相場の世界には「総悲観は買い」という格言があります。ただ、格言のままでは再現性がありません。どのくらい下がったら“総悲観”なのか、何を見て判断するのか、いつ買っていつ撤退するのかが曖昧なままだと、単なるナンピン地獄になりやすいからです。
この記事では、VIXの急騰とSNSが静まり返る瞬間(話題量の急減)を「観測できる条件」に落とし込み、初心者でも運用手順に沿って実行できるように整理します。重要なのは“当てる”ことではなく、負け方を設計したうえで、平均的に勝率が上がりやすい局面だけを狙うことです。
- 1. 「総悲観」を数値化する:なぜVIXとSNSなのか
- 2. VIXの見方:初心者が押さえるべき3つの層
- 3. 「SNS沈黙」を定義する:感情ではなく“話題量”を見る
- 4. エントリーの設計:条件を「同時点」ではなく「順番」で組む
- 5. 利確・損切り:逆張りは出口が9割
- 6. 具体例:典型的な“恐怖→沈黙→戻り”の流れ
- 7. 日本株での応用:VIXが使いにくい場合の代替
- 8. 失敗パターンと回避策:初心者がやりがちな罠
- 9. 実践チェックリスト:毎日5分で回す手順
- 10. まとめ:総悲観は“感想”ではなく“条件”で捉える
- 11. 取引商品をどう選ぶか:初心者は“指数ETF”が最適解になりやすい
- 12. ポジションサイズの決め方:1回の損失を“固定化”する
- 13. 検証のやり方:難しいバックテストより「手作業で20回」
- 14. よくある質問(初心者が詰まりやすいポイント)
- 15. 重大イベントと重なる時の注意:指標の“上書き”を想定する
- 16. そのまま使える“実行テンプレ”
1. 「総悲観」を数値化する:なぜVIXとSNSなのか
総悲観とは、ざっくり言えば「売りたい人が先に売り切ってしまい、追加の売りが細る状態」です。ここで使えるのが、恐怖の温度計とされるVIXと、個人の感情が集約されやすいSNSです。
VIXは、S&P500オプションのインプライド・ボラティリティ(将来の変動予想)を指数化したものです。株価が急落すると、保険(プット)需要が増え、VIXが跳ねやすい。つまり恐怖が価格に織り込まれた度合いを近似できます。
一方、SNSは「騒がしい=参加者が多い」「静か=参加者が退場した(または諦めた)」という側面があります。急落の最中は怒号のように投稿が増えますが、底に近づくと“語る気力”がなくなることがある。ここがポイントです。恐怖がピークの直後に、話題量がスッと落ちる局面は、需給が反転しやすい“空白”になり得ます。
2. VIXの見方:初心者が押さえるべき3つの層
2-1. 水準(どれくらい高いか)
VIXは「低い=平常」「高い=恐怖」と覚えて構いません。目安として、普段は10〜20台に収まることが多く、30を超えると市場の緊張が一段上がったサインになりやすいです。ただし、年によって平常域は動くので、固定の数字より“直近の平均との差”も同時に見ます。
実務的には、VIXが過去60営業日平均との差で+1.5〜+2.0標準偏差を超えたら「恐怖が増幅している」と判断する、といった統計的なルールが使いやすいです。数値は後述の手順で自分でも計算できます。
2-2. 変化率(どれくらい急に上がったか)
底の手前で効きやすいのは「水準」より「急騰」です。例えば、VIXが1日で+20%〜+40%上がるような局面は、オプション市場で“保険の買い”が殺到したことを示唆します。急騰は短期的なパニックの反映なので、反動の戻り(リバウンド)も起きやすい。
2-3. 期間構造(先物カーブ)
VIXには先物があります。平常時は、期近より期先が高い(コンタンゴ)になりやすい。恐怖が強いと、期近が跳ねてバックワーデーション(期近>期先)になりやすいです。
初心者向けの覚え方はシンプルで、「期近が飛び出している=目先の恐怖が過熱」です。これも“総悲観”の材料になります。データが難しければ、まずはVIX水準と変化率だけでも構いません。
3. 「SNS沈黙」を定義する:感情ではなく“話題量”を見る
ここがこの記事のオリジナリティ部分です。SNSの内容(ポジ・ネガ判定)を高度に解析しなくても、初心者は投稿数(話題量)だけで十分戦えます。理由は、底付近で起きるのは「意見の変化」より「参加者の減少」だからです。
