半導体は「景気に連動するハイテク」の代表格です。ですが、株価は景気よりも早く動きます。だからこそ、半導体サイクルの底打ち(最悪期の通過)を早めに捉えられると、上昇局面の“美味しいところ”を取りやすくなります。
一方で、半導体はニュース量が多く、初心者ほど「良い話が出たから買う」「悪い話が出たから売る」と感情で動きがちです。ここでは、半導体サイクルを在庫・設備投資・価格の3軸に分解し、個人投資家が再現できる手順に落とし込みます。銘柄当てではなく、底打ちを“確率的に”先回りする設計が目的です。
- 半導体サイクルは「在庫→稼働率→設備投資→供給過剰」の循環で動く
- まずは地図を作る:半導体の“どこ”に投資しているのか
- 底打ちを判断するコアは3つ:在庫のピークアウト、供給の引き締まり、価格の下げ止まり
- 底打ちを先回りする7つの観測点(個人投資家向け)
- 個人投資家が再現する「底打ち先回り」3段階エントリー
- 初心者がハマる罠:底打ち局面でやってはいけない3つ
- “勝ち筋”を太くする運用ルール:利確・損切り・メンタルの設計
- 具体的な観測のやり方:初心者でも回せる“月1チェックリスト”
- まとめ:底打ち戦略は「一点当て」ではなく「順序」と「分割」で勝つ
- もう一段深く:バリュエーションと金利で“底の質”を見分ける
- 日本の個人投資家向け:為替と投資対象の選び方(国内株・米国株・ETF)
- サイクルが“崩れる”例外シナリオも知っておく
- ミニケーススタディ:底打ちの典型パターンを“物語”で理解する
半導体サイクルは「在庫→稼働率→設備投資→供給過剰」の循環で動く
半導体の景気循環は、ざっくり言うと次の順番で回ります。
需要が強い→メーカーが急いで生産→サプライチェーン全体の在庫が減る→稼働率が上がる→利益が伸びる→各社が設備投資(CAPEX)を増やす→数四半期遅れて供給が増える→供給過剰→価格下落→在庫が積み上がる→減産→底打ち…
初心者が最初に押さえるべきポイントは2つです。
①サイクルは「ニュース」ではなく在庫と供給能力で決まる。②株価は「業績の底」よりも先に「サイクルの底」を織り込みに行く、ということです。
まずは地図を作る:半導体の“どこ”に投資しているのか
半導体と一口に言っても、利益の出方はレイヤーで違います。底打ちの見え方も変わります。
①設計(ファブレス)
スマホ向け、PC向け、データセンター向け、自動車向けなど、最終需要の色が濃い領域です。強みはブランドと設計力。サイクルの影響は受けますが、製造設備を持たない分、損益分岐点が相対的に低いケースもあります。
②製造(ファウンドリ/IDM)
設備投資の規模が大きく、サイクルの振れが大きい領域です。稼働率の上下が利益に直結します。底打ち局面では「減産」「投資抑制」「稼働率の改善」が株価の材料になります。
③製造装置・材料
装置・材料は“設備投資サイクル”に連動します。需要が回復しても、顧客が設備投資を再開するまでタイムラグがあるため、底打ちは遅れて見えることが多いです。ただし、株価は先回りするため「受注の減少が止まった」だけで反応することがあります。
④メモリ(DRAM/NANDなど)
メモリは価格変動が激しく、サイクルが最も分かりやすい一方、最も残酷でもあります。供給過剰のときは価格が一気に崩れ、損益が急悪化します。逆に、供給調整が効き始めると反発も速い。底打ちの検出は「価格」「在庫」「設備投資」の三点セットが重要です。
底打ちを判断するコアは3つ:在庫のピークアウト、供給の引き締まり、価格の下げ止まり
底打ちは1つの指標で当てに行くと失敗します。理由は簡単で、サイクルの各レイヤーが同時に動かないからです。代わりに、次の3条件が順番に満たされるかを見ます。
条件A:在庫が積み上がり切り、増加の勢いが止まる(ピークアウト)
条件B:供給側が痛みを受け入れて減産・投資抑制を実行する(供給の引き締まり)
条件C:価格指標が“下げ止まり→反発”の形を作る(価格の下げ止まり)
これを個人がチェック可能な「観測点」に変換します。以下の7つが実戦的です。
底打ちを先回りする7つの観測点(個人投資家向け)
