「小さく勝って、たまに大きく負ける」──オプションの売り戦略でありがちな落とし穴です。クレジット・スプレッド(Credit Spread)は、この欠点を損失上限という“ブレーキ”で抑えながら、プレミアム(受取額)を積み上げる設計ができます。
本記事では、株式(米国ETFなど)と指数系のオプションをイメージしつつ、クレジット・スプレッドの基本から、失敗しにくい構成・建玉サイズ・運用ルールまで、初心者がそのまま真似できる形で具体的に解説します。
- クレジット・スプレッドとは何か:最初に“損失の壁”を作ってから戦う
- まず覚える3つの損益要素:最大利益・最大損失・損益分岐点
- “儲けやすさ”の本質:当てるのは方向ではなく「レンジ」と「時間」
- 満期の選び方:初心者は「30〜45日」を基準にする
- ストライクの決め方:IV(ボラティリティ)と“イベント”でルールを変える
- 建玉サイズ:最大損失から逆算する“1トレード許容損失”の作り方
- 利益確定の基本:受取プレミアムの50%で早期利確する
- 負けを小さくする管理:ロールと損切りを“条件付き”で使う
- 勝ちやすい銘柄の選び方:初心者は“流動性”を最優先する
- 具体的な“稼ぎ方”の型:3つのテンプレだけ覚えればいい
- 初心者がやりがちな失敗と、その回避策
- 実践チェックリスト:建てる前に3分で確認する項目
- まとめ:クレジット・スプレッドは“勝つ技術”より“負けない設計”で結果が出る
クレジット・スプレッドとは何か:最初に“損失の壁”を作ってから戦う
クレジット・スプレッドは、同じ満期・同じ銘柄で、1本を売り、もう1本を買うという組み合わせです。売りでプレミアムを受け取り、買いで損失の上限(最大損失)を固定します。
代表例は2つです。
①プット・クレジット・スプレッド(Bull Put Spread):下落しない(または大きく下落しない)前提で、下側のプットを売り、さらに下のプットを買います。
②コール・クレジット・スプレッド(Bear Call Spread):上昇しない(または大きく上昇しない)前提で、上側のコールを売り、さらに上のコールを買います。
“方向当て”というより、「この期間に、このレンジを外れない確率の方が高い」という考え方で、確率ゲームに寄せられます。しかも、裸売り(売り単体)と違って、最悪ケースの損失があらかじめ決まります。
まず覚える3つの損益要素:最大利益・最大損失・損益分岐点
初心者がつまずくのは、スプレッドの損益を“感覚”で捉えようとすることです。ここは計算で固定しましょう。
最大利益:受け取ったプレミアム(ネットクレジット)×契約倍率(米株オプションなら100)
最大損失:スプレッド幅(ストライク差)−受取プレミアム(ネットクレジット)
損益分岐点:プットなら「売りストライク − 受取プレミアム」、コールなら「売りストライク + 受取プレミアム」
例で一気に腹落ちさせます。仮に、SPYが現在500ドル付近だとして、満期まで30日、次のようなプット・クレジット・スプレッドを組むとします。
・495プットを売る(受取 2.00)
・490プットを買う(支払 1.20)
ネットクレジットは 2.00−1.20=0.80。契約倍率100なので、最大利益は 0.80×100=80ドルです。スプレッド幅は5ドルなので、最大損失は(5.00−0.80)×100=420ドル。損益分岐点は 495−0.80=494.20 になります。
この形の強みは、「勝ったときは80ドル、負けても420ドルで止まる」と、損益が最初から固定されていることです。あとは、勝率と損益比のバランスをどう設計するか、になります。
“儲けやすさ”の本質:当てるのは方向ではなく「レンジ」と「時間」
クレジット・スプレッドは、強いトレンドを当てに行く戦略ではありません。むしろ、「行き過ぎない」を取りに行きます。だから、次の2つをセットで見る癖をつけると、意思決定の質が一気に上がります。
①レンジの設計:売りストライクをどこに置くか(どれくらい外側に逃がすか)
②時間の設計:何日で終わらせるか(プレミアムを取る期間をどれくらいにするか)
初心者がいきなり勝ちやすくするなら、まずは「外側に置く」ことです。具体的には、売りのデルタ(Δ)を目安にします。デルタは厳密には“価格変化への感応度”ですが、売り戦略ではざっくり「そのストライクに到達する確率のイメージ」として使えます。
