「この投資、長期で持てば大丈夫」と言われても、暴落が来た瞬間に売ってしまう人は多いです。理由は単純で、自分の資金量・生活費・性格に対して、どれだけの下落に耐えられるかを数字で把握していないからです。投資で勝ち残る最大の武器は、銘柄選びでも予測でもなく、事前に決めたルールで平常運転を続けられる設計です。
そこで役に立つのが「投資シミュレーション」です。ここで言うシミュレーションは、難しいプログラミングや統計学を必須としません。Excelや電卓で十分です。重要なのは、未来を当てることではなく、悪い未来が来ても破綻しない設計を作ることです。
- 投資シミュレーションとは何か:当てる作業ではなく、壊れない仕組みを作る作業
- まずは現実を固定する:家計から「投資に回せるリスク枠」を決める
- ドローダウンを肌感覚に落とす:割合ではなく「円」で考える
- 資産配分のシミュレーション:株100% vs 株60%+債券30%+現金10%
- 積立のシミュレーション:暴落が“敵”ではなく“味方”に変わる条件
- リバランスの威力を数字で理解する:儲けの源泉は「戻り」ではなく「比率調整」
- 撤退ラインの決め方:損切りは“技術”ではなく“契約”
- 「やってはいけない」シミュレーション:初心者が破綻する3パターン
- 破綻パターン1:生活費を投資に突っ込む(現金がない)
- 破綻パターン2:レバレッジを“気分”で上げる
- 破綻パターン3:分散している“つもり”で、実は同じリスクを握っている
- 初心者向けの実践テンプレ:3ステップで自分専用シミュレーションを作る
- ステップ1:現状の棚卸し(資産と固定費)
- ステップ2:ショックシナリオを3つ作る
- ステップ3:行動ルールを固定する(積立・リバランス・撤退ライン)
- 「期待リターン」を入れるなら控えめに:勝ち筋はリターンではなく継続
- まとめ:投資シミュレーションは“防具”であり、初心者の最短ルート
投資シミュレーションとは何か:当てる作業ではなく、壊れない仕組みを作る作業
投資シミュレーションは、ざっくり言えば「もしこうなったら、資産と心理はどうなるか」を事前に試すことです。相場を当てにいく“予測”ではありません。むしろ逆で、当てなくても生き残るためにやります。
初心者が最初にやるべきシミュレーションは、次の3つです。
第一に、最大損失(ドローダウン)の把握。第二に、資産配分(株・債券・現金など)の違いが下落耐性にどう影響するか。第三に、ルール(積立・リバランス・撤退ライン)が結果をどう変えるか。これだけで、投資の「怖さ」が「管理できるリスク」に変わります。
まずは現実を固定する:家計から「投資に回せるリスク枠」を決める
シミュレーションで最初に決めるのは利回りではなく、家計です。ここが曖昧だと、どんな美しい戦略でも暴落で崩れます。
例として、あなたの生活費が月30万円、現金(生活防衛資金)が6か月分=180万円あるとします。投資資金が300万円で、毎月5万円積み立てるケースを考えます。このとき重要なのは、投資資金300万円が仮に大きく減っても、生活が破綻しない構造になっているかです。
ここで「投資で許容できる損失」を金額で決めます。たとえば、投資資金300万円が最大で90万円減る(-30%)までなら耐えられる、と決めます。耐えられないなら、資産配分を変えるか、投資額を下げるべきです。これは精神論ではなく、設計の問題です。
ドローダウンを肌感覚に落とす:割合ではなく「円」で考える
初心者が暴落で壊れる典型は、%で見て「まだいける」と思ってしまうことです。-20%は数字として軽く見えますが、300万円なら-60万円です。-35%なら-105万円。円に直すと、急に現実になります。
ここで簡易ルールを作ります。最大ドローダウン許容額(円)を決め、それを超える可能性があるなら「戦略を調整する」。この時点で、投資はかなり安全になります。
資産配分のシミュレーション:株100% vs 株60%+債券30%+現金10%
次に、資産配分の違いをシンプルに試します。過去の相場を完全に再現する必要はありません。初心者は「暴落時にどれだけ落ちるか」だけに焦点を当てれば十分です。
ここでは、次のようなショックシナリオを置きます。
