相場が急落すると、多くの人が「何をすればいいか分からない」状態に陥ります。ところが、暴落でリターンが決まる最大要因は“銘柄の当たり外れ”よりも、暴落時の行動です。平常時にどれだけ良い商品を選んでいても、暴落でパニック売りをすると、長期投資の優位性は消えます。
本記事では、株・投資信託・ETF・暗号資産など幅広い資産に共通する「暴落対応のプレイブック(行動ルール)」を、準備→当日→回復の3段階で具体的に解説します。特に、新NISAやiDeCoなどの長期積立をしている個人投資家が、意思決定の質を上げるための“判断基準”に焦点を当てます。
- 暴落とは何か:数字ではなく「行動が壊れる局面」
- 暴落対応は3段階で設計する:準備→当日→回復
- 段階2:暴落当日の対応(やることは少ないほど強い)
- 積立停止はいつ合理的か:やってよい停止、やってはいけない停止
- 具体例:暴落時に迷わないポートフォリオ3パターン
- 為替リスクの扱い:暴落と円高・円安は別問題
- 暗号資産の暴落対応:株式より“ルールの厳格さ”が必要
- 暴落でやってはいけない行動:最も損失を増やす3つ
- 回復局面の落とし穴:上がり始めてからが本番
- 実践:今日から作れる「暴落対応プレイブック」テンプレ
- まとめ:暴落対策の本質は「事前に意思決定を終わらせる」こと
- ケーススタディ:過去の急落で「やってよかった/まずかった」行動
- 新NISA・iDeCoをしている人向け:暴落時の“制度別”の考え方
- 売却が必要になったときの「順序」:迷わないための優先順位
暴落とは何か:数字ではなく「行動が壊れる局面」
一般に暴落は「短期間での大きな下落」を指しますが、実務上の問題は下落率よりも、行動が壊れるほどのストレスが生じることです。たとえば、-10%はニュースになる程度ですが、-20%を超えると「積立を止めたい」「全部売りたい」「取り返したい」という衝動が出やすくなります。ここでミスが起きます。
暴落局面には典型的な罠があります。
①情報過多:SNS・ニュース・YouTubeが一斉に不安を煽る。
②時間軸の短期化:本来10年単位の計画が、1日単位の損益で揺らぐ。
③損失回避の暴走:損失は利益の2倍以上痛く感じるため、合理性が崩れる。
対策はシンプルで、事前にルールを作り、暴落時はルールに従うことです。ルールがないと、その場の感情がルールになります。
暴落対応は3段階で設計する:準備→当日→回復
暴落対応を「その時に考える」のは最悪の設計です。暴落はストレスで判断力が落ちる前提で、あらかじめ3段階の手順に落とし込みます。
段階1:暴落前の準備(平常時にしかできない)
準備の目的は、暴落時に売らないための土台を作ることです。ここをサボると、暴落時の選択肢が「売る」しか残りません。
生活防衛資金:暴落耐性の本体
暴落で売ってしまう最大理由は「資金が必要」だからです。投資が悪いのではなく、生活と投資が混ざっているのが問題です。生活防衛資金は“投資戦略”ではなく“意思決定の防波堤”です。
目安は、会社員なら生活費の6か月分、自営業や変動収入なら12か月分を現金・普通預金・短期国債系の安全資産で確保します。これにより、暴落で資産が減っても生活が壊れません。生活が壊れないと、投資判断も壊れません。
リスク許容度を「数字」と「行動」で二重に定義する
多くの人は「リスク許容度=年齢や年収」と考えがちですが、それだけでは足りません。重要なのは、下落時に耐えられる行動上の限界です。次の2つで定義します。
(A)数字の許容度:資産が何%下がっても、生活に支障がないか。
(B)行動の許容度:何%下がったら、積立停止・一部売却・全売却を考えるか。
(B)を曖昧にしていると、暴落時に「なんとなく怖い」で動きます。目安として、インデックス中心の長期投資なら「-20%でも積立継続」「-30%でも売却しない」など、“やらないこと”を先に決めるのが効きます。
ポートフォリオの「役割分担」を言語化する
分散投資が機能しない人の特徴は、各資産の役割が曖昧なことです。たとえば、株式・債券・ゴールドを持っていても、暴落時に全部怖くなって全部売るなら分散は意味がありません。役割を文章で決めます。
