コモディティ(商品)ETFは、株式や債券とは異なるロジックで動きます。原油・金属・農産物などは、需要と供給、在庫、天候、地政学、為替(特に米ドル)、金利、そして「先物の構造」によって価格が大きく変わります。
この“値動きの源泉が違う”という点は、ポートフォリオの分散に効きます。一方で、コモディティETFは仕組みを理解せずに買うと、現物価格が横ばいでもETFの成績が振るわないことがあります。最大の落とし穴は、先物ロール(乗り換え)によるコストです。
この記事では、コモディティETFを「逆張り」で仕込むための現実的な運用ルールを、ローテーション(複数商品を切り替える)として設計します。狙いは単発の当て物ではなく、①大きく下がったところで買い、②反発局面で淡々と利確し、③次の“沈んでいる商品”へ資金を回すことです。
投資判断はご自身の責任で行ってください。ここでは特定商品の推奨ではなく、再現性を高めるための「考え方」と「手順」を示します。
コモディティETFはなぜ「逆張り向き」なのか
コモディティは、株式のように長期で右肩上がりになりやすい資産ではありません。むしろ「サイクル(循環)」が強いのが特徴です。供給能力はすぐ増やせず、需要は景気で変動し、在庫が溜まると価格が崩れ、価格が下がりすぎると生産が止まり、次の供給不足で上がる——この往復運動が起きやすい。だからこそ、トレンドの終盤で高値を追いかけるより、悲観で投げ売りされた局面を拾うほうが合理的になりやすいです。
もう一つの理由は、コモディティが「ニュースで過熱しやすい」ことです。原油は戦争やOPEC、農産物は天候、金属は中国需要……材料が分かりやすいので、相場が極端に振れやすい。極端に振れる市場は、平均回帰(行き過ぎの反動)を狙う余地が生まれます。
逆張りが効きやすい場面・効きにくい場面
逆張りが効きやすいのは、需給が“短期に”悪化してパニック売りが出たが、中長期の供給制約が残っているケースです。逆に効きにくいのは、構造的に需要が崩れた(景気後退が深い)、あるいは供給が恒常的に増えた(技術革新・新鉱山開発・規制緩和)など、ファンダメンタルが変わった局面です。
- 効きやすい例:在庫積み上がり→急落→生産調整が始まり供給が絞られる見込み
- 効きにくい例:需要減が長期化し、在庫が高止まりして回復の見通しが立たない
- 要注意:レバレッジ型・短期先物連動のETFは日々の価格追従が歪みやすい
まず押さえるべき仕組み:現物と先物、そしてロールコスト
コモディティETFには大きく3タイプあります。①現物を保有するタイプ(例:金の現物保管に近い設計)、②先物で連動するタイプ(多くの原油・農産物・総合商品がこれ)、③株式(生産者・関連企業)で代替するタイプ(資源株ETFなど)です。
特に②の先物連動型は、現物価格と完全一致しません。先物には満期があり、ETFは期限が近い先物から次の先物へ乗り換え(ロール)します。このとき先物の価格構造が重要です。
コンタンゴとバックワーデーション
先物カーブが「先の限月ほど高い」状態がコンタンゴです。この場合、安い近月を売って高い遠月を買うことになり、ロールのたびに不利(ロールコスト)になります。逆に「先の限月ほど安い」状態がバックワーデーションで、ロールが有利(ロール益)になりやすい。
初心者がコモディティETFでつまずく典型がこれです。『現物は戻ったのにETFが戻り切らない』は、コンタンゴ局面でロールコストが積み上がった可能性が高い。逆張り戦略では、このロール構造をフィルターとして使うと精度が上がります。
チェック方法(難しそうに見えて、やることは単純)
やることは、対象商品の先物曲線(近月と数か月先の価格差)を確認するだけです。情報は各取引所や金融情報サイトにあります。判断は厳密でなくてよく、次のような“ざっくり判定”で十分です。
- 近月より遠月が明確に高い(コンタンゴが強い)→長期保有に不利。短期反発狙いに徹するか、見送る。
