なぜ「リスク許容度」から考えるべきなのか
同じ100万円を投資しても、「20万円までの含み損なら耐えられる人」と「5万円でも眠れなくなる人」では、組むべきポートフォリオがまったく違います。投資で長く資産を増やしていくうえで重要なのは、「理論的に最も儲かりそうな運用」ではなく、「自分がストレスなく続けられる運用」を選ぶことです。その出発点になるのがリスク許容度です。
リスク許容度を無視してしまうと、相場の上下に振り回されて、安く売って高く買うといった逆効果な行動を取りがちです。逆に、自分のリスク許容度に合ったポートフォリオを組めていれば、一時的な含み損が出ても「想定の範囲内だ」と落ち着いて対処しやすくなります。
リスク許容度を構成する3つの要素
リスク許容度は、次の3つの要素の組み合わせで考えると整理しやすくなります。
1. 財務的な余裕度(お金のクッション)
まず重要なのは、生活費や預貯金の状況です。例えば、毎月の生活費が25万円で、手元に生活費の2か月分しか現金がない人と、1年以上分の生活費が現金である人では、とれるリスクの大きさが変わります。生活防衛資金として、最低でも「生活費の6か月〜1年分」を現金やほぼ元本割れしない資産で確保したうえで、残りを投資に回すのが一つの目安です。
ボーナスや副業収入など、今後の収入の安定性もポイントです。収入が安定していれば、一時的な含み損が出ても時間を味方にしやすくなります。逆に、収入が不安定であれば、投資に回す比率を抑え、値動きの小さい資産を中心に組む方が安全です。
2. 精神的な耐性(値動きへの慣れ)
同じ含み損でも、人によって受け止め方は大きく異なります。例えば、100万円のポートフォリオが相場の急落で80万円になったとき、「また時間をかけて戻るだろう」と落ち着いていられる人もいれば、「もう投資なんてこりごりだ」と感じる人もいます。
この精神的な耐性は、過去の経験や性格に強く影響されます。スポーツやゲームで勝ち負けに慣れている人、仕事で数字のブレを日常的に見ている人は、値動きにも比較的慣れやすい傾向があります。一方で、損を極端に嫌うタイプの人は、値動きの大きい商品よりも、値動きの小さな債券やバランス型ファンドを中心に組んだ方が精神的に楽です。
3. 投資の目的と期間(ゴール設定)
リスク許容度は「何のために、いつまでに、どれくらい増やしたいか」で大きく変わります。例えば、
・5年後の住宅頭金を貯めるための資金
・20年以上先の老後資金
・数か月〜1年程度の短期売買で増やしたい資金
といったように、目的と期間が違えばとるべきリスクは変わります。一般的には、運用期間が長くなるほど、短期的な値下がりを許容しやすくなり、株式などリスク資産の比率を高めやすくなります。一方で、数年以内に使う予定のあるお金は、大きな値下がりを避けるために、債券や現金の比率を高める方が現実的です。
簡易セルフ診断:あなたのリスク許容度をチェック
ここでは、あくまで目安として、自分のリスク許容度をざっくり知るためのセルフチェックを紹介します。紙やメモアプリに回答を書き出してみると整理しやすくなります。
チェック1:投資に回せる余裕資金はどのくらいか
生活防衛資金を差し引いたうえで、投資に回せるお金が年収の何割くらいかをざっくり見積もります。例えば、生活防衛資金を確保したうえで300万円の余裕資金があり、年収が600万円であれば、比較的余裕がある状態といえます。一方、余裕資金が50万円で年収もさほど高くない場合、リスクを取り過ぎない設計が重要になります。
チェック2:どれくらいの含み損まで耐えられるか
次のようにイメージしてみてください。「100万円を投資して、相場の急落で一時的に評価額が70万円になったとき、どう感じるか」。
・「70万円まで下がっても、慌てずに続けられる」
・「80万円くらいまでならぎりぎり耐えられる」
・「90万円を割るとストレスが強い」
この感覚が、そのままおおよそのリスク許容度のヒントになります。70万円まで耐えられるのであれば30%程度のドローダウンを許容できるタイプ、90万円を割るとつらいのであれば10%以内のドローダウンに抑えたいタイプ、というイメージです。
チェック3:運用期間の長さ