1. 企業決算で見る「在庫」と「在庫日数」
半導体関連の決算資料には、在庫(Inventory)や在庫回転日数(Days of Inventory)が出ます。底打ちの第1シグナルは、在庫が高水準でも伸び率が鈍化し始めることです。
具体例:在庫が前年同期比で+50%→+30%→+10%と鈍化する。金額はまだ増えていても、増加スピードが落ちるなら、サイクルは“最悪の加速度”を失っています。
初心者がやりがちな誤解は「在庫が多い=悪い=売り」です。在庫は“結果”であり、重要なのは変化率です。
2. ガイダンスで見る「出荷の底」と「受注の底」
決算では来期見通し(ガイダンス)が語られます。底打ちは、出荷数量よりも先に受注の減少が止まる形で出やすいです。
実務的には、「次四半期は弱いが、季節性を除くとボトムに近い」「下期に向けて在庫調整が終わる見込み」などの言い回しが増えます。言葉を鵜呑みにせず、“弱いが悪化していない”のか、“弱いがさらに悪化する”のかを分けて読みます。
3. 稼働率の示唆:ファウンドリのコメントとリードタイム
製造側は稼働率が命です。稼働率が落ちる局面では、価格よりも先に企業が「稼働率」「稼働率の回復時期」に言及します。
個人が取れる近似手段としては、主要企業の決算説明での稼働率コメント、そして装置メーカーが語るリードタイム(納期)の変化です。納期が“短縮し続ける”間は需要が弱い可能性が高い。一方、短縮が止まり、特定装置で再び延びる兆しが出れば、投資再開の芽が出ています。
4. メモリ価格の「下げ止まり確認」:底はV字ではなく“横ばい→反発”が多い
メモリは価格が全てです。とはいえ、初心者がありがちな失敗は「価格が下がったからそろそろ底」と思うことです。底はたいてい、急落→下落スピード鈍化→横ばい→反発の形になります。
見方のコツは、①下げ幅が縮む、②“横ばいの期間”が出る、③小さな反発が出ても再び割らない、の3段階です。反発の初動はダマシも多いので、「割れない」確認が重要です。
5. 設備投資(CAPEX)のピークアウト:悪材料が“効かなくなる”瞬間
サイクルの底では、企業が設備投資を絞ります。装置・材料には逆風ですが、産業全体には供給調整としてプラスです。ここで重要なのは、CAPEX削減の発表=株価下落とは限らないことです。
むしろ底打ち局面では「投資削減」という悪材料が出ても株価が下がらないことがあります。市場が「それで供給が締まる」と評価し、悪材料の出尽くしとして受け取るからです。ニュースの内容よりも、株価の反応を観察します。
6. 半導体指数と市場全体の“相対強度”
底打ちを株価で見るなら、半導体セクターが市場全体(例えばS&P500等)に対して相対的に強くなる瞬間を探します。
具体例:市場が横ばいでも半導体指数が高値を更新する、あるいは市場が下げても半導体が下げ渋る。これは「先に買いが入っている」サインです。業績が悪いままでも起きます。だからこそ、底打ち検出に有効です。
7. 最終需要の“質”を見る:AI/データセンターとスマホ/PCを分けて考える
半導体は需要の中身でサイクルの形が変わります。例えばスマホ/PCが弱くても、データセンターやAI向けが強いと、設計(ファブレス)や先端製造は底打ちが早く見えることがあります。
初心者は「半導体は全部同じ」と考えがちですが、実際は違います。どの需要が強いのかを分けて見ないと、サイクルの転換点で誤判定します。
個人投資家が再現する「底打ち先回り」3段階エントリー
底打ちの瞬間を一点で当てるのは無理です。代わりに、確度が上がるにつれて買い増す“段階設計”が現実的です。ここではETFや分散を前提に、3段階に分けます。
ステップ1:在庫ピークアウトの兆しで“試し玉”
条件A(在庫の増加鈍化)が出たら、まずは小さく入ります。理由は、ここはまだダマシがあるからです。目安としては、最終的に投資したい金額の20%程度を投入し、残りは後で増やす設計にします。
商品選択は、初心者なら個別株よりも、半導体ETFやセクター分散型が無難です。個別株は企業固有の失敗(製品遅延、顧客喪失、訴訟など)でサイクルと無関係に崩れます。
