マーケットメイクの仕組みと個人投資家が見るべきポイント

市場構造

株やFX、暗号資産のチャートを見ていると、値動きが「スカスカ」で一気に飛んだり、逆に厚い板に跳ね返されたりする場面があります。こうした値動きの裏側には「マーケットメイク」という仕組みがあり、市場に流動性を提供するプレイヤーが存在しています。

マーケットメイクの基本構造や、個人投資家がそれをどう読み解き、トレード戦略に生かせるのかを理解しているかどうかは、長期的な成績に大きな差を生みます。本記事では、初心者でもイメージしやすいように、具体例を交えながらマーケットメイクを徹底的に解説し、個人投資家がチェックすべき実践的なポイントを整理します。

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マーケットメイクとは何か

マーケットメイクとは、一言でいえば「常に売り(オファー)と買い(ビッド)の両方の価格を提示し、市場に流動性を提供する行為・ビジネスモデル」のことです。マーケットメイカーは、売値と買値の差(スプレッド)を主な収益源としながら、在庫リスク(持ち高リスク)を管理しつつ、市場参加者の注文をさばいています。

イメージとしては、両替商が「いつでもドルを買います・売ります」とレートを掲示しているのと同じです。投資家がドルを買いたいときも売りたいときも、相手方として立ってくれることで、「いつでも取引できる」という安心感が生まれます。これが広い意味でのマーケットメイクです。

マーケットメイカーの役割

マーケットメイカーには、主に次のような役割があります。

  • 常にビッド・オファーを提示し、注文の相手方となることで市場の流動性を支える
  • 売買の「間」に入ることで価格形成をスムーズにし、過度なギャップやフラッシュクラッシュを緩和する
  • 投資家が大口注文を出しても市場インパクトを抑えつつ約定させるように工夫する

マーケットメイカーがいない市場では、買いたい人・売りたい人がタイミングよく出会わないと取引が成立せず、スプレッドが広がり、価格が飛びやすくなります。逆に、優秀なマーケットメイカーが多い市場ほど、スプレッドが狭く、出来高も多くなり、個人投資家にとっても取引しやすい環境になります。

マーケットメイクの収益構造:スプレッドと在庫リスク

マーケットメイクの基本的な収益源は「スプレッド」です。たとえばある株が、買い板1000円、売り板1001円だとします。マーケットメイカーが1000円で100株買い、すぐに1001円で100株売れば、理論上はスプレッド1円×100株=100円が粗利益になります。

しかし現実には、マーケットメイカーは「必ずスプレッドを取り切れる」わけではありません。投資家からの一方的な注文が続くと、在庫が偏ってしまい、価格が逆に動いたときに損失が出ます。この「在庫リスク」をどれだけコントロールできるかが、マーケットメイクの肝です。

具体例:FXのUSD/JPYでのマーケットメイク

たとえばUSD/JPYが「ビッド150.000 / オファー150.003」という3pipsスプレッドで提示されているとします。個人投資家が成行買いをすると150.003で約定し、その瞬間、マーケットメイカーはドルを売る形になります。反対に、別の投資家が成行売りを出すと150.000で約定し、マーケットメイカーはドルを買う側になります。

このように買いと売りがバランスよく来てくれれば、マーケットメイカーはスプレッドをコツコツと積み上げることができます。しかし、買いばかり続いてドル売りポジションが積み上がると、マーケットメイカーは在庫リスクを抑えるために、価格をじわじわと上げていく、あるいは他市場でヘッジするなどの対応を行います。このときの「板の動き」や「レートの微妙な傾き」が、個人投資家から見える値動きとして現れます。

マーケットメイクと板情報・出来高の関係

個人投資家がマーケットメイクを意識する上で重要なのが、「板情報」と「出来高」です。これらは、マーケットメイカーを含む市場参加者の注文と約定の「痕跡」を映し出しています。

厚い板と薄い板の読み方

板に大きな注文が積み上がっている価格帯は、一見すると「強いサポート・レジスタンス」に見えます。しかし、その中にはマーケットメイカーが在庫調整のために置いた注文や、他市場でのヘッジポジションと連動した注文も含まれます。

例えば、ある株の1000円に大口の買い板があり、何度もそこから反発しているとします。ここだけを見ると「1000円が鉄板のサポート」に見えますが、マーケットメイカーが1000円近辺で在庫を積み増し、上値で利ざやを取りたいと考えているだけの可能性もあります。実際に、外部要因でセンチメントが変わった瞬間、その厚い板が一気に取り消され、あっさり割り込むこともあります。

