相場が崩れると、ニュースは悲観で埋まり、SNSは「終わった」「もう戻らない」で溢れます。そこで多くの個人投資家がやってしまうのが、損失を“確定”させる行動です。暴落は痛い。しかし、暴落で資産形成が破綻する最大の原因は、下落そのものよりも、恐怖による意思決定の質の低下にあります。
本記事は、暴落時の対応を「気合」ではなく手順として持つためのガイドです。投資初心者でも迷わないように、事前準備→暴落発生→暴落が深まる→回復局面、の順で具体的に説明します。新NISAやつみたて投資、インデックス投資を前提に、必要に応じて高配当・個別株にも触れます。
- 暴落とは何か:まず定義を固定する
- 暴落時の“勝ち筋”は3つしかない
- 平常時に必ず作っておく「暴落対応パッケージ」
- 暴落が来た直後にやるべき“最初の48時間”
- 暴落が深まる局面:追加投資は“ルール”がないと危険
- やってはいけない行動:暴落で資産形成が壊れる典型パターン
- 具体例:新NISA・つみたて投資での暴落対応の型
- リバランスの実務:初心者でもできる“簡単ルール”
- 暴落から回復する局面:ここで“やらかす”人が多い
- 暴落耐性を上げる“設計”:投資額・配分・商品選び
- チェック:あなたの暴落対応は“文章化”されているか
- まとめ:暴落で勝つのではなく、暴落で壊れない
- 補足:暴落時の“資金繰り”を強くする具体策
- 補足:高配当・分配金狙いの人が暴落で見るべき指標
暴落とは何か:まず定義を固定する
暴落は感情で呼ぶと判断が揺れます。先に定義を固定しましょう。一般に「暴落」は下落率で語られますが、個人投資家の意思決定に必要なのは次の3つです。
①価格の下落(マーケットの変化)
指数が短期間に大きく下がる状態です。ここで重要なのは、「下落は必ず発生する」という前提を受け入れることです。インデックス投資は、上昇局面だけを都合よく取り出せません。下落とセットで平均リターンを取りに行きます。
②流動性の逼迫(自分のキャッシュの問題)
暴落局面で最も危険なのは、投資商品そのものではなく、生活費のために売らされる状況です。相場が安い時に売れば損失が確定し、回復の果実を取り逃します。つまり暴落耐性は「生活防衛資金」の厚さで決まります。
③心理の崩壊(自分の意思決定の問題)
相場は下がるほど情報が過激になります。人間の脳は損失を強く嫌うため、合理的な行動よりも「痛みを止める行動」を選びがちです。暴落時のルールは、恐怖の中で作るのではなく、平常時に作って固定します。
暴落時の“勝ち筋”は3つしかない
暴落で資産形成を崩さないための勝ち筋は、実はシンプルです。やるべきことは次の3つに集約されます。
1) 売らされない(生活防衛資金の確保)
生活防衛資金が薄いと、下落局面で「売らないと生活できない」状態に追い込まれます。これは投資戦略の失敗ではなく、家計設計の失敗です。まずは売らされない状態を作る。これが最優先です。
2) ルール通りに積み立てる(時間分散の継続)
積立投資の強みは、価格が高い時も安い時も機械的に買うことで、平均購入単価をならす点にあります。暴落は怖いですが、積立投資家にとっては「同じ金額で多く口数を買える期間」でもあります。ここで積立を止めると、戦略の中心を自分で壊します。
3) 余力があるならリバランスする(比率を戻す)
下落局面では株式比率が自然に下がり、現金・債券の比率が相対的に上がります。目標配分があるなら、下落で崩れた比率を戻す“リバランス”が合理的です。これは「当てにいく売買」ではなく、ポートフォリオを設計通りに戻す作業です。
平常時に必ず作っておく「暴落対応パッケージ」
暴落対応は、相場が荒れてから作っても遅いです。平常時に次の3点を“文章化”しておくと、暴落での判断ブレが大幅に減ります。
①生活防衛資金:いくら必要かを数字で決める
最も現実的な目安は「生活費の6か月分」です。自営業・フリーランス・家族持ち・住宅ローンありなど不確実性が高い場合は12か月分でも過剰ではありません。重要なのは、根拠を持って自分の数字を決めることです。
例えば月の固定費(家賃・ローン、保険、通信、食費、教育費、最低限の生活費)が30万円なら、6か月で180万円、12か月で360万円です。これを現金・普通預金・短期の安全資産で確保します。投資口座に置くのではなく、取り崩しの摩擦が少ない場所に置いてください。
②積立の“継続条件”と“停止条件”を分けて書く
積立投資でよくある失敗は、暴落時に「積立を止める」ことです。止めたくなる気持ちは理解できますが、積立の優位性は継続にあります。ただし、例外は存在します。例外は家計の緊急事態です。