- 近月と遠月がほぼ同じ(フラット)→許容。逆張り候補に入れる。
- 近月が遠月より高い(バックワーデーション)→保有に追い風。逆張りで拾えれば理想。
逆張りローテーションの全体像:『沈んでいる商品』にだけ賭ける
コモディティの逆張りローテーションは、商品を一つに絞りません。原油が高すぎるとき、金属が沈んでいるかもしれない。農産物が天候で急騰した後、エネルギーが暴落しているかもしれない。つまり「相対的に割安なもの」を探し、資金を回します。
ローテーションにすると、当たり外れの分散が効きます。さらに、逆張りの最大の敵である“落ちるナイフを掴む”リスクを、ルールで抑えやすくなります。
対象ユニバース(初心者向けの現実的な絞り方)
ユニバースは広げすぎると管理できません。最初は6〜10本程度に絞るのが現実的です。例えば次のように、セクターごとに代表を置くイメージです。
- 貴金属:金(現物型が多い)、銀
- エネルギー:原油、ガソリン/暖房油など(上級者向け)
- 産業金属:銅など
- 農産物:トウモロコシ、大豆、小麦、あるいは農産物バスケット
- 総合商品:複数コモディティのバスケット(指数連動)
日本で買える銘柄は証券会社や上場商品のラインナップで異なります。商品名・ティッカーの暗記より、『どのセクターを何本持つか』を先に決める方が再現性が高いです。
コアとなる判断指標:3つの“安さ”を同時に見る
逆張りの“安い”には種類があります。コモディティETFでは、次の3つを同時に満たすほど優先度が上がります。
①価格が安い:下落率・乖離で見る
一番単純で強いのが、過去の高値からの下落率(ドローダウン)です。例えば『過去52週高値から-25%以下』のように条件を置く。あるいは移動平均(例:200日線)からの乖離率を見る方法もあります。
ポイントは“絶対値”より“比較”です。ユニバース内で一番沈んでいる上位2本だけを候補にする、と決めると迷いが減ります。
②需給が安い:在庫・先物カーブ・季節性
コモディティは需給です。とはいえ初心者が全てを追うのは無理なので、代理指標に落とします。
- 在庫:原油なら週間在庫、農産物なら作柄/在庫率など(“増えすぎ”は下落圧力)
- 先物カーブ:コンタンゴが強すぎると長期保有で不利(前章)
- 季節性:農産物は収穫期、エネルギーは需要期がある(季節性は“補助輪”として使う)
③ポジションが安い:投機筋の偏り(COT)で過熱を測る
先物市場では投機ポジションの偏りが可視化されることがあります。投機が極端に買い越している局面は、上昇の“燃料”が出尽くしている可能性があり、逆に極端に売り越しなら反発余地が出やすい。これも一つのフィルターです。
ただしCOTは万能ではなく、タイミングをピタリと当てる道具ではありません。『価格が大きく下がった』+『ポジションが投げ方向に偏った』が同時に起きているときに、逆張りの自信度が上がる、という使い方が現実的です。
実装ルール:初心者でも回る『4ステップ』
ここからが本題です。逆張りローテーションは、ルールが命です。相場が荒いので、感情でやると負けます。以下は、手作業でも回せる最小構成です。
ステップ1:月1回(または隔週)だけ、候補をスクリーニングする
頻繁に見ないほうがいいです。月1回、決まった日に点検して入れ替えます。日々のノイズに反応すると、逆張りが“ただの行き当たりばったり”になります。
スクリーニング例:
- ユニバースの各ETFについて『52週高値からの下落率』を計算する
- 下落率の大きい順に並べ、上位2本を候補にする
- 候補2本のうち、コンタンゴが極端に強い方は除外(あるいは小さく買う)
- 残った1〜2本を“今月の買い候補”とする
ステップ2:買い方は分割、買う回数もルール化する
逆張りは底で買えません。だから分割です。例えば『候補を見つけたら、資金の1/2を買い、さらに-5%下がったら残り1/2を買う』のように決めます。