重要なのは、板の厚さを絶対視しないことです。板が厚いかどうかだけでなく、その厚さが「継続しているのか」「価格が近づくたびにどのように動くのか」を観察し、動的な変化として捉えることが大切です。

出来高とマーケットメイクの質

出来高が多い市場ほど、マーケットメイカーにとってはスプレッドを回転させやすくなります。その結果、スプレッドが狭く、約定が安定しやすい環境が整います。逆に出来高が少ない市場では、マーケットメイカーもリスクを取りたがらないため、スプレッドが広がりやすく、板も薄くなります。

個人投資家にとっての実務的なポイントは、出来高が極端に少ない銘柄での大きな成行注文は避けることです。マーケットメイカーが十分な流動性を提供できていない場面で大きな注文を出すと、自分の注文で価格を大きく動かしてしまい、想定以上に不利な価格で約定するリスクがあります。

マーケットメイクとスプレッド:見えないコストを意識する

マーケットメイカーの収益源であるスプレッドは、個人投資家にとっては「見えにくいコスト」です。手数料がゼロに見えても、スプレッドが広ければ、実質的な取引コストは高くなります。

具体例:スプレッドによるコストの違い

例として、1ロット=1万通貨でFXをトレードするケースを考えます。ある通貨ペアAではスプレッドが0.2pips、通貨ペアBでは1.0pipsだとします。1pips=100円相当とすると、Aでは1回あたり20円、Bでは100円がスプレッドコストです。1日に10回トレードすれば、Aは200円、Bは1000円のコストになります。

短期売買を繰り返す場合、スプレッドは積み重なるほど影響が大きくなります。スプレッドは「毎回確実に支払うコスト」であり、マーケットメイクの仕組みを理解することで、どの市場・銘柄・時間帯が比較的有利かを判断しやすくなります。

流動性の高い時間帯を選ぶ

同じ銘柄・通貨ペアでも、時間帯によってスプレッドは変動します。FXであれば、主要市場(ロンドン、ニューヨーク)が重なる時間帯は参加者が多く、マーケットメイカーも積極的にスプレッドを狭くしやすいため、取引コストが下がりやすくなります。

逆に、参加者が少ない時間帯は、マーケットメイカーも在庫リスクを取りにくいため、スプレッドが広がりやすくなります。個人投資家ができるシンプルな工夫として、スプレッドが極端に広がっている時間帯は、新規ポジションを控えることが挙げられます。

マーケットメイクとHFT・アルゴリズム取引

近年の市場では、マーケットメイクの多くがアルゴリズム化され、高速取引(HFT)と組み合わさっています。コンピュータがミリ秒単位で板情報・出来高・他市場の価格を監視し、瞬時にビッド・オファーを調整しているイメージです。

これにより、市場は一般的にスプレッドが狭く、約定も安定しやすくなりました。一方で、アルゴリズム同士の競争や一時的な誤作動が、フラッシュクラッシュのような急激な値動きにつながるリスクもあります。

個人投資家が意識すべきポイント

個人投資家がHFTやアルゴリズム取引をすべて理解する必要はありませんが、次のポイントを押さえておくと実務的に役立ちます。

  • 板が「チカチカ」高速で出し入れされている銘柄は、アルゴリズムがマーケットメイクしている可能性が高い
  • 急激なニュースや指標発表時には、アルゴリズムが一斉にリスクを落とし、スプレッドが急に広がることがある
  • 指標直後など、スプレッドが一時的に広がっている局面での成行注文は、予想外に不利な価格で約定するリスクがある

実務的な対策としては、重要指標の前後はあらかじめポジションサイズを抑える・成行ではなく指値を基本にするといったシンプルなルールを持っておくことが有効です。

マーケットメイクをトレード戦略に生かす考え方

マーケットメイクの仕組みを理解した上で、個人投資家がどのようにトレードに生かせるかを考えてみます。ここでは、初心者でも取り入れやすい観点に絞って整理します。

ポイント1:スプレッドと板の厚さを「戦う相手」として意識する

トレードの相手は常に他の個人投資家とは限りません。多くの場合、最初にぶつかる相手はマーケットメイカーです。エントリーした瞬間に含み損からスタートするのは、スプレッドの分だけ価格が不利だからです。

したがって、スプレッドが広い銘柄や時間帯では、エントリーの回数を減らし、より「よい場面」だけに絞ることが重要です。逆に、スプレッドが狭く板も厚い銘柄では、エントリー回数を増やしてもトータルのコスト負担が抑えやすくなります。

