- なぜ「短期国債+株指数」なのか:本質は“現金の質”を上げること
- まず押さえる基礎:T-Billsと株指数の“役割分担”
- 戦略の全体像:3つのモードで相場転換に対応する
- 初心者でも組める“レジーム判定”の作り方(難しい指標は不要)
- 具体的な配分モデル:初心者が実装しやすい3パターン
- 実践手順:毎週15分で回る運用ルーティン
- 具体例:相場転換の“典型パターン”でどう動くか
- この戦略の“儲け方の本体”:ポジションサイズと損失制御
- よくある失敗パターンと対策
- “オリジナリティ”としての応用:転換点で拾う「小さなオプション」発想
- 資金別の設計:生活防衛資金と投資資金を混ぜない
- 最低限のチェックリスト:始める前にこれだけ決める
- まとめ:相場転換に強い人は、予測よりも“設計”で勝つ
なぜ「短期国債+株指数」なのか:本質は“現金の質”を上げること
投資で一番難しいのは、銘柄選びよりも「相場が急に変わったときに、資金を守りつつ次のチャンスを取りに行く」ことです。上げ相場の最中は誰でも強気になれますが、急落・急騰・レンジ化・ボラティリティ急拡大など“相場転換(レジームチェンジ)”が来た瞬間、判断が遅れると損失が積み上がります。
この問題に対して、短期国債(米国ならT-Bills、日本なら短期国債・MRF相当の安全資産)を「待機資金」ではなく「運用中の中核」として扱い、株指数でリスクを段階的に取る設計が有効です。短期国債は価格変動が小さく、金利収入で“時間を買う”役割を担います。一方、株指数は市場全体のリスクプレミアムに連動しやすく、タイミングのルールを作りやすい。
この組み合わせの狙いは単純です。①守り(短期国債)でドローダウンを抑え、②攻め(株指数)でトレンドが出た局面だけ取りに行き、③相場転換時に機械的にリスクを落とす。個別株の目利きに自信がなくても、再現性の高い運用ルールが作れます。
まず押さえる基礎:T-Billsと株指数の“役割分担”
T-Bills(短期米国債)の特徴
T-Billsは満期1年以内の米国債で、金利は市場環境で変動します。一般に、満期が短いほど価格変動(デュレーション)が小さく、金利変動による含み損益のブレが抑えられます。つまり「現金の代替」に近い性格を持ちつつ、利回りが付く可能性がある点が強みです。
日本の個人投資家がT-Billsにアクセスする場合、証券会社の米国債(短期債)や、米ドル建ての短期国債ETF/ファンド、あるいは短期国債に類似するMMF等を用いることが多いでしょう。ここでは商品名よりも考え方が重要です。“価格が暴れにくい金利収入の源泉”として扱います。
株指数の特徴(S&P500/NASDAQ/日経225など)
株指数は企業全体の利益成長とリスク選好に影響されます。長期では上昇バイアスがある一方、短期の下落・急変動が避けられません。だからこそ、指数は「リスクを取る量」をコントロールすることで、個別株より運用設計がしやすい面があります。
指数の取り方は現物(ETF)でも先物でもCFDでも考え方は同じですが、初心者はまずは現物(ETF)で“レバレッジなし”から設計するのが安全です。本記事は勝ち方の話だけでなく、負けを小さくする設計を中心に書きます。
戦略の全体像:3つのモードで相場転換に対応する
この戦略は、相場を3つの状態(モード)に分けて対応します。
- 守りモード:株指数の比率を下げ、短期国債を厚くする。目的は資金保全。
- 中立モード:株指数を小さく持ち、短期国債を主力にしつつ、転換点の初動に乗る準備。
- 攻めモード:トレンドが確認できた局面で株指数の比率を上げる。目的はリターン獲得。
重要なのは「当てにいかない」ことです。相場転換を完璧に予測するのではなく、転換が“起きたら”自動的にポジションを変える。これにより、感情(恐怖・欲)を運用から排除しやすくなります。
初心者でも組める“レジーム判定”の作り方(難しい指標は不要)
レジーム判定に高度なモデルは不要です。むしろ、複雑にすると検証が難しくなり、運用が破綻します。ここではシンプルで再現性のある判定を2段構えにします。
判定①:トレンド(移動平均)で大枠を決める
例として、株指数(S&P500や日経225など)の「終値が200日移動平均線より上か下か」で大枠のモードを分けます。
・終値が200日MAより上:中立〜攻め寄り(ただし後述の判定②も見る)
・終値が200日MAより下:守り寄り(株比率を落とす)
200日という数字に絶対の正解はありませんが、長期トレンドの代表として機能します。ポイントは「一貫したルールで継続する」ことです。
判定②:ボラティリティで“荒れているか”を測る
相場転換時はボラティリティ(価格変動)が急拡大しやすい。そこで、指数のATR(平均真の値幅)やVIX等の代理指標で“荒れ具合”を見ます。
