「下げ相場のダメージを小さく、上げ相場の果実は取りこぼしにくく」。その現実的な落としどころが、暴落時に資産全体のドローダウン(最大下落幅)を抑え、復帰を早める暴落耐性ポートフォリオです。本稿では、NISA・特定口座で日本の個人投資家が今すぐ実装できる形に落とし込み、商品選定・積立設計・リバランス設計・為替ヘッジの判断軸まで、実践的に解説します。
- 本稿の到達点
- 暴落に弱いのは「資産配分」ではなく「行動」と「相関」です
- 推奨コア配分(目安)
- 商品候補(日本の主要ネット証券で買えるもの)
- 為替ヘッジの使い分け
- つみたて設計:円コスト平均法で「継続」を担保
- モデル・ポートフォリオ(例)
- リバランス設計(価格変動を味方に)
- 暴落時の行動ルール(チェックリスト)
- NISAでの実装ポイント
- 具体的な買付例(毎月10万円のケース)
- ケーススタディ:下落20%の局面でどう動くか
- よくある設計ミス
- 実物資産の役割:ゴールドとREIT
- 長期の勝ち筋:ルールの継続とコスト最小化
- 実践チェックリスト
- Q&A
- 出口戦略:取り崩し期の設計
- まとめ
- 付録:証券口座での実装フロー(SBI証券・楽天証券のイメージ)
- 付録:配分早見表(目標リスク別)
- 付録:暴落時の心理対策
本稿の到達点
読み終えたら、次の3点ができるようになります。
- 自身のリスク許容度に合った配分モデル(株式・債券・実物資産)を作る。
- NISA・特定口座での購入手順(つみたて設定、商品代替)を具体化する。
- 暴落時の行動ルール(買い増し・リバランス・積立継続)を定義する。
暴落に弱いのは「資産配分」ではなく「行動」と「相関」です
長期投資家が痛手を負う主因は、相関が高い資産だけを保有し、下落局面で投げることです。暴落耐性は、①相関の低い資産を混ぜる、②現金同等と債券で売らずに済む余裕を確保する、③機械的なリバランスで価格変動を味方にする、の3本柱で高まります。
推奨コア配分(目安)
下表はあくまで目安です。最初の配分は大胆に、運用ルールは単純に、がコツです。
- 株式 60%:全世界株(オルカン)またはS&P500。成長エンジンです。
- 債券 25%:ヘッジあり外債・国内債を中心にデュレーション分散。下落緩衝材です。
- ゴールド 10%:通貨価値希薄化・地政学ショックに対する緩衝材です。
- REIT 5%:インフレに比較的強い賃料リンクのインカム源を少量。
株式70〜80%まで上げたい方は、債券を削る前にまずREITを0〜3%へ、次にゴールドを7%程度へ落とし、最後に債券で調整すると良いです。
商品候補(日本の主要ネット証券で買えるもの)
株式(コア)
- 全世界株:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)等。1本で時価総額加重の世界株に投資できます。
- S&P500:eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)等。米国集中の成長を取りに行く選択です。
債券(緩衝材)
- 先進国債券(為替ヘッジあり):為替変動を抑えつつ金利クッションを得ます。
- 国内債券インデックス:円建ての価格安定性を確保します。
- 短期債・MMF相当:積立の待機資金とリバランスの弾薬として機能します。
ゴールド(実物資産)
- 金インデックス投信・金ETF(国内上場・海外籍の円建て)。為替の影響を受けやすい点に注意します。
REIT(インカム枠)
- 国内REIT・先進国REITの低コストインデックス型。ボラティリティが高いため配分は控えめにします。
為替ヘッジの使い分け
円安・円高のサイクルを短期で当てにいくのは困難です。コア株式は長期リターンが高いため、基本はヘッジなしでも許容しやすい一方、債券は期待リターンが低いため為替で振られると役割を果たしにくくなります。したがって債券はヘッジあり比率を高めるのが原則です。
- 株式:ヘッジなし(長期的な通貨分散を狙う)を基本。円安局面の資産防衛に寄与します。
- 債券:ヘッジあり中心(債券の価格安定性を優先)。
- ゴールド:円建てであれば為替の影響が上乗せされます。分散の一部として許容します。
つみたて設計:円コスト平均法で「継続」を担保
積立は意思決定を簡素化し、暴落時の行動ミスを減らします。手順は以下の通りです。
- 毎月の投資可能額を固定し、生活防衛資金(6〜12か月分)を先に切り分けます。
- コア資産(全世界株またはS&P500)に最優先で自動積立を設定します。
- 債券・ゴールド・REITは月次または四半期で積立。全体配分に応じて金額を調整します。
- ボーナス月や暴落時のスポット買いは、あくまで配分維持のために行います。
モデル・ポートフォリオ(例)
スタンダード(株60/債券25/金10/REIT5)
価格変動を抑えつつ、世界株の成長に参加する標準形です。2008年や2020年のような急落局面でも、株式100%よりドローダウンが浅くなる可能性が高い構成です。
成長重視(株75/債券15/金7/REIT3)
長期的な株式リターンを重視する代わりに、緩衝材を薄くした設計です。毎月の積立継続・年1回のリバランスを厳守できる方に適します。
安定重視(株45/債券40/金10/REIT5)
