積立投資は「毎月買い続けるだけ」で勝てる、と言われがちです。しかし実際に資産形成を失敗させる最大の要因は、銘柄選びでも手数料でもなく、暴落時に積立を止めてしまう行動です。積立停止は、心理的には自然です。含み損を見るのが嫌になり、ニュースは悲観一色になり、周囲も不安を煽ります。
一方で、積立停止が“合理的”になる場面も確かに存在します。問題は、ほとんどの人が「止めるべき場面」と「止めてはいけない場面」を区別せず、感情のピークで判断してしまうことです。
この記事では、積立停止を意思決定として設計します。具体的には「生活防衛資金」「リスク許容度」「雇用・収入の安定」「投資目的と期限」「下落局面の資産配分」「税制口座の枠の使い方」を軸に、やめる/続ける/増やすを迷わず選べる判断フレームを提示します。初心者がそのまま実行できるよう、数値の決め方と手順も落とし込みます。
積立停止は“悪”ではない:問題は「タイミング」と「理由」
積立停止が語られると、しばしば精神論になります。「握力が大事」「続けた人が勝つ」などです。これは半分正しく、半分危険です。なぜなら、資産形成は人生のキャッシュフローと不可分であり、投資だけを切り離して語ると破綻するからです。
積立停止には、少なくとも次の2種類があります。
(A)生活を守るための停止:収入減や急な支出に対応するため、投資を一時停止してキャッシュを確保する。これは合理的です。
(B)恐怖からの停止:値下がりが怖くて、将来の損失を想像し、積立を止める。これは多くの場合、長期期待リターンを毀損します。
重要なのは「停止すること」そのものではなく、停止が(A)か(B)か、そして(B)を(A)に見せかけていないか、です。
初心者がまず決めるべき前提:積立は“家計の余剰”で行う
積立の原資が家計を圧迫している状態では、暴落が来た瞬間に“心理”ではなく“現実”で止まります。そこで最初に、投資の前提条件を固定します。
生活防衛資金の基準:最低ラインを先に確保する
生活防衛資金とは、投資とは別に確保しておく現金(または即時換金できる安全資産)です。目安は「生活費の3〜12か月分」と言われますが、初心者は次のように決めると失敗しません。
・会社員で雇用が安定、扶養家族なし:3〜6か月
・共働きだが住宅ローンや子どもがいる:6〜9か月
・自営業・フリーランス・収入変動が大きい:9〜12か月以上
ここでのポイントは「暴落が来ても、投資を売らずに生活できる期間」を作ることです。積立停止の最大原因は、投資が下がったからではなく、現金が足りないからです。
積立額は“可変費”にする:固定費化しない
積立を毎月固定で設定すると、家計の固定費に近い心理になり、収入が落ちたときに苦しくなります。おすすめは「積立額=(手取り−固定費−生活費−防衛資金の追加分)×一定割合」というルール化です。
たとえば、手取り30万円、固定費10万円、生活費12万円、防衛資金積み増し2万円なら余剰は6万円。ここから50%を積立に回すなら毎月3万円です。余剰が増えた月は増やし、減った月は減らす。これで停止の心理的ハードルが下がり、結果として継続率が上がります。
積立停止を判断する“3層フレーム”:家計→目的→市場
積立停止の判断は、順番が重要です。多くの人は市場(下落率)から考えますが、正しくは家計→目的→市場です。市場は最後です。
第1層:家計の安全性(停止が合理的になる条件)
次のどれかに該当する場合、積立停止は合理的です。むしろ「続ける」ほうが危険です。
(1)生活防衛資金が基準を下回った
たとえば目標が生活費6か月分なのに、急な出費で3か月分に落ちた。ここで積立を続けると、さらに出費が重なった際に投資の売却を迫られます。停止して防衛資金を回復させるのが先です。
(2)高金利の負債が増えた
カードローン、リボ、消費者金融など。投資の期待リターンより負債金利が高い場合、積立を続ける合理性は薄いです。まず負債を圧縮します。
(3)収入の見通しが崩れた
失業、契約終了、事業の急減速など。投資を続けるかどうかは「市場」ではなく「キャッシュフロー」で決まります。先に家計の耐久性を立て直すべきです。
第2層:投資目的と期限(停止が“戦略”になる条件)
積立の目的が「老後」なのか「5年後の頭金」なのかで、止める・続けるの結論は変わります。
期限が5年以内の資金(教育費、住宅頭金、車購入など)を株式中心で積み立てているなら、暴落前から設計が危険です。ここで積立停止を考えるより、資産配分を安全側へ寄せるのが先です。積立停止は、目的の安全性を担保するための“短期的措置”として位置づけます。
逆に、老後など20年以上の長期なら、暴落は「安く買える期間」です。この場合、停止は基本的に不利です。ただし、心理的に耐えられない水準なら、後述する“段階的停止”という設計で、投資を継続可能な形に変えるのが現実的です。
第3層:市場状況(下落率だけで決めない)
市場で見るべきは「何%下がったか」より、次の3点です。
・下落の原因が一過性か、構造的か(例:金融危機、戦争、インフレ、信用収縮)
・自分の資産配分が設計通りか(株式比率が意図せず膨らんでいないか)
・現金比率が計画を下回っていないか
つまり、市場は“停止のトリガー”ではなく、“配分調整とキャッシュ管理の確認材料”です。
