コモディティ(資源)市場は、株式や為替と比べて「ニュース主導の急変」と「需給の遅行」が強く、短期での行き過ぎ(オーバーシュート)が起きやすい領域です。
本記事では、原油・金・銅・農産物などのコモディティETFを使って、価格が短期的に売られ過ぎ/買われ過ぎになった局面で逆張りし、一定期間で「戻り」を狙う“逆張りローテーション”を、初心者でも実装できるレベルまで具体化します。
ポイントは、感覚で逆張りしないことです。相場は行き過ぎますが、同時に“行き過ぎ続ける”こともあります。逆張りは「入る理由」よりも「負け方(損切り・撤退)」が設計の核心です。
なぜコモディティは「短期の戻り」が狙いやすいのか
コモディティには、短期の平均回帰(Mean Reversion)を起こしやすい構造がいくつかあります。ここを理解すると、逆張りが“ただのギャンブル”から“再現性のある戦略”に近づきます。
① 需給の物理制約と反応の遅さ
原油や天然ガスは、在庫・輸送・精製・貯蔵といった物理インフラに縛られます。供給が増える/減るには時間がかかり、需要も季節要因などで段階的に変化します。つまり「現実の需給」は連続的なのに、価格はニュースで瞬間的に飛びます。
このズレが、短期の行き過ぎと戻りを生みます。ニュースで急落しても、需給が即崩壊するとは限らず、数日〜数週間で“冷静な価格”に戻ることがあります。
② 先物主導の市場で、投機資金が振れやすい
多くのコモディティは先物市場が中心です。先物はレバレッジが効き、マクロニュースやリスクオフの影響で資金が一斉に出入りします。投機筋のポジション解消が起きると、現物需給以上に価格が振れます。
③ インフレ・金利・ドルの「相関」が短期で崩れる
コモディティはドル建てが多く、米金利やドル指数の影響を受けやすい一方、地政学や天候など独自要因も強いです。短期では相関が行ったり来たりし、相関トレードが外れた瞬間に価格が跳ねる(=行き過ぎる)場面が増えます。
この“相関のズレ”が、逆張りのチャンスになり得ます。ただし、相関が崩れたままトレンド化することもあるため、後述の撤退ルールが必須です。
コモディティETFの基本:何を買っているのかを誤解しない
逆張りローテーションで最初にやるべきは、ETFの中身の確認です。コモディティETFには大きく分けて3タイプがあります。
① 現物保有型(例:金の現物を保管)
代表例は金ETFです。現物(金地金)を保管して、価格に連動します。先物の乗り換え(ロール)によるコストが基本的にありません。
② 先物連動型(多くの原油・天然ガス・農産物)
原油ETFや天然ガスETFの多くは先物を保有します。ここで重要なのがコンタンゴ(先物の期先が高い)とバックワーデーション(期先が安い)です。
コンタンゴでは、先物を乗り換えるたびに“高いものへ買い替える”形になり、長期保有でジワジワ不利になりやすいです。逆にバックワーデーションではロールが追い風になることがあります。
③ 資源株・関連株型(エネルギー株、鉱山株など)
これは「コモディティ価格」そのものではなく、関連企業の株価です。株式市場のリスクオン/オフの影響が強く、逆張り戦略の挙動が別物になりがちです。この記事では主に①②の“商品価格に近いETF”を中心に扱います。
逆張りローテーションの設計図:やることは3つだけ
戦略の骨格はシンプルです。難しい分析より、ルールを守れる設計が大切です。
やること①:対象(ユニバース)を絞る
全コモディティを追う必要はありません。初心者が扱いやすいのは、流動性が高く、ニュースが多く、価格が振れやすい商品です。例として以下を挙げます。
・原油(例:USO等)/天然ガス(例:UNG等)/金(例:GLD等)/銀(例:SLV等)/銅(例:CPER等)/農産物バスケット(例:DBA等)
日本の証券会社で直接買えないETFもあります。その場合は、国内上場の類似商品や、CFD・先物ミニなどで代替する考え方は同じです。重要なのは“同じルールで比較できる対象”を揃えることです。
やること②:行き過ぎを数値で判定する
行き過ぎ判定は、主に「価格が移動平均からどれだけ乖離したか」や「短期の下落率がどれだけ大きいか」で測れます。代表的な指標は次の2つです。
(A)Zスコア乖離:(価格 − N日移動平均)÷ N日標準偏差
例えばN=20日でZスコアが−2.0以下なら“売られ過ぎ”と判定し、逆張り候補にします。標準偏差を使うので、ボラの高い天然ガスと低い金を同じ尺度で比較できます。
(B)短期リターン:5日〜10日の騰落率
例えば10日騰落率が−12%以下なら候補、といった具合です。Zスコアより直感的で、初心者でも理解しやすいです。
やること③:一番“歪んでいる”ものだけ買う(ローテーション)
コモディティを複数見ていると、同じ日に全部が売られることがあります。そこで重要なのが“ローテーション”です。
