楽天証券の証券担保ローンは、楽天証券の口座で保有している国内株式やETF、REITなどを担保にして、楽天銀行から資金を借りられるローン商品です。株を売却せずに評価額の一部を現金化できるため、「長期保有したい銘柄はそのまま持ちながら、一時的に現金が必要」という場面で候補になり得ます。
一方で、株価が下落して担保価値が減少すると、一定のラインを超えて担保融資比率が悪化し、自動的に担保銘柄が売却される(いわゆるロスカット)仕組みもあります。仕組みを理解せずに借入枠ギリギリまで使ってしまうと、相場急変時に大きな損失につながるおそれがあります。
この記事では、楽天証券の証券担保ローンについて、基本的な仕組みから「いくら借りられるか」の計算方法、金利と利息の増え方、担保融資比率とロスカットの条件、申込から借入・返済までの流れ、向いているケースと避けたい使い方までを、初めて検討する方にも分かりやすいように整理して解説します。
楽天証券の証券担保ローンの基本概要
まずは、楽天証券の証券担保ローンの全体像を整理します。大まかには次のような特徴があります。
- 楽天証券で保有する国内株式・ETF・REITを担保に、楽天銀行から円建てで借入ができるローンです。
- 担保に入れた有価証券の時価の60%が上限目安となり、その範囲内で借入限度額(枠)が決まります。
- 借りた資金の使いみちは原則自由ですが、事業資金や証拠金、特定の有価証券の購入資金などには使えません。
- 金利は変動制で、借入残高に応じた段階金利が適用されます。一般的なカードローンより低い水準に設定されています。
- 利息は毎月楽天銀行口座から自動引落となり、元本はいつでも任意のタイミングで一部返済・全額返済ができます。
- 担保融資比率が一定ラインを超えると、新規借入制限や担保銘柄の自動売却(ロスカット)が行われます。
イメージとしては、「楽天証券の現物ポジションをそのまま維持しつつ、その評価額の一部を担保にして、楽天銀行から比較的低金利で資金を借りる仕組み」ととらえると分かりやすいです。
利用できる人の条件と必要な口座
主な利用条件
楽天証券の証券担保ローンを利用するには、楽天銀行側のローン商品としての審査を通過する必要があります。主な条件のイメージは次の通りです。
- 楽天銀行口座と楽天証券口座の両方を保有している個人であること
- 両口座の連携サービスである「マネーブリッジ」を設定していること
- 日本国内に居住し、申込時の年齢が満20歳以上80歳未満であること
- 外国籍の場合、永住権または特別永住権を持っていること
- 楽天証券経由の他の楽天銀行ローン(住宅ローンなど)の一部について、重複契約がないこと
詳細な条件や審査基準は楽天銀行・楽天証券の公式情報で随時見直されるため、実際に申し込む前に最新の約款・商品概要説明書を必ず確認することが重要です。
事前に準備しておきたいこと
スムーズに証券担保ローンを使えるようにするため、次の点を事前に整えておくと安心です。
- 楽天証券の口座を開設し、現物株・ETF・REITを保有しておくこと
- 楽天銀行口座を開設し、楽天証券とのマネーブリッジ設定を済ませておくこと
- 担保に入れたい銘柄の時価総額をざっくり把握しておくこと
- 借りた資金の返済原資(給与・ボーナス・他資産の売却など)をあらかじめイメージしておくこと
この段階で「どの銘柄をどの程度担保に差し入れるか」「いくらぐらいまでなら安全に借りられそうか」という感覚を持っておくと、後のシミュレーションがスムーズになります。
いくら借りられる?借入限度額の計算方法
基本式:担保時価総額 × 60%
楽天証券の証券担保ローンでは、借入限度額は次のようなシンプルな計算式で求められます。
借入限度額 = 担保時価総額 × 60%
ここでいう担保時価総額は、担保に設定した銘柄の最小単元株数ごとの前日終値ベースで計算される時価の合計と考えるイメージです。すべての担保銘柄の時価を合計し、その合計の60%が、理論上の上限枠となります。
さらに、借入限度額には次のような条件があります。
- 最低でも10万円以上の借入限度額が必要
- 10万円の限度額を得るには、担保時価総額が少なくとも17万円以上必要(17万円 × 60% = 10.2万円)
- 借入限度額1億円以下は原則追加審査なしで利用可能
