「全世界株(オールカントリー)でいいのか、それとも米国株に寄せるべきか」——この論点は、結局のところ“どちらが儲かるか”では決まりません。過去10年で米国株が強かったからといって、次の10年も同じとは限りませんし、逆に米国株が劣後する局面でも全世界株が常に正解とも限りません。
重要なのは、あなたのポートフォリオがどのリスクに賭けているのかを明確にし、その賭けが破綻しないように比率(アロケーション)と運用ルール(リバランス)を設計することです。
この記事では、全世界株と米国株の比率を「感覚」ではなく、再現性のある手順で決めるための考え方を整理します。最後に、実際に比率を落とし込む“テンプレ”も提示します。
結論:比率は「4つのレバー」で決める
全世界株vs米国株の比率は、次の4つのレバー(調整つまみ)で決まります。
- レバー1:集中リスク(米国への賭けの強さ)
- レバー2:通貨リスク(円ベースの揺れと生活通貨)
- レバー3:評価(バリュエーション)と平均回帰への備え
- レバー4:リバランス規律(比率を守る仕組み)
言い換えると「米国が強いから米国100%」は、レバー1~4を全部無視した意思決定です。逆に「世界分散こそ正義で米国を削る」も、同じく思考停止になりがちです。あなたの目的(老後資金、運用期間、取り崩し予定、生活通貨、リスク許容度)をレバーに反映させるのが筋です。
まず押さえる前提:全世界株も“米国比率が高い”
全世界株インデックスは、時価総額加重のため、米国の時価総額が大きい局面では構成比の多くを米国が占めます。つまり「全世界株=米国を避ける」ではありません。
ただし、米国株単体(例:S&P500や米国トータル)と違い、全世界株には欧州、日本、新興国などが含まれ、米国の不調局面での“受け皿”が存在します。この“受け皿”が必要かどうかが、比率設計の出発点です。
レバー1:集中リスクを数値で扱う
米国株に寄せることは、単に国を偏らせるだけではありません。実質的には次の要素にも偏ります。
- セクター偏り:米国株指数は情報技術・コミュニケーション・ヘルスケアなどの比重が大きくなりやすい
- ファクター偏り:大型グロースに寄りやすい(局面によっては逆風)
- 政策・規制偏り:米国の金融政策、反トラスト、AI規制、税制などの影響を受けやすい
「集中している」ことが悪いのではない
集中投資は、当たれば強い。一方で外れたときの回復に時間がかかります。問題は、集中の“度合い”が本人の許容範囲を超えているのに、過去の好調で麻痺しているケースです。
簡易チェック:米国一本で耐えられるか
以下にYESが多いほど、米国比率を上げても運用が破綻しにくいです。
- 10年以上の長期で取り崩し予定がない
- 下落局面でも追加投資できる(収入・キャッシュ余力がある)
- SNSやニュースで不安になって売らない自信がある
- 資産が分散されている(不動産・事業・年金など)
逆に、取り崩しが近い・生活防衛資金が薄い・損失に弱い場合は、米国100%は“設計ミス”になりやすいです。
レバー2:通貨リスクは「円の生活者」にとって最重要
日本の個人投資家にとって、全世界株と米国株の差は、国や企業の違いだけでなく、為替(円安・円高)でリターンが大きくブレる点にあります。
円安は“味方”にも“敵”にもなる
外貨建て資産は、円安になると円ベース評価が上がり、円高になると下がります。これは短期の損益に直撃します。特に、これから数年以内に取り崩しを始める人にとっては、円高局面での評価減が痛い。
一方、積立期なら、円高は「安く買える」局面でもあります。通貨リスクは“良し悪し”ではなく、あなたのフェーズ(積立か取り崩しか)で意味が変わります。
実務のポイント:為替ヘッジを比率決定と混同しない
「米国株を減らして全世界株にする」ことで、通貨リスクが減ると誤解されがちですが、全世界株も多くが外貨建てです。通貨リスクの扱いは、
