コモディティETFの逆張りローテーション:エネルギー・金属・農産物で「行き過ぎ」を拾う実践設計

投資戦略

コモディティETFは「株と違う値動き」を持ちやすく、インフレや地政学、供給制約、天候などで相場が急変します。その急変は、短期的には行き過ぎになりやすい。ここを“逆張り”で拾い、同時に「どのコモディティが優位か」を“ローテーション”で乗り換えるのが本記事の核です。

ここで扱うのは、先物連動型のETF/ETNを中心にした実践設計です。先物連動は現物と違い、ロールコスト(コンタンゴ/バックワーデーション)がリターンに影響します。逆張りは当たれば大きい一方、間違えると傷も深い。だから「当てに行く」のではなく、ルールで負けを小さくして、確率と期待値で取りに行きます。

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【DMM FX】入金
  1. この戦略が狙う“儲けの源泉”
  2. まず押さえる:コモディティETFの仕組みと落とし穴
    1. 現物型と先物型の違い
    2. コンタンゴとバックワーデーション
    3. ETF/ETNの差と“商品特有のリスク”
  3. 戦略の全体像:3層構造で設計する
  4. 対象ユニバース:何を回すか(具体例)
    1. バケットA:インフレ・ショック耐性(守り)
    2. バケットB:景気循環(攻め)
    3. バケットC:供給・天候(独立ドライバー)
  5. 肝は“行き過ぎの定量化”:逆張り条件を数値で決める
    1. 指標1:移動平均からの乖離(過熱/投げ売り)
    2. 指標2:RSI(14)で過熱を測る
    3. 指標3:ATRで“その商品らしい値動き”に正規化
  6. エントリー設計:一括ではなく“3分割”が基本
    1. 分割例(投げ売りを拾う)
  7. 出口設計:利確と撤退を別物として考える
    1. 利確(反発を取りに行く出口)
    2. 撤退(シナリオ否定の出口)
  8. ローテーションのルール:どれに乗り換えるか
    1. ルール案:相対強弱×逆張りのハイブリッド
  9. 具体例1:原油が急落したときの逆張り(ケーススタディ)
  10. 具体例2:金(ゴールド)の“逆張りローテーション”は別物
  11. ポートフォリオ実装:株・債券とどう組み合わせるか
  12. リスク管理:この戦略が失敗する典型パターン
    1. パターン1:底当てに固執してナンピン地獄
    2. パターン2:イベント前提で賭ける
    3. パターン3:長期保有でロールコストに負ける
  13. 運用手順(チェックリスト):毎週やること・毎月やること
    1. 毎週(10分〜)
    2. 毎月(30分〜)
  14. 初心者が最初に作るべき“最小セット”
  15. 最後に:この戦略の“勝ち筋”は、当てることではない

この戦略が狙う“儲けの源泉”

コモディティ市場には、株式よりも短期の需給ショックが多く、ニュースのインパクトで過剰反応が出ます。逆張りローテーションは、その過剰反応(オーバーシュート)を収益機会に変えます。収益源泉は大きく3つです。

第一に「投げ売りの反動」です。エネルギーや産業金属は、景気懸念が強まると短期で叩き売られ、需給がタイトでも価格が先に崩れます。第二に「過熱の反落」です。供給懸念やイベントで急騰した後、材料出尽くしで反落しやすい。第三に「相関の歪み」です。コモディティ同士でも、エネルギー・金属・農産物はドライバーが違い、同時に同方向へ行き続けるとは限りません。この違いがローテーションの余地になります。

まず押さえる:コモディティETFの仕組みと落とし穴

現物型と先物型の違い

金(ゴールド)など一部のETFは現物(保管)に近い形で設計されているものがあります。一方、多くのコモディティETFは先物連動です。先物連動では、期限が来る前に次の限月へ乗り換える(ロール)ため、そのときの期近と期先の価格差がリターンに乗ります。

