株式市場の暴落は、長期の資産形成において「避けられないイベント」です。問題は暴落そのものではなく、暴落時の意思決定が将来リターンを大きく左右する点にあります。とくにNISA(つみたて枠・成長投資枠)でインデックス投資をしている個人投資家は、暴落時の行動が“投資成績の差”を作ります。
本記事では、初心者でも迷わず動けるように、暴落時の行動を「資金」「積立」「リスク」「リバランス」「心理」「出口戦略」の6つの観点で、具体例つきで徹底解説します。ポイントは、相場予測ではなく再現性のある手順です。
1. まず前提:暴落は“確率の高いイベント”であり、想定内に入れる
暴落は滅多に起きない異常事態、ではありません。株式はリスク資産であり、一定周期で大きな下落局面が発生します。ここで重要なのは「いつ来るか」を当てることではなく、来たときに破綻しない設計にしておくことです。
暴落を想定内にするために、投資判断を次の2階層に分けます。
(A)変えないもの:目的、投資期間、資産配分(株式比率)、積立の基本方針
(B)変えてよいもの:積立額の一時調整、追加投資の有無、リバランスの実行、課税口座の損益通算や損出し
暴落時に(A)まで変えると、判断が感情に引きずられます。(B)だけを手順化しておくのがコツです。
2. 暴落時の最優先タスクは「生活防衛資金の確保」
暴落相場で最悪なのは「安値で売らざるを得ない状況」に追い込まれることです。投資の損失そのものより、現金不足による強制売却が致命傷になりやすいです。したがって、暴落時の最優先はリターンではなくキャッシュです。
2-1. 生活防衛資金の目安と“不足時の処方箋”
生活防衛資金は一般に生活費の3〜12か月分などと言われますが、重要なのは「あなたの固定費」「雇用の安定性」「家族構成」「住宅ローンの有無」で変わる点です。
例えば、同じ月30万円の生活費でも、次の2人は必要水準が違います。
例1:会社員(雇用が安定)…目安6か月=180万円。暴落時は積立を継続しやすい。
例2:個人事業主(収入変動が大きい)…目安12か月=360万円。暴落時は現金比率の重要性が高い。
生活防衛資金が不足している場合は、まず投資額を増やす前に、次の順番で是正します。
- 固定費の圧縮(通信費・保険・サブスク)を先にやる
- 積立額を「続けられる水準」へ一時的に下げる(ゼロではなく減額)
- ボーナスや臨時収入で現金を積み増す
暴落時に積立を止める人の多くは、投資判断ではなく資金繰りが原因です。ここを固めるだけで、暴落耐性が一気に上がります。
2-2. “借金して買い増し”が危険な理由
暴落時に「今がチャンスだから借りてでも買い増し」と考える人がいますが、これは多くの場合リスクが過大です。理由はシンプルで、下落が止まる保証がないからです。追加投資をするなら、借入ではなく、あくまで余裕資金の範囲に限定するのが基本です。
3. 暴落時にやってはいけない“典型的な失敗”
暴落で資産形成が崩れるパターンは、だいたい決まっています。先に「地雷」を把握しておくと回避しやすくなります。
3-1. 失敗①:底で売ってしまう(狼狽売り)
暴落で恐怖がピークになるのは、多くの場合「すでに大きく下げた後」です。売りたくなるのは、人間の自然な反応ですが、長期投資ではここで売ると回復局面を取り逃がします。
対策は精神論ではなく、売却判断を“条件化”することです。例えば「生活防衛資金が6か月を割ったら、リスク資産を一部売却して現金化する」など、資金繰り基準で決めます。相場の雰囲気で売らない仕組みが重要です。
3-2. 失敗②:積立を止める(タイミング投資に変わる)
積立を止めると、次に起きるのは「再開タイミングが分からない問題」です。結局、相場が戻って安心してから再開しがちで、平均取得単価を上げてしまいます。
どうしても不安なら「停止」ではなく、減額が合理的です。例えば月5万円の積立を、暴落局面の3か月だけ月2万円に落とし、その差額を生活防衛資金の積み増しに回す。こうすれば“継続”の連続性を保てます。
3-3. 失敗③:一括投入で“強気に賭ける”
暴落時の一括は魅力的に見えますが、実務的には難易度が高いです。なぜなら一括は「買った直後にさらに下がる」可能性を許容できないと継続できないからです。