その日に最も売られ過ぎの度合いが強い(Zスコアが最も低い、または短期下落率が最も大きい)銘柄だけを買う、という選択にすると、資金が分散しすぎず、管理もしやすくなります。
逆張りの失敗は、同時に複数を抱え、どれが本当に歪んでいたのか分からなくなることから起きます。まずは“1ポジション運用”で十分です。
具体ルール例:初心者でも運用できる「1銘柄ローテ」
ここでは、複雑な裁量を排し、誰がやっても同じ判断になりやすい形でルール例を提示します。あなたの取引環境に合わせて数値は微調整してください。
ステップ1:毎日(または週2回)スクリーニング
対象ETFの終値を見て、20日Zスコアを計算します(難しければTradingView等で近い指標を代用してもOKです)。
・候補条件:Zスコア ≤ −2.0(売られ過ぎ)
・複数候補がある場合:Zスコアが最も低いもの1つを選ぶ(ローテーション)
ステップ2:エントリー(買い)
エントリーは翌営業日の成行でも良いですが、逆張りは“落ちるナイフ”を掴みやすいので、初心者は少し工夫すると安定します。
例:前日終値を上回ったら買う(=下落が一旦止まったサイン)/あるいは、当日寄り付き後に前日終値付近まで戻ったら買う。
これだけで、急落の真っ最中に飛び込む確率が下がります。
ステップ3:利確(出口)
平均回帰狙いでは、欲張りすぎると“戻り切る前に再下落”しやすいです。出口を数値で決めます。
・利確条件例:Zスコアが−0.5以上に回復したら利確(半分戻ったら降りるイメージ)
・または:エントリーから最大10営業日で強制決済(時間で区切る)
時間で区切るのは強いです。逆張りの期待値は“早い戻り”にあります。戻らないなら、あなたの仮説が外れている可能性が高いからです。
ステップ4:損切り(撤退)
逆張りの最大リスクは“トレンド転換”です。需給が本当に変わった局面では、安いと思ってもさらに安くなります。損切りは機械的に実行できる条件にします。
・損切り条件例:終値ベースで−7%(またはATR×1.5)に達したら撤退
・もしくは:Zスコアが−3.0を下回ったら撤退(行き過ぎが行き過ぎた=構造変化の疑い)
どれを採用するにせよ、“1回の負けが致命傷にならない”よう、資金配分(ポジションサイズ)を先に決めます。
ポジションサイズの決め方:逆張りは「小さく入る」が正解
初心者が逆張りで大きく負ける典型は、下落局面でロットを上げることです。平均回帰を信じすぎると、ナンピンが加速します。ここは仕組みで封じます。
基本形:1回の損失を資金の0.5%〜1%に固定
例えば資金100万円で、1回の最大損失を0.7%(7,000円)にするなら、損切り幅が7%のETFでは、投下資金は約10万円が上限になります(7%×10万円=7,000円)。
このように「損切り幅から逆算」すると、相場のボラが上がっているときに自然にサイズが落ちます。逆張りではこれが生存戦略になります。
ナンピン禁止ルール
この戦略ではナンピンを禁止します。理由は明確で、平均回帰が起きるかどうかは“あなたの残高”とは無関係だからです。
どうしても分割したい場合は、最初から2分割までをルール化し、2回目は“反転確認(例:前日高値超え)”が出た場合のみ、という条件を入れてください。
具体例:原油・金・銅で起きやすい「行き過ぎ」のパターン
ここからは、ニュースと値動きがどう噛み合って行き過ぎが生まれるかを、イメージできるように具体例で解説します。実際の銘柄名は例であり、売買推奨ではありません。
ケースA:原油(地政学ニュース→過剰反応→戻り)
原油は、地政学リスクで急騰しやすい一方、逆に“停戦観測”“備蓄放出”“需要減速”といった見出しで急落しやすいです。
例えば、週末に『需要見通し引き下げ』のニュースが出て月曜にギャップダウン。先物の投機ポジションが一気に縮むと、需給以上に下げます。
このとき、20日Zスコアが−2.5まで沈む一方で、在庫統計はそこまで悪化していない、という状況は“短期の戻り”が起きやすい典型です。
逆張りでは、月曜の寄りで飛び付かず、月曜の終値が下ヒゲで引ける、または火曜に前日終値を回復する、といった“売りの勢いが止まった証拠”を待って入ると、成功率が上がります。
ケースB:金(金利上昇で急落→過剰なポジション解消→戻り)
金は『金利が上がると下がりやすい』という定番があります。ところが、短期では“織り込み過ぎ”が起きやすいです。
例えば強い米雇用統計で金利が跳ね、金が急落。ここで債券売りと同時に金が売られると、リスクパリティ等の機械売りも重なり、下落が加速します。
しかし、数日後に金利が落ち着くだけで、金が戻ることがあります。金は現物型ETFが多く、先物ロールの歪みが少ないため、短期逆張りの“戻り”が比較的素直になりやすい点が特徴です。
ケースC:銅(景気懸念で投げ売り→在庫・供給制約で戻る)
銅は『景気の先行指標』のように扱われ、株式が崩れると一緒に売られやすいです。
