この記事の前提:日本は「延命国家」フェーズに入った(前提C)
前編で整理したとおり、日本は「急激な利上げ(前提A)」も「金利抑制一本足(前提B)」も、政治的・社会的コストが大きすぎて長期に採用しにくい状況です。その結果として現実に近いのは、名目では金利を少しずつ引き上げつつ、インフレ率には追いつかせず、実質金利をマイナスに寄せたまま時間を稼ぐという運用(前提C)です。
この局面で個人が理解すべきポイントは一つだけです。国が延命するほど、何もしない個人は実質で削られるという構造です。逆に言えば、構造を理解して手順通りに動けば、同じ環境を資産形成の追い風に変える余地が残っています。
結論:前提Cで勝ち筋になる「4つの方向性」
前提Cでの勝ち筋は、予想を当てることではありません。以下の4つを同時に進めることです。
1)円への集中をやめる(通貨分散)
円は「決済通貨」としては使えますが、「価値保存手段」としては弱くなりやすい局面です。円建て現預金を厚く持ちすぎるほど、実質購買力を失いやすくなります。
2)インフレに強い資産へ比重を移す(価格決定力・実物資産)
インフレで勝つ資産は決まっています。価格を上げられる企業、外貨で稼ぐ企業、実物価値があるものです。
3)「名目」ではなく「実質」で意思決定する(実質金利・実質リターン)
利回り、金利、賃金は名目で見ても意味がありません。インフレ率を差し引いた実質で評価します。前提Cではここを間違えた人から削られます。
4)リスクを管理しながら積み上げる(分散・ルール・リバランス)
前提Cは「長く続く可能性がある」一方で、途中でショック(急な円高、急な金利上昇、株安)が起こり得ます。勝ち残るには、リスク管理をルール化し、崩れにくい構造で運用します。
最初にやること:あなたの「耐久力」を数値化する
投資手法の前に、土台を固めます。延命局面では「地味な耐久力」が最強です。
(A)生活防衛費:6〜24か月の現金を「目的別」に分ける
「現金は悪」と言いたいわけではありません。重要なのは、現金の役割を限定し、過剰に持たないことです。
おすすめの分け方は3階建てです。
①即時資金(1〜2か月):円の普通預金。家賃・光熱費・カード引落のため。
②防衛資金(3〜12か月):流動性の高い円資金(定期や短期商品)。失職・病気などの緊急対応。
③機動資金(0〜12か月):下落時に追加投資するための待機資金。ここを持つかは性格次第。
ポイントは、①②は「保険」なので利回りを追わない。③は投資の一部なので、ルールがないなら持たない、です。
(B)負債の棚卸し:固定金利と変動金利を分ける
前提Cでは名目金利がじわじわ上がりやすい一方、インフレも残る可能性があります。ここで重要なのは、負債を一律に恐れないことです。
・高金利の消費性ローン:最優先で返済(期待リターンの比較で負けやすい)
・住宅ローン等の長期負債:条件次第で「固定金利」を検討(インフレ局面では固定は有利になりやすい)
90日で形にする:具体アクションロードマップ
ここからが本題です。思考ではなく行動に落とします。90日で「延命国家対応ポートフォリオ」の最低限を完成させます。
0〜7日:口座とルールを先に作る
①投資口座(特定口座)と積立設定の準備
②NISA(可能なら)で積立枠の設計
③毎月の投資額を「手取りの◯%」で固定(例:10〜30%の範囲で無理のない水準)
④購入ルールを文章化(これがないと相場でブレます)
ルール例:毎月同額積立/年2回リバランス(±5%以上乖離で実行)/レバレッジ原則不使用。
8〜30日:通貨分散を「機械化」する
通貨分散は、当てにいく行為ではなく、保険を定期購入する行為です。外貨比率を40〜70%の範囲で設計し、定額積立で実行します。
31〜60日:インフレ耐性資産を組み込む
(1)株式:価格転嫁力、外貨で稼ぐ力、過大負債でないことを重視。難しければ分散インデックスを主軸に。
(2)金:通貨価値希薄化の保険として5〜15%の範囲を目安に導入。
61〜90日:リスク管理を「失敗前提」で設計する
①最大許容ドローダウン(例:-20%なら耐えられるが-40%は無理)
②売買頻度を固定(積立+年2回リバランスなど)
③レバレッジ方針(資産形成は原則使わない)
資産クラス別:前提Cに合わせた扱い方
円現金
持つ。ただし「生活防衛」と「決済」に限定。過剰分は通貨分散とインフレ耐性資産へ。
外貨
外貨現金で寝かせるより、外貨で収益が期待できる資産で保有する方が合理的な場合が多いです。
株式
主力。ただし「買い方」が9割。定額積立+下落時のルール買いで感情を排除します。
債券
円建て長期固定は実質で削られやすい。守りは短期・外貨・変動金利型を中心に。
不動産
賃料転嫁力がすべて。固定金利、過大レバレッジ回避、需要の強い立地を徹底。
暗号資産
やるなら上限を決めたリスク枠(資産の数%程度)に限定。生活を壊す量は避けます。
制度の使い方:税コストはリターンに直結
NISA
非課税枠で長期資産を積み上げる。短期売買の道具にしない。
iDeCo
生活防衛費が固まってから。長期で動かさない資金に適用。
手数料
購入手数料・信託報酬・為替手数料など固定費を最小化。長期では差が致命的になります。
よくある失敗と回避策
円高待ちで先延ばし
回避策:為替予想を捨て、定額積立で分散。
高利回り一本足
回避策:分散と継続を優先。集中は事故率を上げます。
暴落で投げ、戻りで買い直す
回避策:耐えられない比率で買わない。最大ドローダウンとリバランスルールを先に決める。
まとめ:前提Cを「環境」として使い、富を積み上げる
前提Cは、国の延命のために実質負担が個人へ分散転嫁されやすい環境です。しかし個人は、ルールに基づいて行動することで、災難から距離を取り、資産形成の追い風に変えられます。
円に集中せず、実質で考え、外貨と価格決定力を持つ資産を積み上げ、ルールでリスクを管理する。この4点を90日で形にしてください。そこから先は継続が最大の差になります。


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