- はじめに:コモディティETFは「株と別のゲーム」
- コモディティETFの仕組み:現物型と先物型の違いを最初に押さえる
- 逆張りローテーション戦略の核心:価格ではなく「歪み」を買う
- 銘柄の選び方:コモディティETFを「役割」で分類する
- 戦略の全体設計:月1回の「逆張り入れ替え」を基本にする
- 具体例:原油→農産物→金へ、逆張りで入れ替える流れ
- エントリーと利確・損切り:コモディティは「早めの撤退」が正義
- ロールコストとトラッキング:ETFを選ぶ際の“落とし穴”
- 売買コストと為替:リターンを削る要因を先に把握する
- ミニ検証:バックテストを「やりすぎない」やり方
- 運用ルールのテンプレ:迷わないためのチェックリスト
- リスク管理:コモディティは分散しても同時に崩れることがある
- 初心者がやりがちな失敗と改善策
- まとめ:コモディティETFは「ルール運用」で初めて武器になる
はじめに:コモディティETFは「株と別のゲーム」
コモディティ(商品)ETFは、株式や債券と値動きの性格が違います。企業の成長や金利といったストーリーよりも、「需給の偏り」「在庫」「天候」「地政学」「政策」「先物市場の構造」に強く引っ張られます。だからこそ、株の常識(上がり続ける銘柄を握る、長期で平均回帰を待つ等)をそのまま当てはめると、思わぬ損失になります。
本記事では、コモディティETFを“逆張り”でローテーション(入れ替え)する戦略を、初心者でも運用できる形に落とし込みます。ポイントは「どれを買うか」以上に、「いつ入れ替えるか」「ロールコストをどう避けるか」「損失を限定するか」です。
コモディティETFの仕組み:現物型と先物型の違いを最初に押さえる
コモディティETFには大きく2種類あります。現物を保有するタイプと、先物(先渡し契約)で価格連動を目指すタイプです。ここが理解できると、“なぜETFなのに現物価格とズレるのか”が腑に落ちます。
現物型:金(ゴールド)に多い
金ETFの多くは、現物の金地金を保管し、その価値に連動します。代表例としてGLDやIAUなどが知られます。現物型は「先物のロール(乗り換え)」が基本的に不要なので、先物構造によるブレが小さい一方、保管コストや信託報酬などが差し引かれます。
先物型:原油・天然ガス・農産物などに多い
原油ETF(例:USO)や天然ガスETF(例:UNG)、農産物ETFの多くは先物を使います。このとき最大のクセが「ロールコスト(ロール収益)」です。先物には期限があるため、ETFは期近(近い期限)の先物を保有し、期限が近づくと次の期限へ乗り換えます。この乗り換えで損益が出ます。
先物曲線が右肩上がり(期先の価格が高い)だと、安い期近を売って高い期先を買うため、乗り換えのたびに不利になります。これがコンタンゴです。逆に右肩下がり(期先が安い)だと、乗り換えで有利になりやすく、バックワーデーションと呼ばれます。
逆張りローテーション戦略の核心:価格ではなく「歪み」を買う
逆張りというと「下がったものを買う」になりがちですが、コモディティは下がり続ける局面も珍しくありません。そこで本戦略は、単なる値ごろ感ではなく、需給の歪みと過熱の反動を狙います。具体的には、次の3点を同時にチェックします。
①過熱の反動:短期の伸びすぎを測る
コモディティはトレンドが急で、ニュースで飛びつくと天井を掴みやすいです。そこで「過熱」を定量化します。初心者が扱いやすいのは、25日移動平均からの乖離率と、RSI(14)です。
例として、WTI原油連動ETFが1か月で急騰し、25日移動平均から+12%乖離、RSIが75を超えたとします。この状態は“買いが買いを呼ぶ”局面ですが、在庫統計やOPECの発言一つで急落しやすい。逆張りローテーションでは、こうした過熱銘柄を新規で追いかけず、候補から外します。
②需給の歪み:在庫と供給制約に注目する
逆張りで勝ちやすいのは、需給が行き過ぎて価格に織り込みすぎた局面です。代表的な観測点は在庫データです。原油なら米EIAの在庫、金属なら取引所在庫、農産物ならUSDAの需給見通しなど、定期更新される指標があります。
