「安全運用」と「レバレッジ運用」を同じ口座・同じ資金塊で混ぜると、相場が荒れた瞬間に“安全側”まで巻き添えで吹き飛びます。ここでは、米国債MMF(短期米国債・レポ等で運用されるMMF)を“核”に置き、レバレッジは別レイヤーで切り離して管理する発想を、具体的な数字と手順で解説します。
- 結論:勝ち筋は「レバレッジの量」ではなく「切り分け方」
- 米国債MMFの役割:現金の代替ではなく“運用中の担保”
- 「安全運用+レバレッジ」の典型的な失敗:同じ財布でやる
- 設計思想:バーベル戦略を“清算耐性”に最適化する
- 具体例:資金1000万円で“核900・レバ100”を作る
- レバレッジのかけ方:個人が触れる代表的な手段と注意点
- この戦略のキモ:レバの“破綻ライン”を先に決める
- 利回りの見せかけに注意:MMF利回り+レバ利回りを足し算しない
- 手順:個人が実際に組むときのチェックリスト
- ケーススタディ:金利局面でどう変わるか
- よくある落とし穴
- 運用のコツ:核の利回りは「時間の味方」を作る
- まとめ:安全資産は“守り”ではなく“構造”
結論:勝ち筋は「レバレッジの量」ではなく「切り分け方」
レバレッジ戦略の最大の敵は、一度の急変で強制清算されることです。リターンの平均値より、破綻確率(ruin probability)が支配的になります。したがって狙うべきは「いかに大きく張るか」ではなく、
①安全資産を核にして耐える、②レバレッジは“破綻しても核が残る”構造で運用する、この2点です。
米国債MMFの役割:現金の代替ではなく“運用中の担保”
米国債MMFは、短期米国債(T-Bills)やレポ取引などで運用され、値動きは小さく、利回りは政策金利の影響を強く受けます(一般に金利が高い局面で利回りが上がりやすい)。ここで重要なのは、MMFを「ただの待機資金」として扱うのではなく、
・核(コア)として資金の大半を置く
・核は原則として触らない
・レバレッジ運用の損益と混ぜない
という“運用中の担保”として扱うことです。
MMFの種類で注意すべきポイント
名称が似ていても中身は違います。最低限、次の観点で見ます。
・投資対象:短期国債中心か、社債・CPが混じるか
・流動性:解約のタイミングと反映日(即日か翌営業日か)
・分配の扱い:再投資されるか、現金で出るか(税務・再投資効率に影響)
・為替:円建てで持つか、ドル建てで持つか(為替ヘッジの有無)
「安全運用+レバレッジ」の典型的な失敗:同じ財布でやる
失敗のパターンは単純です。
・口座Aに100万円、うち80万円をMMF、20万円でレバレッジETFや信用取引
・急落で追証 → 20万円では足りず、80万円のMMFを売って充当
・MMFを売った直後に反発 → 核が削れ、以後の回復力が落ちる
これを避けるために、構造として「核は核のまま残る」ように設計します。
設計思想:バーベル戦略を“清算耐性”に最適化する
ここでいうバーベルは、
・左側:安全資産(米国債MMF)で資産の大部分を保持
・右側:高リスク(レバレッジ)を小さな枠で運用
という分け方です。ただし、単なる比率ではなく、清算耐性(レバレッジ枠が吹き飛んでも核に触れない設計)を最優先にします。
分離管理の3つのレベル
強い順に並べます。
レベル1:心理的分離(同一口座でも“触らない”ルール)
ルールだけで分ける方式。最も簡単ですが、相場急変時にルールが破られやすいのが弱点です。
レベル2:口座分離(核口座とレバ口座を別にする)
核口座はMMF(または同等の短期商品)専用、レバ口座は高リスク専用。追証が発生しても核口座の資金を移さない運用がしやすくなります。
レベル3:法的・構造的分離(借入・担保の形で核を“間接利用”)
核を売らずに資金調達してレバ枠を作る、という発想です。具体的には「証券会社の担保貸付」「銀行の証券担保ローン」「外部の借入枠」などで、核に直接手を付けない仕組みを作ります(利用可否は環境に依存します)。
具体例:資金1000万円で“核900・レバ100”を作る
ここからは、数字でイメージが湧くように例を作ります。前提として、レバ枠は「最悪ゼロになっても生活が破綻しない金額」に限定します。
例1:核(900万円)+レバ枠(100万円)を口座分離で運用
核口座:900万円を米国債MMFで保有(円→ドル転換の有無は方針次第)
レバ口座:100万円を“攻め枠”として運用
ポイントは、レバ口座が損失を出しても核口座に資金移動しないこと。これだけで破綻確率は大きく下がります。
例2:攻め枠100万円をさらに“3層”に分割する
攻め枠は一枚岩にすると、どこかで事故ります。そこで、
・トレード枠:50万円(短期・裁量/ルール運用)
・保険枠:30万円(下落ヘッジや分散のための別戦略)
・予備枠:20万円(追加証拠金・チャンス待ち)
のように、攻め枠の中でも“用途別”に分けます。予備枠があると、急変時に「最悪のタイミングで核を売る」誘惑が減ります。
レバレッジのかけ方:個人が触れる代表的な手段と注意点
① 信用取引(株式・ETF)
一般的で手軽ですが、急変時に追証が発生しやすく、核を巻き込みやすいのが弱点です。分離運用が前提です。
② レバレッジETF(例:指数の2倍・3倍)
「追証がない」点は心理的に強い一方で、日次リバランスによる逓減(ボラティリティ・ドラッグ)があるため、長期保有で期待通りにならない局面があります。短期~中期での使い分けが重要です。
③ 先物(株価指数・債券・商品など)
効率は高いですが、証拠金・ロスカットの管理が必須です。先物は“資金効率が良い”分、ポジションサイズがすぐ過大になります。ロットを小さくすること自体が戦略です。