ステップ2:供給調整の確定(減産・CAPEX削減)で“本玉”
条件Bが明確になったら、追加で40%程度を入れます。供給が締まると、価格は遅れて反応します。ここで重要なのは、ニュースを見てから遅れて入るのではなく、「供給が締まった」という事実を確認した上で、価格がまだ弱い段階で増やすことです。
実務的なチェックは「複数社が同時に投資抑制を表明」「減産が数字として出る」「在庫が高止まりでも増えなくなる」の組み合わせです。
ステップ3:価格の下げ止まり確認で“仕上げ”
条件C(価格の下げ止まり)が確認できたら、残りの40%を入れて平均取得単価を整えます。ここまで来ると上昇の初動が出ていることもありますが、サイクルの反転が“見える化”される段階なので、確度は上がります。
初心者がハマる罠:底打ち局面でやってはいけない3つ
罠1:ニュースの強弱で売買する
底打ち局面は悪いニュースが多いです。だからこそ株価が底に近い。ニュースを見て売ると、底で手放しやすい。見るべきはニュースの善し悪しではなく、在庫・供給・価格の順序と、株価の反応です。
罠2:一括で突っ込む
当てに行くほど外れます。段階的に入る設計にしないと、ダマシで耐えられません。底打ち戦略は「買った直後に下がる」を前提に設計します。
罠3:レバレッジ商品で時間を味方にできない
半導体はボラティリティが高い。初心者が短期で取りに行くほど、損切りと手数料で削られます。レバレッジ商品は日々の変動で複利が逆回転しやすく、サイクル投資とは相性が悪いケースが多いです。
“勝ち筋”を太くする運用ルール:利確・損切り・メンタルの設計
底打ち投資の収益は、当てる力よりも、続ける仕組みで決まります。ここではルールを文章で具体化します。
利確:サイクルの「過熱」を定義して機械的に落とす
利確は「儲かったから売る」だと遅れます。過熱の定義を先に決めます。例えば、①各社がCAPEX増強に転じる、②リードタイムが長期化し続ける、③価格が急騰して顧客が悲鳴を上げる、のような状態です。
こうした過熱サインが2つ以上同時に出たら、保有の一部(例えば30%)を落として現金比率を戻します。全部売る必要はありません。サイクルは行き過ぎますが、トレンドが続くこともあるからです。
損切り:価格ではなく「前提」が崩れたら切る
底打ち戦略の損切りは、価格だけで決めると振り回されます。切るべきは「前提が崩れたとき」です。
例:在庫ピークアウトを見て入ったのに、次の決算で在庫が再加速した。供給調整のはずが、業界で増産が続いた。価格が下げ止まるはずなのに、新たな技術トレンドの変化で需要が消えた。こうした“前提崩れ”が起きたら、ステップ1の試し玉は機械的に縮小します。
メンタル:下落は“想定内”と定義し、買い増し条件を先に書く
底打ち戦略は、買った直後に下げることが多いです。だから、買う前に「次に何が起きたら買い増すか」を文章で決めます。例えば「在庫増加率がさらに鈍化」「CAPEX削減が複数社で確認」「価格が横ばい2か月」などです。
買った後に考えると、恐怖で判断が歪みます。先に書いたルールに従う方が、初心者ほど成果が安定します。
具体的な観測のやり方:初心者でも回せる“月1チェックリスト”
毎日ニュースを追う必要はありません。月1回、以下をチェックするだけで十分です。
①主要企業の決算・月次コメントで在庫の伸び率が鈍化しているか。②設備投資の方針が抑制方向に揃っているか。③メモリ価格や関連価格指標で下落スピードが鈍化しているか。④半導体セクターが市場全体に対して相対的に強いか。⑤需要の中身(AI/データセンター vs スマホ/PC)がどう変化しているか。
この5点を毎月同じフォーマットでメモすると、サイクルの転換点が“見える化”します。初心者が上達する一番早い方法は、指標を増やすことではなく、同じ指標を継続して観測することです。
まとめ:底打ち戦略は「一点当て」ではなく「順序」と「分割」で勝つ
半導体サイクルの底打ちは、ニュースで当てに行くほど失敗します。勝ち筋は、①在庫のピークアウト、②供給調整の確定、③価格の下げ止まり、という順序を守り、資金を分割して投入することです。