株式(全世界株/S&P500):成長のエンジン。暴落は前提。
債券:価格変動を抑える緩衝材。利回りより“下落局面の粘り”。
ゴールド:金融不安・通貨不安の保険。相関の低下を期待。
現金:生活の盾+暴落時の追加投資の弾。
役割が明確だと、暴落時に「株は下がって当然」「債券は揺れを抑える役」「現金は生活の盾」と整理できます。整理できると、売らない判断がしやすくなります。
リバランスのルールを先に固定する(例:年2回+乖離幅)
暴落時に最も再現性が高い改善策が、ルールベースのリバランスです。やり方は2段階で十分です。
ルール例:
・定期:年2回(6月・12月)に比率を元に戻す。
・例外:資産配分が目標から±5%(または±10%)以上ずれたら臨時リバランス。
これなら、暴落時に株式比率が下がれば「株を買い戻す」、逆に急騰で株式比率が上がれば「株を売って戻す」という、感情と逆の行動が自動化できます。
積立設定は「二重化」する:通常積立+暴落用の追加ルール
積立投資は強いですが、暴落時に“追加投資の判断”が曖昧だと、結局動けません。そこで、積立を二重化します。
通常積立:毎月定額(新NISAのつみたて枠など)。
暴落ルール積立:指数が直近高値から-15%/-25%/-35%の段階で、追加投入する金額を事前に決める。
例として、月5万円積立の人が、別枠で「-15%で10万円、-25%で10万円、-35%で10万円」と決めておく。重要なのは、暴落時に“勇気”に頼らないことです。勇気は枯れます。ルールは枯れません。
段階2:暴落当日の対応(やることは少ないほど強い)
暴落当日は、やることを増やすほど失敗します。原則は「確認→遮断→実行」の3ステップです。
ステップ1:まず確認するのは“生活”であって“相場”ではない
最初に確認すべきは、含み損ではなく次の3点です。
(1)生活防衛資金は確保できているか
(2)近い将来に大きな出費はあるか(引っ越し、学費、車検など)
(3)収入の安定性に変化がないか(勤務先、案件、健康)
この3点が問題なければ、暴落は“価格の揺れ”に過ぎません。相場を見て不安になる前に、生活が安全だと確認しておく。これだけで、行動の質が上がります。
ステップ2:情報遮断の設計(見る時間を決める)
暴落時は情報が中毒になります。見れば見るほど不安が増え、売りたくなります。対策は「見ない」ではなく「見る時間を固定する」です。
例:平日は朝と夜の2回だけ(各10分)。SNSはアプリ削除か通知オフ。これで“感情の揺れ”が大きく減ります。相場は動きますが、あなたの行動は固定できます。
ステップ3:実行するのは事前ルールだけ
暴落時の意思決定は、次の順番にすると迷いません。
①積立は継続する(原則):長期積立の本体。
②リバランス条件を確認:乖離幅ルールに該当するか。
③暴落ルール積立を実行:段階投入の条件に該当するか。
④それ以外は何もしない:新しい判断を増やさない。
特に、暴落時に「今は危ないから積立停止」とすると、その後の再開タイミングが分からず、結果として高値で再開しがちです。停止は“判断”が必要で、判断は暴落時に最も壊れます。
積立停止はいつ合理的か:やってよい停止、やってはいけない停止
結論から言うと、停止が合理的なのは「生活の安全が崩れる」場合だけです。相場の下落が理由の停止は、長期投資の設計と矛盾します。
停止が合理的なケース(生活が優先)
・収入減や失業で、キャッシュフローが赤字になる
・生活防衛資金が目標を下回り、数か月以内に補填が必要
・近い将来の確定出費(学費、医療費、住宅関連)が迫っている
この場合、投資を守るために生活を壊すのは本末転倒です。いったん積立を止め、生活防衛資金を回復させてから再開する方が合理的です。
停止が危険なケース(感情が理由)
・ニュースが怖い
・含み損が大きい
・周りが売っている
・“もっと下で買い直す”つもり
最後の「もっと下で買い直す」は、タイミング投資に変わります。これは一見賢く見えますが、実際には“買い戻しが遅れて機会損失”になりやすい。暴落の底は後からしか分かりません。
具体例:暴落時に迷わないポートフォリオ3パターン