積立を止めてはいけない典型例:下落=損失ではない
初心者が混乱するのは「含み損=損した」と感じるからです。しかし長期の積立では、下落局面は将来の平均取得単価を下げます。これは将来の期待リターンを高める側面があります。
具体例で整理します。毎月3万円をインデックスに積み立てている人が、積立開始から1年後に市場が30%下落したとします。評価額は一時的に減ります。しかし、この時期に買い続けた分は、同じ3万円でより多くの口数を買えます。つまり回復局面で効く“安値仕込み”が自然に発生します。
積立停止は、この最も美味しい局面を自分から捨てる行為になりがちです。だからこそ、止めるなら「家計」や「目的」由来の合理性が必要です。
“停止”の代わりに使える3つの現実策:続けるための設計変更
積立を止めたくなる人の多くは、「100か0か」で考えています。しかし実務的には、停止よりも優れた選択肢がいくつもあります。
策1:積立額を段階的に落とす(完全停止しない)
毎月5万円が心理的に無理なら、3万円→2万円→1万円と段階的に落とします。完全停止を避けるメリットは、市場に居続けることです。積立をゼロにすると、再開の心理的障壁が跳ね上がります。「いつ再開するか」を悩み始め、結局高値で戻りがちです。
段階的に落とす場合は、最小額(例:毎月5,000円)を決めておきます。これは“市場参加権”を維持するための保険です。
策2:積立対象を安全側に一時シフトする(現金化ではなく配分変更)
暴落が怖いときは、株式インデックスから債券や短期資産へ一時的に比率を寄せるという手があります。ここで重要なのは、売り逃げではなく、資産配分の再設計として行うことです。
例として、株式100%で積み立てていた人が、株式70%+債券30%へ変更する。これなら下落耐性が上がり、心理的に継続しやすくなります。長期で見れば期待リターンは下がりますが、継続できない戦略はゼロです。継続性を上げるための“妥協”は合理的です。
策3:下落時の“追加ルール”を作る(増やす)
上級者向けに見えますが、初心者でも簡単に運用できる形があります。たとえば「指数が高値から20%下落したら、その月だけ積立額を1.5倍にする」などです。これは裁量でなくルールなので、感情を排除できます。
ただし、この策が使えるのは生活防衛資金が十分で、家計が安定している人だけです。余剰資金がないのに増やすのは、ただの無理です。
積立停止の“最悪パターン”:再開が遅れて高値で買い戻す
積立停止が致命傷になるのは、停止そのものではなく「再開の仕方」です。多くの人は、下落で止めて、ニュースが明るくなり、相場が回復してから再開します。結果として、安値では買わず、高値で戻る行動になります。
これを防ぐには、停止する場合でも「再開条件」を事前に決めておきます。ここが核心です。
再開条件の例:時間・家計・ルールで固定する
再開条件は、相場の予想に依存させないほうが良いです。初心者は特に、予想が当たりにくいからです。おすすめは次のいずれか、または組み合わせです。
(時間条件):停止したら、最長でも3か月で必ず再開する。
(家計条件):生活防衛資金が目標ラインに戻ったら再開する。
(ルール条件):積立額を半分で再開し、3か月かけて元に戻す。
このように再開を仕組みにすると、相場の雰囲気に振り回されません。
新NISA・つみたて枠での積立停止:枠と時間のコストを意識する
税制口座での積立は、枠と時間が資産です。短期的な恐怖で停止すると、「その期間に買えたはずの枠」を失います。もちろん翌年以降に枠はありますが、安値で買える期間に投資できないのが機会損失になります。
ただし、枠を埋めること自体が目的になると危険です。枠を埋めるために生活防衛資金を削るのは本末転倒です。順番はあくまで家計が先です。
初心者向け:今日から使える「積立停止判断チェックリスト」
最後に、ここまでの話を“手順”に落とします。迷ったら、次の順に確認してください。
ステップ1:生活防衛資金は目標ライン以上か
目標を下回っているなら、積立停止または減額して、防衛資金の回復を優先します。目標以上ならステップ2へ進みます。
ステップ2:今後3〜6か月の家計イベントは何か
転職、出産、引っ越し、車検、大きな支払い、収入減の可能性などを洗い出します。イベントが大きいなら、停止よりも減額・配分変更が現実的です。
ステップ3:投資目的と期限を確認する
5年以内の目的資金なら、株式中心の積立を見直します。長期目的なら、停止よりも継続(または減額)を優先します。
ステップ4:停止するなら“再開条件”を必ず先に決める
「いつか戻る」ではなく、時間条件・家計条件・段階的再開ルールを決めます。これがない停止は、ほぼ確実に高値掴みにつながります。
まとめ:積立停止は“感情の決断”ではなく“設計”で処理する
積立停止の正解は一つではありません。しかし、正しい順番と基準を持てば、暴落局面での意思決定の質は確実に上がります。
結論はシンプルです。家計が危ないなら止める(または減らす)。家計が大丈夫なら続ける。止めるなら再開条件を決める。この3点を守るだけで、暴落が来ても投資を“生活破綻イベント”にせず、むしろ資産形成の加速期間に変えられます。


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