暴落は「いつか必ず来る」前提で設計すべきイベントです。問題は暴落そのものではなく、暴落時に人間がやりがちな行動(狼狽売り、積立停止、レバレッジの追加、SNSの煽りへの反応)が、長期の期待リターンを破壊する点にあります。
ここでは、つみたてNISA/新NISAやインデックス投資を中心に、暴落時に意思決定の質を落とさないための「事前設計(オペレーション)」を作ります。ポイントは、相場観を当てに行かず、資金繰りとルールで勝つことです。
暴落対応の全体像:3つの目的を分ける
暴落時にやるべきことは、実は3つの目的に分解できます。
①家計を守る(退場しない):生活防衛資金と固定費の管理。
②投資行動を守る(継続する):積立・リバランス・追加投資のルール化。
③機会を拾う(再現性のある追加投資):条件付きで淡々と買う仕組み。
この3つを混ぜると、暴落時に「焦って全部やろう」となり失敗します。まずは①②を優先し、③は余力がある人だけが、ルールの範囲で実行します。
まず家計:生活防衛資金が暴落耐性の9割を決める
暴落時に最悪なのは、生活費が足りずに底値で売らされることです。暴落対応は投資術に見えて、実際はキャッシュフロー管理です。
生活防衛資金の目安を「失業・病気・家族イベント」で決める
一般論の「生活費6か月」だけでは弱いので、あなたの条件で決めてください。次の3ケースを想定し、最も厳しいケースを採用します。
ケースA:収入が0になる(失業・休業)…固定費×6〜12か月。
ケースB:医療・介護など突発支出…自己負担の上限+余裕資金。
ケースC:家族イベント(引越し・学費・車)…1年以内に確定している支出。
この合計が「絶対に投資に回してはいけない現金」です。暴落時にこの現金があるほど、積立を止めずに済みます。
固定費の圧縮は「暴落時の利回り」を上げる
暴落時、投資リターンはマイナスでも、固定費の削減は確実なプラスです。特に効果が大きいのは、通信、保険、サブスク、車関連、住居費です。固定費が月2万円下がれば、年間24万円の追加投資余力が生まれます。これは相場に左右されない「暴落耐性の利回り」です。
投資の基本設計:暴落前に決めるべき4つのルール
暴落の最中に判断すると、感情が入り、判断がブレます。だから「平時に」次の4つを決めておきます。
ルール1:積立は原則継続。停止条件は“家計”で決める
積立投資の強みは、下落局面で自動的に多く口数を買える点です。暴落で積立を止めると、この強みを自分で捨てることになります。
ただし例外はあります。停止条件は相場ではなく家計で決めます。
停止条件(例):生活防衛資金が「固定費×Xか月」を下回ったら、積立を一時停止し、現金回復を優先する。
ここでのXは、あなたの雇用の安定性で調整します。公務員・大企業正社員と、フリーランスではXが変わります。
重要なのは、停止判断が“主観”ではなく“残高”で発動することです。暴落が怖いから止める、ではなく、現金が減ったから止める、にします。
ルール2:リバランスは「閾値」でやる(時間ではなく歪みで)
リバランスを「年1回」と決めている人は多いですが、暴落対応としては不十分なことがあります。暴落は短期で資産配分を大きく歪めるからです。
おすすめは、比率の歪みが一定を超えたら実行する閾値ルールです。例えば、株式:債券=80:20の目標に対し、株式が72%を下回ったら(-8%ポイント)、株式を買い増す、などです。
この方法のメリットは、暴落時に自動的に「安くなった資産」を買い、上がった資産を抑える行動になることです。相場観が不要になります。
ルール3:追加投資(スポット買い)は“条件付きの小分け”だけ許可する
暴落でよくある失敗が「一括で入れてしまう」ことです。底を当てに行く行動は、外れたときに精神的ダメージが大きく、その後の積立継続を壊します。
追加投資をするなら、小分け+条件付きにします。例えば、次のようなルールです。
例:段階買いのルール
・指数が直近高値から-10%で余力の20%投入
・-20%でさらに20%
・-30%でさらに20%
・残り40%は積立の継続に回す(または次の暴落用に温存)
このルールの良い点は、底を当てなくても平均取得単価が改善すること、そして「まだ下がるかもしれない」という恐怖をルールが吸収してくれる点です。
ルール4:リスク資産比率の上限(やり過ぎ防止)を設定する
暴落時は「安いからもっと買いたい」という欲が出ます。これは危険です。家計の安全域を壊してしまうと、次の下落で強制撤退になります。
そこで、総資産に対するリスク資産の上限を決めます。例えば、現金+債券(安全資産)を最低でも30%確保する、などです。NISA枠が残っていても、上限ルールを超えたら買わない。これが長期運用では強いです。