- ヘッジあり商品を使う
- 外貨比率そのものを下げる(株式比率を下げる/円資産を増やす)
- 取り崩し期にヘッジ比率を上げる
など、別のレイヤーで設計すべきです。全世界vs米国の議論と混ぜると、結論がブレます。
レバー3:評価(バリュエーション)を“ルール”に落とす
米国株が優位に見える最大の理由は、過去のリターンです。しかし、長期の期待リターンは、ざっくり言うと
- 成長(利益成長)
- 配当(株主還元)
- 評価(PERなど)の変化
の合計で決まります。ここで厄介なのが「評価」です。評価は上にも下にも振れ、しかも平均回帰しやすい。つまり、米国株が強かった期間は、利益成長だけでなく、評価の上振れが寄与していた可能性がある、ということです。
評価をどう使うか:当てにいかない、保険として使う
個人投資家がやりがちなのは「米国は割高だから売って全部世界へ」といった“全振り”です。これは当たると気持ちいいですが、外れると機会損失が大きい。
実務で使うなら、評価は比率を微調整する保険に留めるのが堅いです。たとえば、平常時の基本比率を決めたうえで、評価が極端に振れたら±10%だけ動かす、といったルールです。
具体例:評価で±10%だけ動かす
例として、あなたの基本比率が「全世界60:米国40」だとします。ここで、米国株の評価が極端に高いと判断した局面では「全世界70:米国30」に、逆に米国株が極端に不調で悲観が支配している局面では「全世界50:米国50」に戻す、というイメージです。
“極端”の定義は、次のように雑で構いません(厳密さより継続が重要)。
- ニュースやSNSで「米国株一択」が過熱し、周囲が一斉に同じ話をしている
- 米国株の将来リターンが低いとされる議論が増え、悲観一色になる
- 自分の感情が「もっと増やしたい/全部売りたい」に傾く
要は、評価の極端さはデータだけでなく、市場の空気(センチメント)にも表れる。定量指標にこだわりすぎると、ルールが複雑化して続きません。
レバー4:リバランス規律が“最適比率”を現実にする
比率は決めるより、守るほうが難しいです。米国株が上がれば米国比率は勝手に増え、下がれば勝手に減ります。放置すると「上がったものを増やし、下がったものを減らす」状態になり、実質的に高値掴みの癖がつきます。
リバランスの基本形は2つだけ
- 時間ルール:年1回、半年に1回など、決めた時期に戻す
- 乖離ルール:比率が目標から±5%(または±10%)ズレたら戻す
初心者は、まず時間ルールが無難です。乖離ルールは理屈として優秀ですが、日々のチェックが必要になりやすい。
積立と相性が良い「キャッシュフロー・リバランス」
売買コストや税金が気になる場合は、売って戻すのではなく、毎月の積立先をズラして比率を戻す方法があります。これなら「上がったものを買わず、下がったものを多めに買う」が自然に実現できます。
例:目標が全世界60:米国40なのに、米国が上がって50まで膨らんだ。次の半年は全世界への積立比率を増やし、米国への積立を減らして、じわじわ目標に戻す。
“最適比率”の作り方:3ステップで決める
ここからは、机上の議論ではなく、実際にあなたの比率を決める手順です。
ステップ1:株式比率(リスク資産比率)を先に決める
全世界vs米国の議論は、株式の中の配分です。そもそも株式比率が過大なら、国分散をいじっても焼け石に水です。
目安として、取り崩しが近いほど株式比率は抑え、積立期ほど上げやすい。ここは「耐えられる下落幅」で決めます。たとえば、リーマン級の局面で株が半分近く下がっても保有し続けられるか、という観点です。
ステップ2:基本比率(ベース)を決める
次の3タイプから選ぶと早いです。
- タイプA:全世界中心(例:全世界80:米国20)
国・通貨・セクターの偏りを薄め、継続性を最優先する人向け。 - タイプB:バランス型(例:全世界60:米国40)