ここで大事なのは「在庫が増えた=売り」ではありません。市場は“予想”で動きます。予想より在庫が増えた(需給が緩んだ)なら短期の売りが出やすい一方、価格が既に大きく下げているなら、悪材料の出尽くしになりやすい。つまり、データそのものより「予想との差」と「価格の事前織り込み」を見ます。
③先物構造:コンタンゴの強烈さは避ける
先物型ETFでは、コンタンゴが強いほど“持っているだけで削られる”ことがあります。逆張りで入っても、反発が小さければロールコストで利益が消えます。したがって、本戦略の鉄則は、コンタンゴが強すぎる商品は短期でしか触らない、またはロール負担が軽い設計のETFを選ぶことです。
銘柄の選び方:コモディティETFを「役割」で分類する
コモディティETFは、商品別にバラバラに選ぶと管理が破綻します。そこで、まず役割で分類します。ここがローテーションの設計図です。
ディフェンシブ枠:金(ゴールド)
金は「危機」「実質金利」「通貨不安」などで買われやすく、株式が荒れる局面でクッションになりやすいです。逆張りローテーションでは、金を“常に少量を基礎ポジションとして持つ”か、“リスクオフ局面だけ増やす”のどちらかを決めます。迷うなら、基礎ポジションで小さく持ち、過熱したら減らす運用が扱いやすいです。
景気敏感枠:原油・工業金属(銅など)
原油や銅は景気と連動しやすく、リセッション懸念で大きく下がります。逆張りで狙うなら「景気悪化のニュースが最高潮」「先物曲線がバックワーデーションに戻り始めた」「在庫増加が鈍化」など、悪材料が出尽くし始めるサインを待ちます。
供給ショック枠:天然ガス・農産物
天候や設備トラブル、輸出規制で急騰・急落が起きやすい枠です。逆張りは“急騰後の反落”も“急落後の反発”も狙えますが、値動きが荒いのでポジションサイズを小さくし、ルールを機械的に守る必要があります。
分散枠:総合コモディティ指数ETF
個別が難しければ、総合指数(エネルギー・金属・農産物をまとめたもの)に連動するETFを使う方法もあります。単品よりクセは薄まりますが、エネルギー比率が高い指数も多いので、構成比は必ず確認します。
戦略の全体設計:月1回の「逆張り入れ替え」を基本にする
初心者が最も失敗しやすいのは、日々のニュースで売買回数が増え、ルールが崩れることです。コモディティは急変動がある一方、サイクルで動く側面も強い。そこで本記事では、月1回(または4週に1回)の点検を基本にします。これなら、兼業でも運用できます。
ステップ1:ユニバース(候補群)を固定する
まず、あなたが監視する商品を最大6つに絞ります。例えば、金、原油、銅(工業金属)、農産物、天然ガス、総合指数の6つです。これ以上増やすと、チェックが雑になり“雰囲気トレード”になります。
ステップ2:スコアで順位付けして「買う/持つ/売る」を決める
点検日に、各商品にスコアを付けます。難しい統計モデルは不要です。初心者でも再現性を出せるよう、次の3指標だけで十分です。
(A)価格の過熱度:25日乖離率、RSI。過熱しているほど減点。
(B)需給の歪み:在庫データの“予想差”や、ニュースの悪材料が出尽くした感。改善の兆しがあるほど加点。
(C)先物構造:コンタンゴが強いほど減点、バックワーデーション気味なら加点。
合計点が高い上位2つを「買う/増やす」、中位2つを「持つ」、下位2つを「減らす/売る」といった形でローテーションします。これにより、感情ではなく手順で入れ替えられます。
具体例:原油→農産物→金へ、逆張りで入れ替える流れ
ここでは架空の例で、月次ローテーションがどう動くかを示します。数字は理解のための例であり、将来の成果を示すものではありません。
1か月目:原油が急落、悪材料が出尽くし始める
原油関連ETFが2か月で-25%下落。ニュースは「景気減速」「需要減少」一色で、SNSでも悲観が目立ちます。一方で、EIA在庫は増加しているものの“予想ほど増えていない”週が続き、先物曲線のコンタンゴが弱まり始めました。
この場合、逆張りローテーションでは原油を上位候補に入れます。ただし、先物型でロール負担が大きいETFなら、短期の反発狙いにとどめ、ポジションを小さくします。買い方は一括ではなく、2回に分けると事故が減ります。例えば点検日で半分、次の週で残り半分といった具合です。