今考えている資金を、「いつまで運用に回してよいか」を具体的な年数で書き出します。
・5年未満なら、値動きの大きい資産は控えめにする
・10年以上なら、株式インデックス中心でも許容しやすい
・20年以上なら、途中の下落を前提にしながらも成長資産の比率を高めやすい
といったように、期間が長くなるほどリスクを取りやすくなります。ただし、期間が長くても、精神的に含み損に耐えられない場合は、無理にリスクを取り過ぎる必要はありません。
リスク許容度をポートフォリオに落とし込む考え方
セルフチェックでおおよそのリスク許容度のイメージがつかめたら、それを具体的なポートフォリオに落とし込んでいきます。ここでは、あくまで一例として、「株式インデックス」「債券・債券ファンド」「現金・預貯金」といったシンプルな区分で考えてみます。
目標ドローダウンから逆算する
例えば「最大でも20%の含み損までに抑えたい」と決めたとします。この場合、過去の値動きから、大まかに次のようなイメージを持つことができます。
・株式インデックス100%:一時的に30〜50%下落する局面も想定
・株式50%+債券50%:下落局面の目安はおおむね15〜25%程度に緩和されやすい
・株式30%+債券40%+現金30%:下落しても10〜15%程度に収まることが多い
もちろん、これはあくまで目安であり、将来の値動きを保証するものではありません。それでも、「株式比率を高めるほど、最大ドローダウンは大きくなりやすい」という方向性は、ポートフォリオ設計の重要な判断材料になります。
具体例:100万円を運用するケース
100万円を運用するときに、次のような考え方ができます。
・「最大30万円までの含み損なら許容できる」
→ 株式インデックス70%(70万円)、債券20%(20万円)、現金10%(10万円)
・「最大20万円までの含み損に抑えたい」
→ 株式インデックス50%(50万円)、債券30%(30万円)、現金20%(20万円)
・「最大10万円の含み損でもつらい」
→ 株式インデックス20〜30%、残りは債券と現金中心
このように、許容できる最大含み損から、株式比率のおおよその上限をイメージしていくと、自分に合った配分が見えやすくなります。
タイプ別モデルポートフォリオのイメージ
ここでは、あくまでイメージしやすくするために、タイプ別にざっくりとしたモデルポートフォリオ例を紹介します。実際に運用するときは、ご自身の状況に合わせて割合を調整してください。
1. 超保守型(元本割れを極力避けたい)
・現金・預貯金・個人向け国債など:60〜70%
・債券ファンド・安定型バランスファンド:20〜30%
・株式インデックス:0〜20%
大きなリターンは期待しにくいものの、評価額のブレを抑えたい人向けです。将来使う予定が近いお金や、精神的に大きな値下がりに耐えられない場合に適したイメージです。
2. やや保守的(減らしたくないが、インフレにも負けたくない)
・現金・預貯金:30〜40%
・債券・安定型バランスファンド:30〜40%
・株式インデックス:20〜40%
インフレで実質的な資産価値が目減りするリスクも意識しつつ、大きなドローダウンは避けたい人向けです。株式比率を抑えながらも、長期的な成長もある程度狙える構成です。
3. バランス型(多少の上下は許容する)
・株式インデックス:40〜60%
・債券・バランスファンド:20〜40%
・現金:10〜20%
長期で資産を増やしたい一方で、短期的に50%近い下落は避けたい人向けです。長期投資を前提に、NISAなども活用しやすい配分イメージです。
4. 成長重視型(長期前提でリターンを取りにいく)
・株式インデックス・株式ETF:70〜90%
・債券・オルタナティブ:0〜20%
・現金:10〜20%
長期(10〜20年以上)運用を前提に、短期的な大きな値下がりを許容できる人向けです。若年層で、長期の積み立てを通じて将来の資産形成を狙うケースなどが該当します。
リスク許容度とNISA・積立投資の組み合わせ
リスク許容度を踏まえたうえで、NISAや積立投資と組み合わせると、無理のない資産形成の仕組みを作りやすくなります。
例えば、バランス型のリスク許容度を持つ人であれば、
