米国の雇用統計(Non-Farm Payrolls:NFP)は、米国株だけでなく、ドル円・米国債利回り・日本株先物に連鎖的なインパクトを与える“毎月の大型イベント”です。特に日本の個人投資家にとって実用性が高いのが、米雇用統計の発表直後に動く日経先物(ナイトセッション)の値動きを材料に、翌朝の日本株の寄り付きギャップと寄り直後の初動を予測するという使い方です。
ここで重要なのは、「雇用者数が予想より良い=株が上がる」のような単純な読みを捨てることです。雇用統計は“景気の強さ”だけでなく、インフレ圧力と金融政策(利下げ・利上げ観測)を同時に動かします。その結果、株式(リスク資産)にとってプラスにもマイナスにもなり得ます。この記事では、一般論で終わらせず、実際に翌朝の寄り付き戦略に落とし込める形で、観測ポイント、シナリオ分岐、板と気配の読み、注文の入れ方までを整理します。
- まず結論:翌朝の寄り付き予測は「先物の値幅」ではなく「反応の質」で決まる
- 準備:見るべきマーケットは3つだけ(ドル円・米金利・米株先物)
- 雇用統計の「どの数字が効いたか」を3分類で判断する
- 分類A:景気評価(リスクオン)として解釈されたケース
- 分類B:金融政策(利下げ遠のく=株に逆風)として解釈されたケース
- 分類C:リスクオフ(景気悪化)として解釈されたケース
- “翌朝の寄り”を当てる具体手順:ナイト先物を3区間で採点する
- 区間1:発表直後〜10分「初動の方向」と「反転の有無」
- 区間2:10分〜60分「整合性チェック(ドル円・米金利・米株先物)」
- 区間3:NY後半〜ナイト終盤「保持力(上げを守る/下げを守る)」
- 具体例:3つの典型シナリオと、翌朝の立ち回り
- シナリオ1:上寄り濃厚(整合的リスクオン)
- シナリオ2:寄り天注意(雇用強すぎ=利下げ遠のく)
- シナリオ3:下寄り濃厚(整合的リスクオフ)
- 寄り付きの精度をさらに上げる:日本時間の“もう一段”の材料に注意
- 寄り前の最終チェック:気配と板で「寄り天/寄り底」を先に疑う
- 注文設計:初心者でも事故りにくい「2段階エントリー」
- 損切りと利確の基準:値幅ではなく“否定”で切る
- やってはいけない典型ミス:雇用統計の“数字当て”に固執する
- 実務的まとめ:チェックリスト(翌朝の寄り付き前に5分で終わる)
- もう一段深掘り:日経先物は「どこの市場の値」を見ているかを意識する
- ギャップ幅の目安を作る:先物ベースで「寄り付き想定レンジ」を決める
- 個別株への落とし込み:翌朝に狙う銘柄を「指数寄与×テーマ」で2段に分ける
まず結論:翌朝の寄り付き予測は「先物の値幅」ではなく「反応の質」で決まる
米雇用統計直後に日経先物が100円〜200円動くことは珍しくありません。しかし、翌朝の寄り付きの精度を上げる鍵は、動いた“幅”ではなくその後の戻し・定着・失速といった反応の質です。
具体的には、次の3つが揃うほど翌朝の寄り付き予測は当たりやすくなります。
① 速報直後の初動(30秒〜2分):アルゴ同士の殴り合い。ここは方向感が出てもフェイクが多い。
② 5〜20分の“落ち着きどころ”:債券利回り・ドル円・米株先物と整合する価格へ収束しやすい。
③ NY後半〜引けまでの“保持力”:日経先物の方向が一晩保たれるかどうかで、翌朝のギャップが決まる。
準備:見るべきマーケットは3つだけ(ドル円・米金利・米株先物)
雇用統計の中身を完璧に理解するより、市場が何を気にしてどう動いたかを把握する方が、翌朝の寄り付き予測には効きます。最低限、次の3つの同時監視で十分です。
ドル円(USD/JPY):日本株は輸出株比率が高く、指数もドル円に影響されやすい。
米金利(特に米10年):株式の割引率・グロースの評価に直結。金利が急騰すると株が崩れやすい。
米株先物(S&P500 / Nasdaq):リスクオン・オフの温度計。日経先物の同時刻の連動先。
この3つを見た上で、日経先物の反応が整合的なら翌朝の寄り付きは“素直”、整合しないなら“寄り天・寄り底”のリスクが上がります。
雇用統計の「どの数字が効いたか」を3分類で判断する
雇用統計は項目が多く、全部追うと判断が遅れます。実戦では、相場が動いた理由を次の3分類に落として素早く決めます。
分類A:景気評価(リスクオン)として解釈されたケース