米国の強みを残しつつ、米国一極集中を緩和する標準形。 - タイプC:米国中心(例:全世界30:米国70)
米国の成長・企業競争力に賭ける。ただし集中リスクの自覚が必須。
この時点では「どれが正しいか」ではなく「続けられるか」で決めてください。途中で心が折れて売るくらいなら、最初から分散寄りのほうが勝ちやすい。
ステップ3:微調整ルール(±10%)を決める
評価や景気局面で比率を当てにいくと難易度が跳ねます。やるとしても、ベース比率から±10%以内に限定します。
- 米国が過熱していると感じたら:米国比率を10%下げ、全世界を10%上げる
- 米国が悲観されていると感じたら:米国比率を10%上げ、全世界を10%下げる
このルールを事前に書いておくのがポイントです。相場が動いた後に考えると、感情が介入します。
ケーススタディ:3人の比率設計(具体例)
ケース1:積立期の会社員(運用期間20年以上)
月々積立で、取り崩しは20年以上先。下落局面でも追加投資できる。こういう人は、米国寄りでも耐えられますが、過熱期に米国比率が上がりすぎるとメンタルが折れやすい。
設計例:ベースは全世界60:米国40。年1回リバランス。米国が急騰して比率が50を超えたら、次の半年は積立を全世界寄りにして調整。
ケース2:5年以内に住宅購入を控える(取り崩し予定あり)
5年以内に頭金として取り崩す可能性がある。ここで米国100%はリスクが高い。円高局面が重なると、必要なタイミングで資産が凹むことがある。
設計例:株式比率をまず抑える(現金・短期債等を厚めに)。株式部分は全世界80:米国20。リバランスは半年に1回。必要資金が近づくほど株式比率を下げる。
ケース3:退職後の取り崩し期(年金+運用で生活)
取り崩し期は「どれだけ増やすか」より「資金が尽きないか」がテーマになります。序盤の大きな下落(シーケンス・リスク)に弱いため、米国一本は危険度が上がります。
設計例:株式は全世界70:米国30。年1回リバランス。生活費2~3年分の現金・安全資産を別枠で確保し、株が下がった年に無理に売らない仕組みを作る。
落とし穴:よくある“失敗パターン”
失敗1:米国株が上がったから比率を上げる(追いかけ買い)
上昇局面で米国比率を上げると、調整局面で損失が拡大しやすい。比率は「上がったから」ではなく「設計したから」維持するものです。
失敗2:全世界株にしたのに中身を理解していない
全世界株は分散されている一方、米国比率が高い局面も多い。米国のニュースで動揺して売るなら、最初から“米国の影響を受ける商品”を持っている自覚が必要です。
失敗3:リバランスが面倒で放置し、いつの間にか米国100%になる
放置は「勝ち続けた資産」に自然に偏ります。強い相場の後ほど、偏りは危険です。だからこそ、時間ルールで機械的に戻す。
実行テンプレ:今日決めて、明日から迷わない
最後に、比率を紙に落とすテンプレです。これをそのままメモにして運用してください。
- 株式比率:(例)70% ※残りは現金・債券等
- 株式内ベース比率:全世界( )%:米国( )%
- リバランス:年( )回(例:年1回、毎年1月)
- 乖離の許容:目標から±( )%を超えたら調整(任意)
- 微調整(任意):過熱・悲観の局面では±10%以内で調整する
- やらないこと:当てにいく全振り、短期のニュースで比率変更
このテンプレを埋めるだけで「最適比率」は、あなたにとっての“運用可能な比率”になります。投資で一番強いのは、派手な当てものではなく、ブレずに続ける設計です。
まとめ
- 全世界vs米国の比率は、集中リスク・通貨・評価・リバランスの4要素で決まる
- 過去の米国優位を、そのまま未来の前提にしない(評価の寄与を疑う)
- ベース比率+±10%の微調整に留め、当てにいかない
- 最重要はリバランス規律。決めた比率を守る仕組みが勝率を上げる
