これから投資を始める人がまず整えるべき5つのステップ
「投資を始めたいけれど、何から手を付ければいいか分からない」という声は非常に多いです。ニュースやSNSでは、株やFX、暗号資産などの儲け話が目に入りますが、いきなり商品選びから入ると高い確率で失敗します。投資で長く生き残る人は、「どの銘柄を買うか」よりも前に、土台となる準備をきちんと整えています。
この記事では、これから投資を始める人が「まず何をすべきか」を、5つのステップに分けて具体的に解説します。特定の商品をすすめるのではなく、どんな商品を選ぶにしても共通して役に立つ考え方と手順に絞って説明していきます。
ステップ1:家計の現状把握と「投資に回してよいお金」の切り分け
最初のステップは、投資商品ではなく「自分のお金の流れ」を把握することです。ここを曖昧にしたまま投資を始めると、ちょっとした値下がりで不安になり、底で売ってしまう原因になります。
毎月のキャッシュフローを数値で見る
まずは、紙でも家計簿アプリでもよいので、次の3つを1か月分書き出します。
- 手取り収入(残業代・ボーナスは別枠で)
- 固定費(家賃・住宅ローン・通信費・保険料・定期的なサブスクなど)
- 変動費(食費・日用品・交際費・趣味・交通費など)
例えば、ある人の1か月が次のようになっているとします。
- 手取り収入:25万円
- 固定費:13万円
- 変動費:9万円
この場合、毎月の黒字は3万円です。一見「投資に3万円回せそう」と思えますが、ここから年1回の帰省費用や大型出費(家電・車検・冠婚葬祭)も考慮する必要があります。こうした不定期出費を年間でざっくり見積もり、それを12で割って月あたりに按分すると、より現実的な「本当の黒字」が見えてきます。
生活防衛資金を先に確保する
投資初心者がやってしまいがちな失敗は、「手元資金のほとんどを投資に回してしまう」ことです。失業・病気・急な出費に備えるため、まずは生活費の3〜6か月分程度を現金や普通預金で確保しておきます。
例えば、毎月の生活費が18万円であれば、最低でも54万〜108万円程度を防衛資金として別口座に置き、これには手を付けないルールにします。その上で、「毎月の黒字の一部+ボーナスの一部」を投資に回していくイメージです。
ステップ2:目標と期間を決めて、ざっくりとした「投資方針」を言語化する
次に、「何のために」「どのくらいの期間で」「どの程度のリスクを取るか」を決めます。ここをあいまいなままにすると、値動きに振り回されて短期売買をしてしまい、結果的にパフォーマンスが悪くなることが多いです。
目的と期間の例
代表的な目的と投資期間の例は次のようになります。
- 老後資金づくり:20〜30年以上の長期
- 10年後の子どもの教育費:10〜15年程度の中長期
- 5年後のマイホーム頭金:5〜10年程度の中期
期間が長くなるほど、一時的な価格変動を許容しやすくなり、値動きのある資産(株式など)の比率を高めやすくなります。一方で、5年以内に必ず使うお金は、大きな値下がりを避けるためにリスクを抑えた運用(預金・短期債券など)を中心にする判断も重要です。
リスク許容度をチェックする簡単な質問
リスク許容度は、年収や資産額だけでなく、「値下がりに対してどれくらい精神的に耐えられるか」によっても変わります。例えば、次のような質問に自分なりに答えてみてください。
- 100万円を投資して一時的に30万円の含み損が出たとき、冷静でいられるか
- 仕事中も価格が気になってチャートを見てしまうタイプか
- 「損失を確定するのが怖くて、いつまでも保有してしまう」傾向はないか
こうした自己認識を踏まえたうえで、「自分は当面、値動きの大きい商品はポートフォリオの○%までにする」といった大まかな投資方針を決めておくと、売買判断のブレを防ぎやすくなります。
ステップ3:まずは「長期・分散・積立」の仕組みを作る
投資初心者が最初に意識すべきキーワードは、「長期・分散・積立」です。これは特定の商品名ではなく、どの証券会社やどの国でも共通して使える考え方です。
