分散投資は「良いこと」だが、やりすぎると別のリスクが増える
投資の世界で「分散」は定番の正解として語られます。確かに、1銘柄に集中していれば、その企業の不祥事や業績悪化で資産が大きく損なわれる可能性が高まります。複数の資産や地域に分けることで、特定の出来事に資産全体が引きずられにくくなるのは事実です。
しかし、分散は薬にも毒にもなります。分散しすぎると、あなたの投資は次のような「別のリスク」に晒されます。
(1)コストの積み上げ(信託報酬・売買コスト・スプレッド・為替コスト)/(2)管理負荷の増大(把握できない、ルールが守れない)/(3)リターンの希薄化(勝ち筋が薄まる)/(4)意図しない重複(似た資産を複数持っているだけ)/(5)リバランス不能(複雑で放置)
この記事では、「分散投資のやりすぎ問題」を、初心者でも実務的に判断できるように、定義→典型例→診断→最適化手順まで一気通貫で整理します。
まず定義:分散の目的は「当てること」ではなく「事故を避けること」
分散の本質は、予測精度を上げることではありません。「将来は分からない」という前提で、特定シナリオが外れた時に致命傷を避けるための保険です。ここを取り違えると、分散は無限に増えます。なぜなら、未来の可能性を全部カバーしようとしてしまうからです。
分散の目的は、次の2つに絞ると判断が楽になります。
目的A:単一要因ショックの回避(特定銘柄、特定国、特定通貨、特定セクター、特定金利局面への依存を下げる)
目的B:継続可能性の確保(暴落時にメンタルが壊れて撤退しないよう、値動きをマイルドにする)
この2つを満たす「必要十分な分散」を作ればよく、資産クラスや銘柄を無限に増やす必要はありません。
「過剰分散」が起きる典型パターン5つ
パターン1:インデックスを複数買っているのに、実態は米国大型株に偏っている
例として、S&P500、全世界株(オルカン)、先進国株、新興国株、NASDAQ100、米国高配当ETF、米国増配ETFを同時に持つケースです。一見すると分散しているように見えますが、構成上は米国大型株への重複が非常に大きくなりがちです。
結果として「銘柄数は増えたのに、真の分散(相関の低さ)は増えていない」状態になります。これは分散ではなく、同じリスクを違うラベルで重ね持ちしているだけです。
パターン2:テーマETFを集めすぎて、ポートフォリオが“ニュースの寄せ集め”になる
AI、半導体、クリーンエネルギー、防衛、宇宙、ロボティクス、サイバーセキュリティ…。テーマは魅力的ですが、テーマETFは値動きが荒く、しかも同じ大型ハイテク銘柄が重複して入っていることが多いです。
テーマETFを5本、10本と増やすと「分散している気分」だけが増え、実態はハイベータ銘柄の集合体になります。相場が良いときは気持ちよく伸びますが、環境が逆風に変わると同時に沈みやすい構造です。
パターン3:口座・商品が増えすぎて、リバランスが機能しない
新NISA(成長投資枠・つみたて投資枠)、特定口座、iDeCo、さらに国内投信と海外ETFを混在させる。制度としては悪くありませんが、「どこに何がどれだけ入っているか」を即答できない状態になると危険です。
リバランスは「意思決定の仕組み」です。把握できない資産は、暴落時に放置され、上昇時に追いかけ買いされる。つまり行動が逆になりやすい。過剰分散は、投資の最大の敵である“行動エラー”を増やします。
パターン4:手数料が見えない形で積み上がる
信託報酬が0.1%の投信でも、商品数が増えるほど「高コスト商品が紛れ込む確率」が上がります。加えて、海外ETFなら売買手数料・スプレッド・為替コスト、投信の乗り換えなら解約タイミングによる機会損失など、見えにくいコストが増えます。
過剰分散は「小さな漏れ」がたくさんあるバケツです。1つ1つは微小でも、長期では確実に効きます。
パターン5:情報摂取が増えすぎて、投資がノイズゲームになる
銘柄や商品が多いほど、確認すべきニュースも増えます。ニュースが増えるほど、売買したくなる。売買が増えるほど、成績は不安定になりやすい。過剰分散は「情報の洪水」を招き、長期運用を短期売買に変質させがちです。
過剰分散のデメリットを、数字で理解する
デメリット1:期待リターンは“平均化”され、超過リターンが出にくくなる
分散しすぎると、あなたのポートフォリオは「市場平均に収束」します。市場平均を狙うのが目的なら問題ありません。ですが、テーマ投資や個別株で「自分なりの優位性」を狙うなら、銘柄数が増えすぎると優位性が薄まります。
例:本当に確信がある銘柄が2つあるのに、20銘柄に薄く広げる。勝ち筋が当たっても、資金配分が小さくて成果が小さい。逆に、外れ銘柄も同じように抱えるので、総合では凡庸になります。
デメリット2:相関の勘違いで「分散したつもり」が起きる
多くの株式ETFは、暴落局面で相関が上がります。普段は違う動きをしていても、危機時に同方向に動くなら、リスク低減効果は限定的です。過剰分散で起きる典型は「同じ資産クラス内の細分化」であり、本当に効くのは資産クラスの分散(株式×債券×現金×金など)や通貨の分散です。
デメリット3:リバランスの不在は、最大の“隠れコスト”
リバランスは「安くなった資産を買い、上がった資産を売る」仕組みです。商品が多すぎると判断が面倒になり、結局やらなくなります。すると、上がった資産がポートフォリオを支配し、気づいた時にはリスクが膨張しています。
