PTS×ADR夜間裁定:寄り付き前に差を取りに行く実践ガイド

投資入門

本稿は「日本のPTS夜間取引で、米国市場のADR価格と為替を材料に、翌朝の東証寄り付きで差益を狙う」手法を、投資初心者でも再現できるレベルまで分解した実践ガイドです。一般論ではなく、実務の段取り・計算式・発注の型・失敗パターン・検証方法まで、手元で使える形に落とし込みます。具体銘柄の推奨や将来の利益を約束するものではなく、教育目的の解説です。

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この戦略の趣旨(1分要約)

米国時間の引け時点で、ある日本株のADR価格(USD建て)と為替(USD/JPY)を用いて「翌日の東証現物(JPY建て)の理論価格」を算出します。夜間のPTS(私設取引システム)で理論価格から大きく乖離した指値が出ていれば、流動性を見ながら小量で仕掛け、翌朝の東証寄り付きで反対売買(または保有継続)して差を取りに行く、というアイデアです。

前提知識:PTS・ADR・板寄せ

PTS(私設取引システム)は、取引所(東証)時間外に売買を可能にする私設市場です。国内では複数のPTSが稼働しており、多くのネット証券で夜間に取引できます(銘柄・時間帯・手数料・注文条件は証券会社ごとに異なります)。

ADR(American Depositary Receipt)は米国市場で取引される海外企業の受託証券です。同一企業の日本上場株と紐づき、一定の交換比率(ADR比率)が設定されています(例:ADR 1単位=日本株X株)。

板寄せ方式は、東証の寄り付きや引けで用いられる約定方式で、注文をまとめて一本値で約定させます。寄り前に「気配値」が配信され、成行・指値のバランスで寄り付き価格が決まります。

理論価格の計算式

翌日の東証での理論価格(JPY建て)は、概ね次で近似できます。

理論価格(JPY) ≒ ADR終値(USD) × ADR比率(R) × 為替(USD/JPY)

補正として、以下を意識します。

  • ADRと日本株の配当・権利状況の差(配当落ち等)
  • 手数料・スプレッド・為替の変動余地
  • 夜間ニュースや先物の動意(寄り付きまでの新情報)

初心者はまず比率Rが1の銘柄や、ADRと東証の価格連動が比較的明確な大型株から検証すると理解しやすいです。

数値例(仮想のA社、比率R=1)

米国引けでADRがUSD 12.50、同時点の為替がUSD/JPY 155.00。理論価格は12.50 × 1 × 155 = 1,937.5円。夜間PTSの買い気配が1,880円で十分な数量が見える場合、理論価格−PTS価格=約57.5円の差があります。朝寄りが理論に近づく(例:1,930〜1,940円)とすれば、期待差は数十円。

ただし、夜間ニュースで悪材料が出れば寄りで理論から外れることは普通にあります。差だけを見て機械的に入るのではなく、数量・板の薄さ・材料の有無を確認することが不可欠です。

この戦略が機能しやすい条件

  • 大型でADRが活発(出来高が細っていると理論が効きにくい)
  • 為替が落ち着いている(朝までに急変しにくい)
  • 夜間PTSに一定の厚み(極端に薄い板は値が飛びやすい)
  • サプライズ材料が出にくい日(決算直後・重大イベント前後は難易度上昇)

必要な口座・設定(初心者向けに簡潔に)

  1. 本人確認(eKYC)で国内ネット証券の口座開設
  2. アプリ内でPTS取引を有効化(対応時間帯・手数料・注文条件を確認)。
  3. 入金し、最低売買単位(単元株)以上の資金を用意。
  4. 翌朝に反対売買できるよう、寄り付き成行・逆指値などの基本操作を練習。
  5. 二段階認証・価格アラート・価格帯別出来高など有用なツールを有効化。

実務フロー(テンプレ)

  1. 23:30〜翌6:00(米市場):対象銘柄のADR終値近辺と為替を確認。
  2. 理論計算ADR×R×USDJPYで東証理論価格を算出し、メモ(±0.5〜1.0%の許容帯も併記)。
  3. PTS板チェック:数量・厚み・スプレッド・歩み値を観察。
  4. 発注:基本は小ロットの指値IOC寄り前指値の残し方も検討。
  5. リスク対応:夜間ニュース・先物変動・為替ジャンプを監視。
  6. 翌朝8:00以降:気配・出来高・ニュース再点検。必要に応じて寄り成り/指値を調整。
  7. 9:00寄り付き:反対売買でクローズ。寄らず張り付き等のケースは計画Bへ。
  8. トレードノート:理論、建値、手数料、滑り、結果、反省を記録。