初心者向けの簡易ルール例:
・VIXが長期平均より明確に高い(例:過去1年平均を上回る状態が続く)→株比率を一段下げる
・ATRが急増(例:直近20日のATRが過去120日平均との差で大きく上振れ)→ポジションサイズを縮小
この判定は「危険なときにアクセルを緩める」ための安全装置です。ここを外すと、相場転換で一撃を食らいやすくなります。
具体的な配分モデル:初心者が実装しやすい3パターン
ここからは具体例です。あなたの性格と資金の性質(生活防衛資金か、余剰資金か)でモデルを選びます。
モデルA:最も保守的(守り重視)
・守りモード:T-Bills 90% / 株指数 10%
・中立モード:T-Bills 80% / 株指数 20%
・攻めモード:T-Bills 70% / 株指数 30%
このモデルは「下落耐性」を優先します。株指数の比率が低いので爆発力は弱いですが、相場が荒れても継続しやすい。まず運用習慣を作る段階に向きます。
モデルB:標準(バランス型)
・守りモード:T-Bills 80% / 株指数 20%
・中立モード:T-Bills 65% / 株指数 35%
・攻めモード:T-Bills 45% / 株指数 55%
“守りながら取りに行く”の標準形です。転換局面では株比率を自動的に落とすため、フル株より精神的に楽になります。
モデルC:攻め寄り(ただし上級者向け要素あり)
・守りモード:T-Bills 70% / 株指数 30%
・中立モード:T-Bills 50% / 株指数 50%
・攻めモード:T-Bills 30% / 株指数 70%
リターン志向ですが、ドローダウンも大きくなりやすい。ここまで来ると“ルール逸脱”が致命傷になるので、最初からは推奨しません。段階的に移行します。
実践手順:毎週15分で回る運用ルーティン
この戦略の魅力は、日々の張り付きが不要なことです。むしろ頻繁に触るほど、感情が入って成績がブレます。基本は週1回のチェックに固定します。
手順1:指数チャートを確認する(終値と200日MA)
週末に指数(例:S&P500の代表ETF、日経225の代表ETFなど)を見て、終値が200日MAの上か下かを判定します。ここで大枠のモード候補を決めます。
手順2:ボラティリティの警報を確認する(VIX/ATR)
同じタイミングでVIX(または相当の指標)を確認し、“荒れ”が強いなら株比率を一段下げます。ここで「攻め判定が出ても、荒れているなら中立に落とす」といった調整をかけます。
手順3:配分表に従ってリバランスする
モデルA/B/Cの配分表に従い、T-Billsと株指数の比率がズレていれば売買して戻します。売買回数が少ないので、手数料や税務の負担も相対的に軽くなります。
手順4:例外ルール(大変動時)を決めておく
週1回運用でも例外は必要です。例えば「1週間で指数が-7%を超える下落」「ボラ指標が急騰」など、異常値が出たら臨時で株比率を落とす、などです。例外は多すぎると破綻します。最大でも2〜3個に絞ります。
具体例:相場転換の“典型パターン”でどう動くか
抽象論では意味がないので、典型シナリオで動きをイメージします。
シナリオ1:高値圏からの急落(リスクオフ転換)
指数が200日MAを割り込み、VIXが急上昇したとします。ここでやることは「理由探し」ではなく、ルール通り守りモードへ移行することです。株比率を落としてT-Billsを厚くし、損失拡大を止めます。
多くの投資家は“反発するはず”と願望で居座ります。しかし急落局面での最大の敵は、含み損を抱えたまま意思決定が鈍ることです。守りモードは、あなたの判断力を守るための仕組みでもあります。
シナリオ2:底打ちからの反転(初動を拾う)
指数が200日MAを回復し、ボラ指標が沈静化し始めたとします。ここで中立→攻めへ段階的に上げるのが狙いです。いきなりフルベットせず、配分表で“自然に”株比率が上がっていく設計が安全です。
反転初動はフェイクも多いので、ルール上「次の週も条件が維持されていれば増やす」など、時間でフィルタリングすると安定します。
シナリオ3:レンジ相場(方向感なし)
指数が200日MA付近で行ったり来たり、ボラも中くらい。この局面で無理に当てに行くと疲弊します。中立モードで淡々と回すのが合理的です。短期国債の金利収入が“待つコスト”を補ってくれます。
この戦略の“儲け方の本体”:ポジションサイズと損失制御
利益は運も絡みますが、損失は設計で抑えられます。初心者が最初に作るべきは、エントリーよりも「壊れないサイズ」です。
ルール1:株指数の比率上限を決める(感情を遮断)