2か月目:原油が反発、今度は農産物が売り込まれる
原油は+12%反発し、RSIが70に近づきました。一方で、農産物ETFは豊作見通しで売られ、1か月で-15%。しかし、現地の天候リスク(乾燥)ニュースが出始め、需給見通しの下振れ余地が意識されます。
ローテーションでは、原油は過熱度で減点が増え、農産物は需給の歪み改善で加点が入ります。結果として、原油を一部利益確定して農産物へ資金を回します。ここで重要なのは、「当たったから全額移す」ではなく、比率を淡々と変えることです。勝ち方は派手でなくてよい。損を大きくしない設計が勝ち筋です。
3か月目:株が荒れて金が強いが、買い遅れは禁物
株式市場が不安定になり金が上昇します。ニュースは「安全資産の金へ」と煽り気味。金ETFのRSIが75、25日乖離が+10%など、過熱のサインが出ました。
この局面で“金を全力”は危険です。逆張りローテーションでは、金はディフェンシブ枠として基礎ポジションを維持しつつ、過熱時は新規で増やさない、または少し減らして現金比率を高めます。こうして、次のチャンス(別商品の急落)に備えます。
エントリーと利確・損切り:コモディティは「早めの撤退」が正義
コモディティは株より急変動が多く、思惑が外れたときの戻りも遅いことがあります。したがって、逆張りは損切りが生命線です。ただし、初心者がありがちな“値幅固定の損切り”は、商品ごとのボラティリティ差で不公平になります。
損切りは「最大許容損失(口座比率)」で決める
おすすめは、1商品あたりの最大損失を口座の0.5%〜1%に固定し、そこから逆算してポジション量を決める方法です。例えば、口座が200万円で最大損失を1%(2万円)に設定し、損切り幅を10%に置くなら、1商品あたりの投下額は20万円が上限になります。
こうすれば、天然ガスのような荒い商品も、金のような比較的穏やかな商品も、同じ“痛み”で管理できます。
利確は「過熱サインで段階的」に行う
逆張りは、反発局面で欲が出ると、せっかくの利益を吐き出します。利確は段階的が扱いやすいです。例えば、25日乖離が+8%を超えたら半分利確、+12%を超えたらさらに一部利確、RSIが75を超えたら残りも縮小、というように決めておくと迷いません。
ロールコストとトラッキング:ETFを選ぶ際の“落とし穴”
コモディティETFで初心者が最初に引っかかるのが「現物価格は戻ったのに、ETFは戻っていない」という現象です。原因の多くは、先物のロールコストと、ETFの運用設計です。
なぜズレるのか:先物の期限と乗り換え損益
先物型ETFは、現物のスポット価格ではなく、期近先物を中心に保有します。スポットが回復しても、先物曲線がコンタンゴのままだと、乗り換えで削られ続けます。つまり「現物が戻る=ETFが同じだけ戻る」ではありません。
対策:短期勝負と、設計がマシなETFを使い分ける
強いコンタンゴが続く商品(とくに天然ガスなど)は、長期保有に不向きです。逆張りローテーションでは、そうした商品は“短期の反発狙い”に限定し、スコアが悪化したらすぐ外します。一方で、金のように現物型がある商品は、中期で持ちやすい。商品ごとに“得意な保有期間”が違う点を前提にしてください。
売買コストと為替:リターンを削る要因を先に把握する
ETFは「買って持つだけ」と思われがちですが、ローテーションは売買回数が増えるため、コスト管理が重要です。ここを雑にすると、戦略の優位性が消えます。
信託報酬とスプレッド
信託報酬(経費率)は長期ほど効きます。ローテーションは中期運用でも、年率で0.1%違えば積み上がります。さらに、商品ETFはスプレッド(買値と売値の差)が広いことがあり、約定のたびに不利になります。対策はシンプルで、流動性が高い時間帯に成行を避け、指値で入ることです。特に米国ETFなら米国市場の取引時間に寄せるだけで、体感的に滑りが減ります。
為替リスクをどう扱うか
米国ETFを円資産で買う場合、為替が損益に影響します。コモディティ自体がドル建てで動くため、ドル円の変動が上乗せされます。為替を“別のリスク源泉”として受け入れるのか、円高局面で買い付け比率を落とすのか、方針を決めてください。初心者は、為替の当て物をしない方が長期的に安定します。具体的には、コモディティ枠の上限比率を低めにし、為替のブレを許容範囲に収める方法が現実的です。