3-1. 沈黙のパターン
代表的な沈黙は次の2つです。
- パニック投稿のピークアウト:暴落当日に投稿が激増 → 1〜3日後に投稿が急減
- 無関心化:数日間下落が続き、投稿が徐々に減って「誰も語らない」
狙い目は前者です。なぜなら、強制ロスカットやヘッジの買いが一気に進み、売り圧力が短期間で“燃え尽きる”確率が上がるからです。
3-2. 具体的な測り方(無料でできる)
手作業でもできます。例えば次のように決めます。
- 観測対象:X(旧Twitter)やStockTwits、掲示板など
- キーワード:指数名(例:S&P500、NASDAQ、日経平均)+「暴落」「損切り」「終わった」など
- 指標:1時間あたり投稿数、または1日あたり投稿数
そしてルール化します。例として、
- 投稿数が直近7日平均との差で+2.0σを超えた日(パニック)を特定
- その翌日〜3日以内に投稿数が半減(-50%)したら「沈黙化」と判定
“半減”は感覚的に強いので、初心者でも運用しやすい閾値です。もちろん銘柄や市場によって最適値は違うので、過去データで調整します。
4. エントリーの設計:条件を「同時点」ではなく「順番」で組む
逆張りでよくある失敗は「怖くなったから買う(=下がっている最中に拾う)」ことです。これを避けるには、条件を順番にするのが有効です。
4-1. 例:3段階フィルター
- 第1条件(恐怖の発生):VIXが1日で+25%以上、または過去60日平均+2σ以上
- 第2条件(価格の投げ):対象指数が2日で-4%(日経なら-3%でも可)など、“速い下げ”が出る
- 第3条件(沈黙の確認):投稿数がピークから-50%(1〜3日以内)
第3条件が出た時点で、初めて「買い検討」に入ります。これにより、下落途中で拾う確率を下げられます。
4-2. エントリーは「一括」ではなく「分割」にする
初心者は一括で入るほど事故ります。分割の基本はシンプルです。
- 第3条件成立日の引け、または翌日の寄りで1/2
- その後、指数が前日高値を上抜く、または終値で5日移動平均を回復したら残り1/2
これなら“底を当てに行く”のではなく、“反転を確認して乗る”形になります。
5. 利確・損切り:逆張りは出口が9割
この手法は「急落後の戻り」を狙うので、長期保有とは別物です。出口の設計を先に決めます。
5-1. 損切りルール(必須)
初心者向けの最小ルールは、直近安値を明確に割ったら撤退です。例えば、エントリー後に安値を終値で-1%下抜けたら全撤退、など。指数ETFなら値動きが素直なので適用しやすい。
もう少し精密にするなら、ATR(平均的な値幅)を使い、エントリー価格−1.5ATRで損切り、といった“ボラに合わせた損切り”が可能です。
5-2. 利確ルール(欲張ると戻り売りに捕まる)
利確は2段階が安全です。
- 第1利確:VIXが急落(例:ピークから-20%)したら、ポジションの半分を利確
- 第2利確:指数が10日移動平均を回復し、その後に陰線が2本続いたら残りを利確
VIXが落ちる=恐怖が剥がれる、なので短期リバウンドの“賞味期限”が見えます。これを利確に使うのが実用的です。
6. 具体例:典型的な“恐怖→沈黙→戻り”の流れ
ここでは、よく起きるパターンを架空の数値で再現します(特定の銘柄推奨ではありません)。
- 月曜:指数が-3.5%。VIXが18→26(+44%)。SNS投稿が通常の3倍(+200%)。
- 火曜:指数がさらに-1.8%。VIXは30に到達。SNSはさらに増えるが“怒り・絶望”系が目立つ。
- 水曜:朝に急落するが、引けにかけて下げ渋り。VIXは29で高止まり。一方、SNS投稿はピークから-55%に急減。
- 木曜:指数が前日高値を上抜く。VIXは27へ低下。
- 金曜:指数が5日移動平均を回復。VIXは24へ。
このケースなら、水曜引けに1/2、木曜の上抜けで残り1/2。第1利確はVIXがピークから-20%になった時点(例:30→24)で半分利確。残りは10日移動平均回復後の失速サインで手仕舞い、という流れが作れます。
7. 日本株での応用:VIXが使いにくい場合の代替
