同じ「年利5%を目指す」という目標でも、人によって最適なポートフォリオはまったく異なります。その差を生む根本的な要因が「リスク許容度」です。リスク許容度を無視してポートフォリオを組むと、少しの下落で不安になって売ってしまい、結果的に「高値で買って安値で売る」という最悪のパターンに陥りやすくなります。
逆に、自分のリスク許容度に合ったポートフォリオを組めば、相場が荒れても「このくらいの含み損は想定内」と冷静に構えていられます。本記事では、リスク許容度の考え方から具体的な計算方法、そしてそれをポートフォリオ設計に落とし込む手順まで、投資初心者の方にも分かりやすく解説します。
- リスク許容度とは何か:一言で言うと「どこまでの損失なら耐えられるか」
- ステップ1:家計のキャッシュフローから「投資に回せる金額」を決める
- ステップ2:「最大どの程度の含み損まで耐えられるか」を数値で決める
- ステップ3:資産クラスごとのリスクの違いを理解する
- ステップ4:リスク許容度から目標配分(アセットアロケーション)を決める
- ステップ5:時間軸(投資期間)と積み立ての有無を考慮する
- ステップ6:具体的なポートフォリオ例(長期積み立て前提)
- ステップ7:メンタル面のセルフチェックと「想定ドローダウン」の可視化
- ステップ8:リスク許容度は「一度決めたら終わり」ではない
- リスク許容度とポートフォリオ設計で「途中離脱」を避ける
リスク許容度とは何か:一言で言うと「どこまでの損失なら耐えられるか」
リスク許容度を難しく考える必要はありません。本質的には「どこまでの損失なら、生活やメンタルを壊さずに許容できるか」というラインのことです。このラインが明確になっていると、ポートフォリオで取るべきリスクの上限が自然と見えてきます。
リスク許容度は、次の3つの要素でほぼ決まります。
1. 経済的な余裕(年収・資産・家計の余力)
2. 時間軸(運用できる残り年数)
3. メンタル耐性(評価損を見たときの心理的ストレス)
例えば、独身で手取り年収600万円、生活費が年間300万円、預貯金が500万円ある人と、子ども2人で教育費が重い40代の人では、同じ「投資に興味がある」という状況でもリスク許容度は大きく異なります。
ステップ1:家計のキャッシュフローから「投資に回せる金額」を決める
リスク許容度を考える前に、「そもそも投資に回してよいお金はいくらか」を明確にする必要があります。生活費や近い将来の支出まで含めて投資してしまうと、相場の下落と同時に生活も不安定になり、最悪のタイミングで売らざるを得なくなります。
基本的な考え方は、次のようなシンプルな式で整理できます。
投資に回してよい金額 = 金融資産総額 − 生活防衛資金 − 近い将来に使う予定資金
生活防衛資金とは、万が一収入が途絶えても生活を維持できる現金のことです。一般的には「生活費の6〜12か月分」が一つの目安になります。
具体例:30代会社員のケース
・年齢:35歳
・手取り年収:500万円
・生活費:月20万円(年間240万円)
・金融資産:現金500万円
・近い将来に必要な資金:車の買い替え200万円(2年以内)
このケースでは、まず生活防衛資金を生活費12か月分として計算すると「20万円 × 12か月=240万円」です。さらに車の買い替え費用として200万円はリスク資産に回すべきではありません。
したがって投資に回してよい金額は、
500万円 − 240万円 − 200万円 = 残り60万円
となります。この60万円が、この人にとって「リスクを取ってもよい運用資金」のスタート地点です。この時点で全資産を一気に投資に回さないことが、リスク許容度を守るための第一歩になります。
ステップ2:「最大どの程度の含み損まで耐えられるか」を数値で決める
次に、「投資に回してよい金額」が決まったら、その中で「最大どの程度の評価損までなら精神的に耐えられるか」を決めます。ここをあいまいにしたまま高リスク商品を買うと、20%程度の下落でもパニックになりがちです。
目安として、次の3段階で考えると整理しやすくなります。
・慎重型:最大下落許容率 −10〜−15%程度
・標準型:最大下落許容率 −20〜−30%程度
・積極型:最大下落許容率 −40%程度まで
あくまで目安ですが、自分が「このくらいまで含み損が出ても、慌てずに続けられる」と感じるラインを決めておきます。
具体例:慎重型のリスク許容度
先ほどの例で投資可能額が60万円だった人が、「最大でも10%程度の含み損までに抑えたい」と考えたとします。この場合の「耐えられる評価損」は
60万円 × 10% = 6万円
です。この人は、マーケットが荒れたときに最大で6万円程度の含み損が出る可能性までなら受け入れられる、ということになります。この数値を基準に、ポートフォリオのリスク設計を行っていきます。
ステップ3:資産クラスごとのリスクの違いを理解する
同じ100万円を投資する場合でも、「何に投資するか」でリスクの大きさは大きく変わります。ざっくりとしたイメージですが、よくある代表的な資産クラスのリスク感覚は次のようになります。
・現金・預金:価格変動はほぼゼロだが、インフレリスクがある
・短期国債・MMF:価格変動は小さいが、金利水準によって利回りが変わる
・長期国債:価格変動はあるが、株式よりは一般的に小さい
・株式インデックス(S&P500など):短期的には−30〜−50%の下落もありうる
・個別株・レバレッジETF:銘柄によっては−50%以上の下落も想定
リスク許容度を守るためには、これらの資産クラスの「値動きの大きさ」を組み合わせて、ポートフォリオ全体のリスクを調整する必要があります。
ステップ4:リスク許容度から目標配分(アセットアロケーション)を決める
