今回扱うテーマは「アルゴが板を食い尽くす連続約定を検知して追う」です。これは、板(気配)に並ぶ売り/買い数量が短時間で連続的に約定し、価格が一方向へ押し流される局面を捉え、短期で追随する考え方です。初心者の方でも理解できるように、まずは用語と市場の仕組みから整理し、次に“観測→判定→エントリー→管理→手仕舞い”の順に、実装できるレベルの手順に落とし込みます。
なぜ「連続約定」が有利な局面になり得るのか
株価は「注文の衝突」で動きます。買いが強い局面では、買い成行(または買いが上に指値を出して追いかける注文)が売り板を次々に食い、価格が上に“押し上げられる”形になります。これが「板を食い尽くす」状態です。逆に売り成行が買い板を食い、下へ押し下げることもあります。
このときのポイントは、価格変化の背後に“実需に近い強制力”があることです。出来高が伴い、歩み値(約定履歴)が同方向に連なり、板の厚みが一段ずつ消えるなら、短時間だけでもトレンドが発生しやすい。ここに短期売買の余地があります。
ただし誤解してはいけないのは、「連続約定=必ず上がる/下がる」ではない点です。板食いの見た目でも、実際は見せ玉の消去、薄板の偶発、寄り直後の乱高下、イベント前の駆け引きなど、フェイクも多い。したがって、“本物っぽい連続約定”を定義し、条件が揃ったときだけ参加するのが戦略の核になります。
用語の最低限:板・歩み値・ティック・スプレッド
初心者が最初につまずくのは、板と歩み値が何を示しているのかです。
板(気配):現在出ている指値注文の一覧です。売り板は上、買い板は下。最良売り(最も安い売り)と最良買い(最も高い買い)の差がスプレッドです。
歩み値:実際に成立した約定の履歴です。どの価格で、どの数量が、どのタイミングで成立したか。ツールによっては「成行/指値」「買い/売り主導」の色分けが表示されます。
ティック:株価が動く最小単位です。価格帯により刻みが異なります。
スプレッド:最良売りと最良買いの差。薄商い銘柄ほど広がりやすく、スキャルの難易度が上がります。
「板食いアルゴ」を検知するための観測指標(実務レベル)
ここから具体化します。連続約定の判定は「目視」でもできますが、勝率を上げたいなら、目視の“雰囲気”を数値に翻訳します。以下は初心者でも扱いやすく、かつ効果の出やすい観測指標です。
① 連続約定カウント(N秒内)
例:直近5秒で同方向(買い主導)約定が8回以上、または直近10秒で15回以上。単発ではなく「連打」になっているかを見ます。ツールが無い場合は、歩み値が同色で連なるかを確認します。
② 食われる板の“厚み”と“階段”
本物っぽい局面では、最良売り(または最良買い)だけでなく、次の価格帯の板まで素早く消えていきます。つまり「一段消える→上の段にぶつかる→また消える」という階段状の進行が見える。逆にフェイクは、最良気配付近だけがチョロチョロ消えるだけで、上(下)の段が残り続けます。
③ 価格の進み方:ティック飛び vs ジリ上げ
板食いには2タイプがあります。
・ティック飛び型:薄板を一気に食って数ティック飛ぶ。伸びは速いが反転も速い。
・ジリ上げ型:一段ずつ食い、細かく上がる。追随がしやすいが、途中で止まりやすい。
自分が扱いやすい型を決めて、指標も合わせます。
④ 出来高の“質”:ローソク足より歩み値
出来高は増えていても、売買が拮抗しているとただの回転です。見るべきは、同方向の連続と、同じロットが連続するなどの癖です。例えば、5,000株の買い成行が連続するなら、アルゴの分割執行(一定ロットで刻む)を疑えます。
⑤ スプレッドと約定スリッページの許容範囲
短期追随で最も致命的なのは、期待値がスプレッドで消えることです。原則として、スプレッドが1ティック、悪くても2ティックまで。3ティック以上は、勝っても取引コストで削られやすいので、初心者は避けるべきです。
戦略の全体像:3段階フィルターで“本物”だけ拾う
私は「連続約定を見たら即成行」ではなく、3段階で絞ります。理由は単純で、フェイクが多すぎるからです。
フィルターA:銘柄選別(触っていい地合いか)
・当日出来高が平常の2倍以上(最低でも“動いている”)
・スプレッドが狭い(原則1ティック)
・板が極端に薄くない(最良気配の数量が“常にゼロに近い”銘柄は危険)
これで“取引対象”を先に絞ります。