ミニ検証:バックテストを「やりすぎない」やり方
本格的なバックテストはデータ取得が大変で、先物型ETFの構造を正しく再現するには工夫が必要です。初心者が最初にやるべきは、精密な最適化ではなく、戦略の感触を掴むミニ検証です。
検証の目的は3つだけ
(1)最大ドローダウンが自分の許容範囲か。
(2)損切りルールが機能しているか(大事故を防げるか)。
(3)ローテーション頻度(月次)が忙しさに合うか。
過去の価格チャートを見て、月末だけ印を付け、スコア(過熱・需給・先物構造の代理指標)で「買う/持つ/売る」を手で入れ替えてみるだけでも、十分に学びがあります。重要なのは、完璧な数字より“破綻しない運用”の確認です。
運用ルールのテンプレ:迷わないためのチェックリスト
ここからは、実際に回すためのテンプレートを提示します。毎月同じ手順で回すことで、再現性が上がります。
月次点検日の作業
1)候補6商品のチャートを並べ、25日乖離率とRSI(14)を確認します。
2)直近1か月の主要ニュースを見て、悪材料が出尽くしているか、改善の兆しがあるかを言語化します(1〜2行で十分)。
3)先物構造の傾向(コンタンゴがきつい/緩い、バックワーデーション気味)を把握します。難しければ、ETFの運用レポートや市場解説の要点だけ拾います。
4)スコアを付け、上位2つを“買う/増やす”に指定します。
5)既存ポジションは、損切りラインと利確ラインに従って機械的に調整します。
週次の軽い確認(5分)
週に1回だけ、急変動がないか確認します。ここでの目的は“売買すること”ではなく、想定外のイベントで損切りラインに到達していないかを確かめることです。超短期で張り付く必要はありません。
リスク管理:コモディティは分散しても同時に崩れることがある
コモディティは分散が効きやすい面もありますが、ドル高や世界的なリスクオフが起きると、同時に下げる局面もあります。特に、レバレッジをかけたり、信用で過大なポジションを持ったりすると、短期間で立て直し不能になります。
最大保有比率の上限を決める
コモディティ全体の投下比率に上限を作ると事故が減ります。例えば、総資産の10%〜20%を上限にし、残りは株式指数や債券など他資産に置く。攻めたい人でも、最初は上限を小さくして、ルール運用に慣れてから広げる方が長続きします。
「一発逆転」を狙わない
逆張りは当たると気持ちがよく、ロットを上げたくなります。しかしコモディティのサイクルは、あなたの想定より長く続きます。勝ちパターンは、当てることではなく、小さく負けて、平均回帰の波で小さく勝ち続けることです。
初心者がやりがちな失敗と改善策
最後に、典型的な失敗を先に潰します。ここを理解すると、同じミスを繰り返さなくて済みます。
失敗1:ニュースで飛びついて天井掴み
改善策は、過熱フィルター(乖離率・RSI)で“追いかけ禁止”にすることです。上がった理由を理解しても、上がった後に買うと期待値が下がります。
失敗2:先物型ETFを長期で放置して削られる
改善策は、商品ごとに保有期間の得意不得意を決めることです。天然ガスや原油の一部ETFは、放置するとロールで削られやすい。短期に限定し、月次点検で必ずスコア評価します。
失敗3:損切りができず、塩漬けになる
改善策は、値幅ではなく口座比率で損失上限を決め、ポジション量を最初から小さくすることです。損切りは気合ではなく設計です。
まとめ:コモディティETFは「ルール運用」で初めて武器になる
コモディティETFの逆張りローテーションは、派手な当て物ではありません。需給の歪み、過熱の反動、先物構造という“クセ”を理解し、月次点検で淡々と入れ替えることで、株や債券と違うリターン源泉を取りにいく戦略です。
最初は、候補を6つに絞り、月1回の点検と、口座比率での損失管理を徹底してください。うまくいけば、相場環境が変わっても「次に何をするか」が明確になり、迷いが減ります。迷いが減ること自体が、投資の大きな優位性です。


コメント