目安として、初学者は次を推奨します。
・勝ちやすさ重視:売りデルタ 0.10〜0.20
・バランス型:売りデルタ 0.20〜0.30
・攻める(初心者には非推奨):売りデルタ 0.30以上
売りデルタを低くすると、受取プレミアムは減りますが、レンジ外に飛び出す確率が下がり、精神的にも運用が安定します。まずはここからです。
満期の選び方:初心者は「30〜45日」を基準にする
満期を短くしすぎると、確かにプレミアムは“日割り”で取りやすく見えます。しかし短期は、ニュース・指標・ギャップ(寄り付きの飛び)で一撃を食らいやすい。逆に長すぎると、資金拘束が長く、価格がじわじわ不利に動くリスクが増えます。
そこで初心者は、まず30〜45日(DTE)を基準にしてください。時間価値(シータ)の減り方が比較的安定し、管理もしやすいからです。0DTEや1週間満期のような超短期は、慣れるまでは封印した方が期待値が安定します。
ストライクの決め方:IV(ボラティリティ)と“イベント”でルールを変える
同じデルタでも、ボラティリティが高い局面はプレミアムが厚くなります。これは売り手にとって追い風です。ただし、ボラが高い理由が「決算」「FOMC」「重要統計」などのイベントなら、レンジブレイクの確率も上がります。
そこで、同じ“スプレッド”でも、局面でルールを分けます。
平常時(イベント少なめ):売りデルタ0.15〜0.25、スプレッド幅は銘柄の値幅に合わせる(SPYなら5ドル刻みなど)
イベント前(決算・重要指標):売りデルタをさらに外へ(0.10〜0.15)か、そもそも新規建てを見送る
ボラ急騰(恐怖の局面):サイズを落とし、利確を早める(後述の50%利確ルール)
初心者が勝ち残るコツは、相場観よりも「参加する場面」と「見送る場面」を分けることです。イベント前に無理に建てないだけで、無駄な大損がかなり減ります。
建玉サイズ:最大損失から逆算する“1トレード許容損失”の作り方
スプレッドが安全に見える最大の落とし穴は、安心して建玉を大きくしがちな点です。これを防ぐため、先に1トレードで許容する損失額を決め、そこから枚数を逆算します。
たとえば運用資金が100万円で、1回の損失を最大でも1%(1万円)に抑えるとします。先ほどの例の最大損失が420ドル(仮に1ドル=150円なら約6.3万円)なら、1枚でも許容超えです。つまり、そのスプレッドは資金に対して“重すぎる”。ならば次の選択肢になります。
・スプレッド幅を狭める(5ドル→2ドルなど)
・より外側のストライクにする(最大損失を減らすわけではないが、損失発生確率を下げる)
・銘柄を変える(価格水準が低いETF等)
・建てない(これも立派な戦略)
初心者にとって最大の武器は、「生き残るサイズ」です。うまいエントリーより、まず破産しない構造を優先してください。
利益確定の基本:受取プレミアムの50%で早期利確する
「満期まで待てば最大利益が取れる」──理屈は正しいですが、初心者の運用には向きません。なぜなら、残り数日で突然のニュースが出ると、“ほぼ勝ち”から一気に負けに変わることがあるからです。
そこで実務的(=運用に効く)なルールとして、受取プレミアムの50%を取れたら利確を基本にします。さっきの例で受取が0.80なら、0.40まで下がったら買い戻して終了です。
このルールのメリットは3つあります。
・資金拘束時間が短くなる(回転が上がる)
・勝率が上がる(最後の事故を回避)
・精神が安定する(“勝ちを逃す”より“負けを避ける”が大事)
負けを小さくする管理:ロールと損切りを“条件付き”で使う
スプレッドは最大損失が決まっているので、「放置でもいい」と思いがちです。しかし放置は、勝率も資金効率も落とします。初心者は、次の“条件付き”の管理を覚えると一気に成績が安定します。
①ロール(満期を先に延ばす)
価格が売りストライクに近づき、含み損が膨らんできたら、満期を先に延ばして時間を買います。ただし“延命”ではなく、次の条件を満たすときに限定してください。
・ロール後もネットでクレジットが取れる(受取が増える)
・売りストライクを外側に逃がせる(同じストライクで引っ張らない)
・イベント直前ではない(延ばした先にイベントがあるなら見送る)
②損切り(ルールで切る)
初心者にありがちなのが、損切りの基準が曖昧で、含み損を眺めるだけになることです。基準の一例は、受取プレミアムの2倍で損切りです。受取0.80なら、スプレッド価格が1.60まで悪化したら撤退、という形です。