- 1億円・5億円・10億円などの大口枠は、別途の増額審査が必要
具体例①:国内株式だけを担保にした場合
次のようなケースを想定します。
- 楽天証券で保有している国内株式の時価総額:500万円
- すべての銘柄を証券担保ローンの担保に設定する
この場合、借入限度額は次のように計算できます。
500万円 × 60% = 300万円
したがって、理論上は300万円まで借入枠を設定し、その範囲内で1万円以上・1万円単位で必要な額を借りられるイメージになります。
ただし、株価は日々変動し、相場が下落すれば担保時価総額も減少します。限度額いっぱいまで借りてしまうと、相場急落時に担保融資比率が一気に悪化し、ロスカットラインに近づきやすくなります。安全性を重視するなら、担保評価の60%のうち、さらにその7割程度までに抑えるなど、余裕を持った借入額を設定する考え方が現実的です。
具体例②:ETFとREITを組み合わせた場合
次のようなポートフォリオで考えてみます。
- 国内株式インデックスETF:時価300万円
- J-REIT ETF:時価200万円
- 合計の担保時価総額:500万円
この場合も計算式は同じです。
担保時価総額500万円 × 60% = 借入限度額300万円
インデックスETFやREITに分散されているとはいえ、市場全体の下落時には一斉に価格が下がる可能性があります。そのため、やはり限度額ぎりぎりまで借りるのではなく、200万円前後までに抑えておくなど、「相場が2〜3割下落してもロスカットにかからない」レベルを一つの目安にするとよいでしょう。
安全な借入水準を考える視点
重要なのは、「いくらまで借りられるか」ではなく、「どのくらいまでならリスク許容度に合うか」という視点です。たとえば、担保時価総額が600万円ある場合、計算上の借入限度額は360万円(600万円 × 60%)ですが、実際の借入額としては200〜250万円程度に抑え、平常時の担保融資比率が40%前後になるように設計する、といった考え方が現実的です。
このようにしておけば、相場が2〜3割下落しても、ロスカットラインの85%に到達するまでの余裕を確保しやすくなります。
担保にできる銘柄・担保にできない銘柄
担保対象となる金融商品
楽天証券の証券担保ローンで担保に設定できるのは、主に次のような銘柄です。
- 国内上場株式(東証・名証など)
- 国内上場ETF
- 国内上場REIT
これらを現物で保有している場合、その最小単元(100株や10口など)単位で、証券担保ローンの担保に設定することができます。
担保対象外となる主な例
一方で、次のような銘柄・区分は担保には利用できません。
- 単元未満株(1株単位などのミニ株・S株など)
- 信用取引の代用有価証券に設定している株式
- 貸株サービスに出している株式(代用貸株も含む)
- NISA口座で保有している銘柄
- 整理銘柄・監理銘柄など、取引リスクの高い銘柄
- 一部のETN・特殊な上場証券など
また、投資信託や外国株式など、他の資産クラスは現時点では担保対象外となっています。どの銘柄が担保にできるかは、楽天証券の公式サイトや証券担保ローンの担保銘柄一覧で最新状況を確認しておくと安心です。
金利水準と利息の計算イメージ
段階金利の考え方
楽天証券の証券担保ローンは変動金利型で、借入残高に応じて金利が段階的に変わる仕組みになっています。おおまかには次のようなイメージです(具体的な利率水準は時期によって変わる可能性があるため、必ず公式情報で確認してください)。
- 借入残高100万円以下:相対的に高めの金利帯
- 借入残高100万円超〜1,000万円以下:中位の金利帯
- 借入残高1,000万円超:もっとも低い金利帯(短期プライムレートに近い水準)
一般に、借入残高が大きくなるほど利率が下がる構造になっています。ただし、少額借入の場合はカードローンなどと比べても十分に低い水準であるケースが多く、大口借入の場合はかなり低い金利が適用されることもあります。
利息の計算方法(イメージ)
利息は日割りで計算され、翌月第一営業日に楽天銀行口座から前月分の利息が自動引落となります。計算式のイメージは次の通りです。
利息 = 借入残高(元本) × 年利率 ÷ 365 × 経過日数
例として、次のようなケースを考えてみます。