コンタンゴとバックワーデーション

期先が期近より高い状態がコンタンゴです。このときロールすると、安い期近を売って高い期先を買う形になり、ロールコストが発生します。逆に期先が安いバックワーデーションでは、ロールが追い風になります。エネルギーや天然ガスはコンタンゴになりやすい局面があり、長期保有の期待値が下がることがあります。

ETF/ETNの差と“商品特有のリスク”

ETFはファンド形態、ETNは発行体の信用に依存するノート形態です。初心者はまずETFを基本に考え、ETNを使うなら発行体リスクまで含めて理解してください。さらにコモディティは、原油ならOPEC+、在庫統計、輸送、精製マージン、金属なら中国需要、農産物なら天候や作付けなど、株の決算と違う要因で急変します。これを「予測」するより、急変後の行き過ぎを“測って”入るのが逆張りの合理性です。

戦略の全体像:3層構造で設計する

逆張りローテーションは、次の3層で設計すると破綻しにくいです。

①コア(保険枠):インフレ耐性や分散目的で、コモディティを小さく常時保有する枠。
②タクティカル(逆張り枠):行き過ぎ局面だけ仕掛ける枠。分割で入って分割で出る。
③スイッチ(ローテーション):同じ逆張りでも、より期待値が高いセクターへ資金を乗り換えるルール。

初心者がいきなり②③だけを大きくやると、ボラティリティに耐えられず撤退しがちです。まず①を小さく持って「値動きの癖」を体感し、②③はサイズを抑えて運用するのが現実的です。

対象ユニバース:何を回すか(具体例)

ローテーションの対象は、目的別に3つのバケットに分けると管理しやすいです。

バケットA:インフレ・ショック耐性(守り)

代表例は金。景気後退局面でも“信用不安”や実質金利低下で買われることがあります。ただし金は常に上がるわけではありません。ドル高局面では逆風もあります。

バケットB:景気循環(攻め)

原油・エネルギー、産業金属(銅など)は景気に連動しやすい。好景気の入り口では強いが、景気後退懸念で急落もしやすい。逆張りの素材になりやすいのはここです。

バケットC:供給・天候(独立ドライバー)

農産物は天候、作付け、輸出規制などで独立に動きます。株が弱いときでも急騰することがあり、分散効果を作りやすい。ただしイベントが外れると急落もあります。

肝は“行き過ぎの定量化”:逆張り条件を数値で決める

逆張りは感情でやると負けます。必ず「入る条件」を数値で固定します。ここでは、初心者でも再現できる3つの指標を組み合わせます。

指標1:移動平均からの乖離(過熱/投げ売り)

例として、終値が200日移動平均(200DMA)からどれだけ離れたかを見ます。
投げ売り候補:価格が200DMAを下回り、乖離率が-12%以下(例)
過熱候補:価格が200DMAを上回り、乖離率が+12%以上(例)

乖離率の閾値は商品で違います。ボラが高い天然ガスと、相対的に低い金を同じ数字で扱うと破綻します。最初は「自分が回す対象の過去2〜3年」を見て、乖離がどこまで広がったときに反発/反落が起きたかを確認し、商品別に閾値を置きます。

指標2:RSI(14)で過熱を測る

RSIは短期の勢いを測る指標で、70以上で過熱、30以下で売られ過ぎといった目安があります。ただしコモディティはトレンドが強いと70超えが続きます。そこで「RSIだけ」ではなく、乖離率と同時に満たしたときだけ使います。例えば、投げ売り候補は「乖離率-12%以下かつRSI<=28」、過熱候補は「乖離率+12%以上かつRSI>=72」などです。

指標3:ATRで“その商品らしい値動き”に正規化

同じ-3%でも、普段-1%しか動かない商品なら大事件です。ATR(平均真の値幅)で正規化すると、相場の異常度が見えます。初心者はまず「直近20日のATR」を使い、当日の下落がATRの2倍を超えるかなどを目安にできます。これで“ニュースによる一撃”を行き過ぎとして拾いやすくなります。