過剰分散の本質的な害は、銘柄数そのものではなく、「運用ルールの崩壊」です。
あなたの分散は“適正”か?セルフ診断チェック
次の質問に「YES」が多いほど、過剰分散の可能性が高いです。
- 保有商品(投信・ETF・個別株)の数が、10本を超えている
- それぞれの役割(守り/攻め/インフレ対策/現金代替など)を説明できない
- 同じ国(例:米国)に連動する商品を複数持っている
- 1本あたりの比率が3%未満のものが多い
- リバランスを半年以上していない、もしくはルールがない
- 「これ何のために持ってるんだっけ?」が定期的に起きる
- コスト(信託報酬、売買手数料、為替コスト)を合計で把握していない
重要なのは、商品数を減らすこと自体ではなく、役割が重複しているものを削ることです。
「必要十分な分散」を作る設計図:コア・サテライトの現実的な落としどころ
初心者が過剰分散を避けつつ、事故も避けるには、コア・サテライト設計が最も実装しやすいです。
コア(資産の土台):世界株 or 米国株 + 低コストで長期保有
コアは「市場平均」を取りに行く部分です。ここは商品を増やさず、1〜2本に絞るのが合理的です。例えば「全世界株(株式の広い分散)」または「米国株(成長性に賭ける)」のどちらかを主軸にする、といった設計です。
ポイントは、コアにテーマを入れないことです。コアは退場しないための基盤なので、説明可能で、長期で持ち続けられるものに限定します。
サテライト(上振れ狙い):最大でも全体の10〜30%程度に制限
テーマ、個別株、特定国、新興国、小型株、高配当などはサテライトに置きます。ここでやりたいことは「上振れ」です。ただし、サテライト比率を決めておかないと、相場が良いときに増え、悪いときに減らせず、ポートフォリオが崩れます。
サテライトの鉄則は2つです。(1)サテライト商品は3本まで、(2)それぞれに撤退条件(または上限比率)を設定です。
具体例:過剰分散からの“棚卸し”手順(初心者でも実行できる)
ステップ1:保有資産を「役割」で分類する(銘柄名は一旦捨てる)
まず、すべての保有商品を並べます。次に、商品名ではなく役割で分類します。
例:成長(株式)/守り(債券・現金)/インフレ対策(金・インフレ連動)/分配金目的(高配当)/テーマ(AIなど)
ここで「同じ役割が多すぎる」場合は、重複が疑われます。役割は多くても4〜5カテゴリで十分です。
ステップ2:重複を“中身”で確認する(上位構成銘柄・地域比率を見る)
ETFや投信の月次レポート、運用報告書を見て、上位銘柄と地域比率を確認します。上位が同じなら、それは分散ではなく重複です。
例:S&P500と米国大型成長ETFを両方持つ。上位が同じなら、片方で足ります。
ステップ3:「最低保有比率」を決め、下回るものは売却候補にする
1本あたりの比率が小さすぎると、リターンへの寄与も小さく、管理コストだけが残ります。実務上は、最低でも5%、厳しめにいくなら10%を下回る商品は「持つ意味が薄い」候補になります。
もちろん例外はあります。現金代替として短期債を少し持つ、など役割が明確なら残します。要は“説明できるか”です。
ステップ4:リバランスのルールを1つに固定する
おすすめは「年1回」か「±5%乖離で調整」のどちらかです。複数のルールを混在させると、結局やりません。
例:コア70%・サテライト30%を基本にし、年末に比率を戻す。これだけで十分に機能します。
“分散しすぎ”を避ける上での、重要な考え方3つ
考え方1:分散は「銘柄数」より「相関」で判断する
同じ方向に動く資産を10本持っても、分散効果は弱いです。逆に、株式と債券、株式と金、国内と外貨など、性質が違うものを少数持つ方が、暴落耐性は上がります。
考え方2:投資の敵は“複雑さ”であり、複雑さは行動エラーを誘発する
投資は、頭が良い人が勝つゲームではなく、ルールを守れる人が生き残るゲームです。複雑さは、ルールを破る最大の原因になります。商品数を絞ることは、精神論ではなく“仕組み化”です。
考え方3:「分散」と「分散した気分」を分ける
新しい商品を買うと、分散した気分になります。しかし、真の分散は「自分の弱点を補う配置」になっているかで決まります。例えば、株式中心なら暴落時に耐える仕組み(現金・短期債・生活防衛資金)を優先すべきで、テーマETFを増やすことが分散とは限りません。
よくある質問:どれくらいの数に絞ればいい?
万人に共通の正解はありませんが、初心者が長期運用で実装しやすい目安は次の通りです。
- コア:1〜2本(世界株 or 米国株を主軸)
- 守り:0〜2本(必要に応じて短期債・現金代替)
- サテライト:0〜3本(テーマや個別株など)
合計で3〜6本程度に収まると、把握・継続・改善がしやすいです。ここを超えるなら、「なぜ増やすのか」を文章で説明できるかを自問してください。説明できないなら、ほぼ重複です。
まとめ:分散の“目的”から逆算し、必要十分に絞るのが最強
分散投資は強力ですが、やりすぎると別の形で損をします。最大の問題は、コストや相関ではなく、複雑さが生む行動エラーです。
あなたが今日やるべきことは、「商品数を減らす」ではありません。役割が重複しているものを削り、ルールを1つに固定することです。これができれば、分散はあなたの味方になります。


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