フィルターB:局面選別(連続約定が効きやすい時間帯)
寄り直後は情報が一気に反映され、連続約定が出やすい反面、だましも多い。初心者は、寄り後10〜30分や、後場寄り直後など、板が落ち着き始める時間帯から入るのが安全です。
フィルターC:トリガー(連続約定の条件)
・直近5秒で買い主導約定8回以上(例)
・最良売り板が2段連続で食われた(例)
・食われた直後に“戻されない”(次の1〜2秒で元の価格に戻らない)
この3つが揃ったときだけ、エントリーします。
エントリーの具体例:買い追随(上方向)
ここでは、よくある“上に走る局面”のエントリーを、時系列で書きます。
状況:10:05。材料で買われている銘柄。寄り後は押し目を作りつつ高値を試している。スプレッド1ティック。板は売り板が各段10,000〜30,000株程度で適度に厚い。
観測:歩み値が買い主導で連打し、最良売り→次の売り板→さらに次…と2段連続で消える。価格は1ティックずつ上へ。直近5秒で買い主導約定が10回。直近の戻しは最大1ティック。
実行:私はここで成行で1回だけ入ります。理由は、連続約定局面は“待つほど悪化”しやすいからです。指値だと置いていかれる一方、追いかけすぎると天井を掴む。だから「条件が揃った瞬間」に限定し、成行1回で済ませます。
初期損切り:入った直後に、直近の“板食い開始前”の価格(または直近の押し安値)を基準に、-2〜-3ティックで切ります。連続約定はスピード勝負なので、逆行を耐えるほど期待値が下がります。
エグジットの設計:利確は“終わり方”で決める
板食いは、始まりよりも“終わり方”が重要です。利確を固定ティックにすると、伸びる場面を取り逃がし、伸びない場面では取り損ねます。そこで私は「連続約定が止まったサイン」で利確します。
利確サイン1:歩み値の連打が途切れる
直近5秒の同方向約定回数が、例えば10→3に落ちた。買いが息切れした可能性が高い。
利確サイン2:食われるはずの板が“残り続ける”
最良売り板が同価格で残り、約定が進まない。ここで時間を使うと、反転に巻き込まれやすい。
利確サイン3:一気にティックが飛んだ直後の反落
薄板を食って2〜3ティック飛んだ直後に、すぐ1〜2ティック戻されたら要注意。追随勢の利確が出ている可能性があるため、私はすぐに半分以上を落とします。
初心者向けの運用としては、分割利確が実用的です。例えば、+2ティックで半分利確し、残りは“利確サイン”で全部落とす。これで勝ちパターンの取りこぼしを減らしつつ、精神的にも安定します。
売り追随(下方向)の注意点:上より難しい
下方向の板食い(売り成行の連打)は、上方向より難しいことが多いです。理由は、急落局面では逆張り買いが入りやすく、反発が速いからです。初心者が売り追随をやるなら、以下の条件を追加して“事故”を減らします。
・直近で大きな買い支え(厚い買い板)が見えない
・価格帯に信用買いのロスカットが溜まりやすい(節目割れ)
・指数も同方向に弱い(個別だけの急落ではない)
また、空売りが絡む場合は制度・一般、在庫、逆日歩などの制約があり、コストや執行不確実性が増えます。初心者はまず買い追随で型を作り、売りは慣れてからにするのが堅実です。
だましを避ける「ありがちな偽物」パターン
ここが最重要です。負ける原因の多くは“連続約定に見える偽物”です。代表例を具体的に挙げます。
偽物1:薄板の偶発(板が最初からスカスカ)
板が薄い銘柄は、少量の成行でも数ティック飛びます。これはアルゴの強い買いではなく、単なる流動性不足です。スプレッドが広がり、約定後にすぐ戻ることが多い。対策は「スプレッド1ティック」「板が一定以上厚い」銘柄だけ触ることです。
偽物2:見せ板→キャンセル→連続約定に見える
厚い板が突然消え、価格が動いたように見えるが、実は約定していない(キャンセル)。歩み値が伴わないなら偽物の可能性が高い。対策は「板の変化」ではなく「歩み値の連続」を主指標にすることです。
偽物3:寄り直後の価格発見(ただの荒い値決め)
寄り直後は注文が集中し、連続約定のように見えますが、方向感は定まりません。特に寄り後5分はノイズが多い。対策は寄り後10分以降に限定するか、寄り直後は“観察だけ”にすることです。
偽物4:高値圏の最後の噴き上げ(出口の成行)