ポイント2:板の変化から「在庫調整の気配」を読む

マーケットメイカーは常に在庫リスクを気にしています。買いポジションが膨らめば、価格を少しずつ上げて売りやすいように誘導したり、逆に売り在庫が積み上がれば、価格を抑え込んで買い戻しやすくしたりします。

例えば、ある価格帯に厚い売り板があり、そこにぶつける買い注文が何度も出ているのに、板がなかなか減らない場合、マーケットメイカーが上値での在庫調整をしている可能性があります。このような場面で安易にブレイク狙いの成行買いをすると、上値でつかまされ、すぐに反落に巻き込まれるリスクがあります。

逆に、厚い板に何度もぶつかるうちに板の量が明らかに減り、ついには一気に食い尽くされるような動きが見えた場合、マーケットメイカー側の在庫調整が一段落し、次のトレンドが始まりやすい局面かもしれません。このように、板の「量」だけでなく、その減り方・入れ替わり方に注目することが重要です。

ポイント3:流動性の低い市場ではポジションサイズを抑える

マーケットメイクが十分でない銘柄や時間帯、あるいはニッチな暗号資産ペアなどでは、板が薄くスプレッドも広くなりがちです。こうした市場で大きなポジションを持つと、自分の注文が板を大きく動かし、想定以上のリスクを取ることになります。

初心者が取り組みやすいリスク管理として、「平均出来高が少ない銘柄では1回の注文サイズを小さくする」「あまりに板が薄いときは見送る」といったルールを設けておくと、思わぬ損失を避けやすくなります。

マーケットメイク視点での銘柄・市場選び

最後に、マーケットメイクの観点から、初心者が銘柄や市場を選ぶ際の考え方を整理します。

ポイント1:出来高とスプレッドのバランスを見る

銘柄を選ぶ際には、チャートだけでなく、平均出来高とスプレッドもチェックしましょう。目安として、同じセクターの中でも出来高が多く、スプレッドが相対的に狭い銘柄は、マーケットメイクが効いていて取引コストも低めです。長期投資はもちろん、短期トレードでの出入りもしやすくなります。

ポイント2:取引時間帯ごとの特徴を把握する

FXや暗号資産では24時間取引が可能ですが、すべての時間帯で流動性が同じわけではありません。主要市場が開いている時間帯はマーケットメイカーも活発に動き、スプレッドが狭くなる傾向があります。一方、早朝など参加者が少ない時間帯はスプレッドが一時的に広がりやすくなります。

自分がトレードしやすい時間帯が、その銘柄・市場にとっても流動性が厚い時間帯かどうかを確認すると、無駄なコストや変な値飛びを避けやすくなります。

ポイント3:あえて「マーケットメイカーが多い市場」を選ぶ

一般に、上場してから時間が経っている主要株価指数、主要通貨ペア、出来高の多い大型株などは、マーケットメイカーや流動性提供者が多く参加しています。その結果、スプレッドが狭く、板も厚く、価格が飛びにくい環境になりやすいです。

一方、上場直後のIPO銘柄やマイナーな暗号資産などは、マーケットメイクが不安定で、板が急に消えたりスプレッドが瞬間的に大きく開いたりすることがあります。大きな値幅が狙える一方で、リスクも非常に高くなります。

初心者のうちは、マーケットメイクが安定している主要銘柄・主要通貨ペアを中心に取引することが、結果的に生き残りやすい選択になります。

まとめ:マーケットメイクを理解して「見えない相手」を意識する

マーケットメイクは、一見すると個人投資家から遠いプロの世界の話に思えるかもしれません。しかし、実際には、あなたが成行注文を出した瞬間、スプレッドを支払い、板にぶつかり、マーケットメイカーと間接的にやり取りをしています。

本記事で解説したように、マーケットメイクを理解することで、次のような具体的な行動に落とし込むことができます。

  • スプレッドと出来高を意識して、市場・銘柄・時間帯を選ぶ
  • 板の厚さだけでなく、その変化の仕方から在庫調整の気配を読む
  • 流動性の低い市場ではポジションサイズを抑え、成行注文を乱発しない
  • 重要指標の前後やスプレッドが広がった局面では、リスクを抑えるルールを持つ

マーケットメイクを「敵」として見るのではなく、「こういう構造の中で取引している」と理解したうえで、自分の戦い方を選ぶことが大切です。見えない相手の動きを意識できるようになると、同じチャート・同じ板情報を見ていても、これまでとは違った景色が見えてくるはずです。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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