日本株メインの人は「VIXより日経VIの方がいいのでは?」と感じるはずです。結論は、どちらでも良いです。重要なのは“自分が追える指標”に固定すること。日経VIは日本市場の恐怖を反映しやすいので、TOPIXや日経平均の逆張りに相性が良いことがあります。
また、SNS沈黙は日本語圏でも十分に観測可能です。キーワードは「日経」「先物」「追証」「ロスカ」「退場」などが使えます。さらに、日本は個別株の信用取引が多いので、暴落局面では追証の話題が増え、ピークアウト後に急減しやすい。ここも“沈黙”の手掛かりになります。
8. 失敗パターンと回避策:初心者がやりがちな罠
8-1. 「VIXが高いから買う」で早すぎる
VIXが高い状態は続くことがあります。特にショックが長引くと、VIXが高止まりし、株はさらに下げる。回避策は、急騰+沈黙+反転確認の順番を崩さないことです。
8-2. SNSの“炎上”に巻き込まれてルールが崩れる
大きく下げると、強い言葉が溢れます。ここで感情を同化させると、買えなくなるか、逆に怒りで突っ込むか、どちらかに偏ります。回避策は、投稿内容を読まず、投稿数だけを計測する運用に徹することです。
8-3. 損切りできず、短期手法が長期塩漬けになる
この手法は“戻り”が前提なので、戻らないなら撤退です。損切りは「価格」で決めるのが最もシンプル。エントリー前に、撤退ラインを注文として置いてしまうのが現実的です。
9. 実践チェックリスト:毎日5分で回す手順
- VIX(日経VIでも可)を確認:前日比%と、過去60日平均との差(ざっくりでも良い)
- 指数の下落速度を確認:2日で何%下がったか
- SNS投稿数を確認:ピーク日と比較して、半減しているか
- エントリーは分割:初回は小さく、反転確認で追加
- 撤退ラインを先に設定:直近安値割れ(終値)など
- 利確は恐怖の剥離で:VIXがピークから-20%など
これで「格言」を「運用ルール」に変換できます。大切なのは、1回で完璧に当てることではなく、同じ手順を何度も繰り返して、統計的に優位な局面だけに参加することです。
10. まとめ:総悲観は“感想”ではなく“条件”で捉える
「総悲観は買い」は、雰囲気で語ると危険ですが、条件で捉えれば武器になります。VIX(または日経VI)で恐怖の過熱を見て、SNSの話題量で参加者の退場(沈黙)を確認し、価格の反転を待ってから分割で入る。この流れを守るだけで、初心者でも無理な逆張りの確率を下げられます。
最後にもう一度。勝ちパターンは「当てる」ではなく「守る」です。ルールを紙に書き、チェックリストで淡々と判断してください。相場はいつも不確実ですが、手順はあなたが決められます。
11. 取引商品をどう選ぶか:初心者は“指数ETF”が最適解になりやすい
同じ「総悲観は買い」でも、個別株でやるのと指数でやるのでは難易度が違います。初心者が最初に選ぶなら、基本は指数ETF(現物)です。理由は3つあります。
- 個別要因の地雷が少ない:不祥事・増資・業績下方修正など、銘柄固有の事故が起きにくい
- リバウンドが素直:パニック後のショートカバーやリスクパリティの買い戻しが指数に集まりやすい
- 分散の自動化:1銘柄で市場全体に乗れる
具体的には、米国ならS&P500やNASDAQ100、日本ならTOPIXや日経平均のETFが候補です。信用取引やレバレッジ商品は、同じルールでも損益の振れが大きくなります。まずは現物で「ルールを守れるか」を最優先にしてください。
12. ポジションサイズの決め方:1回の損失を“固定化”する
逆張りは、勝つ時はサクッと戻りますが、負ける時は想定以上に伸びます。だからこそ、初心者は「何%儲かるか」より「1回で最大いくら失うか」を固定化します。
12-1. 目安:1回の損失を資金の0.5%〜1%に抑える
例えば資金100万円で、1回の最大損失を1%=1万円に設定します。損切り幅が-2%なら、建てられる金額は1万円÷2%=50万円です。分割エントリーなら、最初は25万円、追加で25万円、といった配分になります。
この計算を先にやると、相場が荒れている時でも行動がブレにくくなります。逆に、サイズが大きいと「損切りできない」状態になり、ルールが崩壊します。
