- 半導体は「景気敏感の王様」ではなく、複数サイクルが重なった“複合循環”
- まず押さえる:シリコンサイクルの典型パターン(4局面)
- 「大底」を当てにいくための5つの指標セット
- ケーススタディ:メモリとロジックで「底のサイン」が違う
- 「底を拾う」実践手順:初心者でも再現できるチェックリスト
- 投資家が見落としがちな“罠”:AI需要が強いほどサイクルは複雑になる
- 具体例:ニュースフローを「大底の物語」に組み立てる
- まとめ:半導体の大底は「業績が最悪のとき」に起きやすい
- バリュエーションで“底の硬さ”を測る:PERではなく「期待成長率の剥落」を見る
- 銘柄選びのセオリー:底取りは「主役」→「周辺」→「選別」の順
- チェックすべきデータの置き場所:毎週・毎月で“見るもの”を固定する
- “底の失敗”を避ける:よくある3つの誤認と対策
- リスク管理:半導体は「正しい方向でも負ける」ことがある
- “底からの利益の取り方”は2種類:反転波とトレンド波
- 結論:半導体の底は「数字の改善」より先に「変化の止まり方」で見抜く
- おまけ:今日からできる“観察メモ”の付け方
半導体は「景気敏感の王様」ではなく、複数サイクルが重なった“複合循環”
半導体株は「景気が悪くなると売られ、回復すると買われる」という単純な説明をされがちです。しかし実際には、半導体のサイクルは単一ではありません。メモリ(DRAM/NAND)の在庫循環、ロジック(CPU/GPU/ASIC)の製品更新循環、設備投資(CAPEX)の供給増減循環、そして最終需要(PC/スマホ/サーバー/車載など)の景気循環が同時に走ります。だからこそ“底”を当てにいくには、どの循環がいま価格を支配しているのかを見極める必要があります。
この記事では、初心者でも再現できる形に落として「大底のサイン」を分解します。キーワードは、在庫(Inventory)、稼働率(Utilization)、価格(ASP/スポット)、設備投資(CAPEX)、そして需給の遅行指標としての決算ガイダンスです。大事なのは“ニュースが良くなったから買う”ではなく、“最悪が織り込まれた瞬間を拾う”ことです。
まず押さえる:シリコンサイクルの典型パターン(4局面)
半導体サイクルは、ざっくり4局面で理解できます。これを頭に入れるだけで、決算やニュースの解釈が変わります。
①過熱(タイト需給)
需要が供給を上回り、リードタイムが延び、価格が上がります。企業は増産投資を決め、サプライチェーンは“納期を確保するために前倒し発注”を始めます。ここで起きるのが二重発注です。表面的には強い需要に見えますが、実需より先に在庫が積み上がります。
②ピークアウト(受注の鈍化)
リードタイムが頭打ちになり、受注が減速します。メーカーはまだ強気ガイダンスを出しがちで、市場も「一時的」と解釈します。しかし在庫の増加が進むため、次の局面の下落は急になります。
③調整(在庫調整・価格下落)
需要減速が明確になり、価格(特にメモリのスポット価格)が下落します。メーカーは減産を発表し、CAPEXを抑制し始めます。株価はここで最も荒れます。悪材料が連続し、アナリストの目標株価が切り下がり、SNSや掲示板は悲観一色になります。
④底入れ(在庫のピークアウト)
“底入れ”は、業績が良くなる前に起きます。まず在庫が積み上がらなくなり(在庫増加率が鈍化)、次に価格下落が止まり、最後にガイダンスが改善します。株価は最も早く動くため、「決算が良くなるのを見てから」だと、すでに上昇の半分以上が終わっていることが多いです。
「大底」を当てにいくための5つの指標セット
ここからが本題です。大底の先読みは、単一の指標では危険です。必ず複数の“整合”を取りにいきます。以下の5セットは、銘柄やセクターが違っても応用できます。
1) 在庫:絶対水準ではなく「増え方」を見る
在庫は厄介です。ピークでは在庫が高いのは当然で、底でも在庫は高いままのことが多いからです。見るべきは「在庫が増え続けているか」「増加が止まったか」です。具体的には、四半期ごとの在庫回転日数(Days of Inventory)や、在庫/売上比率の前年差、在庫増加率の減速を見ます。
例えば、売上が落ちているのに在庫が横ばいになってきたなら、出荷調整が効いてきた可能性が高いです。逆に、売上が少し回復しても在庫がまだ増えるなら、実需回復ではなく“前倒し”の可能性が残ります。
2) 稼働率:減産の「量」と「期間」の宣言に注目
