株や暗号資産のように「成長ストーリー」に乗る投資がある一方で、コモディティ(商品)には“景気・在庫・政策・季節性”に起因する循環があります。価格が上がり続けるよりも、上がりすぎたら下がり、下がりすぎたら戻る――この「平均回帰」が起きやすい局面が定期的に出ます。
本記事は、コモディティETFを使って、この循環を“逆張りで拾い、戻りで回転させる”ためのローテーション戦略を、再現可能なルールに落とし込みます。大事なのは「当てにいく予想」ではなく、「外しても致命傷にならない設計」です。商品はボラティリティが高く、レバレッジ商品も多いので、ルールが曖昧だと簡単に破綻します。ここでは、初心者でも運用できる“軽量ルール”から、少し踏み込んだ“拡張ルール”まで段階的に説明します。
コモディティETFの逆張りローテーションとは何か
逆張りローテーション戦略は、複数のコモディティETF(例:金・銀・原油・天然ガス・工業金属・農産物など)を同じ土俵で比較し、「最近一番弱い(または最も下げた)ものを買う」「反発して平均に戻ったら売る/入れ替える」という回転を繰り返します。
ここでのポイントは2つです。
- “単品”で逆張りしない:商品は長期でトレンドが出ることがあり、単品逆張りは捕まるリスクが高い。複数の候補を並べ、相対的に“行き過ぎ”が大きいものを選びます。
- “当てる”より“戻り幅”を取りにいく:底を当てる必要はありません。行き過ぎ(下げ過ぎ)が解消される局面だけを取りにいきます。
なぜコモディティで平均回帰が起きやすいのか
平均回帰が起きやすい代表的な要因は、在庫・供給調整・代替需要です。
1) 在庫と生産調整が“価格のバネ”になる
原油や工業金属の価格が急落すると、採算悪化で生産調整が入りやすくなります。供給が絞られれば、しばらくして需給が締まり、価格が戻る余地が生まれます。逆に急騰すれば増産や在庫放出が促され、上がり過ぎが抑えられます。
2) 価格が上がると消費が減り、下がると消費が増える
特にエネルギーや金属は、価格が高いと代替(節約・素材の置き換え)が進み、価格が低いと再び需要が回復します。需要の“戻り”が平均回帰を助けます。
3) 商品は“インフレヘッジ”として資金が入るが、永遠ではない
インフレ懸念で商品に資金が流入すると急騰しますが、その後は「織り込み」が進み、材料出尽くしで反落することがあります。逆に、インフレが沈静化し資金が抜けると急落し、行き過ぎた安値が反発の起点になります。
まず押さえるべき:コモディティETFの落とし穴
この戦略を使う前に、コモディティETFの構造的な注意点を理解しておく必要があります。ここを誤解すると、バックテストでは勝てても実運用で負けます。
1) 先物連動ETFは「現物価格」とズレることがある
多くのコモディティETFは先物を使って価格に連動します。先物は満期があるため、乗り換え(ロール)が発生し、その際の価格差(コンタンゴ/バックワーデーション)がリターンに影響します。ざっくり言うと、コンタンゴが強い局面では“持っているだけでジワジワ減りやすい”ことがあります。
2) ボラが高い=資金管理がすべて
商品は1日で数%動くのが珍しくありません。逆張り戦略では含み損から始まることも多く、資金配分と損切りの設計が甘いと、メンタルより先に資金が尽きます。
3) レバレッジ型ETFは“短期専用”になりやすい
日次リバランス型のレバETFは、横ばいでも価値が削れやすい(ボラティリティ・ドラッグ)傾向があります。本記事の基本戦略は、原則としてレバ無しのETF/ETNを想定します(拡張編で扱います)。
戦略の骨格:4つのルールで再現性を作る
逆張りローテーションは、次の4ルールに分解すると運用がシンプルになります。
ルールA:投資ユニバース(候補)を固定する
候補が増えすぎると、選択がブレます。初心者は5〜8本で十分です。例として、次のように“性格の違う商品”を混ぜます。
- 貴金属:金、銀
- エネルギー:原油、天然ガス
- 工業金属:銅など
- 農産物:穀物バスケットなど
重要なのは「相関が同じ方向に偏りすぎない」ことです。全部が同じ理由で動くとローテーションの意味が薄れます。
ルールB:行き過ぎを測る“指標”を1つ決める
初心者におすすめなのは、複雑な指標よりも、価格の“相対下落”を使う方法です。例えば以下のどれか1つで十分です。
- 過去20営業日リターン:最も下げたものを買う