12-2. 連敗を前提にする(普通に起きる)
この手法は統計的に優位が出やすい局面を狙いますが、連敗は普通に起きます。だから、最大損失を小さくし、同じルールを繰り返せる“体力”を残す必要があります。短期の結果でルールを変えないことが、長期的な再現性につながります。
13. 検証のやり方:難しいバックテストより「手作業で20回」
初心者がいきなり難しいバックテスト環境を作る必要はありません。まずは「過去のパニック局面」を20回ぶん集め、同じ手順で当てはめてみてください。やることは単純です。
- 過去チャートで「急落日」を探す(指数でOK)
- その日のVIX(または日経VI)の上昇率をメモする
- SNS投稿数(できなければニュース見出し数でも代替可)のピークと、その後の減少タイミングをメモ
- エントリーは「沈黙確認→反転確認」で入った前提で、損切りと利確を同じルールで当てはめる
ここで重要なのは、勝率よりも平均損益(期待値)です。例えば勝率が40%でも、勝ちが+6%で負けが-2%なら、期待値はプラスになり得ます。逆張りは「小さく負けて大きく戻りを取る」設計にすると、精神的にも続けやすくなります。
なお、SNS投稿数が取りにくい場合は代替として、ニュースアプリの「関連記事件数」や、Google Trendsの検索量の急増→急減を使う方法もあります。どれも本質は同じで、「人が集まって、そして散る」ことを測っています。
14. よくある質問(初心者が詰まりやすいポイント)
14-1. VIXが見られない市場(個別株、暗号資産)はどうする?
暗号資産なら、資金調達率(Funding Rate)や清算(Liquidation)データが“恐怖”の代替になります。株の個別銘柄なら、出来高急増、信用買い残の急減、PTSの投げ売りなどが代替になります。ただし難易度は上がるので、まずは指数で経験を積むのが無難です。
14-2. 「SNS沈黙」が来ない場合は見送るべき?
基本は見送って良いです。沈黙が来ない=参加者が退場していない=売りが残っている可能性があるからです。ルールを増やすより、見送る勇気が成績を押し上げる局面は多いです。
14-3. なぜ“沈黙”が底の近くで起きるのか?
理由はシンプルで、感情が燃え尽きるからです。最初は怒りや不安で投稿が増えますが、損切りを終えた人は市場から離れ、見ているだけの人も疲れて黙ります。その瞬間、売り手が減り、買い戻しや長期資金が入った時に価格が動きやすくなります。これは心理というより、需給の話です。
15. 重大イベントと重なる時の注意:指標の“上書き”を想定する
恐怖局面は、金融政策イベント(FOMCなど)や地政学リスク、信用不安と重なりやすいです。このとき注意すべきは、VIXやSNSが示す“恐怖”が、イベント結果で一気に上書きされることです。例えば、発表が市場予想と大きくズレると、恐怖がさらに加速して「沈黙確認」後でももう一段掘ることがあります。
回避策は2つだけです。
- イベント前はサイズを落とす:分割の初回をさらに小さくする(例:通常の半分)
- 損切りを機械的に執行:イベントでギャップダウンしても撤退する前提で組み立てる
逆張りは「勝ちやすい局面を選ぶ」だけでなく、「負けた時に致命傷を避ける」ことがコアです。イベントがあるなら、期待値は下がりやすい。だったらサイズを落とせば良い、という割り切りが最も合理的です。
16. そのまま使える“実行テンプレ”
最後に、この記事の内容を1枚のテンプレにします。紙やメモアプリに貼って、条件に合う時だけ実行してください。
- 恐怖:VIX(または日経VI)1日+25%以上、または60日平均との差+2σ
- 投げ:指数が2日で-4%(日本なら-3%でも可)
- 沈黙:SNS投稿数がピークから-50%(1〜3日以内)
- 初回エントリー:沈黙確認日の引けで1/2
- 追加:前日高値上抜け、または終値で5日線回復で残り1/2
- 損切り:直近安値を終値で-1%割れ、または-1.5ATR
- 利確:VIXピークから-20%で半分、残りは10日線回復後の失速で


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