VWAP(Volume Weighted Average Price:出来高加重平均価格)は、デイトレードにおける「その日の平均コスト」を表す代表的な需給指標です。特に日本株の現物・信用の短期売買では、指数・主力株のアルゴ執行(VWAPターゲット)や、機関の平均コスト意識が価格形成に混ざりやすく、VWAP付近で反応が出ます。
この記事では「5分足VWAP」を軸に、寄り付き〜引けまでの攻防を“優勢サイド判定”として体系化し、初心者でも再現できる形に落とし込みます。単なる「VWAPを上なら買い」ではなく、出来高・ローソクの質・戻り方/崩れ方を組み合わせて、トレードの期待値を上げるための具体手順を提示します。
VWAPとは何か:移動平均との決定的な違い
VWAPは「価格×出来高」を累積し、累積出来高で割った平均値です。移動平均が“時間”を重み付けするのに対し、VWAPは“出来高”を重み付けします。つまり、参加者が最も多く取引した価格帯ほど強く反映されるため、同じ上昇でも「薄商いの上昇」と「出来高を伴う上昇」ではVWAPの追随が変わります。
デイトレ視点で重要なのは、VWAPが「その日に参加した市場参加者の平均的な含み損益の境界線」になりやすい点です。価格がVWAPより上なら買い方優位(平均コスト以上で保有できている参加者が多い)、下なら売り方優位(平均コスト以下で含み損の買いが増え、戻りで売られやすい)という構図が生まれます。
「5分足VWAP」を見る意味:ノイズを減らして意思決定を早める
VWAP自体は通常「日中セッション全体」の累積で計算されます。しかしチャート上では、5分足の表示単位に合わせて、次の2つの見方が実務的です。
- セッションVWAP(累積VWAP):寄り付きからの累積で一本の線として推移する。最も一般的。
- 5分足ベースの「VWAPとの位置関係」:各5分足の終値がVWAPの上/下にいるか、VWAPを跨いだかを連続性で観察する。
「5分足VWAPの攻防」とは、後者の“跨ぎ”をトリガーにしつつ、跨いだ直後の出来高・ヒゲ・次足の追随で優勢サイドを判定する運用です。1分足は速いが誤シグナルも増えます。5分足は遅すぎるようで、実は“板・歩み値の偏り”がローソクに反映されやすく、初心者でも判断を作りやすい。
前提:VWAPは「線」ではなく「価格帯」として扱う
VWAPにタッチした瞬間に反転するとは限りません。特にボラが高い銘柄ほど、VWAPの上下に“ブレ”が出ます。そこで実務ではVWAPを±0.1〜0.3%程度(銘柄の値動きに応じて)で帯として扱い、帯の中は「判断保留」、帯を抜けて定着したら「判定」とします。
この帯の設定は固定値よりも、以下のどちらかが堅いです。
- 直近20本(約100分)の5分足の平均的な値幅(平均真の値幅に近い概念)
- 当日ここまでの高値-安値のレンジに対する割合(例:レンジの5〜10%)
初心者向けに割り切るなら、まずは「VWAP±0.2%」を基準にし、値動きが荒い銘柄では±0.3%、重い大型株では±0.1%に寄せて調整すると運用しやすいです。
優勢サイド判定:5分足VWAPで見る「3つの状態」
状態A:VWAP上で推移(買い方優勢)
5分足の終値が継続してVWAP上にあり、押し目がVWAP帯で止まる状態です。ここでは買い方の平均コストが守られているため、押し目の売りが薄く、買い戻しが入りやすい。
狙い方(基本形)は「VWAP帯への押し→反発確認→高値更新で追随」。重要なのは“反発確認”をローソクの形で行う点です。例えば、VWAP帯に刺さった後に下ヒゲが出て終値が帯の上で確定し、次の5分足で高値を更新する——この流れは、板の下側の買い支えが機能しているシグナルになります。
状態B:VWAP下で推移(売り方優勢)
5分足の終値が継続してVWAP下にあり、戻りがVWAP帯で叩かれる状態です。戻り局面で、含み損の買い方が「戻ったら逃げたい」心理になり、売りが増えます。