典型は「雇用者数が予想を上回り、失業率も悪化せず、賃金の伸びも過熱していない」など、市場が“良いニュース”として受け取るパターンです。米株先物が上がり、ドル円も穏やかに円安、米金利は上がっても緩やか、という整合になりやすい。
このときの日経先物は、発表直後に上へ飛び、その後も押し目が浅く、一定の価格帯で買いが支え続ける動きをしやすいです。翌朝はギャップアップ寄りの確率が上がります。
分類B:金融政策(利下げ遠のく=株に逆風)として解釈されたケース
雇用が強すぎる、賃金が強い、前月分が上方修正、といった内容は「インフレが粘る」「利下げが遅れる」と解釈され、米金利が急騰しやすい。Nasdaq先物が特に売られ、ドル円は円安方向でも株は下がる、というねじれが起きます。
このときの日経先物は、最初は上に反応しても、米金利上昇が効いて失速し、戻り売りが継続する動きになりがちです。翌朝はギャップアップでも寄り天になりやすく、もしくはギャップダウン寄りの確率が上がります。
分類C:リスクオフ(景気悪化)として解釈されたケース
雇用者数が予想を下回り、失業率が上がる、賃金も弱い場合、景気後退懸念から米株が売られやすい。一方で金利は低下(債券買い)し、ドル円は円高方向へ動くことが多い。
この場合の日経先物は、米株先物と同方向に一気に崩れ、戻しても戻りが弱く、売りが上から叩き続ける形になりやすいです。翌朝の日本株はギャップダウン寄りを警戒します。
“翌朝の寄り”を当てる具体手順:ナイト先物を3区間で採点する
ここからが実戦です。私は翌朝の寄り付きの読みを、ナイト先物を3区間に分けて採点します。複雑な指標は不要で、やることはシンプルです。
区間1:発表直後〜10分「初動の方向」と「反転の有無」
・初動が上で、そのまま10分保てる → 上寄りシナリオをベースにする
・初動が上でも、10分以内に全戻し(元の水準を割る) → フェイク。翌朝は寄り天・下寄りも想定
・初動が下で、そのまま戻らない → 下寄りシナリオをベースにする
“10分以内の全戻し”は強いシグナルです。雇用統計直後はアルゴの過剰反応が起きますが、全戻しが出るということは、より大きい資金が逆方向に入り、方向性が早期に否定された可能性が高いからです。
区間2:10分〜60分「整合性チェック(ドル円・米金利・米株先物)」
ここは“値動きの品質”を判定する時間帯です。具体的には以下を見ます。
日経先物↑なのに、Nasdaq先物↓が加速、米10年金利↑が加速:不整合。翌朝は寄り天になりやすい。
日経先物↑、S&P先物↑、ドル円↑、米金利は横ばい〜緩やか:整合。翌朝の上寄りの信頼度が上がる。
日経先物↓、米株先物↓、ドル円↓(円高)、米金利↓:整合。翌朝の下寄りの信頼度が上がる。
ポイントは、日経先物を単独で見ないことです。連動先と整合しない上昇は、翌朝の寄り付きで現物側の裁定・ヘッジが入り、上値が一気に重くなることが多いからです。
区間3:NY後半〜ナイト終盤「保持力(上げを守る/下げを守る)」
最終的に翌朝のギャップを決めやすいのは“一晩の保持力”です。発表直後に動いた方向が、NY後半でも崩れないなら、翌朝の寄り付きはその方向に素直になりやすい。
保持力の判断は難しくありません。一晩で2回以上、重要な節目(直近高値/安値、前日終値、ナイトの起点)を試して守ったかだけ見ます。守れた回数が多いほど、翌朝にその節目が意識されやすく、寄り付きの攻防ラインとして使えます。
具体例:3つの典型シナリオと、翌朝の立ち回り
シナリオ1:上寄り濃厚(整合的リスクオン)
状況:NFPは強いが賃金は過熱せず。S&P先物↑、米10年金利は小幅↑、ドル円は緩やかに円安。日経先物は発表直後から上に飛び、10分以内の全戻しがない。
翌朝の読み:ギャップアップ寄り。寄り直後は買い優勢になりやすい。
立ち回り:
・現物の寄り付きは“買い気配で寄るか”を確認。買い気配が強いなら、寄り直後の押し目(1〜5分足の押し)を狙う。
・ただし、ギャップが大きいほど(例:前日終値比+1.5%など)寄り天リスクも増える。寄りの成行買いは避け、VWAP近辺までの押しを待つ。
・指数連動の恩恵が大きい大型株(先物主導で動く銘柄)を優先し、材料薄の小型株に飛びつかない。
シナリオ2:寄り天注意(雇用強すぎ=利下げ遠のく)