シナリオA:株式 -40%、債券 +5%、現金 0%(リスクオフの典型を想定)
このとき、投資資金300万円をそれぞれの配分で置いた場合の損益はどうなるか。
株100%なら、300万円×(-40%)=-120万円。残高は180万円。精神的にかなり厳しいです。
一方で、株60%+債券30%+現金10%なら、株は180万円×(-40%)=-72万円、債券は90万円×(+5%)=+4.5万円、現金は30万円×0%=0円。合計は-67.5万円。残高は232.5万円。同じ暴落でも、損失が約半分になります。
ここで重要なのは「どっちが儲かるか」ではなく、あなたの許容損失(例:-90万円)に収まるかです。株100%は-120万円でアウト。60/30/10は-67.5万円でセーフ。この差は、暴落時の行動(売らない・積立継続・買い増し)に直結します。
積立のシミュレーション:暴落が“敵”ではなく“味方”に変わる条件
積立投資は、暴落で安く買えるというメリットが語られます。ただし、これは「積立を続けられる設計」があって初めて成立します。続けられないなら、暴落は敵です。
先ほどの例で、毎月5万円の積立を想定します。暴落が起きて株価が-40%になっている期間に積立を続けた場合、平均取得単価は下がります。問題は、あなたが心理的に耐えられるかです。
そこで、積立継続条件をルール化します。例えば、次のように決めます。
「生活防衛資金(現金180万円)を割らない限り、積立は止めない」
「投資資金の評価損が-30%を超えたら、積立額を半分にする(ただしゼロにはしない)」
こういうルールを先に作っておくと、暴落時に“気分”で判断しなくなります。人間は相場が荒れると、判断の質が落ちます。だから、荒れる前に決めます。
リバランスの威力を数字で理解する:儲けの源泉は「戻り」ではなく「比率調整」
リバランスは、資産配分が崩れたときに元の比率に戻す作業です。初心者は「上がったものを売るのはもったいない」と感じますが、リバランスの目的は利益確定ではありません。リスク量を一定に保つことです。
具体例を出します。株60%+債券30%+現金10%で300万円を運用していたとします。暴落で株が-40%になり、債券が+5%になった後、資産は次のようになります。
株:180万円→108万円
債券:90万円→94.5万円
現金:30万円→30万円
合計:232.5万円
この時点での比率は、株46.5%/債券40.6%/現金12.9%くらいまで崩れています。元の60/30/10に戻すには、債券や現金を一部売って株を買う必要があります。
つまり、怖い局面で株を買う行動が、ルールとして実行されます。これがリバランスの本質です。「暴落で買う」を感情に頼らず、比率で実現する仕組みです。
撤退ラインの決め方:損切りは“技術”ではなく“契約”
撤退ライン(損切りライン)は、個別株や短期トレードだけの話ではありません。長期投資でも必要です。ただし、長期投資の撤退ラインは「価格」よりも「生活」と「資産全体」に紐づけるべきです。
初心者がやりがちなのは、株価が下がったら「いつか戻る」と祈ることです。祈りは戦略ではありません。撤退ラインは、次の2種類に分けると決めやすいです。
(1)生活側の撤退ライン:生活防衛資金が一定水準を下回ったら、投資を縮小する。
(2)資産側の撤退ライン:総資産(投資+現金)が一定割合下がったら、リスク資産比率を落とす。
例えば、総資産(現金180万円+投資300万円=480万円)が、ピークから-15%(-72万円)下がったら、株比率を10%落とす、と決めます。-25%になったら、さらに10%落とす。こうすると、暴落が深くなるほど自動的に守りが強くなります。
この発想は、短期売買の損切りとは別物です。長期では「全部売る」より「リスク量を調整する」ほうが現実的なケースが多いからです。
「やってはいけない」シミュレーション:初心者が破綻する3パターン
ここからは失敗例を、シミュレーションで再現します。未来を当てるのではなく、破綻の型を先に潰します。
破綻パターン1:生活費を投資に突っ込む(現金がない)
投資資金300万円のうち、実は生活費の支払いに使う予定の100万円が混ざっているケースです。暴落で-30%になると、評価損は-90万円。手元現金が薄いと、固定費の支払いのために底値で売ることになります。結果は、投資ではなく「強制決済」です。
