短期国債と株価指数を組み合わせた「相場転換ヘッジ」戦略

投資戦略

相場が順調に上がっているときほど、「そろそろ天井ではないか」「急落が来たらどうしよう」という不安が出てきます。その一方で、怖がって株式をすべて売ってしまうと、その後の上昇を取り逃してしまうかもしれません。このジレンマを和らげるための考え方の一つが、「短期国債(T-Bills)と株価指数を組み合わせた相場転換ヘッジ戦略」です。

この戦略では、株式を全面的にやめるのではなく、相場の温度感に応じて一部を短期国債に逃がすことで、ドローダウンを抑えながら株式の上昇も狙います。初心者の方でも、ルールをシンプルにすれば十分に実践可能なアプローチです。

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短期国債(T-Bills)とは何か

短期国債(T-Bills)は、政府が発行する満期1年以内程度の短期の国債です。一般的には元本と利払いの安全性が高く、価格変動も長期国債に比べて小さいという特徴があります。特に信用力の高い国の短期国債は、「ほぼ現金に近い安全資産」とみなされることが多いです。

短期国債に投資する方法としては、個人向けに販売される短期国債そのもののほか、短期国債に分散投資する投資信託やETF、マネー・マーケット・ファンド(MMF)などがあります。これらは、値動きが比較的小さい一方で、金利水準が高い局面では預金よりも高い利回りを期待できることがあります。

重要なポイントは、「大きく儲けるための商品」ではなく、「リスクを抑えつつ利息を受け取るための商品」として位置づけることです。株価指数と組み合わせることで、ポートフォリオ全体の値動きを安定させるクッションの役割を果たします。

株価指数との相性:なぜヘッジに使えるのか

株価指数(例として、米国株全体や日本株全体を対象とした指数)は、長期的には右肩上がりが期待される一方で、短期的には大きな乱高下があります。特に、金利や景気指標、地政学リスクなどのニュースで、一時的に大きな下落が起こることがあります。

一方で短期国債は、株価指数とは性質が異なり、金利水準や政策動向に影響を受けるものの、株価急落局面で同じように大きく下がることは比較的少ない資産です。そのため、株価指数と短期国債を組み合わせると、株価が大きく下落したときに、短期国債部分がポートフォリオ全体の損失を緩和してくれる効果が期待できます。

また、短期国債は流動性が高い商品が多く、売却してすぐに株式に戻すことも比較的容易です。「いつでも株式に戻せる待機資金」としての性格を持たせられる点も、相場転換ヘッジとの相性がよい理由です。

相場転換ヘッジ戦略の基本設計

ここでは、初心者でも運用しやすいように、できるだけシンプルなルールで「株価指数+短期国債」の組み合わせ戦略を設計していきます。大きく分けると、次の3つの要素を決めることになります。

  • 相場の温度を測る指標(トリガー)
  • 株式と短期国債の配分比率
  • 見直しの頻度と具体的な売買ルール

ステップ1:相場の温度を測る指標を決める

相場転換ヘッジ戦略では、「今はリスクを取りに行ってよい局面か」「守りを意識すべき局面か」を判断するための指標が必要です。ここでは、初心者でも扱いやすい代表的な指標をいくつか紹介します。

一つ目は、株価指数の「移動平均線」です。例えば、株価指数が200日移動平均線より上にあるときは長期上昇トレンド、下に割り込んだときは長期下落トレンドとみなすシンプルな考え方があります。長期線を割り込んだら、株式比率を下げて短期国債に逃がす、といったルールを組めます。

二つ目は、ボラティリティ指標や恐怖指数と呼ばれるものです。数値が極端に高くなったときは、市場が急落や不安定さを織り込んでいる可能性が高く、株式の比率を落として短期国債を増やす判断材料にできます。ただし、こうした指数は値動きが激しく、短期的なノイズも多いため、他の指標と組み合わせて使うと安定します。

三つ目は、金利や景気サイクルに関する指標です。例えば、政策金利が急速に引き上げられている局面では、株式市場が不安定になりやすく、短期国債の利回りも相対的に魅力的になりやすいです。そうした局面では、あらかじめ株式と短期国債のバランスを保守的にしておく、といった発想も有効です。