状況:雇用者数が大幅上振れ、平均時給も上振れ、前月分上方修正。米10年金利が急騰し、Nasdaq先物が下落。ドル円は円安でも株は弱い。日経先物は最初上がるが、30分以内に失速し、戻り売りが継続。
翌朝の読み:寄り付きは意外と高く始まる(円安の見た目)ことがあるが、上値が続かず失速しやすい。
立ち回り:
・寄り付き直後に高値を追わない。まず寄り後の5分足で高値更新できるかを確認する。更新できずに陰線で戻されるなら、短期の売り目線が有利。
・指数寄与度が高い銘柄は先物に引っ張られやすく、板が薄い時間帯に崩れることもある。逆に、金利上昇がプラスになりやすい銀行株などは相対的に底堅い場合があるため、セクターの強弱も見る。
・空売りを使う場合、寄り天狙いは“最初の戻り”で売りたい。寄り直後の初動で突っ込むと、踏まされやすい。
シナリオ3:下寄り濃厚(整合的リスクオフ)
状況:NFPが下振れ、失業率が上昇、米株先物が急落。米金利は低下、ドル円は円高。日経先物も同方向に下落し、戻りが弱い。
翌朝の読み:ギャップダウン寄り。寄り直後に投げが出てボラが上がりやすい。
立ち回り:
・最初から売りで飛びつくより、寄り後の投げ一巡を待つ方が勝率が上がる。具体的には、寄り直後の出来高ピーク後に下げが止まり、5分足で下ヒゲが出る形。
・指数が急落した朝は、個別も一斉に売られるため、“悪材料が出た銘柄”と“単に指数で売られた銘柄”が混ざる。後者は反発が速い。ニュース面で固有の悪材料がない銘柄を優先してリバウンド候補にする。
・損切りは短く。下落局面は値幅が出る一方、反発も急で、粘ると一気に戻される。
寄り付きの精度をさらに上げる:日本時間の“もう一段”の材料に注意
雇用統計だけで翌朝が決まるわけではありません。日本時間の朝に、先物をもう一段動かす材料が出ることがあります。
・米国株の引け際の急変(要人発言、ヘッドライン)
・為替の早朝の急変(アジア時間でのフロー)
・日本固有のニュース(企業決算、地政学、政銀要因)
実戦では、ナイトの方向感が強かったのに、早朝にドル円が逆行しているなどの“ねじれ”が出たら、寄り付きのプランを保守的にします。具体的には、寄りの成行を避け、寄り後の最初の押し・戻りを待って入る、という運用に切り替えます。
寄り前の最終チェック:気配と板で「寄り天/寄り底」を先に疑う
翌朝の現物市場が開く直前に、最後のチェックをします。ここでの目的は“寄り値を当てる”ではなく、寄り天/寄り底になりやすい条件が揃っていないかを見抜くことです。
寄り天になりやすい条件
・先物は上だが、寄り前の気配で上値が買われず、むしろ売り板が厚くなる
・指数寄与の大きい主力株の気配が弱い(特定銘柄だけ気配が強い)
・ドル円が寄り前に円高へ戻っている
寄り底になりやすい条件
・先物は下だが、寄り前に下値の売りが吸収され、気配が上がってくる
・板で下に厚い買いが見える(見せ玉の可能性もあるので“時間を置いて残るか”確認)
・米株先物が寄り前に反発している
注文設計:初心者でも事故りにくい「2段階エントリー」
雇用統計絡みの寄り付きはボラが高く、いきなり大きく張ると事故りやすい。そこで初心者に向くのが2段階エントリーです。
① まず小さく入る(全体の30〜40%)
② 方向が合っていることを確認して追加(残り60〜70%)
確認ポイントはシンプルで、寄り後の最初の押し/戻りで、直前の節目(先物の支持/抵抗)を守れるかです。守れるなら継続、割れるなら撤退。これだけで、雇用統計後の荒い値動きでも、損失を小さく抑えやすくなります。
損切りと利確の基準:値幅ではなく“否定”で切る
「何円逆行したら損切り」という固定幅は、イベント相場では機能しづらいです。代わりに、自分のシナリオが否定されたら切るという基準にします。
例:上寄りシナリオで押し目買いをしたのに、押しのはずの場面で先物起点の支持を割り、ドル円も円高へ反転、米株先物も弱化した。これは“押し目”ではなく“トレンド否定”の可能性が上がるので撤退、という判断です。
利確も同様で、目標値幅より勢いの鈍化を優先します。具体的には、5分足の高値更新が止まる、出来高が細るのに上に伸びない、板の上が急に厚くなる、といった兆候が出たら、分割で利確して取り逃しを減らします。
やってはいけない典型ミス:雇用統計の“数字当て”に固執する
