EPSサプライズ×IVクラッシュで狙う決算後トレード完全ガイド——反応の遅れと需給歪みを利益に変える実践フレーム

株式

決算発表の直後、市場は一斉に「驚き(サプライズ)」を消化します。多くの初心者が「良決算=直後に買う」と考えがちですが、現実の値動きはもっと複雑です。コンセンサス比でのEPSサプライズに対して、オプション市場のインプライド・ボラティリティ(IV)が急落する「IVクラッシュ」、機関投資家の執行遅延や需給の歪み(指数組入れ・裁定フロー)、個人投資家の追随などが重なり、決算“後”にも統計的に狙える値幅が生まれます。本稿では、日本株を主戦場としつつ、グローバルでも汎用化できる「EPSサプライズ × IVクラッシュ × 流動性」を組み合わせたイベント後トレードを、データ取得・ルール設計・検証・運用まで一気通貫で解説します。

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戦略の骨子:なぜ「直後」ではなく「後」を獲るのか

決算直後の値動きは、ガイダンスやコールのニュアンス、アルゴの見積もり誤差、気配薄のギャップ等でノイズが多く、初心者には難解です。一方で、発表直後のIVは高止まりから急低下しやすく、翌日以降は「ボラの収縮」と「需給の解消」に伴うトレンドが立ち上がることが多くあります。ここを狙うのが本戦略の核心です。

  • ファンダ要因:EPSサプライズ(実績EPS − 予想EPS)/ |予想EPS| が一定以上。
  • ボラ要因:決算前日比でIVが急落(例:▲20%以上)し、オプションの時間価値が縮む。
  • 需給要因:出来高急増、寄り付きギャップ後の順張り/逆張りのどちらが妥当かを板気配で判定。

データの準備:最小セットで始める

1) EPSコンセンサスと実績の取得

証券会社の決算カレンダーや決算短信、アナリストコンセンサス集計を参照します。必要なのは「発表日時、実績EPS、コンセンサスEPS、売上成長率(参考)」です。可能ならガイダンス(通期・四半期見通し)も取得し、サプライズの持続性を推し量ります。

2) IVと出来高・気配

主要限月のインプライド・ボラティリティ(ATM近辺)を前日終値比で比較し、急落幅(IVクラッシュ)を測定します。加えて出来高・売買代金の増加率、板の厚み(最良気配の深さ)も指標化しておくと、エントリー方向の判定精度が上がります。

3) ティッカー・ユニバース設計

東証プライムの流動性上位(例:平均売買代金20億円以上)を母集団にし、決算日ごとにスクリーニングします。流動性が薄い銘柄はスリッページが大きく、イベント後の統計優位が手数料・滑りで削られやすいからです。

ルール設計:具体的な売買フロー

ロング側(好サプライズの押し目買い)

  1. トリガー:サプライズ率 ≥ +5〜+10%、決算翌日寄りのIVが前日比▲20%以上。
  2. エントリー条件:寄り後30〜60分の高値を上抜けで成行エントリー。出来高が前日比200%以上、かつVWAP上に位置。
  3. 初期ストップ:寄り値の−2%または当日VWAP▲1.5σ下割れ。
  4. 利確:①当日終値でのタイムベース利確、②2〜5営業日のトレーリング(ATRの1.5倍)いずれか。

ショート側(悪サプライズのリバウンド戻り売り)

  1. トリガー:サプライズ率 ≤ −5〜−10%、翌日寄りのIV急落を確認(▲20%以上)。
  2. エントリー条件:寄り後のリバウンド高値(前日終値付近)で下押しの再開を確認して成行売り。
  3. 初期ストップ:寄り値+2%またはVWAP+1.5σ上抜け。
  4. 利確:①当日引け、②2営業日で半分利確+残りはブレイクイーブンにストップ切上げ。

オプション応用(保守的な収益化)

  • カバードコール:好サプライズで現物ロング+ATM〜+1σの短期コール売り。IVクラッシュ後の時間価値減衰を取りにいきます。
  • プット売り:強い好決算でギャップアップ後、サポート直下のプットを短期で売る(証拠金・リスク管理必須)。
  • 注意:オプション売りはテールリスクを伴うため、損失限定のスプレッド(ベア/ブル・プット/コール・スプレッド)を基本にします。

具体例シミュレーション(仮想データ)

仮に「銘柄A(平均売買代金150億円)」が決算発表を行い、コンセンサスEPS 100に対し実績115(+15%サプライズ)、売上成長+12%、翌日寄りでIVが前日比▲25%急落、寄り付きは+6%ギャップアップ、出来高は前日比350%とします。

寄り後40分でいったん押しが入り、VWAP付近で下げ止まり。VWAP上に回復して5分足で高値を更新。ここで100株を成行買い。初期ストップは寄り値−2%。その後、2日目の寄りでさらに+4%続伸、3日目の昼に+8%到達。ATR1.5倍のトレーリングに触れ半分利確、残りはVWAP割れで手仕舞い。合計で+6.2%の確定益を得たという想定です。