具体例:新NISAで「暴落対応ポートフォリオ」を作る
ここでは、よくある個人投資家の条件を仮定して、設計の具体例を示します。
例1:30代共働き・子ども1人・毎月5万円積立
目標:20年以上の長期で資産形成。暴落でも積立を止めないことが最優先。
設計:
・生活防衛資金:固定費×9か月(共働きだが育休・病気も想定)
・積立:全世界株 or S&P500中心(低コストの投資信託)を毎月自動積立
・追加投資:-20%で「賞与の一部」を2回に分けて投入(必ず分割)
・リバランス:株比率が目標から±8%ポイントずれたら実行
暴落時の行動:
・SNS/ニュースのチェック時間を1日10分に制限(情報過多は判断を壊す)
・積立は継続。現金残高が閾値を割ったら停止して現金回復。相場では決めない。
例2:40代単身・毎月10万円積立・早期FIRE志向
目標:資産形成と同時に、将来の生活費の安定(取り崩し耐性)。
設計:
・生活防衛資金:固定費×12か月(単身は収入途絶リスクが直撃する)
・資産配分:株式70、債券20、現金10(または現金厚め)
・リバランス:株が62%以下になったら債券→株へ移す(閾値ルール)
・取り崩し前提:将来の出口戦略として「現金・債券のバッファ」を最初から厚く
暴落時の行動:
・追加投資は「債券バッファの一部」から段階買い。現金を割らない。
・暴落でメンタルが揺れたら、株の比率を下げるのではなく、情報摂取と売買回数を下げる。
暴落時の意思決定を壊す「3つの罠」
罠1:含み損の痛みを“確定損”で止めたくなる
含み損は気持ち悪いので、売ってスッキリしたくなります。しかし、長期投資では「下落局面で売る」ことが期待リターンを最も毀損します。損失を止めたつもりが、将来の回復局面を逃すからです。
対策は、売る/買うの判断を価格ではなくルールに寄せることです。例えば「リバランス閾値に達したら買う」「家計閾値に達したら積立停止」など、数字で決めます。
罠2:ニュースで理由探しをしてしまう
暴落時は、もっともらしい解説が大量に出回ります。理由を理解すると安心するので、人は理由探しに時間を使います。しかし、短期の理由は後付けが多く、実務的には役に立ちません。
対策は、観測対象を「相場の理由」から「自分の残高とルールの発動条件」に移すことです。見るのはチャートではなく、現金残高、資産配分、積立が回っているか、だけで十分です。
罠3:暴落で“儲け直そう”として取引を増やす
暴落は値動きが大きいので、短期売買の誘惑が強まります。ところが、初心者ほどボラティリティに飲まれ、損失を拡大しやすい。積立投資の設計を持っている人が、暴落でわざわざ難易度の高いゲームに移る必要はありません。
対策は「取引回数の上限」を決めることです。例えば、暴落中の追加投資は月1回まで、リバランスは閾値が来ても月1回にまとめる、など。頻度を制限すると、失敗の総量が減ります。
暴落時のチェックリスト:当日やること、やらないこと
当日やること(最小限)
暴落のニュースを見た日にやることは、これだけで良いです。
①現金残高が生活防衛資金の閾値を割っていないか確認する。
②積立設定が止まっていないか確認する(証券会社の積立設定・引落口座)。
③資産配分がリバランス閾値に達しているか確認する。
④(許可している場合のみ)段階買いの条件に達したか確認する。
当日やらないこと(損を呼ぶ行動)
①SNSで煽り投稿を読み漁る。
②底値当てのために一括で資金を突っ込む。
③根拠の薄い「今後の見通し」で積立を止める。
④短期売買に手を出して取引回数を増やす。
暴落時の勝ち筋は「派手な行動」ではなく「余計なことをしないこと」です。
暴落後に差がつく:回復局面での“再投資の習慣”
暴落が落ち着いた後、次に起きるのは「回復」です。回復は静かに進むことが多く、暴落ほど話題になりません。しかし資産形成で効くのは回復局面です。
回復局面でやるべきことは、積立を継続し、資産配分が戻ってきたらリバランスを元に戻す、だけです。暴落で買い増した人ほど、回復局面で「欲が出て」売買を増やしがちです。ここでもルールが効きます。
まとめ:暴落対応は“才能”ではなく“設計”
暴落で勝つ人は、相場観が優れているわけではありません。平時に、生活防衛資金、積立継続/停止の閾値、リバランスの閾値、追加投資の段階買いルール、リスク資産比率の上限を決め、淡々と実行できる人です。
あなたの次のアクションはシンプルです。「暴落が来たらどうするか」を、今日のうちに数値で書き出すこと。暴落の最中に考えるのでは遅い。準備は平時に終わらせてください。


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