継続条件は基本的に「家計が正常であること」。停止条件は「生活防衛資金が崩れた」「収入が途絶えた」「大きな出費が確定した」などです。相場のニュースを停止条件に入れないことがポイントです。下落は織り込み済みであり、停止理由にすると戦略が機能しません。
③売却ルール:売るのは“必要になった時”だけ
長期の資産形成では、売却の理由は基本的に2つです。1つは資金が必要になった、もう1つはリスクが過大になったです。価格が下がったから売る、というルールは最悪です。なぜなら安い時に売ることを正当化してしまうからです。
例えば「住宅購入の頭金に充てる」「子どもの進学費」「独立資金」など、期限のある支出は、数年前からリスク資産比率を下げて現金化を進めます。暴落直前に必要になって慌てて売る、という状況を避けるのが本質です。
暴落が来た直後にやるべき“最初の48時間”
暴落が始まった瞬間は、情報の洪水で判断が鈍ります。ここは「最初の48時間は新規の判断をしない」と決めるだけで、致命傷を避けられます。その上で、やることは次の順番です。
ステップ1:口座ではなく家計を見る
まず通帳・家計簿・固定費を確認します。投資は家計の上に乗る行為で、家計が壊れると投資は続きません。「今後3〜6か月で資金ショートする可能性があるか」を冷静に評価してください。ここで不安があるなら、相場よりも先に家計を守る施策(支出削減、収入確保、資金繰り)です。
ステップ2:積立設定の“自動”を確認する
次に確認するのは積立の自動設定です。暴落時に人間が操作すると、感情が入ります。自動で積立が継続される状態を保ちましょう。積立金額を下げる場合も、相場の下落ではなく、家計の事情に限定してください。
ステップ3:保有銘柄の“役割”を確認する
あなたの保有資産には役割があります。例えば「全世界株インデックスは長期成長のコア」「現金は生活防衛」「債券はリスク緩衝」「ゴールドは危機時の分散」などです。暴落時にやるべきは、役割の確認であって、未来予測ではありません。役割が曖昧な銘柄だけが、暴落時に手放したくなります。
暴落が深まる局面:追加投資は“ルール”がないと危険
下落が続くと「ここが底だ」「今買わないと機会損失」と煽る情報が増えます。追加投資(スポット買い)は、うまくいけばリターンが上がりますが、やり方を誤ると資金が尽き、さらに下で身動きが取れなくなります。初心者は特に、追加投資を“気分”でやらないでください。
追加投資をするなら「回数」と「金額」を先に決める
最も実用的なのは、追加投資を分割する方法です。例えば「余力30万円があるなら、10万円×3回に分ける」「毎月の積立とは別枠で、四半期に1回だけ」など、回数と金額を固定します。底当てはできません。できない前提で設計します。
“買い増しの条件”を値動きではなく比率で決める
値動きで買い増すと、ニュースに振り回されます。代わりにポートフォリオ比率で決めると、行動が安定します。例として、株式比率の目標が70%なのに暴落で60%まで下がったら、現金や債券から株へ少し戻す。これは「予測」ではなく「設計の復元」です。
為替を理由に止めない:円安・円高は長期では読めない
米国株や全世界株を買うと「為替リスク」が話題になります。暴落時に円高が進むと、円ベースの下落が大きく見えて怖くなります。しかし為替は短期で上下し、長期では読みづらい。為替を理由に戦略を切り替えると、売買が増え、コストと失敗が増えます。
対策はシンプルで、(1)投資期間を長く取る、(2)円資産(生活防衛資金)を厚くする、(3)資産クラスを分散する、の3つです。為替ヘッジを使う場合も、短期の当て物ではなく、目的(例えば円で使う予定が近い資金)に沿って限定的に使うのが現実的です。
やってはいけない行動:暴落で資産形成が壊れる典型パターン
初心者が暴落でやりがちな「地雷行動」を、なぜ危険かまで含めて具体的に説明します。ここを避けるだけで結果は大きく変わります。
①含み損に耐えられず“全部売る”
最大の失敗です。売った瞬間に損失が確定し、回復局面で買い直せないまま時間が過ぎます。さらに「売ったのにまだ下がる」「売ったら上がる」という心理的ダメージが残り、次の投資判断も歪みます。暴落時の売却は、資金が必要な場合に限る。これを徹底してください。
②レバレッジを上げて一発逆転を狙う
暴落局面はボラティリティが上がり、レバレッジ商品(信用取引、レバETF、FXの過剰ロットなど)は振れが激しくなります。短期で大きく勝つ可能性もありますが、多くの場合は資金管理が崩れて退場します。資産形成が目的なら、暴落局面でギャンブルに寄せないことです。
③情報を浴び続けて“判断疲れ”でミスをする