ここからがポートフォリオ設計の中心部分です。先ほどの「最大含み損の許容額」と「資産クラスごとのリスク感覚」をもとに、おおまかな配分を決めていきます。
例1:慎重型ポートフォリオ(最大下落10〜15%想定)
投資額60万円、最大下落許容10%(6万円)という条件で、株式インデックスと債券・現金を組み合わせるとします。ここでは、株式インデックスが「最悪−30%下落する可能性がある」とざっくり仮定します。
・株式インデックス:30万円
・債券・MMF:20万円
・現金・普通預金:10万円(投資枠の中で安全資産として温存)
このポートフォリオで株式インデックス部分が−30%下落した場合、評価損は
30万円 × 30% = 9万円
となります。これは先ほどの「許容評価損6万円」を少し超えていますが、「現金10万円を含めた60万円全体」で見ると、
全体の下落率 = 9万円 ÷ 60万円 = 15%
程度となります。慎重型の上限ギリギリではありますが、「最悪この程度まで落ちる可能性がある」と事前に理解しておくことで、暴落時にもパニックになりにくくなります。
例2:標準型ポートフォリオ(最大下落20〜30%想定)
同じ60万円でも、多少の変動を受け入れられる人であれば、次のような配分も考えられます。
・株式インデックス:40万円
・債券・MMF:15万円
・現金:5万円
株式インデックスが−30%下落した場合、
40万円 × 30% = 12万円の評価損
となり、ポートフォリオ全体では
12万円 ÷ 60万円 = 20%
の下落です。この水準の含み損を見ても「想定の範囲内」と感じられるのであれば、標準型のリスク許容度と言えます。
ステップ5:時間軸(投資期間)と積み立ての有無を考慮する
リスク許容度は、投資期間によっても大きく変わります。一般的に、投資期間が長いほど、短期的な下落から回復するチャンスが増えるため、多少リスクを取る余地が生まれます。
・投資期間が10年以上ある場合:株式インデックス比率を高めることも検討
・投資期間が5年未満の場合:債券や現金比率を高めて、価格変動を抑える
さらに、毎月一定額を積み立てる「ドルコスト平均法」を組み合わせると、下落局面で安く買い増しすることができ、長期的には平均取得単価を下げる効果も期待できます。ただし、積み立てであっても「全体としてどの程度の評価損まで許容できるか」という視点は変わりません。
ステップ6:具体的なポートフォリオ例(長期積み立て前提)
ここでは、投資初心者が長期積み立てを前提とした場合の、シンプルで再現しやすいポートフォリオ例を示します。実際の銘柄選定は各自の証券会社や商品ラインナップによりますが、考え方の枠組みとして参考にしてください。
慎重型(安定重視)
・全世界株式インデックス:30%
・先進国債券・MMF:40%
・国内債券・定期預金:20%
・現金(普通預金):10%
この配分では、株式比率が30%と低めのため、相場急落時もポートフォリオ全体の下落幅をある程度抑えることができます。その代わり、長期的なリターン期待値はやや控えめになりますが、「続けられること」を最優先する場合には合理的な選択です。
標準型(バランス重視)
・全世界株式インデックス:50%
・先進国債券・MMF:30%
・国内債券・定期預金:10%
・現金:10%
株式比率が50%になるため、長期リターンの期待値は上がりますが、短期的には−20〜−30%程度の下落を経験する可能性があります。その代わり、長期積み立てとの相性は良く、時間を味方につけやすい配分と言えます。
ステップ7:メンタル面のセルフチェックと「想定ドローダウン」の可視化
数字だけでリスク許容度を決めても、いざ評価損を目の当たりにすると想像以上のストレスを感じることがあります。そこで、「想定される最大ドローダウン(金額ベース)」を事前に具体的な数字で確認しておくことが有効です。
例えば、標準型ポートフォリオで総投資額が300万円、最大下落率を−30%と想定すると、
想定最大ドローダウン = 300万円 × 30% = 90万円
となります。この「90万円の含み損」が発生したとき、自分は冷静でいられるかどうかを、あらかじめイメージしておきます。ここで「やはり90万円は精神的にきつい」と感じるのであれば、株式比率を下げるなどしてポートフォリオを調整する必要があります。
ステップ8:リスク許容度は「一度決めたら終わり」ではない
リスク許容度は、年齢や家族構成、仕事の状況、資産規模の変化によって変わっていきます。そのため、一度決めたポートフォリオを放置するのではなく、定期的に見直すことが重要です。
・年収が増えた、ボーナスが安定している → リスク許容度が上がる可能性
・子どもが生まれた、住宅ローンを組んだ → 一時的にリスク許容度を下げるべき局面
・十分な資産規模に達した → 無理に高リスク商品を持つ必要がなくなる
少なくとも年に1回は、自分の家計状況とポートフォリオを見直し、「現在のリスク許容度に合っているか」を確認するとよいです。
リスク許容度とポートフォリオ設計で「途中離脱」を避ける
投資で成果を出している人の共通点は、「最初から完璧なポートフォリオを組んだ人」ではなく、「途中でやめずに続けた人」です。そのためには、短期的な利益を追いかけるよりも、「自分が無理なく続けられるリスク量」を見極めることが何より重要になります。
リスク許容度を明確にし、それに合わせてポートフォリオを設計しておけば、相場のノイズに振り回されることは減ります。結果として、長期的に資産が増えていく可能性を高めることにつながります。まずは、現在の家計と心理的な余裕を冷静に見つめ直し、自分にとってちょうど良いリスク水準を数値で言語化するところから始めてみてください。


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