メモリ企業は減産を宣言しますが、重要なのは“何%減らすか”より“いつまで続けるか”です。市場が最も嫌うのは「減産が不十分で在庫が解消しない」シナリオです。減産が踏み込んでおり、かつ期間を長めに見積もる企業ほど、底入れに向けた本気度が高いと見られます。
また、ファウンドリやOSAT(後工程)は稼働率の情報が断片的になりやすいので、代替として「設備稼働に近い指標」を拾います。例えば装置メーカーの受注、工場稼働停止のニュース、サプライヤーのコメントなどです。
3) 価格:スポット→契約→製品価格の順に止まる
価格が止まる順番を知ると、底の近さが測れます。メモリはスポット価格が最も早く動き、その後に契約価格が追随します。ロジックは製品価格が粘りやすい一方、リベートや在庫処分で実質価格が下がることがあります。ニュース上の「値下げ」より、販売条件(リベート、バンドル、長期契約)の変化がヒントになります。
実務的には、スポット価格の下落率が鈍化し、月次で横ばいが増えたら“第一段階のサイン”です。次に、決算で粗利率の悪化が止まり、最後にASPの下げ止まりが見える、という流れが典型です。
4) CAPEX:削減発表の「遅さ」が逆に好材料になる
設備投資は供給を決める最大要因です。大底では、各社がCAPEXを削る方向に揃ってきます。ただし面白いのは、CAPEX削減が出た瞬間が必ずしも底ではないことです。むしろ、市場が絶望している局面で“遅れてでも”CAPEX削減が出ると、将来の供給過剰リスクが一段下がり、株価が反転しやすくなります。
見るべきは「前年計画比でどれだけ下げたか」「装置の納入を延期しているか」「建屋だけ先行して装置は止めるのか」です。装置のキャンセルや延期が増えるほど、供給調整は強くなります。
5) ガイダンス:悪いガイダンスが“それ以上悪化しない”こと
底の直前は、ガイダンスが最悪でも株価が下がらなくなります。ポイントは“悪い内容”より“悪い内容が想定内か”です。市場が恐れているのは、在庫や価格の悪化が想定を超えて長期化することです。したがって、ガイダンスが弱くても、在庫・価格・CAPEXの整合が取れていれば、株価は先に反応します。
ケーススタディ:メモリとロジックで「底のサイン」が違う
半導体と言っても、メモリとロジックでは底の作り方が違います。ここを混同すると、買うタイミングがズレます。
メモリ(DRAM/NAND)の底:スポットと減産が主役
メモリはコモディティ色が強く、価格と在庫が直結します。底入れは「減産→スポット下げ止まり→契約価格の安定→粗利の底打ち」の順です。初心者がやりがちな失敗は、スポットが少し反発しただけで全力で入ることです。スポット反発は短期の需給で起きやすく、契約価格が追随しないと失速します。したがって、最低でも“スポット下落の鈍化が複数月続く”のを確認してからが安全です。
ロジック(ファウンドリ/設計)の底:需要の再配分を見る
ロジックは、需要が「どこからどこへ移るか」が重要です。例えばスマホが弱くてもデータセンターが強い、PCが弱くても車載が強い、などです。ここでの底サインは、特定用途の受注が戻ることよりも、企業が“ミックス改善”を語り始めることです。具体的には、先端ノード比率が上がる、AI向け比率が上がる、車載の採用が増える、といった話です。数量よりも、単価と粗利の改善が先に出るケースがあります。
「底を拾う」実践手順:初心者でも再現できるチェックリスト
ここまでの話を、実際の売買判断に落とします。以下は、ニュースや決算を追いかけるだけで実装できます。
ステップ1:対象を2つに分ける(指数銘柄と周辺銘柄)
半導体の反転では、まず指数・大型の主力(セクターETFや代表銘柄)が先に動き、遅れて周辺(装置、材料、後工程、検査)が動くことが多いです。初心者は、主力が反転した後に周辺へ資金が回る“二段階”を狙う方が無理がありません。いきなり周辺小型に飛びつくと、流動性で振り回されます。
ステップ2:ニュースを「需給」「業績」「バリュエーション」に分類する
同じ悪材料でも、意味が違います。例えば「価格下落」は業績悪化ですが、「CAPEX削減」は将来の需給改善です。底では、業績ニュースは最悪でも、需給ニュースが改善に向かいます。この分類ができると、悲観ニュースの中から“反転の芽”を拾えます。
ステップ3:買い方を分割する(3回に分ける)
底は一点ではありません。したがって、買いも一点で当てにいかない方が勝ちやすいです。例として、①減産/在庫鈍化の初期サイン、②価格下げ止まり確認、③ガイダンス悪化停止、の3回に分けて入れます。これなら、外しても致命傷になりにくいです。