- 借入残高:300万円
- 適用金利:年2.8%と仮定
- 借入期間:30日間(途中で元本の増減なし)
この場合、利息の概算は次のようになります。
300万円 × 2.8% ÷ 365日 × 30日 ≒ 約6,900円
実際には端数処理や適用金利の変動などにより若干の差が出ますが、「数百万円を1か月借りても数千円台の利息」で済む水準である、という感覚を持っておくと、他の借入手段との比較がしやすくなります。
遅延損害金と延滞のリスク
毎月第一営業日に行われる利息の自動引落しで残高不足が生じると、その時点で延滞となり、遅延損害金が発生する可能性があります。遅延損害金は通常の金利よりかなり高い水準に設定されるため、楽天銀行口座の残高管理には十分注意する必要があります。
証券担保ローンを利用する際は、「借入額をいくらにするか」だけでなく、「楽天銀行口座に毎月どの程度の残高を維持しておくか」もあらかじめ決めておくと安心です。
借入と返済の流れを具体的に把握する
① 担保設定と借入申込
実際の利用の流れを、ステップごとに見ていきます。まずは担保設定と借入申込です。
- 楽天証券のWEBサイトにログインし、証券担保ローンの申込メニューから、どの銘柄を何株担保に入れるかを指定します。
- 指定された銘柄の時価にもとづき、担保時価総額と借入限度額が算出されます。
- 担保設定の手続きが完了すると、その範囲内で借入が可能になります。
- 借入を行う際は、楽天銀行のWEBまたはアプリから借入金額(1万円以上・1万円単位)を指定し、借入申込を行います。
担保設定と借入申込を同時に行うことも可能ですが、その場合は担保設定が完了した後に借入金が楽天銀行口座に入金される流れになります。
② 借入金の入金と利用
借入申込が完了すると、原則として即時〜数時間程度で楽天銀行の普通預金口座に借入金が入金されます(受付時間やシステム状況によって前後します)。入金された資金は、他行への振込やクレジットカード引き落とし用の口座残高としてなど、通常の預金と同様に利用できます。
③ 利息の支払いと元本返済
利息は毎月第一営業日に、前月分が自動で楽天銀行口座から引き落とされます。元本については、次の2通りの方法で返済します。
- 一部返済:任意のタイミングで、1万円単位などで元本の一部を返済し、借入残高を減らします。
- 全額一括返済:まとまった資金が用意できたタイミングで元本と利息をまとめて返済し、契約を終了します。
いずれも、楽天銀行のWEBやアプリのローンメニューから手続きが可能です。元本を返済すると翌月以降の利息も減るため、余裕資金がある場合は早めに一部返済を行うと金利負担の軽減につながります。
④ 契約期間と自動更新
証券担保ローンの契約期間は原則6か月とされており、満了時に楽天銀行側で更新審査が行われます。問題がなければ自動的に6か月延長される仕組みになっており、借入残高が残っている場合でも、条件を満たしていれば継続利用が可能です。
ただし、年齢が満80歳に達した最初の契約期間満了日には、契約が終了となる点には注意が必要です。
担保融資比率とロスカットの仕組み
担保融資比率の定義
証券担保ローンのリスク管理で最も重要な指標が「担保融資比率」です。定義は次の通りです。
担保融資比率 = (借入残高(元本)+経過利息+遅延損害金) ÷ 担保時価総額
担保時価総額が増える、または借入残高が減ると、担保融資比率は低下し、安全度が高まります。逆に、株価の下落などで担保時価総額が減少すると、担保融資比率は上昇し、ロスカットラインに近づいていきます。
60%ライン:新規借入・担保解除の制限
担保融資比率が60%を超えると、新たな制限がかかります。
- 新規の借入ができなくなる
- 担保設定した銘柄の解除や一部解除ができなくなる
この段階ではまだ自動売却(ロスカット)は発動しませんが、担保に余裕がない状態に近づいているサインです。担保融資比率が60%に近づいてきたら、元本を一部返済するか、担保銘柄を追加するかの検討を始めたほうが安全です。
85%ライン:ロスカット(担保銘柄の自動売却)
担保融資比率が85%を超えると、翌営業日に担保に設定している全銘柄について、楽天銀行から楽天証券に一括売却の注文が出されます。売却の銘柄選択やタイミングは利用者が指示することはできず、自動的に売却が行われます。