ところが実際には、鉱山の供給制約や精錬能力、在庫の薄さなど、現物サイドの事情で“下がり切らない”局面があり、過剰な下げが戻りやすい局面があります。
銅はボラがそこそこあり、短期のZスコアが大きく動きやすいので、ローテーション戦略の候補になりやすい商品です。
落とし穴:先物型ETFの“見えないコスト”を管理する
原油や天然ガスなど先物型ETFで最も重要なのが、先物カーブ(コンタンゴ/バックワーデーション)です。逆張りローテーションは短期運用が基本ですが、それでも無視できないときがあります。
コンタンゴがきついと「戻っても儲からない」ことがある
現物価格が横ばいでも、先物の乗り換えでETFの基準価額が下がると、あなたの期待した戻りが相殺されます。
対策は2つです。
1つ目は“保有期間を短くする”こと。逆張りの期待値が薄い局面では、時間切れ(例:最大7〜10営業日)で撤退し、ロール損の蓄積を避けます。
2つ目は“候補選定に先物カーブ要因を入れる”こと。例えば、同じ売られ過ぎでもバックワーデーションの銘柄を優先する、などです。
実務(運用)フロー:毎週やることを固定化する
逆張りは判断回数が多いほどブレます。作業をテンプレ化すると、感情が入りにくくなります。ここでは、週2回運用の例を示します。
月・木の夜にチェック(日本時間)
① 対象ETFの終値を確認し、Zスコア(または10日騰落率)を更新する。
② 条件を満たす候補があるか確認。あれば最も売られ過ぎの1つを選ぶ。
③ 既にポジションがある場合は、利確条件・損切り条件・時間切れを確認し、該当すれば決済する。
④ 新規エントリーは“反転確認”の条件を満たす場合のみ。満たさなければ見送る。
記録する項目(これだけでOK)
・エントリー日/価格/指標値(Zスコア等)
・損切り幅と最大損失額
・決済日/理由(利確・損切り・時間切れ)
記録は上達を加速します。特に逆張りは「勝った理由」より「負けた理由」が資産です。負けが“ルール負け”なのか“想定外”なのかを分けていくと、改善点が見えてきます。
戦略の改良アイデア:初心者が一段上げる3つの工夫
① ボラティリティでフィルタする
恐怖の局面では、全ての市場が同時に売られ、コモディティも“株の影響”で動くことがあります。こうした局面の逆張りは難易度が上がります。
対策として、VIXなどの指標が極端に高いときはエントリーを半分にする、あるいは新規を見送る、といったフィルタが有効です。
② トレンド判定を1つだけ足す(200日移動平均)
平均回帰は“レンジ”で強く、“トレンド”で弱いです。そこで長期トレンドを1本だけ見ます。
例:価格が200日移動平均の上にある商品の売られ過ぎだけを買う(上昇基調の押し目のみ)
これだけで“下落トレンドの底抜け”を掴む確率が下がります。
③ ペアの発想(同じセクター内で強弱を見る)
例えば金と銀、原油とガソリン、農産物同士など、相関の高い組み合わせで“より弱い方だけ買う”という発想です。
市場全体のリスクオン/オフをある程度中和でき、逆張りが純粋に“歪み取り”になりやすい利点があります。ただし初心者は、まず単純なローテーションで十分です。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:ニュースに乗ってしまい、ルールを破る
コモディティはニュースが強烈です。『供給途絶』や『需要崩壊』といった見出しは、冷静なルールを破壊します。
回避策は、判断材料を価格指標に限定することです。ニュースは“背景理解”に使い、売買判断はZスコアや損切りラインに従います。
失敗2:戻りを待ちすぎて、勝ちが負けに変わる
平均回帰は往復運動です。戻ったらまた反対側へ動きます。利確をケチると勝ちが消えます。
回避策は“出口を先に決める”こと。Zスコアが−0.5まで戻ったら利確、時間切れは10営業日、など固定すると改善します。
失敗3:ポジションが大きすぎて、損切りできない
損切りできない最大の原因は、サイズ過大です。サイズを落とせば損切りは可能になります。
回避策は、1回の損失を資金の0.5%〜1%に固定すること。逆張りは“薄く長く”が生存のコツです。
まとめ:逆張りローテーションは「ルールの投資」
コモディティETFの逆張りローテーションは、ニュースで行き過ぎた価格が“冷静さを取り戻す”プロセスを取りにいく戦略です。
勝つために必要なのは、天才的な予測ではありません。対象を絞り、行き過ぎを数値化し、最も歪んだ1つだけを小さく買い、出口と撤退を機械的に実行することです。
まずは少額で、週2回のチェックから始めてください。記録を取り、負け方を改善すると、逆張りの再現性は着実に上がります。
※本記事は情報提供を目的とした一般的な解説であり、特定の銘柄や売買の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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