暴落時は情報が強い言葉になります。動画のサムネは煽り、SNSは極端な意見が増えます。情報摂取は必要ですが、過剰になると判断疲れが起き、衝動売買を誘発します。対策は、情報源と閲覧回数を制限することです。例えば「週2回だけ確認」「一次情報(指数・金利・為替)だけ見る」など、ルール化しましょう。
具体例:新NISA・つみたて投資での暴落対応の型
ここでは、最も利用者が多いであろう新NISA(つみたて投資枠+成長投資枠)を前提に、暴落時の意思決定の型を示します。
ケースA:つみたて投資枠で全世界株を毎月積立
このケースの最適解はほぼ固定です。家計が正常なら、積立は継続。相場を見て積立額を上下させない。暴落で下がった価格は、時間分散で取りに行くための材料です。迷いが生まれるのは、積立額が家計に対して過大で、含み損が心理的限界を超えているときです。つまり問題は投資額の設計にあります。
対策は、次のいずれかです。(1)生活防衛資金を厚くして売らされない、(2)積立額を家計に対して妥当な水準に下げる(ただし下落を理由にしない)、(3)株式比率を少し下げ、債券・現金を組み合わせる。いずれも、目的は「継続可能性」を高めることです。
ケースB:成長投資枠で米国ETFや個別株を保有
個別株は企業リスクがあるため、インデックスとは扱いが変わります。暴落で全体が下がっているのか、企業固有の問題なのかを分けて考えます。例えば決算でビジネスモデルが崩れた、過剰な希薄化が続く、会計不祥事が発生した、などは“価格の問題”ではなく“事業の問題”です。この場合、損切りや入れ替えの検討は合理的になり得ます。
一方、単に市場全体がリスクオフで下がっているだけなら、売却は慎重に。特に高配当株は、配当が維持されるかが重要です。暴落で株価が下がっても、配当が維持されるなら長期のインカム設計は崩れません。ただし減配リスクもあるため、配当目的なら「分散(銘柄・セクター・国)」を徹底します。
リバランスの実務:初心者でもできる“簡単ルール”
リバランスは、難しく感じますが本質は比率の調整です。初心者が実装しやすいルールを提示します。
ルール1:年1回だけ、誕生月などに固定する
頻繁なリバランスは不要です。年1回で十分機能します。誕生月、年末、税制の切り替え時など、実行しやすい時期に固定します。暴落時に例外的に実行する場合でも、慌てて何度もやらないことです。
ルール2:ズレが一定以上なら動かす
目標株式比率が70%なら、例えば「±5%ずれたら調整する」と決めます。暴落で株が60%まで落ちたら、現金や債券から株へ少し戻す。逆に急騰で80%になったら株を売るか、新規資金を債券・現金側に回す。こうすると、自然に安い時に買い、高い時に抑える構造ができます。
ルール3:売却ではなく“新規資金で調整”を優先する
売買の回数を減らすために、毎月の積立や追加資金で比率を戻す方法が現実的です。例えば株が下がって株式比率が低下したら、しばらく株の積立額を増やして比率を戻す。売却を伴わないため心理的負担が少なく、初心者向きです。
暴落から回復する局面:ここで“やらかす”人が多い
暴落が落ち着き、回復が始まると、次は別の罠があります。「戻ってきたから安心してリスクを上げる」「含み損が消えたから売る」「遅れたから取り返すために追いかける」などです。回復局面は、暴落よりも冷静さが必要です。
含み損が消えた瞬間に売らない
多くの人が、含み損がゼロに戻った瞬間に「やっと助かった」と売ります。しかしそれは、長期戦略を自分で放棄する行為です。売る理由は「必要になったから」「リスクが過大だから」です。損益がゼロかどうかは、売却理由になりません。
買い戻しの難しさを理解する
暴落で売った人は、回復局面で買い戻せません。「また下がるかも」「もう少し待てば安く買える」と思い続け、結果的に高いところで追いかけるか、永遠に現金のままになります。これが暴落の最大の罠です。だから売らない。売らないために生活防衛資金を厚くする。順番が逆になってはいけません。
暴落耐性を上げる“設計”:投資額・配分・商品選び
暴落耐性はメンタルだけでなく設計で決まります。以下は、初心者が現実的に取り入れやすい設計の考え方です。
投資額:睡眠が崩れるなら過大
暴落で眠れない、仕事に支障が出る、毎日口座を見てしまう。こうなるなら投資額が過大です。原因は商品ではなく金額です。積立額を下げるのは敗北ではなく、戦略の最適化です。継続できない戦略は、どれだけ理論が正しくても意味がありません。
配分:株100%が合う人は少ない
長期では株式の期待リターンが高いと言われますが、全員に株100%が最適とは限りません。特に初心者は、暴落時に売らないために、現金や債券を組み合わせた方が結果が良くなることがあります。リターンの最大化よりも、継続可能性の最大化が重要です。
商品:シンプルなコアを持つ