長期:時間を味方につける
短期で資産を2倍にしようとすると、相応のリスクを取らざるを得ません。しかし、20年・30年といった長い時間を前提にすれば、少しずつ増やしていく戦略でも十分な成果を期待できます。長期投資では、短期の上下動よりも「続けられる仕組みづくり」が重要になります。
分散:1つのカゴに卵を盛りすぎない
個別株1銘柄に全財産を集中させると、その会社の業績やニュースに人生が振り回されます。これを避けるために、
- 複数の銘柄に分散する
- 国内外の株式・債券・現金など、資産クラスを分散する
- 投資タイミングを分散する(毎月の積立)
といった工夫が必要です。分散には「一気に大儲けはしにくいが、大損もしにくい」という特徴があります。初心者にとっては、この「大損しにくい」を優先することが、投資を続けるうえでの最大のメリットになります。
積立:価格が高いときも安いときも機械的に買う
毎月一定額を自動で積み立てると、価格が高いときには少ししか買えず、安いときには多く買えるという「ドルコスト平均法」の効果が働きます。相場を完璧に読むことは誰にもできませんが、積立投資は「読めないこと」を前提にした現実的な戦略です。
例えば、毎月3万円を20年間積み立てると、元本は720万円です。仮に年率3〜5%程度で運用できた場合、複利効果によって最終的な資産は1000万円を大きく超える可能性があります。もちろん、これはあくまで一つのシミュレーションですが、「時間×積立額×複利」が組み合わさると、想像以上に大きな差が生まれます。
ステップ4:初心者が避けるべき典型的な失敗パターン
これから投資を始める人は、「何をするか」と同じくらい「何をしないか」も重要です。ここでは、初心者が陥りやすい失敗パターンと、それを避けるための具体的な考え方を整理します。
失敗パターン1:レバレッジから入る
FXの高レバレッジ取引や、信用取引、レバレッジ型ETFなどは、短期で大きく動くため魅力的に見えます。しかし、仕組みを十分理解せずに始めると、数日〜数週間で資金の大半を失うリスクがあります。特に、給与収入のほとんどを投じてレバレッジをかける行為は、生活への影響が大きく、初心者が最初に取るべき選択肢ではありません。
まずはレバレッジを使わない現物取引や、少額の積立から始め、値動きへの自分の反応を確認してから、必要に応じてリスクを調整していくほうが安全です。
失敗パターン2:短期の値動きに感情で反応する
スマホでいつでも価格が見られる時代になり、1日で数%動いただけで「今すぐ売ったほうがいいのでは」と不安になる人が増えています。しかし、長期の資産形成を目的とするのであれば、短期の値動きはノイズであることが多いです。
例えば、株式市場は過去を振り返ると何度も大きな下落を経験していますが、そのたびに時間をかけて回復してきました。もちろん、未来も同じとは限りませんが、「一時的な下落」と「構造的な変化」を区別する視点を持つことが重要です。ニュースで騒がれているときこそ、自分の投資方針に立ち返り、「目的と期間」の前提が変わっていないかを冷静に確認する習慣をつけましょう。
失敗パターン3:他人の成功談をそのまま真似する
インターネットには、「この銘柄で○倍になった」「この方法で短期間に資産を増やした」といった成功談が溢れています。しかし、その裏側には、表に出てこない失敗例も数多く存在します。また、その人の収入・家族構成・仕事・リスク許容度は、あなたとはまったく違う可能性があります。
大切なのは、「その人にとって合理的だった戦略」が、自分にとっても合理的とは限らない、という前提を持つことです。情報は参考にしつつも、「自分の目的・期間・リスク許容度に合うか」というフィルターを必ず通して判断しましょう。
ステップ5:具体的な行動プランに落とし込む