これは“常に正解”ではありませんが、少なくとも「判断を遅らせて最大損失まで持っていかれる」よりは、資金曲線がなめらかになります。
勝ちやすい銘柄の選び方:初心者は“流動性”を最優先する
スプレッドの期待値を削る最大要因は、方向ではなくスプレッド(売買の板の差)です。流動性が低い銘柄は、建てるときに不利、閉じるときにも不利になり、理論上の損益が崩れます。
初心者は、まず次の条件を満たす銘柄から選んでください。
・オプションの出来高が多い(複数の満期に板がある)
・スプレッドが狭い(指値で入りやすい)
・急変動の材料が読みやすい(イベントが明確)
米国ETFなら、SPYやQQQ、IWMなどがイメージしやすいでしょう。個別株の決算ギャンブルは、慣れてからで十分です。
具体的な“稼ぎ方”の型:3つのテンプレだけ覚えればいい
ここからは、初心者がそのまま運用に落とし込めるよう、テンプレ化します。難しい指標より、「同じ型を繰り返す」方が再現性が出ます。
テンプレA:レンジ相場でのプット・クレジット・スプレッド
前提:上にも下にも強いトレンドが出ていない。押し目は買われやすい。
手順:30〜45DTEで、売りデルタ0.15〜0.20のプットを売り、1〜3段下を買う(幅は資金に合わせる)。
管理:プレミアム50%で利確。売りストライク接近でロール検討。受取の2倍で損切り。
テンプレB:高値圏でのコール・クレジット・スプレッド
前提:急騰後で、過熱感はあるが下落の確信はない。上値は重い。
手順:30〜45DTEで、売りデルタ0.10〜0.15のコールを売り、1〜3段上を買う。
管理:利確は早め(50%)。急騰が続くなら、早めにロールまたは撤退。
テンプレC:ボラ急騰後の“縮小”を狙う(小さく)
前提:恐怖でIVが跳ねたが、パニックが一服しそう。
手順:外側(デルタ0.10〜0.15)で小さく建てる。枚数を普段の半分以下にする。
管理:利確はさらに早め(25〜40%でも十分)。戻りが鈍いなら撤退優先。
この3テンプレは、相場観の当たり外れよりも、「負け方を固定し、勝ちを積み上げる」ことに寄せています。初心者が一番避けるべきは、ホームラン狙いです。
初心者がやりがちな失敗と、その回避策
失敗1:プレミアムが高いからと、デルタ0.30以上で売る
受取は増えますが、レンジ外に出る確率も上がります。最初は“薄く長く”で良いです。勝率が安定してから、デルタを上げるかどうか考えればいい。
失敗2:満期直前まで引っ張って事故る
最後の数日で勝ちが消える経験は、ほぼ全員が通ります。50%利確で回転させた方が、資金曲線は安定しやすい。
失敗3:スプレッド幅が広すぎて、1回の負けが重い
“損失上限がある”は安全ではありません。あなたの資金に対して上限が小さいことが安全です。幅は必ず資金から逆算してください。
失敗4:ロールが延命になる
クレジットが取れないロールは、損失を先送りしているだけになりがちです。外側に逃がせないなら、一度撤退して仕切り直す方が良い場合が多い。
実践チェックリスト:建てる前に3分で確認する項目
最後に、意思決定をブレさせないためのチェック項目を文章でまとめます。建てる前に、毎回これだけ確認してください。
①満期は30〜45日か。短すぎないか。
②売りデルタは0.10〜0.20程度か(最初は外側)。
③スプレッド幅は資金に対して重すぎないか(最大損失から枚数を逆算したか)。
④直近に決算・重要指標などのイベントがないか。
⑤利確(50%)と撤退(受取の2倍)を先に決めたか。
⑥指値で入り、板が薄い銘柄を避けているか。
まとめ:クレジット・スプレッドは“勝つ技術”より“負けない設計”で結果が出る
クレジット・スプレッドの核心は、当てることではなく、損失を小さく固定し、勝ちを回転で積むことです。初心者が伸びる順番は「知識→勝ち」ではなく、「サイズ→管理→型→勝ち」です。
最初は、デルタを外側に置き、満期を30〜45日に揃え、50%利確を徹底する。これだけで、負け方が整い、手法が“投機”から“運用”に変わります。あとは、同じテンプレを淡々と回し、記録を取り、少しずつ改善してください。稼ぐヒントは、派手な一撃ではなく、再現性の積み上げにあります。


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