このパターンを避けるには、シミュレーションで「最悪の月」を作ります。例えば、家電故障で20万円の出費、仕事の都合で収入が2か月落ちる、同時に相場が-30%。こういう複合ショックを置いて、資金繰りが成り立つか確認します。投資はマーケット以前に、キャッシュフローのゲームです。
破綻パターン2:レバレッジを“気分”で上げる
含み益が出ると、人はリスクを過小評価します。例えば、300万円が330万円になっただけで「いける」と思い、信用取引や高レバETFに手を出す。ところが、-20%の下落が来た瞬間に、現物なら-66万円で済むところが、レバレッジで-120万円、-150万円と膨らみます。
レバレッジは悪ではありませんが、許容ドローダウンの枠内に収まるよう設計しないと事故ります。レバを使うなら、まず「レバありの最悪シナリオ」を作り、損失が許容額を超えないレバ倍率に固定します。相場が良い時にレバを上げ、悪い時に下げるのは、最悪の順張りです。
破綻パターン3:分散している“つもり”で、実は同じリスクを握っている
初心者が「分散しているから安心」と言って、実際は米国株、ハイテク株、暗号資産、成長株投信などを同時に持ち、結局は同じリスク(リスクオン)を重ね持ちしているケースがあります。相場が崩れると全部同時に下がり、分散が効きません。
これもシミュレーションで見抜けます。シナリオを「リスクオフ(株-40%、暗号資産-60%)」「インフレ再燃(債券-15%、株-20%)」「円高ショック(外貨建て-10%)」のように置き、保有商品の動きが似ているなら、それは分散ではなく“重複”です。
初心者向けの実践テンプレ:3ステップで自分専用シミュレーションを作る
ここまでの話を、今日から使えるテンプレに落とします。紙と電卓でもできます。
ステップ1:現状の棚卸し(資産と固定費)
現金はいくらか、投資はいくらか、毎月の固定費はいくらか。ここはごまかさないで、現実を置きます。投資の失敗は「見栄」から始まります。
ステップ2:ショックシナリオを3つ作る
おすすめは3つで十分です。
(a)株-40%の暴落
(b)株-20%+債券-15%(金利急騰)
(c)円高で外貨資産-10%(為替ショック)
これを、自分の資産配分に当てはめ、評価損を円で出します。次に、生活防衛資金を割らないか、積立を続けられるかをチェックします。
ステップ3:行動ルールを固定する(積立・リバランス・撤退ライン)
行動ルールは「もし〜なら、こうする」を明文化します。例えば、次のようにします。
・評価損が-15%:積立は継続、リバランスは半分だけ実施
・評価損が-25%:積立は継続、株比率を10%落とす(守りを強化)
・生活防衛資金を割る恐れ:積立額を減らし、現金比率を上げる
このルールの良い点は、相場観が不要なことです。相場観が外れても、資産が守られ、次のチャンスで復活できます。
「期待リターン」を入れるなら控えめに:勝ち筋はリターンではなく継続
最後に、利回りの話をします。ただし、ここが主役ではありません。期待リターンは控えめに置いたほうが良いです。強気の想定で作った計画は、少しの下振れで心が折れます。
例えば、年率5%で運用できたら、300万円は10年で約488万円(複利)になります。年率3%なら約403万円。数字の差はありますが、最大の差は「途中でやめない」ことです。年率が少し低くても、続けた人が勝ちます。逆に、年率10%を狙って破綻したら、ゼロです。
まとめ:投資シミュレーションは“防具”であり、初心者の最短ルート
投資は、当てた人が勝つゲームに見えますが、実際は「壊れなかった人が最後に勝つ」ゲームです。投資シミュレーションは、そのための防具です。最大損失を円で把握し、資産配分を調整し、積立・リバランス・撤退ラインを固定する。これだけで、暴落は“恐怖”から“想定内のイベント”に変わります。
まずは今日、あなたの資産と固定費を紙に書き、3つのショックシナリオを当てはめてください。数字が出た瞬間に、次に何をすべきかが見えてきます。


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