一括をするなら、次のように段階投入(時間分散)へ分解してください。
- 追加資金を4等分して、月1回×4か月で投入
- “下落率トリガー”で投入(例:ピーク比−20%、−30%、−40%で各1回)
重要なのは「買いの判断を小さくする」ことです。暴落時に判断を大きくすると失敗確率が上がります。
4. 暴落時の“正しい行動”を6ステップで固定する
ここからが本題です。暴落時にやることを、再現可能な手順に落とし込みます。相場のニュースではなく、あなたの資産形成を守るための手順です。
ステップ1:資産配分(アセットアロケーション)を紙に書き出す
まず、現在の資産配分を把握します。感覚ではなく数字です。例:
現金 200万円、国内株式 50万円、先進国株式(S&P500等)300万円、全世界株式 100万円、債券 50万円
合計700万円で、株式比率は(50+300+100)/700=64.3%です。暴落で株式が下がると、この比率が自然に下がります。比率の変化が「次の打ち手」を決めます。
ステップ2:生活防衛資金の“下限”を確認し、足りなければ積立額を調整
暴落相場で守るべきは、投資枠ではなく生活です。生活防衛資金の下限(例:6か月)に対して不足なら、積立を減額して現金を積み増します。これは敗北ではなく、継続するための戦術です。
ステップ3:積立は原則継続。例外は“資金繰り”だけ
NISAの積立は、長期で見れば安値局面で口数を多く買える局面でもあります。相場が下がるほど、同じ積立額で買える口数が増えます。これはドルコスト平均法の構造です。
ただし、資金繰りが危険なら無理はしません。ここでのルールは明快です。
資金繰りに問題がないなら継続、問題があるなら減額。
ステップ4:リバランスの“発動条件”を決めて実行する
暴落時の勝ち筋のひとつがリバランスです。リバランスとは、値下がりした資産を買い、値上がりした資産を売って、比率を元に戻すことです。
例えば「株式70%:現金+債券30%」を目標にしていたのに、暴落で株式が55%まで落ちた場合。ここで現金や債券から株式を買い増し、比率を戻します。これは“安く買って高く売る”をルール化した行動です。
実行の現実的な条件例は次の通りです。
- 目標比率から±5%ズレたらリバランス(小さく頻繁)
- 目標比率から±10%ズレたらリバランス(大きく少回数)
初心者は±10%の方が運用しやすいです。頻繁に動くと判断疲れを起こします。
ステップ5:税制を“武器”として使う(課税口座がある人向け)
NISA口座は損益通算ができません。一方、特定口座(課税口座)を併用している場合は、暴落時に「損出し(損失確定)」で税負担を調整できる余地があります。例えば、課税口座で含み損の投信を売って損失を確定し、同等の指数連動商品を一定期間を空けて買い直すなど、税務上のルールに沿って整理する考え方です。
ただし、税務ルールは個別事情で変わるため、制度の理解と実行可能性の確認が前提です。やるなら“手順として”慎重に進めます。
ステップ6:情報摂取を制限し、行動を“チェックリスト化”する
暴落局面では、SNSや速報ニュースが恐怖を増幅させます。情報が多いほど意思決定が良くなるわけではありません。むしろ逆です。暴落時は、次のように運用してください。
- 価格チェックは週1回まで(毎日見ない)
- ポートフォリオ確認とリバランス判定は月1回
- 行動はチェックリストに従う(感情で変更しない)
5. “暴落時の積立投資”を具体例でシミュレーション
ここで、具体例を2つ示します。机上の空論ではなく、実際の動き方のイメージを持てるようにします。
例A:新NISAでS&P500連動の投信を月5万円積立しているケース
前提:生活防衛資金200万円、月の生活費30万円(約6.6か月分)。投資資産はS&P500連動投信300万円。
暴落で評価額が300万円→240万円(−20%)になったとします。
このときの合理的行動は次の通りです。
(1)生活防衛資金は6か月以上あるため、積立は継続。
(2)追加資金があるなら、4分割で段階投入(例:追加20万円を5万円×4回)。
(3)リバランス資産(債券等)がないなら、無理にいじらず“継続”が最大の効果。
結果として、下落局面で多くの口数を買うため、回復局面で効果が出やすい構造になります。