分割の狙いは、平均取得単価の調整ではなく、メンタルの事故防止です。最初の一撃を小さくするだけで、下がっても冷静にルールを実行できます。
ステップ3:利確は“反発の途中”で切る。目標を先に決める
コモディティは戻りも速い一方、再び崩れるのも速いです。『戻ったら長期保有』は、コンタンゴの罠やサイクル反転で崩れやすい。逆張りローテーションでは、利確を先に決めます。
例:
- エントリー価格から+10%で半分利確、+20%で残り利確
- または、価格が200日移動平均に戻ったら利確
- または、直近高値更新に失敗したら(ダブルトップ気味)利確
ステップ4:損切りは“時間”で行う。価格だけで切らない
逆張りで一番つらいのは、ズルズル下がり続ける局面です。ここで価格だけで損切りすると、底で投げることが多い。そこで有効なのが「時間損切り」です。
例えば『買ってから8週間(約2か月)で反発が弱い・横ばいなら撤退』のように決めます。価格は耐えても、時間は有限です。資金を“次の沈んでいる商品”へ回すために、時間で見切ります。
具体例:原油・金・農産物でローテーションを回すイメージ
ここでは、架空のケースで“頭の中の手順”を作ります。数字は説明用です。実際はご自身でデータを確認してください。
ケースA:原油が急落して、他は横ばい
原油関連ETFが52週高値から-30%、銅が-10%、金が-5%、農産物バスケットが-8%だとします。この時点で候補は原油です。
次に先物カーブを確認し、コンタンゴが極端に強いなら『反発狙いの短期』に限定します。買いは半分、さらに下げたら追加。反発で+10%達成なら半分利確、+20%で全撤退。
反発が弱く、2か月経っても戻らないなら時間損切り。『原油は握る』ではなく『原油は回す』がポイントです。
ケースB:金が調整、ドル高で売られている
金は現物型が多く、先物ロールの影響が比較的小さいことがあります(商品設計は銘柄で異なります)。ドル高や実質金利上昇で金が下げ、52週高値から-18%の調整が入っている。
このとき逆張りの根拠は『金は金融ストレスやインフレで見直されやすい』という性質です。ただし“必ず上がる”ではありません。だからルールで扱います。
エントリー後、ドル高が一服し、金が200日線に戻ったら利確、戻りが鈍ければ時間で撤退。金を“長期の信仰”にしないのが運用上のコツです。
ケースC:農産物が豊作見通しで売られ、季節性が底打ちを示唆
農産物は天候要因で急落急騰しやすく、季節性が出やすい分野です。豊作見通しで価格が崩れたが、需給は一巡しやすい、という局面があり得ます。
この場合も『下落率が大きい』+『投機ポジションが投げ方向』+『季節性が反転しやすい時期』が揃えば候補になります。
ただし農産物は急変します。分割と時間損切りを強めにし、利確は浅めに(+8%/+15%など)にしてもよいでしょう。
ローテーションの“採点表”:迷いを消すスコアリング
裁量を減らすために、候補を点数化します。Excelでも手帳でも良い。例として、各商品に0〜2点で採点し、合計点が高い上位から買います。
採点例(合計10点満点):
- 52週高値からの下落率:-25%以上=2点、-15〜-25%=1点、-15%未満=0点
- 200日線乖離:-10%以上=2点、-5〜-10%=1点、-5%未満=0点
- 先物カーブ:バックワーデーション=2点、フラット=1点、強いコンタンゴ=0点
- 投機ポジション:極端な売り越し=2点、やや売り越し=1点、中立/買い越し=0点
- イベント要因:一過性の悪材料が主=2点、混在=1点、構造悪化の疑い=0点
このスコアは“当てる”ためではなく、“同じ判断を繰り返す”ために使います。勝ち負けのブレより、運用の一貫性が重要です。
リスク管理:コモディティは『サイズ』で勝負が決まる