狙い方(基本形)は「VWAP帯への戻り→上ヒゲ・出来高鈍化→安値割れでショート(または買いを避ける)」。信用売りが難しい場合でも、少なくとも“逆張り買いをしない”判断ができるだけで、勝率は改善します。
状態C:VWAPを跨いでレンジ(拮抗・刈り取り局面)
VWAP帯の上下を行ったり来たりする局面は、短期資金の刈り取り(ストップ狩り)になりやすいゾーンです。ここは「勝ちたい」より「負けない」優先です。
具体的には、VWAPを跨いだ直後の足が弱い(実体が小さい、出来高が増えない、すぐ戻される)なら、トレード対象から外す。見送る技術が最も効く局面です。
攻防の核心:跨いだ直後に見るべき“3点セット”
VWAPを跨いだ瞬間より、跨いだ直後の反応が本番です。判断は次の3点セットで行います。
①出来高:跨ぎ足と次足で「増えているか」
VWAPを上抜け(下抜け)した足で出来高が増え、その次の足も出来高が維持されるなら、本尊(まとまった資金)の意思が継続している可能性が高い。逆に、跨いだ足だけ出来高が増えて次足で急減するなら、単発の成行で跳ねただけのケースが多く、戻されやすい。
②ローソクの質:ヒゲと実体のバランス
上抜けなら「下ヒゲが短く実体が太い」、下抜けなら「上ヒゲが短く実体が太い」ほど優勢です。VWAP帯での反発(拒否)がヒゲとして出るため、ヒゲが長い方向は“反対サイドの抵抗が強い”と読めます。
③戻り方/押し方:再テストで壊れないか
上抜け後にVWAP帯へ押しても割らずに再上昇するなら、買い方優勢が確定しやすい。下抜け後にVWAP帯へ戻しても越えられず再下落するなら、売り方優勢が確定しやすい。再テストに耐えるかどうかが、初心者にとって最も分かりやすい確度ポイントです。
具体的なトレード設計:3パターンで覚える
パターン1:VWAP押し目買い(買い方優勢の継続を取る)
条件:上昇トレンド中(高値・安値切り上げ)+終値がVWAP上で推移。
手順:①VWAP帯まで押すのを待つ → ②帯で下げ止まり(下ヒゲ、売り出来高鈍化)を確認 → ③直近の小さな戻り高値を上抜けでエントリー。
損切り:VWAP帯を明確に割って、5分足終値で下に確定したら撤退(または直近押し安値割れ)。
利確:当日高値更新の伸びが鈍る、出来高が出たのに上値が進まない(吸収されている)などで分割利確。初心者は「R倍(損失幅の1.5〜2倍)」で半分利確、残りはトレーリングが管理しやすいです。
具体例(イメージ):寄り付き直後に強く買われ、9:20〜9:40で一段高。その後9:45〜9:55にVWAP帯へ押して出来高が細り、10:00の足で下ヒゲを付けて帯上で確定。10:05の足で直近の戻り高値を抜けたら買い。損切りはVWAP帯割れ確定。
パターン2:VWAP戻り売り(売り方優勢の継続を取る)
条件:下落トレンド中(高値・安値切り下げ)+終値がVWAP下で推移。
手順:①VWAP帯まで戻すのを待つ → ②帯で上値が重い(上ヒゲ、買い出来高鈍化)を確認 → ③直近の小さな押し安値を割れでエントリー(ショート/買い回避)。
損切り:VWAP帯を上抜けて5分足終値で上に確定したら撤退。
利確:直近安値、前日安値、節目(ラウンドナンバー)などを目安に段階的に。
パターン3:VWAPブレイク後の“再テスト”だけを取る(初心者向けの安全設計)
初心者が最も事故りやすいのは、VWAPを跨いだ瞬間に飛び乗ることです。そこで、跨いだ後の再テスト(押し戻し)だけを狙います。
上抜け版:VWAP上抜け → いったん押してVWAP帯で止まる → 反発の高値更新でエントリー。
下抜け版:VWAP下抜け → いったん戻してVWAP帯で叩かれる → 反落の安値割れでエントリー。
この設計はエントリーが遅く見えますが、誤シグナルを大幅に減らし、平均損失を小さくできます。結果として期待値が上がりやすい。