例B:全世界株+債券の分散で、株式比率が高いケース
前提:目標が株式70%:債券30%。暴落前はほぼ目標通り。暴落後、株式が大きく下げて株式比率が60%になった。
ここでやることは明確です。
(1)株式比率が目標から−10%ズレたのでリバランス発動。
(2)債券から株式へ移す。例えば総資産1,000万円なら、株式を100万円分買い増して比率を戻す。
(3)その後は月1回の判定で十分。頻繁に動かない。
リバランスの本質は、暴落時に“自動的に逆張りできる仕組み”を作ることです。
6. 為替が絡む暴落:円高・円安の局面で迷わない考え方
米国株・全世界株に投資していると、株価の暴落だけでなく為替変動が重なります。ここで初心者が迷うのは「円高だから買うべきか」「円安だから止めるべきか」です。
結論から言えば、長期積立では為替もまた読めません。したがって基本は、株価も為替も“読まない前提”で継続です。為替が気になるなら、次の整理が有効です。
- 投資目的が10年以上先なら、為替は短期ノイズとして扱う
- 短期で使う予定の資金は、そもそも外貨リスクを取り過ぎない
- “円安対策”は、外貨資産を持つことで部分的に達成される(ただし短期の上下はある)
為替で積立を止めたり再開したりすると、結局はタイミング投資になりやすいです。
7. 暴落に強いポートフォリオ設計:初心者が選びやすい型
暴落時に強いかどうかは、暴落の瞬間よりも「平時の設計」で決まります。ここでは初心者が組みやすい型を3つ提示します。あなたのリスク許容度に合わせて選びます。
型1:株式100%(S&P500または全世界)+厚めの生活防衛資金
最もシンプルで運用しやすい一方、下落率は大きくなります。生活防衛資金を厚めに持つことで、暴落時に売らない耐性を確保します。リバランスが不要なので、行動は「継続」が中心です。
型2:株式80%:債券20%(リバランスあり)
株式100%より下落耐性を上げつつ、リバランスで機械的に買い増しが可能です。初心者でも、年1回またはズレ±10%でのリバランスなら運用できます。
型3:株式60%:債券40%(精神的に耐えやすい)
リターン期待は下がりますが、下落時のメンタル負荷が減ります。投資を続けること自体が難しい人には、リターンより継続性を優先した方が総合的に良い結果になりやすいです。
8. 暴落時の“出口戦略”を同時に点検する
暴落はつらい局面ですが、出口戦略を点検する好機でもあります。出口戦略が曖昧だと、暴落が来た瞬間に「いつ売るべきか」へ意識が飛び、ブレます。
8-1. 取り崩し期は“定率取り崩し”と“定額取り崩し”を理解する
長期投資の出口には大きく2つの型があります。
定額取り崩し:毎月一定額を取り崩す。生活設計はしやすいが、暴落時に資産減少が加速しやすい。
定率取り崩し:資産残高の一定割合を取り崩す。暴落時は取り崩し額が減るため資産が持ちやすいが、生活費の調整が必要。
暴落が怖い人ほど、定率取り崩しの考え方を知っておくと意思決定が安定します。
8-2. 取り崩し開始の“年齢”より、“キャッシュフロー”で設計する
出口戦略は「何歳で売るか」よりも、「いつ、いくら必要か」で決めるのが合理的です。近い将来に必要な資金は、株式比率を落としていく。遠い将来に使う資金は株式比率を維持する。これを階段状に設計するイメージです。
9. 暴落時のチェックリスト(コピペで使える)
最後に、暴落時に迷わないためのチェックリストを提示します。紙に印刷するか、メモアプリに貼ってください。
- 生活防衛資金は下限を割っていないか(割っていたら積立を減額)
- 積立は継続できる水準か(停止ではなく減額が原則)
- 資産配分は目標からどれだけズレたか(±10%ならリバランス発動)
- 追加投資は余裕資金の範囲か(段階投入で小さくする)
- 情報摂取を増やし過ぎていないか(価格チェックは週1回まで)
- 出口戦略(取り崩し方法・必要時期)は整理できているか
暴落時の勝ち筋は、相場を当てることではありません。資金繰りを守り、継続し、ルールで買い、感情で売らない。これだけで、長期の資産形成は大きく前進します。


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