ステップ4:損切りは「価格」ではなく「前提崩れ」で決める
半導体の底狙いで、値動きだけで損切りするとノイズで切られます。損切り条件は、前提が崩れたときです。例えば「在庫が再加速して増えた」「減産が取り下げられた」「CAPEXが再び増える」「価格下落が再加速した」など、シナリオ否定で撤退します。価格水準は補助に留める方が合理的です。
投資家が見落としがちな“罠”:AI需要が強いほどサイクルは複雑になる
近年はAI需要が強く、半導体セクターの景気感が歪みやすいです。AI向けが強いと、セクター全体が強いように見えますが、実際には用途別に真逆のサイクルが走ります。例えば、データセンター向けが強い一方で、民生(PC/スマホ)が弱く、在庫調整が長引く、といった具合です。ここで重要なのは「どの用途の在庫が詰まっているか」です。企業のコメントで“エンドマーケット別”に言及があるかを必ず拾います。
もう一つの罠は、AIブームが装置投資を刺激し、供給が増えすぎることです。短期的には受注が良く見えますが、供給拡大が需要を超えると、結局サイクルは戻ってきます。したがって、AIというテーマに引っ張られすぎず、CAPEXの総量と稼働率を定点観測する必要があります。
具体例:ニュースフローを「大底の物語」に組み立てる
最後に、日々のニュースをどう読み替えるかを例示します。以下のように、点の情報を線にすると判断が安定します。
①メモリ企業が減産を拡大(需給改善の種)→②スポット価格の下落が鈍化(需給の初期反応)→③装置メーカーの受注が一段落(供給増の抑制)→④在庫回転日数がピークアウト(在庫調整の進展)→⑤粗利率の悪化が止まる(業績の底)→⑥ガイダンスが“悪いが想定内”(不確実性低下)→⑦株価が先に反転(織り込み完了)。
この“物語”のどこにいるかを見極めることで、底を狙うエントリーが計画的になります。
まとめ:半導体の大底は「業績が最悪のとき」に起きやすい
半導体サイクルの大底は、ニュースが暗いときに静かに形成されます。だからこそ、在庫の増え方、減産の本気度、価格下落の鈍化、CAPEX削減の整合、ガイダンスの不確実性低下という“前提の変化”を拾うのが最短ルートです。
狙いは当て物ではなく、確率を上げる設計です。底に近づいたと判断したら、買いを分割し、前提崩れで撤退する。このルールを守るだけで、半導体の荒い値動きでも再現性が出ます。
バリュエーションで“底の硬さ”を測る:PERではなく「期待成長率の剥落」を見る
半導体は成長産業である一方、サイクルで利益が大きく振れます。そのため、初心者がPERだけで判断すると誤解しやすいです。利益が落ちている局面ではPERが跳ね上がり、むしろ割高に見えます。ここで使いやすい考え方は「期待成長率がどれだけ剥落したか」です。市場が強気のときは“将来の成長”に高い倍率を払いますが、調整局面ではその期待が剥がれ、倍率が縮みます。大底では、倍率縮小が一巡し、悪い業績でも「これ以上倍率が縮まらない」状態になりやすいです。
実務的には、同業他社・同セグメントとの相対バリュエーションが有効です。たとえば、装置メーカー群のEV/EBITDAが過去レンジの下限に張り付いている、ファウンドリのP/S(売上倍率)が長期平均を割り込んでいる、など“セクター内での叩き売られ具合”を比較します。ポイントは、単に安いかではなく「悪材料が出てもさらに安くならない」状態かどうかです。
銘柄選びのセオリー:底取りは「主役」→「周辺」→「選別」の順
半導体サイクルの底を狙うとき、最初に買われるのは流動性の高い主役です。次に周辺(装置、材料、検査、後工程)へ波及し、最後に“勝ち組だけが残る”選別が始まります。初心者がやりがちなのは、最初から周辺の小型に飛びついて、需給の薄さで上下に振られて疲弊するパターンです。
再現性を上げるなら、第一波はセクター全体(ETFや大型)で取り、第二波から個別銘柄で差を取りにいくのが合理的です。ETFで方向性を当て、個別でリスクを取る順番です。個別に行く場合でも、まずは業界の“ボトルネック”に近い企業(最終需要が回復したときに真っ先に逼迫する工程)を優先すると、底からの反発が強くなりやすいです。
チェックすべきデータの置き場所:毎週・毎月で“見るもの”を固定する
底取りは、情報の取り方が勝負です。闇雲にニュースを追うと、感情で売買してしまいます。そこで、頻度ごとに見るデータを固定します。
毎週見るもの(短期の温度計)