エントリー設計:一括ではなく“3分割”が基本

逆張りで一番やりがちな失敗は「底だと思って一括で入る」ことです。実際には底の手前で入ってしまい、含み損に耐えられず投げる。これを避けるために、エントリーは3分割を原則にします。

分割例(投げ売りを拾う)

例:産業金属ETFが急落し、乖離率とRSIが投げ売り水準に到達したとします。

第1段:条件到達の翌営業日の寄り付き〜引けにかけて、予定数量の33%を入れる。
第2段:さらに下落し、終値が直近安値を更新したら追加で33%。
第3段:下落が止まり、5日移動平均を終値が上抜けたら残り34%。

この設計は「落ちているナイフを少しずつ拾い、反転のサインが出たら厚くする」考え方です。第1段は“仮説の仕込み”、第2段は“より有利な平均単価の確保”、第3段は“反転確認後の追随”です。

出口設計:利確と撤退を別物として考える

逆張りは「勝てるときは速い」「負けるときは粘るほど傷が広がる」という性格があります。だから出口は2種類に分けます。

利確(反発を取りに行く出口)

利確は、反発の“十分条件”を決めておきます。例えば次のような段階利確が現実的です。

利確1:終値が50日移動平均にタッチしたら、保有の50%を利確。
利確2:乖離率が-3%まで戻ったら、残りの30%を利確。
利確3:トレンド転換が明確(200DMA回復など)なら、残り20%はトレーリングストップで伸ばす。

撤退(シナリオ否定の出口)

撤退は「反発が来ない」だけでなく、「市場構造が変わった」可能性に備えるものです。例として、先物曲線が強いコンタンゴに変化し、長期保有の期待値が落ちた、供給増で需給が緩んだ、などです。初心者向けの実装としてはシンプルに、購入平均から-8%〜-12%(商品別に調整)で強制撤退し、再評価します。大事なのは、撤退した後に“再エントリー条件”を決めておくことです。撤退は負けではなく、期待値が下がった局面で資本を守る行為です。

ローテーションのルール:どれに乗り換えるか

逆張りで反発を取った後、その資金をどこへ移すかがローテーションです。ここでは「同時に複数を握らない」ルールにします。初心者が同時に複数のコモディティを握ると、相関が上がった局面でまとめてやられます。

ルール案:相対強弱×逆張りのハイブリッド

月1回(または2週に1回)、次のスコアで順位付けします。

  • 過去13週リターン(中期の強さ)
  • 200DMA乖離(行き過ぎ度)
  • 先物曲線(可能なら:バックワーデーション優先)

そして「中期は強いが短期は投げられている」ものを優先します。これは“強いものを安く拾う”考え方です。逆に「中期も弱く短期も弱い」ものは、ナンピンしたくなる典型ですが、構造悪化の可能性が高いので避けます。

具体例1:原油が急落したときの逆張り(ケーススタディ)

仮に、原油連動ETFが在庫増や需要懸念で短期急落したケースを考えます。ニュースの真偽や今後の需給を当てに行くのではなく、価格の行き過ぎを測って機械的に入ります。

手順はこうです。まず日足で200DMA乖離が-12%以下、RSIが28以下、当日下落が20日ATRの2倍以上を満たしたら“候補”です。次に、翌営業日に第1段(33%)を入れ、さらに安値更新で第2段を入れます。ここで重要なのは「いつまでも下がるなら撤退する」こと。購入平均から-10%で撤退し、相場の前提が崩れたと判断します。

反発が来たら、50DMAタッチで半分利確。残りは、反発が鈍れば乖離が-3%まで戻った段階で利確し、欲張らない。原油はボラが高く、反発は速いが反落も速いので、長く抱えない方が成功率が上がりやすいです。