ステップ2:株式と短期国債の配分ルールを決める

次に決めるべきなのが、具体的な配分比率です。ここでは例として、以下のような3つのモードを用意します。

  • 強気モード:株式80%、短期国債20%
  • 中立モード:株式50%、短期国債50%
  • 守りモード:株式20%、短期国債80%

相場が明確に上昇トレンドで、指標も落ち着いているときは「強気モード」。長期線近辺で方向感が読みにくいときや、景気指標が弱くなりつつあるときは「中立モード」。長期線をはっきり割り込み、ボラティリティも高いときなどは「守りモード」に切り替える、といったルールを決めておきます。

重要なのは、「感覚」でその場の気分で変えるのではなく、事前に決めた条件に従って淡々と配分を調整することです。これにより、感情的な売買を減らし、長期的なリスク管理をしやすくなります。

ステップ3:具体的な商品選びの考え方

実際に投資する商品としては、株式側は株価指数に連動するETFや投資信託を使うとシンプルです。個別株に比べて銘柄選びの負担が少なく、指数全体に分散投資できます。日経225や米国株指数など、自分が主にフォローしている市場に合わせて選びます。

短期国債側は、短期国債に投資する投資信託やETF、短期国債を主な投資対象とするMMFなどが候補になります。商品ごとに為替リスクの有無や為替ヘッジの有無、信託報酬などのコストが異なるため、自分の投資通貨とリスク許容度に応じて選択する必要があります。

ここで大切なのは、「株式側はなるべくシンプルな指数連動」「債券側も分かりやすい短期国債中心」とし、複雑な仕組み商品を増やしすぎないことです。戦略の目的は「相場転換時のダメージを抑え、長期的に資産を増やすこと」であり、難解な商品を組み合わせて一時的に高い利回りを狙うことではありません。

シンプルな相場転換ヘッジルールの例

次に、実際に使えるシンプルなルール例を一つ紹介します。あくまで考え方の一例であり、実際に運用する際はご自身のリスク許容度や投資環境に合わせて調整してください。

ルール例:200日移動平均線を使った3モード切り替え

以下のような手順で、月に1回だけ配分を見直す想定です。

  1. 毎月末に、主要な株価指数(例:自分が投資している株価指数)の終値と200日移動平均線の位置を確認します。
  2. 終値が200日移動平均線より明確に上にあり、かつ直近数か月のボラティリティが低い場合は「強気モード」(株式80%、短期国債20%)とします。
  3. 終値が200日移動平均線近辺にあり、方向感がはっきりしない場合は「中立モード」(株式50%、短期国債50%)とします。
  4. 終値が200日移動平均線をはっきり割り込み、ボラティリティも高まっている場合は「守りモード」(株式20%、短期国債80%)とします。
  5. モードに応じて、保有している株式と短期国債の評価額が目標比率に近づくように売買します。

このルールのポイントは、「相場が大きく崩れる前兆として、長期移動平均線割れやボラティリティ上昇が起きやすい」という経験則を使っている点です。もちろん完璧ではなく、ダマシもありますが、「何もしないでフル株式のまま暴落を受ける」状況に比べれば、ドローダウンを抑えられる可能性があります。

数値イメージによる具体例

例えば、合計100万円を運用しているとします。初期状態で相場が順調なとき、「強気モード」として株式80万円、短期国債20万円を保有しているとします。

その後、株価指数が200日移動平均線を割り込み、ボラティリティも高まってきたため、翌月から「守りモード」に切り替えると決めたとします。目標比率は株式20%、短期国債80%なので、株式を60万円分売却し、短期国債を60万円分買い増すことになります。

もしその後、本格的な下落相場に入り株価指数が20%下落した場合、フル株式のままなら評価額は80万円になります。一方、「守りモード」で株式20万円、短期国債80万円の状態なら、株式側は20%下落して16万円になり、短期国債側はほぼ100%近辺を維持したと仮定すると、合計は約96万円となり、損失は4万円程度に抑えられます。この差は長期的な資産形成において非常に大きな意味を持ちます。

短期国債側にも存在するリスク

短期国債は「安全資産」と見なされがちですが、まったくリスクがないわけではありません。代表的なリスクとしては、以下のようなものがあります。

  • 発行体の信用リスク(一般的には低いとされますが、ゼロではありません)
  • 金利上昇局面での価格下落リスク(短期とはいえ、金利が急上昇すると評価額が軽微に動くことがあります)
  • 為替リスク(外貨建ての商品を利用する場合)
  • 投資信託やETFとして保有する場合の運用コストや解約タイミングの制約

また、短期国債の利回りは、金利環境によって大きく変動します。金利が極端に低い局面では、短期国債を多く保有しても、期待できる利息が小さくなります。そのため、「いつでも短期国債が魅力的」というわけではなく、金利サイクル全体を意識した上で比率を調整していくことが重要です。