初心者ほど、個別銘柄のストーリーよりも、在庫・設備投資・価格という“構造”にフォーカスしてください。構造を捉えると、相場の雑音が減り、判断がシンプルになります。半導体は難しく見えて、実はサイクルが読みやすい市場です。ルール化して回せば、個人投資家でも十分に戦えます。
もう一段深く:バリュエーションと金利で“底の質”を見分ける
サイクルが底打ちしても、株価がすぐ大きく上がるとは限りません。特に金利が高い局面では、将来利益の割引率が上がり、成長株の評価(PERなど)が圧縮されやすいからです。ここで役に立つのが「業績サイクル」と「評価サイクル」を分けて考える視点です。
具体的には、業績が底打ちしても、金利上昇やリスクオフで評価が縮むと、株価は横ばいになりやすい。逆に、金利低下局面では評価が戻りやすく、サイクル反転と重なると上昇が加速します。初心者は「業績が良くなる=株が上がる」と思いがちですが、実際は業績×評価の掛け算です。
チェック方法は難しくありません。半導体セクターのPERが過去レンジのどこにあるか、金利が上向きか下向きか、これだけで十分です。底打ち局面でPERがすでに高いなら、ステップ1は小さく、ステップ2以降を慎重にする。PERが極端に低く、かつ金利が落ち着く兆しがあるなら、分割の中でも“やや厚め”にする。こうした調整が、成績のブレを減らします。
日本の個人投資家向け:為替と投資対象の選び方(国内株・米国株・ETF)
日本から半導体に投資する場合、もう一つの変動要因が為替です。米国株や米国ETFに投資するなら、円高・円安で円ベースの成績が動きます。初心者がやりがちな失敗は「半導体が上がったのに、円高で利益が消えた」と後から気づくことです。
対策はシンプルです。①円建ての国内半導体関連(製造装置や材料、国内製造など)と、②ドル建ての米国半導体(設計・先端製造など)を混ぜ、為替の片張りを避けます。さらに、同じ半導体でも、装置・材料は設備投資サイクル、設計は最終需要サイクル、製造は稼働率サイクルと動きが違うので、レイヤー分散を意識すると一撃でやられにくくなります。
初心者向けの現実的な構成例を文章で示します。たとえば「半導体枠」を資産全体の10〜20%と決め、その中を(1)広く分散した半導体ETF 60%、(2)装置・材料など景気循環が見えやすい銘柄群 20%、(3)AI/データセンター寄りの銘柄群 20%のように分けます。これなら、どこかが外れても全体が壊れにくい。サイクル投資で一番大事なのは、退場しないことです。
サイクルが“崩れる”例外シナリオも知っておく
最後にリスクです。底打ち戦略は有効ですが、例外もあります。代表例は、①地政学・輸出規制で供給制約や需要喪失が突然起きる、②技術世代の転換で旧世代需要が急減する、③金融ショックで需給以前にリスク資産が売られる、の3つです。
この例外を織り込むために、ポジションサイズを固定し、上がったら利確で現金化し、下がったら前提確認を徹底します。特に輸出規制や制裁は、特定企業・特定地域に影響が偏るため、個別株集中は危険です。初心者ほど、まずはETF中心でサイクルの乗り方を体に覚えさせる方が合理的です。
ミニケーススタディ:底打ちの典型パターンを“物語”で理解する
例えば、ある年にスマホとPC需要が落ち込み、半導体各社の決算で在庫が急増したとします。最初の数か月は、在庫増加のニュースと同時に株価も下落しやすい。ここは“まだ序盤”です。
その後、決算で「在庫は高いが増加率が鈍化」「下期に在庫調整が終わる見込み」というコメントが出始めます。株価は業績が悪いままでも下げ渋り、相対強度が改善します。これがステップ1の局面です。
さらに数四半期後、各社がCAPEX削減や減産を明確にし、装置メーカーの受注減が止まり始めます。一方、メモリ価格はまだ弱い。ここがステップ2です。最後に、価格が横ばい期間を作り、反発しても安値を割らなくなる。ここでステップ3を入れる。こうして“順序”で積み上げると、底を一点で当てなくても、平均的に良い水準に近づきます。


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