発注の型(初心者向けの具体例)

  • 夜間の仕掛け:理論−1.0%を目安に分割で指値(例:理論1,940円に対し1,920/1,905円など)。
  • 数量設計:板の厚みの1/5〜1/10程度から。約定後はすぐ板を再確認。
  • 翌朝の出口:寄り成りで一括、または寄り後の気配を見て利食い指値+逆指値で保全。
  • 想定外対応:悪材料で理論割れ継続→逆指値発動で損切り。寄らず特売りは保有リスクと余力に応じて縮小。

損益とコストの把握

期待差から往復手数料・PTS/取引所のスプレッド・為替のズレを引いた後の値を「有効差」と呼びます。有効差が単元株で数百円〜千円程度に落ちる場面は珍しくありませんが、数十円のズレはコストで瞬時に蒸発します。小ロットで十分に検証してから、板の厚い銘柄に限定して段階的に増やすのが堅実です。

よくある失敗

  1. ADR比率の誤認:R≠1なのに1として計算→理論がズレる。
  2. 為替の急変:米CPIなどでUSD/JPYが大きく動き、翌朝の理論が更新される。
  3. 夜間ニュース無視:決算・事故・提携・規制などで根本が変わる。
  4. 板の薄さ:数百株の成行で値が飛ぶ。分割と撤退ルールが必須。
  5. 手数料の見落とし:PTSと取引所、両方のコストを正しく差し引く。

検証テンプレ(スプレッドシート)

以下の列を作成すると、再現性が上がります。

  • 日付 / 銘柄 / ADR比率R / ADR終値USD / USDJPY / 理論JPY / PTS建値 / 有効差(理論−建値−コスト) / 翌寄り / 結果 / メモ

関数例:

理論JPY = ROUND(ADR_USD * R * USDJPY, 1)
有効差 = 理論JPY − PTS建値 − 手数料推定

繰り返しの中で「この銘柄は乖離の戻りが弱い」「この時間の板は薄い」などの経験則が溜まり、無駄な勝負が減ります。

リスク管理の骨格

  • 一回の許容損失:口座残高の0.2〜0.5%を上限に。
  • 分割:2〜3回に分けて建て、朝の気配で調整。
  • ニュース監視:公式リリース、決算カレンダー、先物・為替のヘッドライン。
  • 注文の確認:有効期限、寄り成り/指値の区別、数量、銘柄コード。

用語ミニ解説

  • 気配値:寄り前の仮の成立価格。売買の偏りで上下。
  • 板の厚み:各価格帯の注文数量。薄いと滑りが大きい。
  • IOC:即時約定・未約定分は失効する指値方式。
  • 逆指値:指定価格に到達したら成行/指値を発動するリスク制御。
  • 寄らず:注文偏在で寄り付きが成立しない状態。

ミニFAQ

Q. どの銘柄でも有効か?
A. いいえ。ADRが実質機能していない、出来高が薄い、材料が頻発する銘柄は難易度が高いです。

Q. いくらから始める?
A. 最低単元で十分です。最初の10回は学習コストと割り切り、記録と振り返りを優先。

Q. 自動化できる?
A. 条件付き注文(IFD-OCO等)と価格アラートで半自動化は可能です。完全自動はデータ取得・判定・発注の技術的ハードルが高く、初心者には推奨しません。

実践チェックリスト(コピペ用)

  • ADRとRを確認した(ソースを二重チェック)。
  • USD/JPYの変動予定(指標・要人発言)を確認。
  • 理論価格と許容帯(±%)を計算しメモした。
  • 夜間ニュース・先物のヘッドラインを確認。
  • PTSの板厚・歩み値・気配の偏りを確認。
  • 分割指値と撤退ライン(逆指値)を事前定義。
  • 翌朝の出口(寄り成りor指値)を具体化。
  • 発注前に銘柄コード・数量・注文条件を復唱。

おわりに

「価格は世界をまたいで整合する」という原理を、個人でも扱える範囲に落とし込んだのが本戦略です。小ロットで検証→記録→改善のサイクルを回し、再現性が見えたら板の厚い銘柄に限定してゆっくりサイズを上げてください。焦りは最大のコストです。

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