次にやることはシンプルです。あなたの運用期間と取り崩し予定を確認し、ベース比率を決め、リバランスの日時をカレンダーに入れてください。これで、相場のノイズに振り回される確率は大きく下がります。
実装:1本で済ませるか、2本で管理するか
比率を決めたら、次は「どう持つか」です。ここは運用の手間と税務の扱いが効いてきます。大枠は2パターンしかありません。
パターン1:全世界株1本(オールカントリー等)で完結
最大のメリットは意思決定が減ることです。迷いが減るほど、売買ミスが減ります。デメリットは、米国比率を意図的に上下させたいときに自由度が下がること。とはいえ、ほとんどの人にとっては「自由度」より「継続性」のほうが重要です。
パターン2:全世界(米国除く)+米国の2本で管理
米国比率を明確にコントロールしたいなら、この形が分かりやすいです。たとえば「米国70:その他30」を維持したい場合、2本に分けておけば積立先の調整だけで比率を戻せます。デメリットは、商品が2本になる分だけ、リバランスや積立配分の判断が増えることです。
日本の投資家がハマりやすい論点:為替ヘッジの扱い
為替ヘッジあり商品は、円高局面のダメージを抑えられる一方、ヘッジコストが発生します。ここで重要なのは「常にヘッジする/しない」の二択にしないことです。取り崩し期が近いほどヘッジ比率を上げ、積立期はヘッジなし中心にする、といったフェーズ設計が合理的です。
簡易シナリオ分析:3つの未来で比率の意味が変わる
未来は読めませんが、代表的なシナリオを3つに分けると、比率設計の納得感が上がります。
シナリオA:米国の高成長が続く
AI投資や生産性向上が続き、米国企業の利益成長が継続。米国比率が高いほどリターンは出やすい。ただし、このシナリオは「すでに織り込まれている」可能性もあるため、評価がさらに上がらないと想定ほど伸びないこともあります。
シナリオB:米国が伸び悩み、他地域が相対的に強い
米国の評価が高止まりし、リターンが平凡になる一方、欧州や日本、新興国が巻き返す。全世界株に“受け皿”があると、ここで効いてきます。米国集中はこの局面に弱い。
シナリオC:世界同時不況+円高が重なる
株式全体が下がり、円高で外貨資産の円評価がさらに下がる。心理的に一番キツいシナリオです。ここで売ってしまう人は、比率がどうこう以前に負けます。対策は、生活防衛資金の確保と、リバランスを“機械化”すること。比率は守るためにあります。
チェックリスト:比率を決める前に必ず確認すること
- 運用期間:取り崩し開始は何年後か
- 取り崩し通貨:円で使うのか、将来外貨で使う可能性があるか
- 追加投資余力:下落局面で買い増しできるか
- 許容ドローダウン:評価額が30%/50%下がっても保有できるか
- ルール化:リバランス日時と方法(売買か積立配分か)を決めたか
この5点が固まっていない状態で「米国が強そう」「世界分散が安全そう」といった印象で比率を決めると、相場が揺れた瞬間にルールが崩れます。
よくある質問
Q:結局、全世界100%でいい?
A:多くの人にとっては有力な選択肢です。特に、売買判断が苦手な人ほど、商品を増やすほどミスが増えます。ただし、米国比率を意図的にコントロールしたい人や、取り崩し期に為替影響を抑えたい人は、2本運用やヘッジ比率調整の余地があります。
Q:米国100%でも“分散”と言える?
A:米国指数は銘柄数が多くセクター分散もありますが、「国」「政策」「通貨」の分散はありません。分散の軸が違います。あなたがどの軸を重視するかで答えは変わります。
Q:比率を変えるタイミングは?
A:基本は年1回などの時間ルール。特別なイベントで頻繁に変えると、当てものになって難易度が上がります。どうしても調整するなら、ベース比率から±10%以内に制限してください。


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