- 過去60営業日からの乖離率:移動平均からの下振れが大きいものを買う
- RSI(14):一定以下(例:30以下)の中で最も弱いものを買う
ここで大事なのは“同じ物差しで比較する”ことです。日々のニュースで判断を変えると、戦略が崩れます。
ルールC:エントリーは“分割”する
逆張りの弱点は、底を当てにいくと負けることです。そこで「買うと決めたら、2〜3回に分ける」だけで生存率が上がります。
具体例:
- 1回目:シグナル点灯(最下位に入った日)に、予定資金の50%を買う
- 2回目:さらに下落したら、残りの25%を買う
- 3回目:一定の下落幅(例:-6%)に達したら、残りの25%を買う
この分割により、「すぐ反発しなくても平均取得単価が下がりやすい」一方、「下げが止まらない局面では、買い過ぎない」設計にできます。
ルールD:出口は“利確の機械化”と“時間制限”の二段構え
逆張りは利確が遅れると、戻った利益が消えます。出口は明確にします。
- 利確ルール:例えば「20日移動平均に戻ったら半分利確」「60日移動平均に戻ったら全利確」など
- 時間制限:例えば「エントリー後20営業日以内に戻らなければ、損益を問わず撤退」
時間制限は、最悪の“ズルズル保有”を防ぐ保険です。商品はトレンドが出ると戻りが遅いことがあります。そのときに資金が拘束されるのが最大の機会損失です。
具体例で理解する:5本ユニバースの簡易ローテーション
ここでは仮想の例で、運用イメージを掴みます(数字は説明用)。候補は「金・銀・原油・銅・農産物」の5本とします。毎週末に過去20営業日リターンを比較し、最も弱い1本を翌週の月曜に買う。保有は最大3週間、または20日移動平均にタッチで利確、というルールです。
週1:原油が最下位、月曜に分割1回目
原油が-12%、他は-3%〜+2%の範囲。月曜に予定資金の50%を買う。ニュースでは「需要減速」と騒がれているが、ここでは無視します。理由は、ニュースで意思決定を始めると“裁量の沼”に入るからです。
週1後半:さらに下落、分割2回目
水曜までに原油がさらに-4%。ルールに従い、残りの25%を追加。ここで感情は最悪になりますが、逆張りはそういうものです。むしろ“想定内の苦しさ”を設計で受け止めるのが狙いです。
週2:反発して20日移動平均へ、半分利確
翌週、原油が+8%反発し、20日移動平均に到達。半分利確。利益を確定し、残りはトレーリングストップ(例:直近安値を割ったら手仕舞い)で追いかけます。
週3:戻りが鈍化、時間制限で撤退
その後、原油は横ばいで伸びない。3週間経過し、時間制限に達したので残りも撤退。結果として“短い戻り”を確実に回収できました。
この例の本質は、当てたことではなく、戻りを取り、滞留を避けたことにあります。これがローテーションの強みです。
勝ちやすい局面・負けやすい局面
どんな戦略も得意不得意があります。ここを理解しておくと、無駄な負けを減らせます。
勝ちやすい局面:レンジ・転換点・行き過ぎ
コモディティが「方向感なく上下するレンジ相場」では、平均回帰が効きやすいです。また、政策金利や景気見通しが変化し、強いトレンドが一服する“転換点”も狙い目です。さらに、急落(パニック)後の自律反発は、逆張りにとって最も取りやすい動きです。
負けやすい局面:供給ショックの長期化、構造変化トレンド
戦争・制裁・天候不順などで供給制約が長期化すると、トレンドが続きやすく、逆張りは捕まります。また、技術革新や需要構造の変化(代替エネルギーの急拡大など)が起きると、過去の平均が参考にならないこともあります。こういう局面では、時間制限・損切り・分散が生死を分けます。
資金配分の設計:最重要ポイント(ここで勝敗が決まる)
初心者が最初にやるべきことは、シグナルより資金配分です。目安として次のように設計します。
1) 1回の“銘柄(商品)当たり”の最大投入を決める
例えば、全資金の10%を上限にします。分割3回なら、初回5%、追加2.5%、追加2.5%です。これで、最悪の下落でも資金の大半が残ります。
2) 同時保有数を制限する
逆張りは“含み損を抱えやすい”ので、同時にたくさん持つと心が折れます。最初は1〜2本までに制限し、慣れてから増やします。
3) 逃げ道(現金・短期国債・MMF)を残す