パターンA:インデックス一本(全世界株 or S&P500)+現金
もっともシンプルで継続しやすい型です。たとえば、投資資産の100%を全世界株の投資信託にし、生活防衛資金を別に現金で確保する。暴落時の行動は「積立継続+追加ルールだけ」です。判断が少なく、初心者ほど強い型です。
パターンB:株式70%・債券20%・ゴールド10%
値動きの緩和を狙う型です。債券とゴールドは万能ではありませんが、株と異なる動きをする局面があり、心理的に助かります。暴落時は株式比率が下がるので、リバランスで株を買い戻す設計にします。ここでも重要なのは「事前ルール」です。
パターンC:株式60%・現金20%・債券20%(“弾”重視)
暴落で追加投入したい人向けです。現金を厚くすることで、暴落時に買い増しやすくなります。ただし、現金比率が高いほど平常時の期待リターンは下がりやすいので、目的を明確にして採用します。「暴落時に動ける」ことを買っている、と言語化しておくと迷いません。
為替リスクの扱い:暴落と円高・円安は別問題
米国株や全世界株は外貨建て資産の比率が高く、円高になると円ベースの評価額が下がります。暴落局面では、株安と円高が同時に来ることもあります。
ここで大事なのは、為替を“当てにいかない”ことです。為替ヘッジはコストがかかり、長期では不利になることもあります。初心者が取りやすい方針は次のどちらかです。
方針1:為替は受け入れる(長期でならす)
方針2:国内資産(債券・現金)を増やし、総合的な変動を抑える
「円高が怖いから全部売る」は、暴落時に起きやすい誤作動です。為替は短期で読みにくく、暴落時はなおさらです。
暗号資産の暴落対応:株式より“ルールの厳格さ”が必要
暗号資産はボラティリティが高く、-50%や-70%も現実的に起こり得ます。長期で保有するなら、株式以上にルールが必要です。
初心者の基本は、ポートフォリオの少額枠(例:総資産の1〜5%)に限定し、暴落時も生活に影響しないサイズにすること。ここを守れば、暴落時の判断は「枠の中で積立継続(または定期買い)」に固定できます。逆に、サイズが大きいと精神が耐えず、最悪のタイミングで投げやすい。
暴落でやってはいけない行動:最も損失を増やす3つ
(1)損失を取り返すためのレバレッジ:焦りのレバレッジは破壊力が高い。
(2)根拠のないナンピン:下がった理由を理解しない追加投入は危険。
(3)ルールなしの損切り・買い戻し:売った後の再エントリーが最大の難所。
暴落時に“何かしなければ”という衝動が出ますが、勝ち筋は「余計なことをしない」側にあります。行動を減らすために、事前ルールがあります。
回復局面の落とし穴:上がり始めてからが本番
暴落より難しいのが回復局面です。なぜなら、多くの人が「まだ怖い」と感じ、買い戻しが遅れるからです。積立を止めた人が再開できないのもこの局面です。
回復局面のルールは、次の2つで十分です。
①積立は止めない(止めたなら再開日を固定する)
②リバランスは機械的に
“景気が良くなったら買う”は、結局高値で買うことになりがちです。積立の本質は、景気判断を捨てることです。
実践:今日から作れる「暴落対応プレイブック」テンプレ
最後に、あなたの状況に合わせて書き換えられるテンプレを提示します。紙やメモアプリに貼り付けて使ってください。
(1)生活の安全
・生活防衛資金:____か月分(現金/預金/短期商品)
・近い確定出費:____(金額・時期)
・収入リスク:____(最悪ケース)
(2)暴落時に“やらないこと”
・下落が理由で全売却しない。
・損失回復目的のレバレッジは使わない。
・SNSをだらだら見ない(1日____分まで)。
(3)積立ルール
・通常積立:毎月____円(継続)
・追加ルール:-15%で____円、-25%で____円、-35%で____円
(4)リバランスルール
・定期:年____回(____月、____月)
・例外:目標比率から±____%以上で臨時実行
(5)停止が許される条件
・生活防衛資金が____か月未満に低下したら停止。
・停止したら、____(条件)達成で必ず再開する。
まとめ:暴落対策の本質は「事前に意思決定を終わらせる」こと