具体例2:金(ゴールド)の“逆張りローテーション”は別物

金は原油ほど乱高下しないことが多い一方、ドルと実質金利の影響を受けます。金の逆張りは、短期の投げ売りを拾うよりも、上昇トレンド中の押し目を拾う方が設計しやすいです。

例えば、金が200DMAの上にあり中期は強いが、短期的に-6%程度押してRSIが35〜40に落ちたら押し目候補。第1段を入れ、直近安値更新で第2段、5日線回復で第3段。利確は高値更新で一部利確、残りはトレーリングストップで伸ばす。金は“保険”としても使うので、タクティカル枠で取った利益の一部をコア枠へ移す(保有量を増やす)運用も可能です。

ポートフォリオ実装:株・債券とどう組み合わせるか

コモディティは単体で完結させるより、株・債券・現金と組み合わせたときに価値が出ます。典型的には、株が下がり債券も弱い(インフレ再燃)局面で、コモディティが相対的に耐えることがあります。ただし万能ではないので、比率は小さく始めます。

初心者向けの目安として、コモディティ枠はポートフォリオの5%〜15%程度から検討します(リスク許容度次第)。その内訳を「コア7:タクティカル3(合計10)」のように分けると、過度な売買で疲弊しにくいです。

リスク管理:この戦略が失敗する典型パターン

失敗にはパターンがあります。先に把握しておけば避けられます。

パターン1:底当てに固執してナンピン地獄

逆張りはナンピンと相性が良く見えますが、無限に下がる銘柄はあります。とくに先物連動でロールコストが重い商品は、戻りが弱いことがあります。分割は「最大3回まで」「撤退ライン厳守」で縛ります。

パターン2:イベント前提で賭ける

OPEC会合や天候、地政学などを当てに行くとギャンブル化します。イベントは価格変動の引き金に過ぎません。エントリーはあくまで“価格の行き過ぎ”で行います。

パターン3:長期保有でロールコストに負ける

コンタンゴが続く商品は、価格が横ばいでもETFの値段がじわじわ下がり得ます。逆張りローテーションは「短期〜中期で反発を取る」前提です。長期で持つなら、現物型に近い商品や、ロール影響が比較的マイルドな設計の商品を優先し、保有理由を明確化します。

運用手順(チェックリスト):毎週やること・毎月やること

ルールを運用に落とすには、作業を固定化するのが最短です。

毎週(10分〜)

  • 対象ETFの200DMA乖離、RSI、ATR異常(2ATR超)を確認し、逆張り候補を抽出する。
  • 候補があれば、分割エントリーの段階(第1/第2/第3)を決め、注文価格帯をメモする。
  • 保有中なら、撤退ラインと利確ラインを更新し、逆指値を入れる。

毎月(30分〜)

  • ローテーションの順位付け(13週リターン等)で“次の主役候補”を決める。
  • 保有対象がコンタンゴに偏っていないか、長期保有になっていないかを棚卸しする。
  • 相関が上がっている(同時に動く)なら、同時保有数を減らす。

初心者が最初に作るべき“最小セット”

いきなり多銘柄を回すのではなく、最初は3本で十分です。

セット例:金(守り)+エネルギー(攻め)+産業金属or農産物(独立)

この3本を同時に握るのではなく、「今、期待値があるのはどれか」をローテーションで選び、最大2本までに絞る。これだけで、管理難易度が一気に下がります。

最後に:この戦略の“勝ち筋”は、当てることではない

逆張りローテーションは、未来予測ではなく、行き過ぎの修正を取りに行く設計です。勝ち筋は、①行き過ぎを数値で定義し、②分割で入って、③撤退を先に決め、④利確を淡々と行い、⑤優位な対象へ乗り換えることにあります。

コモディティは刺激的で、SNSやニュースに振り回されやすい市場です。だからこそ、ルールを作った投資家が優位になりやすい。まずは小さなサイズで、チェックリスト通りに運用し、統計的に勝てる形へ調整してください。

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