ここまでの内容を踏まえて、「実際に何をするのか」を1つの行動プランに落とし込んでみます。あくまで一例ですが、投資をこれから始める人が取れる現実的なステップは次のようになります。
1か月目:家計の見える化と生活防衛資金の設定
- 家計簿アプリまたはスプレッドシートで1か月分の収支を記録する
- 生活費の3〜6か月分を目安に、防衛資金として貯めるべき金額を決める
- 防衛資金用の口座と、将来の投資用の口座を分ける
この段階では、まだ投資商品を買う必要はありません。まずは「いくらなら投資に回しても生活に支障がないか」を明確にします。
2〜3か月目:投資の基本知識をインプットする
- 株式・債券・投資信託・ETFなど、代表的な金融商品の特徴を調べる
- 長期・分散・積立の考え方を、自分の言葉で説明できるレベルまで理解する
- 税金や口座の種類(課税口座・非課税枠など)の基本を確認する
このフェーズでは、「仕組みを理解すること」に集中します。専門用語をすべて覚える必要はありませんが、自分が買おうとしている商品のリスクとリターンのイメージを、ざっくりと言語化できるようになっておくと安心です。
3か月目以降:少額の積立からスタートし、徐々に慣らす
ここまで準備が整ったら、いよいよ少額の積立投資をスタートします。このときのポイントは、
- 最初は「なくなっても生活に困らない金額」から始める
- 相場が上がっても下がっても、少なくとも1年は同じペースで積み立てを続ける
- 半年〜1年ごとに、「当初の目的・期間・リスク許容度」と現状を見直す
最初の1年は、「増やすこと」よりも「続けること」に意識を向けるとよいです。値動きに一喜一憂しつつも、実際の金額で経験を積むことで、自分のリスク許容度がより明確になっていきます。
ケーススタディ:20代会社員Aさんの例
最後に、ここまでのステップをイメージしやすくするために、架空のケーススタディを紹介します。
20代後半の会社員Aさんは、手取り収入が月25万円、貯金は50万円でした。SNSで投資の情報を見て「自分も始めてみたい」と考えましたが、何から手をつければよいか分からず手が止まっていました。
そこでAさんは、まず1か月間家計簿をつけ、生活費が月18万円であることを把握しました。生活防衛資金として6か月分=108万円を目標に設定し、現状の50万円との差額58万円を2年かけて貯めることにしました。この間も、ボーナスや副収入から毎月1万円だけは少額の積立に回すことにしました。
投資の目的は、「老後資金と将来の選択肢を増やすこと」とし、期間は20年以上、リスク許容度は「一時的に30%くらいの含み損が出ても、生活に影響がなければ許容できる」と定義しました。そのうえで、「給与収入の一部を使った長期の積立投資をベースにし、レバレッジは当面使わない」という投資方針を決めました。
このように、Aさんはまず自分の状況と目的を言語化し、「いきなり大きく儲ける」のではなく「長く続けられる仕組みづくり」からスタートしました。その結果、相場が不安定な時期でも、目的と期間を思い出すことで落ち着いて行動できるようになりました。
まとめ:最初の一歩は「商品選び」ではなく「土台づくり」
投資初心者がまずすべきことは、目を引く商品を探すことではなく、
- 家計と生活防衛資金を整える
- 目的・期間・リスク許容度を言語化する
- 長期・分散・積立という基本方針を理解する
- レバレッジや過度な集中投資など、危険なスタートを避ける
- 自分に合った少額の積立から始め、経験を通じて学ぶ
という土台づくりです。この土台がしっかりしていれば、株式・投資信託・債券・その他の投資商品を選ぶ際にも、冷静に比較・判断しやすくなります。
今日できる一歩は、「自分の家計を数値で把握すること」と、「投資に回しても生活に影響が出ない金額はいくらか」を紙に書き出すことです。ここからスタートするだけでも、将来の資産形成の軌道は大きく変わっていきます。


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