初心者が始める際の実践ステップ

ここからは、実際にこの戦略を導入する際のステップを、できるだけ具体的に整理していきます。

  1. 自分が主に投資したい株価指数を決める(例:国内株の代表的な指数、海外株の代表的な指数など)。
  2. その指数に連動する投資信託やETFの中から、コストや流動性を見て候補を絞り込む。
  3. 短期国債に投資する商品(投資信託、ETF、MMFなど)の候補も複数調べておき、為替リスクやコスト構造を確認する。
  4. 200日移動平均線など、相場の温度を測るための指標と、それに基づく3つのモード(強気・中立・守り)の条件を紙に書き出す。
  5. それぞれのモードにおける株式と短期国債の比率(例:80/20、50/50、20/80)を明文化する。
  6. 毎月末に見直す日を決め、その日にだけ売買するルールにしておく。
  7. 小さな金額から始めて、実際にモード切り替えを経験しながら、自分の心理的な負担や運用しやすさを確認する。

特に初心者の場合、最初から完璧なルールを作ろうとする必要はありません。むしろ、シンプルな条件で「まずは少額で回してみる」ことの方が重要です。実際に運用してみることで、自分の性格や相場との相性が見えてきます。

よくある失敗パターンと対策

相場転換ヘッジ戦略を実践する上で、よくある失敗パターンをいくつか挙げ、その対策を整理しておきます。

一つ目は、「ルールを守れずに感情で動いてしまう」ことです。市場が急騰しているときに「もっと株式比率を上げたい」と感じたり、逆に急落局面で恐怖心から「全部売ってしまいたい」と思ったりします。こうした感情的な判断を避けるために、ルールを紙やメモに書き出し、「見直しは月1回だけ」「その日の終値を見て翌営業日に取引する」といった枠組みを作ることが有効です。

二つ目は、「指標を増やしすぎて自分でも整理できなくなる」ことです。移動平均線やボラティリティ指数、金利指標などをいくつも組み合わせると、一見高度な戦略に見えますが、実際には判断が複雑になりすぎて、かえって意思決定が遅れることがあります。まずは1~2個の指標に絞り、慣れてきたら徐々に調整していく方が現実的です。

三つ目は、「短期国債をただの待機資金としか見ず、リバランスをサボってしまう」ことです。本来は相場状況に応じて株式と短期国債の比率を調整するのが戦略の核心ですが、忙しさや面倒さから見直しを先延ばしにしてしまうと、フル株式のまま急落を受けることになります。見直し日をカレンダーに登録したり、毎月の家計見直しとセットにするなど、習慣化の工夫が必要です。

相場転換ヘッジ戦略をポートフォリオ全体でどう位置づけるか

短期国債と株価指数を組み合わせた相場転換ヘッジ戦略は、あくまで「ポートフォリオの中核部分」の一つの型です。これに加えて、個別株やその他の資産クラス(不動産関連、コモディティなど)を少しだけスパイスとして加える、という考え方もあります。

例えば、全体の資産のうち70~80%程度を「株価指数+短期国債」の戦略で運用し、残りを自分の興味のあるテーマ株や高配当株、あるいは長期保有したいコア資産に振り分ける、といった設計も可能です。こうすることで、ポートフォリオ全体のリスクは短期国債によってある程度抑えつつ、自分なりの投資テーマも追いかけることができます。

重要なのは、「どの部分が攻めで、どの部分が守りか」を自分の中で明確に区別することです。相場転換ヘッジ戦略は、明らかに守り寄りの戦略であり、特に大きな資産や将来使う予定のお金を守る役割を担わせると相性がよいです。

まとめ:短期国債を活用して「相場の山と谷」を滑らかにする

短期国債と株価指数を組み合わせた相場転換ヘッジ戦略は、派手さはありませんが、長期的な資産形成において強力な武器になり得ます。株式だけで攻め続けるのではなく、相場の温度に応じて一部を短期国債に逃がすことで、ポートフォリオ全体のブレを抑え、精神的な負担も軽くすることができます。

初心者のうちは、細かい最適化を追い求めるよりも、「シンプルなルールで、まずは小さく始める」ことが何よりも大切です。短期国債という安全資産を上手に組み合わせることで、相場の山と谷を滑らかにし、自分のペースで長く投資を続けられる土台を作っていきましょう。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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