上げ切った後の最後の買い連打は、実は利確をぶつけられて終わることが多い。見分けは「上に行っているのに板が厚くなっていく」「出来高は増えているが、上値が進まない」など。対策は“直近高値ブレイク直後”より、“ブレイク前の初動”を取りに行くことです。
初心者向け:最小のルールセット(これだけで形になる)
複雑にすると運用できません。初心者が最初に回すべき最小ルールは以下です。
対象:当日出来高が平常の2倍以上、スプレッド1ティック、板が極端に薄くない銘柄。
トリガー:直近5秒で同方向約定8回以上+売り板(買いの場合)が2段連続で食われる+食われた直後に戻されない。
エントリー:成行1回のみ。追いかけての追加はしない。
損切り:-2〜-3ティックで即切り。逆行を耐えない。
利確:+2ティックで半分利確。残りは「連打が途切れる」「板が残る」「飛び後の反落」のいずれかで全利確。
このルールは、勝率よりも損失の限定を優先しています。板食い追随は“当たると速いが外すと速い”ため、まずは負けのサイズを小さくするのが最短ルートです。
検証(バックテスト)の現実解:ティックデータが無くても始められる
板食いはティックデータがあれば理想ですが、初心者がいきなり完璧なデータ環境を揃える必要はありません。現実解として、次の順で精度を上げます。
Step1:スクリーン録画で30本集める
まずは実戦で触らず、監視だけで連続約定局面を30回録画します。入っていたら勝っていたか、損切りはどこか、利確サインは機能したかを“人力”で採点します。これで偽物パターンが体感で分かるようになります。
Step2:条件をチェックリスト化して再現性を上げる
「スプレッド1ティック」「直近5秒の連打」「2段食い」「戻されない」などを紙に書き、毎回同じ順でチェックします。判断を固定化すると、成績が安定します。
Step3:簡易データで“時間帯×銘柄タイプ”を分類
寄り後、後場寄り、引け前など時間帯で分ける。さらに、値が軽い小型株/大型株、テーマ株/ディフェンシブなど銘柄特性で分ける。板食いの効き方はここで大きく変わります。
実戦でのよくある失敗と対策
失敗1:見つけた瞬間に飛び乗って高値掴み
対策:トリガーを“開始直後”に寄せる。具体的には「2段食いが起きた直後、戻されないのを確認してから1回だけ」など。
失敗2:損切りできずに、いつの間にか逆行が膨らむ
対策:損切りは“値幅”で固定し、感情を入れない。-2〜-3ティックで切る。板食いが止まった時点で、もはや優位性が無いと割り切る。
失敗3:薄板銘柄でスリッページ地獄
対策:スプレッドと板厚のフィルターを守る。取れる局面より、避ける銘柄の方が重要。
失敗4:一度勝った型をどの銘柄にも当てはめる
対策:銘柄を「板が厚い大型」「テーマで軽い小型」などに分類し、同じ型でもパラメータを変える。例えば小型は利確を早める、大型は連打カウントを多めにするなど。
応用:VWAP・前日高値・節目を“合流点”として使う
連続約定は単体でも使えますが、さらに精度を上げるなら“合流点”を使います。合流点とは、他の参加者も意識しやすい価格帯です。
・VWAP:機関投資家のベンチマークになりやすく、VWAP近辺で攻防が起きます。板食いがVWAPの上(下)で発生した場合、トレンド継続になりやすいことが多い。
・前日高値/安値:節目ブレイクの瞬間は、成行が連打しやすい。ここで板食いが出たら“本物”の可能性が上がります。
・ラウンドナンバー:1,000円、2,000円など。特に値嵩株で意識されます。
まとめ:板食い追随は「定義」と「撤退」がすべて
板食いアルゴの連続約定を追う短期売買は、派手に見えますが、実態は“条件が揃った瞬間だけ参加し、違ったら即撤退する”地味な運用です。初心者が勝ち筋を作るための最優先事項は次の3つです。
第一に、本物っぽい連続約定を数値で定義すること。第二に、スプレッドと板厚で銘柄を切ること。第三に、損切りを機械的に実行すること。これが守れれば、連続約定は「偶然の動き」ではなく「再現性のある局面」として扱えるようになります。
次のステップとしては、録画検証で偽物パターンの辞書を作り、自分の得意な銘柄タイプと時間帯に絞っていくことです。ここまで作り込めば、短期売買でもブレが減り、“狙うべき局面”が明確になります。


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