価格(スポットの変化)、金利や為替などの市場環境、セクターETFの資金フロー、出来高の増減です。特に出来高は重要です。底では「下げた日に出来高が増え、戻した日に出来高が減る」から、「下げでも出来高が増えない」「戻しで出来高が増える」へ変わっていきます。これは需給の転換を示唆します。
毎月見るもの(中期の骨格)
出荷統計、在庫統計、主要エンドマーケット(PC/スマホ/サーバー/車載)の出荷や販売データ、設備投資計画の更新です。ここは一発のニュースではなく“傾き”を追います。月次で悪化が止まったか、前年差が改善方向に向いたか、という見方です。
四半期で見るもの(最終確認)
決算の在庫回転日数、粗利率、ガイダンス、CAPEX計画です。四半期は遅いですが、確度が高いです。四半期の数字が整ってきたら「底の確度が上がった」と判断し、ポジションを厚くするのが自然です。
“底の失敗”を避ける:よくある3つの誤認と対策
誤認1:一時的な価格反発を底だと勘違いする
スポット価格の反発は短期需給で起きやすいです。対策は、反発の理由を確認することです。減産や供給制約による反発なのか、それとも短期の買い戻しなのか。最低でも複数週〜複数月の下落鈍化を待ち、契約価格や粗利率に波及する兆しを待ちます。
誤認2:AI需要が強い=セクター全体が安全だと勘違いする
AIが強くても、民生や一部の産業用途が弱ければ、在庫調整は続きます。対策は、企業コメントを用途別に分解して読むことです。「どの用途が強いか」ではなく「どの用途が弱く、いつ戻る見立てか」を取ります。
誤認3:CAPEX削減=景気悪化のサインとして売ってしまう
設備投資の削減は短期的に装置企業には逆風ですが、サイクル全体では供給調整であり、底には必要なプロセスです。対策は、装置企業とデバイス企業を分けて考えることです。装置は“削減の瞬間”が悪く見えても、底の近さを示すことがあります。
リスク管理:半導体は「正しい方向でも負ける」ことがある
半導体はボラティリティが高く、方向性が合っていても、途中の下振れで損切りさせられることがあります。だからこそ、リスク管理が成績を決めます。
まず、ポジションサイズは“ボラに合わせて”決めます。値動きが荒い銘柄ほど小さくします。次に、分割エントリーを徹底します。そして最重要なのが、撤退条件を「前提崩れ」に置くことです。価格が一時的に下げても、在庫・価格・CAPEXの整合が崩れていないなら耐える余地があります。逆に、整合が崩れたなら、値段がまだ高くても撤退します。
さらに、相場全体のリスクオフ(急な金利上昇、信用収縮、地政学ショック)には逆らわない方がよいです。半導体はリスク資産の代表で、マクロの逆風が強いと“底が延長”します。セクターの底シナリオと、相場全体の流れが整合しているかを確認してください。
“底からの利益の取り方”は2種類:反転波とトレンド波
底からの上昇には2種類あります。ひとつは、過度な悲観が戻る「反転波」。もうひとつは、需給が改善して利益が回復する「トレンド波」です。反転波は速いが短命で、トレンド波は遅いが長い。この違いを理解すると、利確の精度が上がります。
反転波は、悪材料が出ても下がらない、ショートの買い戻し、需給の改善が引き金になりやすいです。ここは短期で一部利確し、建玉を軽くしておくと精神的に楽です。トレンド波は、在庫が解消し、価格が上がり、ガイダンスが改善していく局面です。ここは焦って売らず、押し目で積み増す方が結果が出やすいです。
結論:半導体の底は「数字の改善」より先に「変化の止まり方」で見抜く
大底を先読みする最大のコツは、良くなる兆しではなく“悪化が止まる兆し”を拾うことです。在庫は増え方、価格は下落の鈍化、CAPEXは供給の抑制、ガイダンスは不確実性の低下。これらが同時に揃い始めたら、業績が最悪でも相場は先に動きます。
半導体サイクル攻略は、当て物ではなくプロセスです。見る指標を固定し、買いを分割し、前提崩れで撤退する。この型を作るだけで、ボラの大きいセクターでも収益化の再現性が上がります。
おまけ:今日からできる“観察メモ”の付け方
半導体の底取りは、結局「同じ指標を同じ順番で見続ける」だけで精度が上がります。おすすめは、銘柄ごとに1ページのメモを作り、①在庫(回転日数/コメント)、②価格(スポット/契約の方向)、③CAPEX(増減と理由)、④エンド需要(用途別の強弱)、⑤株価反応(悪材料で下がるか)を毎月更新することです。1〜2か月続けるだけで、ニュースのノイズに振られにくくなり、底の“手触り”が分かってきます。


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