:月6,000円
合計で月31,000円、年間では372,000円です。ここから、どこに「ムダ」や「割高」が潜んでいるかを一つずつ洗い出していきます。
ステップ2:スマホ料金の構造を理解する
スマホ料金は、ざっくりと次のような要素から構成されています。
- データ通信量(ギガ)のプラン
- 音声通話の料金体系(かけ放題・5分かけ放題・従量制など)
- 端末代金(分割払い・一括払い・残債)
- 各種オプション(保証サービス、コンテンツ課金など)
インフレ局面で重要なのは、「本当に必要な容量とサービスに絞る」ということです。毎月20GBのプランに加入しているのに、実際の利用量が5GB程度であれば、通信費の過払いをしている可能性が高いと言えます。
利用実態から適正ギガ数を見極める
各キャリアやMVNOのマイページや専用アプリから、過去3か月〜6か月分のデータ使用量を確認し、平均値と最大値を把握します。
- 平均利用量:毎月4〜6GB
- 最大利用量:旅行や出張がある月で10GB
このような利用状況であれば、常時20GBプランを契約する必要はなく、3〜5GB+追加購入や、10GB前後の中容量プランに切り替える余地があります。これだけで月々1,000〜2,000円安くなるケースも少なくありません。
大手キャリアか、格安SIMか
インフレ環境では、「ブランド料」に相当するコストをどこまで許容するかが重要です。大手キャリア(MNO)はエリア・品質・サポート面で優位ですが、その分料金は高くなりがちです。一方、同じ回線を借りてサービスを提供する格安SIM(MVNO)では、データ容量あたりの単価が大きく下がることが多いです。
例として、以下のような構図がよく見られます。
- 大手キャリア 20GBプラン:月5,000〜7,000円程度
- サブブランドや格安SIM 20GBプラン:月2,000〜3,000円程度
同じ20GBでも、月2,000〜4,000円の価格差が出ることがあります。年間では24,000〜48,000円の差です。もちろん、一概にどちらが良いとは言えず、通話品質やサポート、混雑時間帯の速度などとのバランスで判断する必要がありますが、「何となく大手のまま」にしているだけで、高い固定費を払い続けているケースは多いです。
ステップ3:格安SIMへの乗り換えプロセス
通信費削減で大きなインパクトを出しやすいのが、格安SIMへの乗り換えです。ただし、初めてだとハードルが高く感じられるため、手順を細かく分解して理解しておきましょう。
1. 現在の契約条件の確認
まずは、現在のキャリアの以下の項目を確認します。
- 契約中の料金プラン名と月額料金
- 端末の分割残債の有無と残額
- 解約金や違約金の有無
- メールアドレス(キャリアメール)をどの程度使っているか
端末残債が残っている場合、乗り換え時に一括精算が必要になることがあります。一方で、古い高額プランに縛られている場合は、多少の残債があっても乗り換えた方がトータルで得になるケースもあります。
2. 候補となる格安SIM事業者の比較
格安SIMを選ぶ際は、料金だけでなく、以下の点も確認すると失敗しにくくなります。
- どのキャリア回線を使っているか(ドコモ・au・ソフトバンクなど)
- 混雑時間帯(昼休みや通勤時間)の通信速度の口コミ
- サポート窓口の有無(店舗・チャット・電話など)
- 通話オプション(かけ放題・定額通話)の有無と料金
例えば、月20GB・5分かけ放題付きで月額2,500円前後のプランが見つかることもあります。現在の大手キャリアの料金と比べて、差額を年単位で計算すると、乗り換えのモチベーションがはっきりします。
3. 実際の乗り換え手続き
乗り換え自体は、手順さえ押さえればそこまで難しくありません。
- MNP予約番号(もしくは番号移行用の手続き)を現在のキャリアで取得する
- 格安SIM事業者のサイトから申し込み、本人確認書類をアップロードする
- 数日後にSIMカード(またはeSIMのQRコード)が届く
- 開通手続きを行い、SIMを差し替え・プロファイルを設定する
- 動作確認(通話・データ通信・SMS)を行う
最近は、eSIMを活用することで物理SIMの到着を待たずに、申し込み当日に開通できるケースも増えています。
ステップ4:自宅のインターネット回線を見直す
インフレ局面では、スマホだけでなく自宅のインターネット回線も見直し対象です。特に、光回線とスマホをセット契約している場合、以下のポイントを比較する必要があります。
- セット割の実質的なメリット額
- 光回線単体の料金と、別回線に乗り換えた場合の料金
- 通信速度や安定性の違い