④ オプション(買い・売り)
限定損失にしやすい手段もありますが、設計を誤ると損失が非線形に膨らみます。特に売りは、想定外のギャップで損失が跳ねるので、核と混ぜないのが鉄則です。
この戦略のキモ:レバの“破綻ライン”を先に決める
個人投資家がやりがちな間違いは、エントリーの根拠に時間を使いすぎて、破綻ラインの設計が薄いことです。ここでは先に決めます。
破綻ラインは「口座残高ベース」で作る
具体的には、攻め口座の残高が一定比率を割ったら、戦略を停止します。
例:攻め口座100万円 → 70万円で縮小、50万円で停止、回復までは再開しない。
これを“ルールとして自動化”できると強いです。裁量で判断すると、だいたい遅れます。
最大ドローダウンを「想定」ではなく「許容」に変える
相場は想定を超えます。だから「想定DD」を置くのではなく、許容DD(ここまで落ちたら終わり)を置く。これが核を守る最短ルートです。
利回りの見せかけに注意:MMF利回り+レバ利回りを足し算しない
よくある誤解が、「MMFが年利4%で、攻め枠が年利30%なら、合計で…」という発想です。実際は、
・攻め枠は分散が効いていない(集中)
・攻め枠の損失が大きいと、核の利回りを上回る損失になる
という形で、合計リターンは単純加算になりません。
期待値よりも「生存」を優先する計算の仕方
実務(※ここでは“運用”の意味)では、次の2つを別々に評価します。
・核:年率リターン(ほぼ金利)と流動性
・攻め:勝率・平均損益・最大連敗・最大ドローダウン
攻めの設計は、勝率よりも「連敗に耐える設計」が重要になるケースが多いです。
手順:個人が実際に組むときのチェックリスト
ステップ1:核の定義(何円を絶対に守るか)
核を「残す金額」で定義します。割合ではなく金額の方がブレません。生活防衛資金が別にあるなら、核は“投資資産の中の核”として定義します。
ステップ2:攻め枠の定義(失っても継続できる上限)
ここが曖昧だと、核を削って追いかけます。攻め枠は「最大損失=ほぼ全損」でも生活が崩れない金額に制限します。
ステップ3:分離の方式(心理・口座・構造)を決める
現実的には口座分離が最も効果が出やすいです。心理分離は“守れる人だけ”向けです。
ステップ4:損失ルールを先に決める(残高・連敗・ボラ急増)
代表例を挙げます。
・残高ルール:100→70で縮小、50で停止
・連敗ルール:5連敗で強制減額、10連敗で停止
・市場環境ルール:VIX急騰、金利ショック時は新規停止
これらは“利益が出ているとき”ではなく、“損失時に守れるか”で評価します。
ケーススタディ:金利局面でどう変わるか
ケースA:政策金利が高い(MMF利回りが高め)
核がしっかり利回りを出す局面です。攻め枠は無理に回さず、チャンスが来た時だけ張る方が総合的に安定しやすいです。焦って攻め枠を膨らませると、核の“安定収益”を自分で壊します。
ケースB:利下げ局面(MMF利回りが低下)
核の利回りが下がります。ここで攻め枠を増やす人が多いですが、相場が転換してボラが上がりやすい局面でもあります。攻め枠の増額より、戦略の勝率が上がる局面を待つ方が合理的です。
ケースC:金融ショック(流動性が一時的に死ぬ)
この局面で重要なのは、核を現金化して追証に回さないことです。口座分離・予備枠が効きます。攻め枠は縮小・停止。核は“生き残るための酸素”として扱います。
よくある落とし穴
落とし穴1:為替を軽視して「安全」と思い込む
円建て投資家がドル建てMMFを持つと、MMF自体は安定でも、為替で損益が動きます。為替ヘッジ型・非ヘッジ型の違いを理解し、核としてどちらが適切かを決めてください。
落とし穴2:流動性のタイムラグを無視する
MMFは即時換金できない場合があります(商品・取引ルールによる)。“今すぐ現金化できる”前提でレバ枠を設計すると、急変時に詰みます。核は触らない設計が基本ですが、触る可能性が1%でもあるなら、換金タイムラグを前提にします。
落とし穴3:「安全側の利回り」で安心して攻め枠が膨張する
核が利回りを出していると、心理的にリスクを取りやすくなります。攻め枠が膨らむと、最終的には核が攻め枠の保険に変わります。順番が逆です。
落とし穴4:複利を狙いすぎて“再起不能のDD”を引く
攻め枠で大きなドローダウンを引くと、そこからの回復は指数関数的に難しくなります。50%の損失を戻すには100%の利益が必要です。だから攻め枠は、勝つより先に“減りにくい設計”が必要です。
運用のコツ:核の利回りは「時間の味方」を作る
核の役割は派手に増やすことではありません。攻め枠が不調な期間でも、核が小さくでも増え続けることで、心理が安定します。心理が安定すると、損失局面での判断ミスが減ります。これが最終的にリターンを押し上げます。
月次でやるべきルーチン
・核:残高確認、商品条件(利回り・費用・換金)確認
・攻め:損益曲線、最大連敗、ルール逸脱の有無を点検
・全体:攻め枠比率が膨らんでいないか(過熱)を確認
まとめ:安全資産は“守り”ではなく“構造”
米国債MMFを核にする狙いは、利回りだけではありません。破綻を避ける構造を作ることです。個人投資家が再現性を出すには、当てにいくより、まず生き残る設計が先です。
最後に、攻め枠は「勝つため」ではなく「負けても続けるため」に作ります。核が残る設計にできた時点で、あなたの運用は一段階、安定側に移ります。


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