- この戦略の結論:守りのコア(米国債MMF)+攻めの小口(レバレッジ)を完全に分離する
- なぜ米国債MMFなのか:現金に近いのに“金利が乗る”置き場所だから
- 「レバレッジを使う」=危険、ではない。危険なのは“全資金に混ぜる”こと
- 基本設計:コア90%(MMF)+サテライト10%(攻め)から始める
- 攻めの手段を3分類する:あなたが扱うべき“レバレッジの種類”はどれか
- 実践例A:MMFコア+株指数レバETFの“短期トレンド追随”
- 実践例B:MMFコア+個別株(AI銘柄など)の“イベントドリブン小口レバ”
- 実践例C:MMFコア+暗号資産の“損失限定レバ”
- この戦略の肝:リバランスこそが“利益の固定化装置”になる
- “破綻しない”ためのリスク管理:3つの上限を数値で固定する
- 初心者がハマる落とし穴と対策
- チェックリスト:始める前にこれだけは決める
- 日本在住者の実行手順:円資金→ドル建てMMF→攻め枠、を“手順化”する
- 運用を数字に落とす:期待リターンより「許容損失」から逆算する
- 攻め枠の“型”を決める:3つのテンプレート
- “勝ったらコアへ戻す”の具体例:利益の50%を必ずMMFへ退避させる
- 為替リスクの扱い:MMFを持つだけでドル円の影響は受ける
- 想定シナリオ別の動き:上げ相場・横ばい・急落で何をするか
- 上級編への橋渡し:サテライトに“ヘッジ”を組み込む発想
- 運用の記録が成績を決める:初心者は“改善できる形”を作るだけで優位になる
- まとめ:勝ち筋は“当てる”ではなく、“壊れない設計”にある
この戦略の結論:守りのコア(米国債MMF)+攻めの小口(レバレッジ)を完全に分離する
「安全に運用したい。でもリターンも欲しい。」この矛盾を、無理やり1つのポジションで解決しようとすると失敗しがちです。そこで有効なのが、資金を“役割”で分けてしまうバーベル型の設計です。
本記事では、コア資金を米国債MMF(米ドル短期金利に連動するMMF)で保管しつつ、サテライト資金だけでレバレッジを使った攻めを行う、という二層構造を徹底的に掘り下げます。ポイントは「レバレッジを使うこと」ではなく、使う場所を限定して、壊れない枠組みにすることです。
なぜ米国債MMFなのか:現金に近いのに“金利が乗る”置き場所だから
米国債MMFは、短期国債やレポなど短期の安全資産を中心に運用し、短期金利に近い利回りを目指します。銀行預金と比べて利回りが期待でき、価格変動も小さめになりやすいのが特徴です(ただし元本保証ではありません)。
この戦略では、MMFを「勝ちに行く商品」ではなく、弾薬庫(待機資金の置き場所)として扱います。ここを安定させることで、攻めの運用で精神的にブレにくくなります。
MMFをコアに置くと何が良いのか
コア資金が“寝ていない”ため、相場が動かない局面でも資金効率が改善します。また、株や暗号資産の急落時に、現金化のために損切りを強いられる状況を避けやすくなります。攻めの枠が損失を出しても、コアが残っていれば再起が可能です。
「レバレッジを使う」=危険、ではない。危険なのは“全資金に混ぜる”こと
レバレッジ自体は道具です。危険性を生むのは、主に次の3つです。
危険要因1:損失がコア資金まで侵食する設計
証拠金取引や信用取引、レバレッジETFを“主力”にしてしまうと、想定外の変動で資金が一気に減ります。そうなると生活資金や将来資金にまで影響が及びます。これが致命傷になります。
危険要因2:下げ相場で損失が加速する(含み損の拡大と追証)
下げ相場で証拠金が不足すると追加入金が必要になります。初心者が破綻する典型パターンです。したがって本記事の設計は、追証を極力発生させない、または発生してもコアに触れない枠組みを前提にします。
危険要因3:ルールが曖昧で“負けを取り返す”心理に飲まれる
レバレッジ運用は感情を刺激します。負けを取り返すためにサイズを増やすと、統計的に破綻確率が跳ね上がります。よって、サイズ上限・損失上限・撤退条件を最初に固定します。
基本設計:コア90%(MMF)+サテライト10%(攻め)から始める
初心者が最初にやるべきは、派手な勝ち方ではなく、生き残る仕組みの構築です。以下は実用的な初期配分です。
例:運用資金100万円の場合
・コア:90万円 → 米国債MMF(待機資金)
・サテライト:10万円 → 攻め(株指数、個別株、暗号資産など)