攻めモードでも株指数は最大でも55%(モデルB)など、上限を決めます。上限がないと、上げ相場で過剰リスクを取り、転換でやられます。上限はあなたの“最大ドローダウン耐性”から逆算します。
ルール2:ボラが上がったら“比率”ではなく“金額”を落とす
ボラが上がると同じ比率でもリスク量が増えます。そこで、VIX/ATRが基準を超えたら株の比率を一段下げるだけでなく、場合によっては株の保有金額自体を減らす(守りモードに寄せる)と、損失制御が効きます。
ルール3:リバランスは“戻す”のではなく“型に戻る”
含み損が出ると「戻るまで待ちたい」と思いがちですが、リバランスは相場予想ではなく運用設計です。型に戻すことで、次の局面で戦える資金を残します。これは精神論ではなく、資金曲線を守る技術です。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:短期国債を“ただの現金”だと思ってしまう
T-Billsは「待機」ではなく「運用の中核」です。守りモードでも金利収入があり、再投資のタネになります。守りが機能すると、次の攻めで一気に取り返す必要がなくなり、結果として勝率が上がります。
失敗2:判定ルールをコロコロ変える
一度痛い目を見た後にルールを変えるのは最悪です。検証していないルールは、たまたま当たったとしても再現性がありません。最低でも「半年〜1年は同じルールで記録する」と決め、改善は“記録ベース”で行います。
失敗3:税・通貨・流動性の前提を無視する
米ドル建てT-Billsを使うなら為替変動が入ります。円ベースの目標なら、為替ヘッジの有無でリスクが変わります。さらに、売買のしやすさ(スプレッド、約定、分配の扱い)も商品ごとに違います。ここは「自分が使う商品で、売買コストと換金性を事前確認する」だけで回避できます。
“オリジナリティ”としての応用:転換点で拾う「小さなオプション」発想
ここからが実践的な工夫です。株指数の比率を上げ下げするだけでなく、相場転換点で“追加の小さな賭け”を入れると、期待値が改善することがあります。ただし、初心者は極小サイズ限定です。
応用A:中立→攻めの初動で「分割増し」ルールを追加
例:攻めモード条件が初めて出た週に、株指数をいきなり最大まで上げず、半分だけ上げる。次週も条件が維持されたら残りを上げる。これだけでフェイク反転に強くなります。
応用B:守りモードでは「定額積み立て」を残す
守りモードに入ると怖くて買えなくなります。そこで、守りモード中も株指数を“定額で”少しだけ買う(例:月1回、資産の1%相当)と、底付近で拾える確率が上がります。これは当てに行くのではなく、統計的に“買い忘れ”を減らす工夫です。
資金別の設計:生活防衛資金と投資資金を混ぜない
この戦略は守りが強いとはいえ、株指数を持つ以上、短期のマイナスは避けられません。初心者ほど「生活費・緊急資金」と「投資資金」を混ぜてしまい、下落時に投げて失敗します。
現実的な分け方の例:
- 生活防衛資金:円の現金・預金(または即時換金性の高い商品)
- 準・防衛資金:短期国債(T-Bills等)中心、株は最小
- 投資資金:本記事のモデルA/B/Cを適用
この分離ができると、下落時にもルール通り動けます。ルール通り動けることが、長期の期待値を押し上げます。
最低限のチェックリスト:始める前にこれだけ決める
最後に、運用開始前のチェックリストを文章でまとめます。これを決めずに始めると、相場転換で迷いが増えます。
①採用する指数(1つで良い):S&P500か日経225など、代表指数を決める。
②採用する短期国債の置き場:T-Bills、短期債ファンド、MMF等、換金性とコストで選ぶ。
③判定ルール:200日MAの上下+ボラ指標の警報、の2段だけ。
④配分モデル:A/B/Cのどれか(迷うならA)。
⑤リバランス頻度:週1回(例:土曜の朝)に固定。
⑥例外ルール:急落時だけ臨時で守りへ(最大2〜3個)。
⑦記録方法:週1で「モード」「配分」「理由(ルール項目)」をメモ。
まとめ:相場転換に強い人は、予測よりも“設計”で勝つ
短期国債(T-Bills)は、ただの待機資金ではなく、相場が荒れたときにあなたの資金と判断力を守る“中核資産”になり得ます。株指数は、個別株よりもルール化しやすい「リスクの取り口」です。この2つを組み合わせ、モード(守り・中立・攻め)で配分を切り替えると、相場転換に強い運用が作れます。
一発逆転型ではありません。しかし、継続しやすく、退場しにくい。初心者に必要なのは、派手さではなく「続く仕組み」です。まずはモデルAかBで、週1回のルーティンを3か月続けてください。そこで初めて、あなたに合う微調整が見えてきます。


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