就業不安や大きな支出予定がある方、ボラティリティに弱い方に適した守備型です。上昇局面の伸びは控えめですが、下げ相場で精神的に耐えやすい設計です。
リバランス設計(価格変動を味方に)
原則は「年1回」か「バンド方式(±5%超え)」です。例えば株式60%が66%に増えたら売却して他資産へ回し、54%に減ったら買い増します。売買コストと税制を勘案し、NISA枠を優先して調整するのが実務上のコツです。
暴落時の行動ルール(チェックリスト)
- ルール1:積立は止めない。キャッシュフローが厳しければ金額のみ一時縮小。
- ルール2:配分乖離が大きい場合のみリバランスで対処。狼狽売りはしない。
- ルール3:余剰資金のスポット買いは「安全資産→リスク資産へ」の順に。
- ルール4:ニュースのノイズではなく、収益力・金利・相関に注目。
NISAでの実装ポイント
- コア株式はつみたて枠・成長投資枠を優先。信託報酬が極小のインデックスを選びます。
- 債券・ゴールド・REITは枠に余裕があれば組み入れ。枠が不足する場合は特定口座で。
- 枠消化は毎月の自動積立で計画的に。年初一括も可ですが、継続性を優先します。
具体的な買付例(毎月10万円のケース)
スタンダード配分(株60/債25/金10/REIT5)の場合:
- 全世界株またはS&P500:60,000円
- 先進国債券(ヘッジあり)+国内債券:25,000円
- 金インデックス:10,000円
- REIT:5,000円
ボーナス月に10万円を追加投資するなら、当時点の配分乖離が大きい資産へ重点配分します。
ケーススタディ:下落20%の局面でどう動くか
株式市場が-20%、債券±0%、金+5%、REIT-10%と仮定します。株式比率が目標60%→実際55%まで落ちたら、債券・金の一部を売って株式を買い増し、60%へ戻すのが基本です。これにより、回復局面での取りこぼしを抑えます。
よくある設計ミス
- 緩衝材ゼロ:株式100%は上昇相場に強い一方、下落時の行動ミスを誘発します。
- 相関の取り違い:同じ株式でも国・セクターが近いと同時に下がります。
- 過度な商品数:商品は原則1〜2本/資産で十分です。管理負荷は暴落時の敵です。
- ヘッジの逆効果:株式のヘッジ比率を高めすぎると、長期収益力が損なわれます。
実物資産の役割:ゴールドとREIT
ゴールドは通貨価値の希薄化や地政学ショックに対する緩衝材として有効で、株・債券と相関が低い傾向にあります。REITは賃料というインカムに支えられる一方、金利上昇局面で価格が重くなりがちです。配分は合計で15%以内を推奨します。
長期の勝ち筋:ルールの継続とコスト最小化
暴落耐性を高める最大のポイントは、ルールを継続することとコストを抑えることです。信託報酬が低いインデックス、売買回転を抑える設計、税制優遇の活用で、可処分リターンを高めます。
実践チェックリスト
- 投資可能額と生活防衛資金を分離したか。
- 配分(株・債・金・REIT)を紙に書いて見える化したか。
- つみたて設定を完了したか(コア資産を最優先)。
- リバランス基準(年1回 or ±5%)を決めたか。
- 暴落時の行動ルールを家族と共有したか。
Q&A
Q. どの配分が正解ですか?
A. 正解は人それぞれです。価格変動で眠れないなら株式比率を下げ、将来の収入見込みが高い若年層なら株式比率を上げるなど、ライフステージに合わせて調整します。
Q. ゴールドとREITは必須ですか?
A. どちらも必須ではありませんが、相関低減とインフレ耐性の観点で少量を組み入れる価値は高いです。
Q. 円安局面の対策は?
A. 株式の外貨建て比率を持つこと自体が対策です。債券はヘッジあり比率を高め、資産全体のボラティリティを抑えます。
出口戦略:取り崩し期の設計
取り崩し期は、①1〜2年分の生活費を短期債・現金同等で確保、②残りを上記配分で運用、③年1回のリバランスと同時に定率取り崩し(例:3〜4%)を実施、が基本線です。相場が悪い年は取り崩し率を微調整し、配分の復元を優先します。
まとめ
暴落耐性ポートフォリオは、相関の低い資産の組み合わせと機械的なリバランス、そして継続する仕組みで成り立ちます。今日決めた配分とルールを、明日も来月も淡々と守る。これが長期で報われる最短ルートです。
付録:証券口座での実装フロー(SBI証券・楽天証券のイメージ)
- 口座にログインし、NISA口座区分を確認します。
- 「投信積立」画面で、コア資産(全世界株 or S&P500)の毎月積立額を設定します。
- 債券・金・REITの積立も設定し、合計額が毎月の投資可能額と一致するように調整します。
- 配分表をメモに固定し、年1回のリバランス日をカレンダーに登録します。
- 暴落時の行動チェックリストを印刷し、家計の見える場所に貼っておきます。
付録:配分早見表(目標リスク別)
- やや低リスク:株45/債40/金10/REIT5
- 標準:株60/債25/金10/REIT5
- 高めの成長志向:株75/債15/金7/REIT3
付録:暴落時の心理対策
相場急落のニュースは強い感情を誘発します。アプリのプッシュ通知は最小化し、週1回だけ評価額を確認するなど、環境設計で行動ミスを減らします。積立とリバランスは自動化し、判断の回数を減らすことが暴落耐性を高めます。


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