この10万円は「失っても生活に影響がない」範囲に固定します。ここが曖昧だと、戦略全体が破綻します。
攻めの手段を3分類する:あなたが扱うべき“レバレッジの種類”はどれか
レバレッジと一口に言っても、中身が違います。初心者は、まず分類で理解するのが安全です。
1)レバレッジETF(例:株指数の2倍・3倍)
売買が簡単で追証の仕組みがない点は分かりやすい一方、日次リバランスによる逓減(ボラティリティ・ドラッグ)があり、長期で持つと指数の倍率どおりにならない場合があります。よって「短中期の波を取りに行く道具」と割り切ります。
2)証拠金取引(先物・CFD・信用取引など)
少ない元手で大きく動かせますが、相場急変で損失が膨らみやすいです。初心者は、最大損失を最初から口座残高の数%に縛る仕組み(損切り・サイズ管理・ヘッジ)を用意できないなら、手を出す優先度は下げるべきです。
3)オプション(買い・売り)
損失限定の買い戦略は設計しやすい一方、売り戦略はリスクが大きくなります。本記事の主題はMMF+レバレッジの枠組みなので、オプションは「保険」や「損失限定の賭け」として補助的に使う考え方を紹介します。
実践例A:MMFコア+株指数レバETFの“短期トレンド追随”
まずは最も理解しやすい例です。サテライトの10万円を、株指数レバETFで短期トレンドに乗せます。
売買ルール(例)
ここでは、初心者でも実行可能な「価格だけで判断する」ルールにします。
・エントリー:株指数が直近20日高値を更新したら、サテライトの半分(5万円)でレバETFを購入
・追加:その後も高値更新が続き、含み益がある状態でのみ、残り半分を投入
・撤退:直近10日安値を割ったら全て売却(機械的に)
このルールの狙いは、負けが続く局面で自然に取引回数が減ることです。トレンドが出ない時に無理やり勝とうとすると、手数料と損切りが積み上がります。
なぜMMFと相性が良いのか
株が崩れている局面でも、コアはMMFに残っているため、焦って“底を当てに行く”行動を取りにくいです。サテライトが損失を出しても、コアが残っているので、次のチャンスまで待てます。
実践例B:MMFコア+個別株(AI銘柄など)の“イベントドリブン小口レバ”
個別株でよくある失敗は「好きな銘柄を全力で買う」ことです。バーベル設計では、個別株はサテライトの中でさらに分割し、1回の判断ミスで致命傷にならない形に落とします。
資金配分の具体例
サテライト10万円のうち、
・イベント枠:3万円(決算・製品発表などの短期勝負)
・トレンド枠:5万円(上昇トレンドの継続を狙う)
・学習枠:2万円(小さく検証し、勝てる形を探す)
イベント枠の基本ルール
・事前に「損失上限」を決める(例:3万円枠のうち最大6,000円まで)
・決算や発表の直前に大きく張らない(ギャップリスクが大きい)
・勝ったら、利益の一部を必ずMMF側へ戻す(リスク資金を増やさない)
この「勝ったらコアへ戻す」動きが、資金曲線を安定させます。勝ちが続くほどリスクを増やすのではなく、勝ちを“安全資産”に変換する発想です。
実践例C:MMFコア+暗号資産の“損失限定レバ”
暗号資産は変動が大きい分、レバレッジの事故が起きやすい市場です。初心者がやるなら、発想はこうです。
「当たれば大きい」ではなく、「外れても小さい」を最優先する。
損失限定の基本形
・サテライトのうち、暗号資産は最大でも2〜3万円まで
・レバレッジを使うなら、口座残高に対して損切り幅を先に決める(例:1回の損失は最大1,000〜2,000円)
・急落時に追加で入れない(ナンピン禁止)
暗号資産は上昇も急ですが、下落も急です。「戻るまで待つ」は最悪の選択肢になることがあります。ルールで手を縛ってください。
この戦略の肝:リバランスこそが“利益の固定化装置”になる
バーベル設計は、定期的にリバランスしないと機能しません。なぜなら、攻めが当たった時にサテライトが膨らみ、自然とリスクが増えるからです。
月1回の簡易リバランス手順
・月末に資産配分を確認
・サテライトが当初比で増えたら、増えた分の一部をMMFへ移す
・サテライトが減ったら、原則としてすぐ補充しない(負けの直後にサイズを戻すと連敗が痛い)
補充するなら「次のシグナルが出た時だけ」など、条件付きにします。機械的に戻すのではなく、再エントリーの根拠がある時だけです。
“破綻しない”ためのリスク管理:3つの上限を数値で固定する