「5分足VWAP×出来高」の読みを一段上げるコツ
出来高のピークは“天井/底”にも“始点”にもなる
出来高急増は、投げ売り・投げ買いのクライマックスである場合も、トレンドの始点である場合もあります。見分けは「VWAPとの位置関係」と「その後の戻り方」です。例えば下落中に出来高ピークが出て、VWAPに届かず戻りが弱いなら下落継続の可能性が残る。一方、出来高ピーク後にVWAPを奪回し、再テストで守れるなら、底打ちシナリオの確度が上がります。
“VWAPより上での横ばい”は強い
上昇後に伸びないのに下がらない(VWAP上で横ばい)局面は、売りを吸収している可能性があります。これを「上で固める」と呼びます。こうした局面で、5分足の安値が切り上がり、VWAP帯との距離が詰まってくると、次の上抜けで走りやすい。初心者は「上で固めた後のブレイク」を狙うと、無理な逆張りを減らせます。
大口の平均コストは“寄り付き直後”に形成されやすい
日本株では寄り付き直後(9:00〜9:15)に出来高が集中し、その時間帯でVWAPが急速に形作られます。このため、9:30以降のVWAPは「寄りの攻防の結果」を強く引きずります。寄りで買いが強かった銘柄は、VWAPが支持線になりやすい。寄りで売りが強かった銘柄は、VWAPが抵抗線になりやすい。まずは寄りの出来高とローソクの質を見て、VWAPを“どちら側から見るべきか”を決めると迷いが減ります。
ありがちな失敗と回避策
失敗1:VWAP跨ぎの瞬間に飛びついて往復ビンタ
回避策は明確で、跨ぎ直後の「次足の追随」と「再テスト」を待つこと。跨いだだけでは拮抗のまま、アルゴの刈り取りに巻き込まれやすいです。
失敗2:低流動性銘柄でVWAPを信じすぎる
出来高が薄い銘柄はVWAP自体が不安定で、ちょっとした成行で簡単に跨ぎます。最低限「5分足出来高が一定以上(例:売買代金が数千万円/5分以上)」などのフィルターを入れると事故が減ります。
失敗3:材料・ニュースで前提が崩れているのに型を当てはめる
昼休みニュース、決算、規制、事故、不祥事などで需給が一変した日は、VWAPの意味合いが時間帯で変わります。ニュース直後は“価格発見”が優先され、VWAPが効きにくい。こういう日は、再テストまで待つか、サイズを落とすのが無難です。
初心者向けの実践テンプレ:朝の準備→場中→振り返り
朝(寄り前)
①監視銘柄を3〜5に絞る(値上がり率/出来高/材料)→ ②前日高値・安値、節目価格を引く → ③想定シナリオを2本用意(VWAP上で強い場合/下で弱い場合)。
場中(エントリー判断)
①状態A/B/Cを判定(終値がVWAP上か下か、跨いでいるか)→ ②跨ぎなら3点セット(出来高・ローソク・再テスト)を確認 → ③パターン1〜3のどれかに合致したときだけ入る。
引け後(検証)
その日のエントリーを「VWAPとの位置関係」と「出来高の推移」で分類し、勝ちパターン/負けパターンを言語化します。特に負けは「跨ぎ瞬間で入った」「再テストを待てなかった」など原因が定型化しやすいので、改善が速いです。
まとめ:5分足VWAPは“需給の勝ち筋”を可視化する
5分足VWAPの攻防は、買い方・売り方の平均コストを基準に、どちらが優勢かを判断するための実戦的な枠組みです。重要なのは、VWAPを“魔法の線”として崇めるのではなく、跨いだ直後の出来高・ローソクの質・再テストで確度を上げること。これだけで、無駄なエントリーが減り、トレードの再現性が上がります。
最後に、どんな手法も「損切りの設計」と「サイズ管理」がセットで初めて機能します。VWAP戦略は特に、拮抗局面(状態C)を避けるだけで成績が改善しやすいので、まずは“入らない判断”を武器にしてください。


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