暴落で差がつくのは、知識量ではなく設計です。生活防衛資金、リスク許容度、役割分担、リバランス、積立ルール。これらを文章にしておけば、暴落時に“考える量”が減り、ミスが減ります。
相場はコントロールできませんが、行動はコントロールできます。暴落は避けられません。避けられないなら、暴落で壊れない仕組みを先に作っておく。これが個人投資家にとって最も実用的な戦略です。
※投資には価格変動と元本割れのリスクがあります。自分の資金状況と目的に合わせて、無理のない範囲で検討してください。
ケーススタディ:過去の急落で「やってよかった/まずかった」行動
ケース1:リーマンショック級(長期の下落)で効くのは“継続の仕組み”
大きな危機では、下落が長期化しやすく、「何年も戻らないかもしれない」という感覚が最大の敵になります。この局面で効くのは、マーケット予測ではなく、毎月の積立を“生活費として先取り”するように自動化し、意思決定から切り離すことです。積立設定を給与日に合わせる、引き落とし口座を分けるなど、地味な仕組みが勝ちます。
反対にまずいのは、下落の途中で「一度全部売って、落ち着いたら買い戻す」と決めてしまうことです。落ち着く条件が曖昧なまま売ると、買い戻しが先延ばしになり、回復初動を取り逃しやすい。結果として、下落は取るのに上昇は取れない、という最悪の形になります。
ケース2:コロナショック級(急落→急回復)で起こる“再開できない問題”
急落の後に急回復する局面では、積立停止のダメージが大きくなりがちです。停止した人は、回復局面で「もう高い」「また下がる」と感じて再開を先送りします。ここで重要なのは、停止した場合でも再開日を固定しておくことです。たとえば「停止しても3か月後の1日に必ず再開」など、機械的な条件を作ります。条件がない再開は、ほぼ永遠に遅れます。
ケース3:インフレ局面(株も債券も揺れる)での勘違い
インフレ局面では、株と債券が同時に下がる局面もあります。ここで「分散が役に立たない」と判断して、設計を放棄するのは危険です。分散は“いつも勝つ”ものではなく、“破壊的な損失を避ける”ためのものです。たとえば現金や短期資産を厚くしておけば、生活と投資を分離できますし、リバランスの弾にもなります。
新NISA・iDeCoをしている人向け:暴落時の“制度別”の考え方
新NISA:最優先は継続、売却は「枠の再利用」を前提に考える
新NISAは非課税のメリットが大きい反面、暴落時の売却は心理的に起きやすい。ここでのポイントは、売却判断を“損益”ではなく“計画”で行うことです。たとえば、NISA口座の資産は「10年以上使わない長期枠」と割り切り、暴落時に生活費に充当しない。どうしても資金が必要なら、まずは課税口座や現金から動かす、という売却順序を決めておくとブレません。
iDeCo:暴落のストレスを減らす最短手は“商品を増やしすぎない”
iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、短期の売買判断と相性が悪い制度です。逆に言えば、暴落に対して最も“動かなくてよい”枠でもあります。ここでありがちなミスは、商品を増やしすぎて管理が複雑化し、暴落時に何を信じていいか分からなくなることです。初心者は、国内外株式の低コストインデックスを1〜2本に絞るだけで、暴落時の意思決定コストが大幅に下がります。
売却が必要になったときの「順序」:迷わないための優先順位
暴落時にどうしても資金が必要になった場合、売却の順序を事前に決めておくと、後悔が減ります。一般的には次の順が考えやすいです(あなたの状況で調整してください)。
①現金(余剰分):まずは投資を売らずに済むか確認。
②課税口座の一部:損益や再投資計画を見ながら最小限。
③特定目的の資産:目的が終わった資産から整理。
④NISA/iDeCoは最後:非課税メリットや制度制約を踏まえ、最終手段として扱う。
順序が決まっていないと、その場の感情で「一番怖いもの」を売ってしまい、長期の計画が崩れます。順序は“後悔の削減装置”です。


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