この戦略は、数値の上限を決めないと形だけになります。最低限、次の3つを固定してください。
1)サテライト比率の上限
例:サテライトは最大でも全体の15%まで。超えたら強制的に利益確定し、MMFへ戻す。
2)1回の損失上限(トレード単位)
例:サテライト10万円なら、1回の損失は最大1,000〜2,000円(1〜2%)まで。これなら連敗しても立て直せます。
3)月間の損失上限(口座単位)
例:月間損失がサテライトの5%(5,000円)に到達したら、その月は新規取引停止。これがあるだけで、感情トレードが激減します。
初心者がハマる落とし穴と対策
落とし穴1:MMFを“退屈”に感じてコアまで動かしてしまう
退屈は正常です。コアは面白くなくて良いのです。面白さはサテライトで満たします。コアを動かした瞬間、戦略が崩れます。
落とし穴2:サテライトが増えたことを“実力”と勘違いする
相場環境で勝てているだけのことも多いです。勝ちが続くほど、リバランスでコアへ利益を移し、次の下落に備えるのが正しい動きです。
落とし穴3:含み損を抱えたままサテライト枠を拡大する
負けている時に枠を増やすと、回復までの必要リターンが急増します。サテライト枠は、勝っている時にだけ一時的に増え、すぐ戻すが基本です。
チェックリスト:始める前にこれだけは決める
最後に、実行前の最低条件を整理します。
・コア資金(MMF)とサテライト資金(攻め)を口座やメモで明確に分けたか
・サテライト比率の上限を決めたか(例:15%)
・1回の損失上限を決めたか(例:1〜2%)
・月間損失上限を決めたか(例:5%で停止)
・勝った時にMMFへ戻すルールを決めたか(利益の一部を固定化)
この5つが揃っていれば、たとえ手法の精度が完璧でなくても、致命傷を避けつつ改善が可能になります。バーベル運用は、勝つための前に“負け方を管理する”戦略です。まずは小さく始め、ルールの遵守率を上げてください。
日本在住者の実行手順:円資金→ドル建てMMF→攻め枠、を“手順化”する
日本の個人投資家は「どこでドルを持つか」「為替コストをどう抑えるか」が成績に直結します。ここを曖昧にすると、手法が当たっても手数料とスプレッドで削られます。そこで、作業を手順として固定します。
ステップ1:運用資金を3つの袋に分ける
まず頭の中ではなく、実際に分けます。
・生活防衛資金:別口座(この戦略の外)
・コア資金:米国債MMFに置く資金
・サテライト資金:攻めに使う資金
初心者が最初にやるべきは、投資の前に「投資できないお金」を隔離することです。これをやらないと、下落局面で精神が持ちません。
ステップ2:円→ドルへの両替コストを“見える化”する
ドル転のコストは、主にスプレッドと手数料です。ここは証券会社や銀行で差があります。重要なのは、最安を追うよりも、自分が使う経路を1つに決めて、毎回同じ条件で積み上げることです。経路が毎回変わると、実績の振り返りができません。
ステップ3:MMFは「目的」で選ぶ
米国債MMFには、運用対象やコスト、決済のしやすさなど違いがあります。ここで大事なのは、利回りの1位を探すことではなく、次の基準です。
・流動性:売りたい時にすぐ現金化できるか
・コスト:信託報酬や手数料が過大でないか
・運用対象:短期国債中心か(目的に合っているか)
あなたが欲しいのは“弾薬庫”です。弾薬庫が不安定だと、攻めの意思決定が歪みます。
運用を数字に落とす:期待リターンより「許容損失」から逆算する
多くの初心者は「年率で何%儲かるか」から考えます。しかし、この戦略では逆です。まず、最悪でも許せる損失を決め、それに合うサイズで攻め枠を作ります。
例:全体100万円、許容損失は最大5万円の場合
・コア90万円:MMF(価格変動が小さい想定)
・サテライト10万円:攻め
サテライトは変動が大きい前提なので、最悪ケースで半分失う可能性も見ます(もちろん目標ではありません)。すると、サテライトが5万円減っても、全体では5万円の損失に収まり、許容範囲内になります。これが設計の根拠です。
攻め枠の“型”を決める:3つのテンプレート
攻め枠の運用は、毎回思いつきでやらない方が良いです。以下のテンプレートから1つ選び、当面は固定するのが安全です。
テンプレ1:トレンド追随型(勝ちを伸ばし、負けを小さく)
先ほど紹介した高値更新・安値割れのように、相場が強い時だけ参加します。横ばい相場で連敗しやすいので、取引回数を抑える工夫(シグナルを厳しくする)が効きます。