売却代金は、借入残高(元本)や未払利息、遅延損害金の返済に充当され、それでもなお担保融資比率が60%を超えている場合には、超過分について自動的に元本返済が行われる形になります。
この仕組みは、信用取引における追証・強制決済に近いイメージで、自分の意思とは関係なく保有銘柄が売却されてしまう点が大きなリスクです。
担保融資比率を意識したシミュレーション
簡単な数値例でイメージしてみます。
- 担保時価総額:600万円
- 借入残高(元本):240万円
この場合の担保融資比率は、利息を無視するとおおよそ次のようになります。
240万円 ÷ 600万円 = 40%
ここから株価が20%下落し、担保時価総額が480万円になったとします。
240万円 ÷ 480万円 = 50%
まだ60%には達していませんので、新規借入は慎重にすべきですが、即座にロスカットになる水準ではありません。もし株価が30%下落し、担保時価総額が420万円まで減ると、
240万円 ÷ 420万円 ≒ 57.1%
となり、60%ラインが視野に入ってきます。こうしたシナリオを事前に計算しておくことで、「どのくらいの下落までなら耐えられるか」を把握でき、借入額の上限を決めるうえでの指針になります。
どんな人・どんなニーズと相性が良いか
相性が良いケース
楽天証券の証券担保ローンは、次のようなニーズを持つ人にとって有力な選択肢になり得ます。
- 長期保有を前提とした現物株・ETF・REITを多く保有している
- それらの銘柄を売却せずに、一時的に現金が必要になっている
- カードローンのような高金利の借入は避けたい
- 数か月〜数年以内に、ボーナスや退職金、他資産の売却などで返済の目処が立っている
具体的には、住宅購入に伴う諸費用や、一時的な税金支払い、教育費や留学費用など、「将来のキャッシュインは見込めているが、支出のタイミングが前倒しになる」場面で活用しやすい商品です。
慎重にすべき・避けた方がよいケース
一方で、次のようなケースでは慎重な判断が必要です。
- 株価下落時の含み損に強いストレスを感じるタイプで、ロスカットリスクに心理的に耐えにくい
- 収入やキャッシュフローに不確実性が大きく、返済計画を立てるのが難しい
- 借りたお金でさらにリスクの高い投資(FXや先物など)を行おうとしている
- 小型株やボラティリティの高い銘柄を担保にして、限度額ぎりぎりまで借りようとしている
特に、「借りたお金でさらに株を買い増す」「他のレバレッジ取引の証拠金に回す」という発想は、相場の急変時に損失が雪だるま式に膨らむ典型的なパターンです。証券担保ローンはあくまで生活資金やライフイベント資金など、「返済の見通しを立てやすい用途」に限定して活用するのが現実的です。
初めて証券担保ローンを使う前のチェックリスト
最後に、これから楽天証券の証券担保ローンを検討する際に確認しておきたいポイントをチェックリスト形式でまとめます。
- 担保にする予定の銘柄の時価総額を合計し、「担保時価総額 × 60%」で借入限度額を算出したか
- そのうち実際の借入額を、担保融資比率40%前後に収まる水準まで意図的に抑えたか
- 株価が20〜30%下落した場合の担保融資比率をシミュレーションし、60%・85%ラインとの距離を確認したか
- 毎月の利息負担を概算し、楽天銀行口座にどの程度の残高を置いておくか目安を決めたか
- ボーナス・退職金・他資産の売却など、元本返済の「出口戦略」を事前にイメージしているか
- ロスカット発生時に保有銘柄が自動売却されるリスクを理解し、それでもなお利用する合理性があるか
これらのポイントを丁寧に確認し、「借りられる上限」ではなく「自分のリスク許容度の範囲で借りる金額」を意識して設計することで、証券担保ローンをより安全に活用しやすくなります。
楽天証券の証券担保ローンは、うまく使えば長期保有のポジションを維持しながら短期的な資金ニーズに対応できる便利な選択肢です。一方で、担保となる有価証券の価格変動リスクを正面から引き受ける仕組みでもあるため、自身の資産状況・キャッシュフロー・リスク許容度を冷静に見つめ直したうえで、慎重に活用の可否を判断することが大切です。


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