・NISA枠では株式インデックスや全世界株式(いわゆるオルカン)を中心に積立
・NISA外では、債券ファンドや現金を多めに持つことで全体のリスクを調整
といった組み合わせが考えられます。口座ごとではなく、「世帯全体の資産配分」でリスクを管理する意識が大切です。
リスク管理の具体的なルールを決めておく
リスク許容度を活かすには、「感覚」だけでなく、「ルール」として事前に決めておくことが重要です。例えば、次のようなルールが考えられます。
1回あたりの投資額の上限を決める
「1つの銘柄(または1つのファンド)に対して、全資産の何%まで」という上限を決めておきます。例えば、1銘柄あたり5%まで、1つの資産クラスあたり50%まで、といったように枠を決めることで、集中し過ぎによるリスクを抑えられます。
レバレッジ商品の扱い方を明確にする
レバレッジETFや信用取引、FXの高レバレッジ取引などは、一時的に大きく増える可能性がある一方で、想定以上のスピードで資産が減るリスクも伴います。リスク許容度が高い人でも、資産全体のごく一部にとどめる、長期の資産形成資金とは切り離すなど、ルールを決めておくと安全度が高まります。
定期的なリバランスを仕組み化する
値上がりして比率が高くなり過ぎた資産を一部売って、比率が下がった資産を買い増す「リバランス」は、リスク許容度に合わせた資産配分を維持するのに有効です。例えば、年1回や半年に1回など、タイミングを決めてポートフォリオ全体を見直す習慣をつけると、偏りが蓄積しにくくなります。
よくある失敗パターンとその回避策
リスク許容度とポートフォリオ設計を考える際に、多くの人が陥りやすいパターンがあります。
短期の値動きに感情で反応してしまう
相場のニュースやSNSの情報を見て、急に不安になったり、逆に楽観し過ぎてしまうのはよくあることです。こうした感情的な売買は、「安値で売って高値で買う」という逆効果な結果につながりがちです。あらかじめ決めた資産配分やルールを優先し、「感情ではなくルールで動く」ことを徹底するだけでも、結果は大きく変わってきます。
他人のリスク許容度をそのまま真似してしまう
投資の体験談やSNSのポートフォリオ公開は参考になりますが、その人の年収、資産額、家族構成、性格などは自分とは違います。他人のポートフォリオをそのまま真似すると、自分のリスク許容度を超えた運用になってしまうことがあります。あくまで「自分にとって無理のない範囲」を基準に考えることが大切です。
目的の違うお金を一緒に運用してしまう
「数年以内に使う予定の資金」と「20年以上先の老後資金」を同じポートフォリオで運用してしまうと、どちらの目的にも中途半端になりがちです。目的ごとに口座や管理表を分け、「短期用のお金」と「長期用のお金」を切り分けて運用することで、リスク許容度の設計もしやすくなります。
今日からできる実践ステップ
最後に、この記事の内容を踏まえて、今日からできる具体的なステップを整理します。
1. 家計の現状を整理する:毎月の生活費と、生活防衛資金として確保しておくべき金額をメモに書き出します。
2. 投資に回せる余裕資金を計算する:生活防衛資金を差し引いたうえで、投資に充てられる金額を確認します。
3. 「最大どれくらいの含み損まで耐えられるか」を数字で書く:100万円運用なら、10万円なのか、20万円なのか、30万円なのかを具体的に決めてみます。
4. その数字から株式比率の上限を大まかに決める:最大ドローダウン20%なら株式は50%程度までにするなど、自分なりの目安を設定します。
5. 目的別に資金を分ける:近い将来に使う予定の資金と、長期で育てる資金を分けて管理します。
6. 年1回の見直し日をカレンダーに入れる:誕生月や年末など、毎年同じタイミングでポートフォリオを見直す習慣を決めてしまいます。
リスク許容度とポートフォリオ設計は、一度決めて終わりではなく、ライフイベントや収入の変化に合わせて見直していくものです。焦らず、自分のペースで「無理なく続けられる運用スタイル」を固めていくことが、長期的な資産形成の近道になります。


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