初心者がハマりやすいのが、雇用統計の数字を解釈しすぎて判断が遅れることです。市場は“解釈”ではなく“価格”で答えを出します。あなたが見るべきなのは、雇用者数そのものより、発表後に米金利・ドル円・米株先物がどう動き、日経先物がそれに整合しているかです。
もうひとつのミスは、雇用統計で動いた方向に“翌朝も絶対同じ”と決め打ちすること。夜間は先物中心で価格が作られますが、翌朝は現物の裁定、国内勢の需給、ニュースなどが混ざります。だからこそ、本記事で説明したように「反応の質」と「整合性」で確率を上げ、エントリーは2段階にして事故を減らします。
実務的まとめ:チェックリスト(翌朝の寄り付き前に5分で終わる)
最後に、翌朝の寄り付き判断を最短でやるチェックリストを置きます。
(1)ナイト先物の初動は上か下か。10分以内の全戻しはあるか
(2)ドル円・米10年金利・米株先物と整合しているか
(3)NY後半でも方向が保たれたか(重要な節目を守った回数)
(4)寄り前に“ねじれ”(ドル円逆行など)は起きていないか
(5)寄り直後は2段階エントリー。節目割れで撤退できる設計か
この5つを毎回同じ手順で回すだけで、「雇用統計→日経先物→翌朝の寄り付き」という流れが、運任せのギャンブルから、再現性のあるルーティンに変わっていきます。
もう一段深掘り:日経先物は「どこの市場の値」を見ているかを意識する
日経先物と一口に言っても、実際には複数の取引所・時間帯の価格形成が重なっています。初心者が混乱しやすいので、寄り付き予測に必要な範囲だけ整理します。
大阪取引所(OSE)ナイトセッション:日本時間の夜に動く中心。個人・国内勢だけでなく海外勢のヘッジも入りやすい。
米国時間の指数先物(S&P/Nasdaq):日経先物の“方向”を決める外部ドライバー。
為替(ドル円):日経先物が“株と為替のミックス商品”のように反応する場面がある。
海外で参照される日経先物/指数(例:SGX、CMEなど):呼び値や時間帯の違いはありますが、重要なのは「海外勢がどの水準を意識しているか」を測る材料になる点です。
実戦的には、雇用統計で動いたあと、米株先物が落ち着いたのに日経先物だけが走り続ける、またはその逆、という局面が起きます。これは市場参加者の“主役”が入れ替わったサインです。主役が為替なら翌朝は輸出主力が強くなりやすく、主役が金利ならグロースや半導体が弱くなりやすい。指数を当てるより、主役を当てる方が翌朝の個別選別に効きます。
ギャップ幅の目安を作る:先物ベースで「寄り付き想定レンジ」を決める
寄り付きの価格をピンポイントで当てる必要はありません。むしろ、想定レンジを作り、レンジ外れに備える方が安定します。ここでは、ざっくりでも再現性が出やすい方法を紹介します。
手順
① 前日の日経平均の終値(または先物日中終値)をメモする
② ナイト終盤の先物水準をメモする(“落ち着きどころ”)
③ 差分(先物−前日終値)を取る
④ “ねじれ補正”としてドル円が寄り前に逆行していないか確認する
例えば、前日終値が38,000、ナイト終盤の先物が38,250なら、差分は+250です。翌朝はギャップアップ寄りを基本シナリオに置きます。ただし寄り前にドル円が1円以上円高に戻っているなら、差分を半分程度に割り引いて、+100〜+150程度の上寄りに想定を修正します。これは数学ではなく“実務の調整”ですが、経験的にブレが減ります。
個別株への落とし込み:翌朝に狙う銘柄を「指数寄与×テーマ」で2段に分ける
雇用統計後の朝は指数が動きやすいので、まず指数連動で取りやすい銘柄群(主力・先物主導)と、テーマで動く銘柄群を分けて監視します。
第1群(指数連動):寄り直後に指数が伸びるなら同方向に素直に動きやすい。反対に指数が崩れると一気に崩れる。板と出来高が厚いので、初心者でも約定のストレスが少ない。
第2群(テーマ連動):金利・為替・セクターの強弱で差が出る。例えば金利急騰なら銀行が相対的に強く、金利低下ならグロースが戻りやすい、など。
重要なのは、朝イチに第2群へ飛びつかないことです。雇用統計の朝は“指数の波”が先に来ます。まず指数の方向性を確認し、その波の中で相対的に強い(弱い)セクターへ移る。これが、同じシナリオでも取りこぼしを減らす動き方です。


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