全力投資は禁物です。ローテーションは“回転”が命なので、回転させるための余力が必要です。現金比率を意図的に残す設計が、結果的にリターンを安定させます。
損切り・撤退の決め方:逆張りは“撤退ルール”が本体
逆張りで最も多い失敗は「戻るまで待つ」です。戻らない局面は普通にあります。撤退を最初から機械化します。
シンプルな撤退ルール例
- 価格損切り:エントリー平均から-8%で撤退
- 時間損切り:20営業日で戻らなければ撤退
- 構造変化シグナル:出来高急増+下落継続など、パニックが“継続型”に変わったら撤退
価格損切りと時間損切りのどちらか一方だけだと、相場によって偏りが出ます。二段構えにすると、致命傷を避けやすいです。
実務ではなく“運用”の手順:週末30分で回すチェックリスト
この戦略は、毎日張り付く必要はありません。週末にまとめて判断し、翌週に淡々と執行するだけでも回ります。
週末チェック(30分)
- 候補ETFの終値を確認し、20日リターンを比較する
- 最下位のETFが「買い条件」を満たすか確認(例:RSIが一定以下、または移動平均乖離が一定以上)
- 既存ポジションの出口条件(移動平均到達、保有日数、損切りライン)を確認
- 次週の指値・分割計画(何%買うか)を決めてメモする
- 想定外イベントが来てもルールを変えない(変えるなら“次回から”)
この最後の一行が重要です。相場の途中でルール変更をすると、結果が検証不能になります。
戦略の拡張:ボラティリティ調整で“同じ怖さ”に揃える
商品ごとに値動きの激しさが違います。天然ガスと金を同じ資金量で持つと、天然ガスがリスクを支配してしまいます。そこで“ボラ調整”を入れると安定します。
初心者向けの簡易ボラ調整
難しい計算を避けるなら、「過去20日の値動きが大きいほど、投入比率を小さくする」だけで効果があります。例えば、天然ガスは金の半分の資金量にする、といったルールです。
もう一歩:目標リスクを固定する考え方
各ETFの過去ボラティリティ(例えば日次の標準偏差)を使い、同じ“想定変動額”になるようにポジションサイズを調整します。これにより、どの銘柄を持っても心理的な怖さが近くなり、ルールが守りやすくなります。
よくある失敗と対策
失敗1:ニュースで判断してルールを捨てる
商品ニュースは刺激が強く、感情を揺さぶります。ルール型戦略では「ニュースを材料にルールを変える」のが最悪のムーブです。対策は簡単で、判断は週末にまとめ、週の途中は見ないことです。
失敗2:ナンピン地獄(分割の上限がない)
分割は有効ですが、上限がないと破綻します。必ず「最大投入比率」と「分割回数」を固定します。追加は3回まで、など明確にします。
失敗3:利確が遅くて利益が消える
逆張りは“戻りの初動”が一番おいしいことが多いです。戻ったら段階的に利確し、残りは伸びたらラッキー程度に扱うと安定します。
失敗4:候補を増やしすぎて、最適化で自滅する
候補を増やすほど、過去データに合わせた最適化(カーブフィット)に陥りやすいです。最初は5〜8本、ルールは2〜3個、これで十分です。
初心者が最初の1か月でやるべき“練習メニュー”
いきなり大金で始めず、まずは“運用の型”を体に染み込ませます。
- 第1週:候補5本で、週末にランキングを作るだけ(売買しない)
- 第2週:架空売買で分割と出口を紙に書く(売買しない)
- 第3週:少額で1本だけ実行、利確と時間制限を必ず守る
- 第4週:記録を振り返り、ルールを“次回から”微調整する
この戦略は、当たった外れたより「手順を守れたか」が成績を左右します。手順が守れれば、相場の良し悪しに関わらず“致命傷を避ける運用”になります。
まとめ:逆張りローテーションのコアは“予想”ではなく“設計”
コモディティETFの逆張りローテーションは、商品サイクルの平均回帰を利用しつつ、単品逆張りの弱点(捕まり)を“入れ替え”で薄める発想です。成功の鍵は、(1)候補を固定し、(2)同じ物差しで比較し、(3)分割で入り、(4)利確と時間制限で出る――この4点に集約されます。
ここまでの内容をそのまま実行してもよいですし、慣れてきたらボラ調整や条件フィルタ(例:トレンドが強い局面は見送る)を追加して、さらに安定化させることもできます。最初はシンプルに、小さく始めて、記録して、改善する。これが最短ルートです。


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