テンプレ2:レンジ逆張り型(損切りを速く、利確も速く)
レンジで機能しやすい一方、トレンド発生時に焼かれやすいです。逆張りをやるなら、必ず損切りが先で、利確は機械的に早めにします。勝率に頼ると破綻します。
テンプレ3:イベント小口型(勝ち負けを繰り返しつつ、大勝ちを待つ)
決算、指数の重要指標、FOMCなど、短期的にボラが上がる局面に限定します。勝てない時期は取引を減らせるのが利点です。
“勝ったらコアへ戻す”の具体例:利益の50%を必ずMMFへ退避させる
ルールを文章で言うだけだと守れません。数字に落とします。
ルール例:サテライトで利益が出たら、利益の50%をMMFへ戻し、残り50%だけ次の取引に回す。
例えば、サテライト10万円が12万円になったら、増えた2万円のうち1万円をMMFへ移します。すると、サテライトは11万円に戻り、攻めの枠は少しだけ増える程度に抑えられます。これが、勝ち相場で“調子に乗って破綻する”のを防ぎます。
為替リスクの扱い:MMFを持つだけでドル円の影響は受ける
日本在住者が米ドル建て資産を持つと、ドル円の変動が損益に乗ります。ここを理解せずに始めると、MMFが安定して見えても、円換算ではブレます。
初心者向けの割り切り
・この戦略では、為替は「追加の変動要因」として受け入れる
・為替ヘッジを積極的に組むのは、仕組みが複雑になりやすいので、最初はやらない
・どうしても気になるなら、サテライトで円建て商品(日本株など)を扱い、全体の為替感応度を落とす
為替の見通しを当てに行くと、手法が崩れます。設計はシンプルに保つべきです。
想定シナリオ別の動き:上げ相場・横ばい・急落で何をするか
優れた戦略は「平時」よりも「有事」の手順が明確です。以下の3シナリオで、行動を決めておきます。
シナリオ1:株が上げ相場(トレンド継続)
・サテライトはルールに従って参加
・利益が積み上がったら、定期的にMMFへ退避(利益の固定化)
・サテライト比率が上限を超えたら強制リバランス
シナリオ2:横ばい相場(シグナルが機能しにくい)
・取引回数を減らす(シグナルの厳格化、時間足を伸ばす)
・サテライトの“学習枠”だけで検証し、主力枠は温存
・MMFコアは淡々と維持
シナリオ3:急落(リスクオフ、ボラ上昇)
・ルールに従ってサテライトは撤退(迷わない)
・「安いから買う」は禁止。再エントリー条件が出るまで待つ
・大きな下落後は、反発が強くても“取り返し”の心理が出るので、月間損失上限を守る
上級編への橋渡し:サテライトに“ヘッジ”を組み込む発想
慣れてきたら、サテライトの中でヘッジを考えると、成績のブレが下がります。ただし、最初から複雑にしないことが重要です。ここでは発想だけ紹介します。
ヘッジの目的は「当てる」ではなく「損失の上限を平らにする」
例えば、株指数に攻めているなら、急落時に価値が上がりやすい保険(小さなコストで損失を抑える)をサテライトの一部に置く、という考え方です。保険は当てに行くものではなく、事故の時に機能すれば十分です。
運用の記録が成績を決める:初心者は“改善できる形”を作るだけで優位になる
投資の世界で最も強いのは、天才ではなく、改善を積み上げる人です。この戦略は二層構造なので、記録も二層で残すと効果が高いです。
最低限の記録項目
・日付
・どのテンプレートで取引したか(トレンド・逆張り・イベント)
・エントリー理由(シグナル)
・損切り/利確の実行(できたか)
・損益(円)
・サテライト比率(%)
これだけで、「負ける癖」が見えるようになります。例えば、逆張り型で負けるなら、トレンド型に寄せれば良い。イベントで負けるなら、取引回数を半分にする。こうした改善が可能になります。
まとめ:勝ち筋は“当てる”ではなく、“壊れない設計”にある
米国債MMFをコアに置くバーベル運用の強みは、派手な当たりを狙うことではなく、損失を限定しながら試行回数を稼げる点です。初心者ほど、このメリットが大きいです。
コアを守り、サテライトで小さく攻め、勝ったらコアへ戻す。これを徹底すれば、相場に振り回される確率は大きく下がります。最初は配分90/10から始め、守るべき上限(比率・1回損失・月間損失)を固定して運用してください。


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