暴落時に迷わないためには、コア資産をシンプルにするのが有効です。例えば全世界株インデックスをコアにし、サテライトで少額のテーマ投資や高配当を入れる。コアをいじらない、というルールがあるだけで、暴落時の迷いは激減します。
チェック:あなたの暴落対応は“文章化”されているか
最後に、暴落に備えるための確認項目を示します。項目自体は短いですが、各項目をあなたの言葉で文章化しておくと、暴落時の行動が安定します。
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生活防衛資金はいくらで、どこに置くか。「〇か月分」「〇円」「口座はここ」と具体的に書けますか。
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積立は何があっても継続するか、停止条件は何か。相場のニュースではなく家計の条件で書けていますか。
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追加投資をするなら回数と金額はどうするか。底当てを狙わない設計になっていますか。
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リバランスの頻度とズレの許容範囲は。年1回、±5%など、機械的にできる形ですか。
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売却はいつ、何の目的で行うか。「必要になったら」「リスクが過大なら」という原則が守れますか。
まとめ:暴落で勝つのではなく、暴落で壊れない
暴落時に大きく儲けることを狙うと、運とレバレッジのゲームになりやすい。個人投資家が再現性を持って勝つ方法は、暴落で壊れないことです。売らされない家計、継続できる投資額、シンプルなコア、固定されたルール。この4つが揃うと、暴落は「恐怖」から「予定されたイベント」に変わります。
相場の未来は読めません。しかし、あなたの行動は設計できます。平常時に手順を作り、暴落時はその手順に従う。これが、意思決定の質を落とさずに資産形成を続けるための最短ルートです。
補足:暴落時の“資金繰り”を強くする具体策
暴落で最も効くのは、投資テクニックではなく資金繰りです。ここでは、誰でも実行できる現実的な改善策を挙げます。重要なのは、相場が荒れている時に「売る」以外の選択肢を増やすことです。
固定費を1つだけ削ると、暴落耐性は一段上がる
固定費は、削った瞬間から毎月のキャッシュフローを改善します。たとえば通信費、サブスク、保険、住宅関連費など、1つでも見直すと「投資を続ける余力」が増えます。暴落時は心理的に節約がしやすい時期でもあるので、相場ではなく生活側でコントロールする意識を持つとブレません。
現金の置き場を分ける:生活用と投資用を混ぜない
初心者が混乱する原因は、生活資金と投資余力が同じ口座にあることです。口座を分けるだけで、暴落時の誤操作(売却して生活費に回す、積立を止める)が減ります。生活防衛資金は“触らない資金”として別管理し、投資口座の残高は上下して当然、という前提を作ってください。
大型支出の予定がある人は“先にリスクを落とす”
車の買い替え、引っ越し、住宅購入、進学費など、1〜3年以内に確定的な支出がある場合は、リスク資産に置くのは合理的ではありません。暴落はいつ来るか分からないためです。期限のある資金は、利回りよりも確実性を優先し、早めに現金化しておく方が、結果として投資全体が安定します。
補足:高配当・分配金狙いの人が暴落で見るべき指標
高配当株や高配当ETFは、暴落で株価が下がると利回りが上がって見えます。しかし利回りは“価格”で動く一方、配当は“企業の稼ぐ力”で決まります。初心者が見るべきは、利回りの高さよりも「配当の持続性」です。
配当の持続性は“利益とキャッシュ”で決まる
企業の配当は、最終的にはキャッシュフローから出ます。暴落が景気後退を伴う場合、利益が落ち、配当が減る(減配)ことがあります。高配当狙いで集中投資すると、暴落で株価も配当も同時に傷むリスクがあります。対策は、銘柄・セクター・国の分散と、配当だけに依存しない設計です。
分配金は“取り崩し”の可能性もある
投資信託やETFの分配金は、必ずしも利益から出るとは限りません。場合によっては元本を取り崩して分配することもあり、見かけの利回りが高くても資産が増えないことがあります。暴落時に分配金だけを見て安心するのは危険です。トータルリターン(値上がり+分配)で判断してください。


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