コモディティはボラティリティが高いので、銘柄選びよりもポジションサイズが成績に直結します。初心者が破綻しやすいのは、①急騰を見て大きく突っ込み、②急落で耐えられず投げる、というパターンです。
推奨のサイズ設計(目安)
コモディティ枠をポートフォリオの一部に限定します。例えば全資産の10〜20%以内。さらに1商品あたりはその半分以下(例:コモディティ枠15%なら、1本あたり最大5%程度)に抑えると、メンタルが壊れにくいです。
分割買いを前提にすると、初回エントリーはさらに小さくできます。『初回2.5%→追加2.5%』など。これだけで“落ちるナイフ”を掴んでも致命傷になりにくい。
損切りの考え方:価格損切り+時間損切りの二段構え
時間損切りを基本にしつつ、価格損切りも“保険”として置きます。例えば『分割完了後に-15%で撤退』のように上限を決めます。大事なのは、撤退した後に“取り返しトレード”をしないことです。ルール通り撤退できれば勝ちです。
コモディティETF運用でよくある失敗と、その回避策
失敗1:レバレッジ型に手を出し、長期で持って削られる
レバレッジ型は日々の変動を増幅する設計が多く、レンジ相場で価値が目減りしやすいことがあります。逆張りローテーションは“戻りを取りに行く”戦略なので、レバレッジ型の長期保有は相性が悪い。短期で扱うなら、利確・撤退をより厳格にします。
失敗2:原油ETFでコンタンゴにやられる
原油は特にコンタンゴが強くなりやすい時期があります。現物が戻ってもETFが伸びない、あるいは時間が経つほどジリ貧になることがある。回避策は『先物カーブをフィルターに入れる』『保有期間を短くする』『反発を取り切ったら撤退する』です。
失敗3:ニュースに反応して、サイクルの天井で買う
『供給不足!』『歴史的高値!』のようなニュースは、往々にしてサイクル終盤です。逆張りローテーションは“注目されていない安値”を拾う戦略。ニュースが熱いほど、エントリーの優先度を下げるのが合理的です。
失敗4:インフレヘッジのつもりが、ドル高で負け続ける
多くのコモディティは米ドル建てです。ドル高局面では商品価格が抑えられやすい。『インフレだからコモディティ』と単純化すると、ドル高の長期化で苦しくなることがあります。回避策は、①サイズを抑える、②ドルのトレンドが強いときは点数を減らす、③分散(複数商品)を徹底する、です。
運用手順のテンプレ:今日から回せるチェックリスト
最後に、手順をテンプレ化しておきます。毎回この順番でやれば、判断がブレません。
- 月1回の点検日を決める(例:毎月第1営業日)
- ユニバース(6〜10本)を固定する
- 各ETFの52週高値からの下落率を出し、下落上位2本を候補にする
- 候補の先物カーブを確認し、強いコンタンゴなら点数を下げる(または保有期間短縮)
- スコアリングで上位1〜2本に絞る
- 初回は予定資金の1/2だけ買う(残りは追加枠)
- 利確条件(+10%で半分、+20%で全撤退等)を注文前に決める
- 時間損切り(例:8週間)をカレンダーに書く
- 撤退後は“次に沈んでいる商品”へ資金を回す
まとめ:コモディティは『当てに行く』より『回す』
コモディティETFの逆張りローテーションは、派手な予想力よりも、ルール設計と資金管理が成果を左右します。
ポイントは3つです。①サイクル資産なので高値追いを避け、沈んでいる商品だけを見る。②先物ロール(コンタンゴ/バックワーデーション)をフィルターに入れて、構造的な不利を避ける。③利確と時間損切りを先に決め、感情を排除して“回す”。
この型を作ると、インフレや供給制約など、株式とは違うドライバーの相場でチャンスを拾いやすくなります。まずは小さく、月1回の点検から始めて、運用の再現性を高めてください。


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