例えば、セット割でスマホ料金が毎月1,000円安くなっている代わりに、光回線が相場より高い料金になっているケースもあります。トータルで見たときに、セット割にこだわる意味が薄れている可能性もあります。
光回線か、ホームルーターか
自宅の利用状況によっては、固定の光回線ではなく、ホームルーターやモバイルルーターで十分な場合もあります。
- オンラインゲームや大容量のデータ通信が多い → 光回線が有利
- リモートワーク中心で、そこそこの速度が出ればよい → ホームルーターでも対応可能な場合あり
- 引っ越しが多い・賃貸で工事がしづらい → 工事不要のホームルーターは柔軟性が高い
光回線からホームルーターに切り替えることで、月額1,000〜2,000円節約できることもあります。ただし、速度や安定性をよく確認した上で判断することが重要です。
ステップ5:通信関連サブスクの棚卸し
通信費には、スマホやインターネット回線以外にも、さまざまなサブスクリプションサービスが含まれていることがあります。
- 動画配信サービス(VOD)
- 音楽配信サービス
- クラウドストレージ
- セキュリティソフトやVPN
- オンラインゲームの月額課金
それぞれは月額500〜1,500円程度でも、積み重なると毎月数千円規模になることがあります。インフレ環境では、「本当に使っているサービス」だけを残し、あまり使っていないものは一旦解約してしまうのが得策です。
具体的には、次のような基準で判断します。
- 直近3か月で1回以上使ったか
- 代替サービスがすでにないか(同種のサービスを重複契約していないか)
- 無料プランや低価格プランで代替できないか
ケーススタディ:4人家族の通信費を年間10万円削減するシナリオ
ここからは、具体的なケーススタディを通じて、通信費見直しがインフレ対策とどう結びつくかをイメージしてみましょう。
ある4人家族(夫婦+高校生・中学生)のケースです。
- 本人スマホ(大手キャリア 20GBプラン):月8,000円
- 配偶者スマホ(大手キャリア 20GBプラン):月7,000円
- 子どもスマホ(サブブランド 5GBプラン):月3,000円(×2人=6,000円)
- 自宅光回線:月6,000円
合計で月27,000円、年間324,000円の通信費がかかっています。これを次のように見直します。
- 本人スマホ:格安SIM 20GBプランに乗り換え → 月2,800円
- 配偶者スマホ:格安SIM 10GBプランに乗り換え → 月2,000円
- 子どもスマホ:オンライン授業利用状況を踏まえて、データ3GB+Wi-Fi前提に → 月2,000円(×2人=4,000円)
- 自宅光回線:同等品質の別事業者に乗り換え → 月5,000円
見直し後の合計は、月13,800円です。見直し前との差額は、月13,200円、年間では158,400円の削減となります。
この15万円強をそのまま生活費に回せば、インフレで上昇した食費や光熱費を相殺できますし、一定額を投資に回せば、将来の資産形成のスピードを上げることもできます。
削減した通信費を投資に回す発想
通信費の見直しで浮いたお金は、そのまま消費に回すよりも、「将来の自分のために働かせる」という発想がインフレ環境では有効です。
例えば、毎月10,000円を積立投資に回した場合を考えてみます。利回りはあくまで仮定ですが、年率3〜5%程度で長期運用できたとすると、10年〜20年後にはまとまった資産になります。
インフレで物価が上がる一方、給与の伸びがそれに追いつかない局面では、「いかにして投資のタネ銭をひねり出すか」が重要になります。通信費は、そのための調整余地が大きい代表的な項目です。
インフレ局面での通信費見直しチェックリスト
最後に、実際に行動するためのチェックリストをまとめます。上から順番にチェックしていくだけでも、かなりの改善効果が期待できます。
- 直近3か月分の通信費(スマホ・インターネット回線・サブスク)を洗い出したか
- スマホのデータ利用量の平均値・最大値を把握したか
- 過剰なギガ数や不要なオプションに加入していないか確認したか
- 大手キャリアから格安SIMに乗り換えた場合の差額を年間ベースで試算したか
- 自宅のインターネット回線の料金を相場と比較したか
- 動画・音楽・クラウドなどのサブスクを棚卸しし、あまり使っていないサービスを解約したか
- 家族全体の通信費を一つの表にまとめ、合計金額を把握したか
- 削減できた金額をどのように投資や貯蓄に回すか、具体的に決めたか
通信費は、一度見直すだけでなく、年に1回程度は「定期点検」するのがおすすめです。インフレで生活コストが上昇しやすい局面だからこそ、情報を武器にして、支出構造を柔軟にアップデートしていくことが重要です。


コメント