同じ決算日でも、サプライズ+3%・出来高+80%・IV変化▲10%に留まった「銘柄B」にはエントリーしません。待つ力が勝ち残りの鍵です。

検証プロセス:小さく始めて、頑丈に育てる

  1. データ期間:最低3年(できれば5年)。決算の季節性が反映されます。
  2. 分割:学習期間(最初の70%)と検証期間(残り30%)で分け、パラメータを固定。
  3. メトリクス:ヒット率、期待値(平均損益/取引)、PF、最大ドローダウン、保有日数、ギャップ寄与。
  4. 感度分析:サプライズ閾値(5〜15%)、IV落差(−10〜−35%)、出来高倍率(150〜400%)。
  5. リバランス周期:四半期ごとに閾値とユニバースを見直し、過学習を防止。
  6. コスト計上:片道手数料、スプレッド、想定スリッページ(例:0.05〜0.15%)を必ず引きます。

実行時のリスク管理

  • サイズ管理:1トレードの想定最大損失を口座資産の0.5〜1.0%に制限します。ATR基準でロットを可変にするとブレが抑えられます。
  • ニュース・イベント競合:同週のCPIや政策金利会合がある場合、全体ボラの再膨張でIVクラッシュの効果が相殺されることがあります。
  • ギャップ・リスク:寄り付きでの大幅ギャップに対しては、指値分割・時間分散(前場/後場)で実質的な平均執行単価を最適化します。
  • ポジション重複:同セクターで類似の決算イベントが連鎖する週は総リスクが集中しがちです。セクター別に同時保有上限を設定します。
  • アルゴとの共存:板の約定フローが極端に速い時間帯は無理に追わず、VWAP回帰のワンタッチを待つなど、優位性のあるゾーンに限定します。

実装チェックリスト(運用前に整えるべき項目)

  1. 決算カレンダーの自動取得(APIまたはスクレイピング)。
  2. コンセンサスEPSと実績EPSの差分計算、売上/ガイダンスの付帯データ保存。
  3. IV前日比、出来高倍率、ギャップ率、VWAP乖離、ATRを一括計算するスクリプト。
  4. トリガー条件を満たした銘柄の「翌日午前の監視リスト」自動生成。
  5. 寄り後30〜60分の高値/安値・VWAP・σを用いた自動アラート。
  6. ポジションサイジング(リスク一定化)とストップ自動更新。
  7. エグジットは時間ベースと価格ベースの両輪でルール化。
  8. 稼働後のトレードログ自動保存(エントリー根拠とスクショ必須)。
  9. 四半期ごとのパラメータ点検とロールフォワードの実施。
  10. 異常時(通信障害・大規模速報)のフェイルセーフ手順書。

よくあるつまずきと回避策

Q1. 好決算なのに下がった。なぜ?
A. ガイダンスが弱い、既に織り込み済み、需給(信用買い残の積み上がり)などが影響します。サプライズ“率”だけでなく、ガイダンス方向性と出来高の質(上昇時に出来高が伴うか)を同時にチェックします。

Q2. エントリーが遅れて値幅を取り逃した。
A. 「初動の高値超え」だけでなく「VWAPワンタッチ回帰後の再上放れ」をサブトリガーに設定し、2回目のチャンスを取りにいきます。

Q3. ギャップダウン銘柄の空売りで踏まれた。
A. 初動で売るのではなく、前日終値〜窓埋めゾーンまでの戻りを待ち、出来高の減速と高値切り下げを確認してからにします。

Q4. オプション売りで突然の急騰に巻き込まれた。
A. 単発の裸売りは避け、必ずスプレッド化し最大損失を決める、またはデルタを抑えた短期のカバードコールに限定します。

ミニ実装例(ルール表現の疑似コード)


// trigger
if (surprise_rate >= 0.1 and IV_drop <= -0.2 and volume_ratio >= 2.0) {{
    // wait for post-open setup
    if (price > VWAP and price breaks session_high_30m) {{
        buy();
        stop = open_price * 0.98;
        take_profit_time = T+0 close;
        trail = 1.5 * ATR(14);
    }}
}}

運用の現実的な年間計画

四半期決算は年4回、主要銘柄が集中する「決算ウィーク」は年に数回訪れます。初年度は資金の10〜20%をこの戦略に割き、1回あたりの想定損失0.5〜1.0%で開始します。検証で優位性が確認できたら、徐々に配分を引き上げます。記録(トレードノート)と事後分析(勝ち筋・負け筋の分類)に時間を使うほど、期待値は安定します。

まとめ:明日から実行するための短い手順

  1. ユニバース(流動性基準)を決め、過去3〜5年の決算データを整備します。
  2. サプライズ率・IV落差・出来高倍率の閾値を仮決めし、学習期間で最適化します。
  3. 翌朝の監視リスト生成→寄り後30〜60分の高値/安値突破とVWAP回帰を同時監視します。
  4. リスク一定のサイジングとタイムベース利確を徹底し、ドローダウンを浅く保ちます。
  5. 四半期ごとにパラメータを再評価し、過学習の兆候(ヒット率の低下・PFの収斂)を早期に検知します。

決算は「一瞬の勝負」ではなく、情報が市場に行き渡るまでの数日間にも、統計的に狙えるチャンスが存在します。ルール化・検証・運用までを一貫させ、着実に再現性のある取引へと昇華させてください。

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