株式市場の「暴落」は、経験したことがない人ほど恐怖が大きく、経験者ほど「想定内」として淡々と処理します。差が出る理由はシンプルで、暴落そのものよりも、暴落時の意思決定がリターンを左右するからです。特に新NISAやiDeCoでインデックス投資を始めたばかりの人は、相場が崩れた瞬間にSNS・ニュース・口座残高に刺激され、長期の計画を数日で破壊しがちです。
この記事では「暴落時に何をするか」を精神論ではなく、事前に決めておく行動ルール(プロトコル)として設計します。積立の継続/停止、買い増し、リバランス、生活防衛資金、レバレッジの扱い、そして“やってはいけないこと”まで、具体例と数値を交えて徹底解説します。
- 暴落の定義を先に固定する(感情のブレを潰す)
- 最重要:生活防衛資金がないと、暴落対応は成立しない
- 暴落時の最大の敵は「行動」:やってはいけない5つ
- 暴落時プロトコル:3つの判断だけに絞る
- 積立投資家の「暴落時の積立継続」ロジック
- 暴落時の買い増し:やるなら「条件付き」で
- リバランス:暴落時にこそ効くが、やり方を間違えると逆効果
- 「現金比率」をどう扱うか:防衛と機会のバランス
- ケース別:暴落時の最適行動(3ケースで理解する)
- 暴落時に役立つ“見ない工夫”:意思決定の摩擦を減らす
- 暴落後に差がつく:回復局面での“やらかし”を防ぐ
- 暴落時チェックリスト(翌日から使える)
- 商品別の注意点:株・債券・ゴールド・暗号資産で“暴落の顔つき”は違う
- NISA・iDeCo利用者が暴落時に押さえるべき実務ポイント
- 暴落耐性ポートフォリオの“最低ライン”を決める
- まとめ:暴落対応は「ルール」「資金繰り」「自動化」で勝つ
暴落の定義を先に固定する(感情のブレを潰す)
「暴落」という言葉は人によって幅があり、これが判断を曖昧にします。まず自分の投資計画では、下記のように段階を決めておきます。
目安の下落幅(あなたのルールに置き換えてOK)
一般的には、株価指数の高値からの下落率で分類します。重要なのは“この分類に従って機械的に動く”ことです。
- 調整:-10%程度(よくある。ニュースに煽られやすいゾーン)
- 弱気相場(ベア):-20%程度(資産額が目に見えて減る)
- 危機級:-30%〜-50%(流動性が死にやすい。投げ売りが出る)
この“定義”を固定すると、「今回は暴落なのか?」という迷いが消えます。迷いが消えると、SNSの意見よりも自分のプロトコルが優先されます。
最重要:生活防衛資金がないと、暴落対応は成立しない
暴落時の失敗の大半は、投資スキルではなく資金繰りの問題です。生活費が不安定だと、下落局面で「必要なお金」を捻出するために売らされます。つまり、最悪のタイミングで損切りが強制されます。
生活防衛資金の“設計図”(目安ではなく構造で考える)
目安として「生活費の6か月〜12か月」と言われますが、あなたの収入・家族構成・固定費・雇用の安定度で最適値は変わります。ここでは構造で決めます。
生活防衛資金 =(固定費×Xか月)+(近い将来の確定支出)
固定費には、家賃/住宅ローン、光熱通信、保険、教育費、最低限の食費、車関連などを入れます。確定支出には、税金、車検、引越し、入学金など「時期が読める支払い」を入れます。
具体例:月固定費25万円、確定支出50万円の場合
雇用が安定(大企業・公務員など)ならX=6、変動が大きい(自営業・歩合)ならX=12を基準にします。
・X=6:25万円×6=150万円。生活防衛資金=150万円+50万円=200万円
・X=12:25万円×12=300万円。生活防衛資金=300万円+50万円=350万円
この金額が確保できて初めて、暴落時に「売らない自由」が手に入ります。暴落対応はメンタルではなく、バランスシートの問題です。
暴落時の最大の敵は「行動」:やってはいけない5つ
暴落で致命傷を負うのは、下落そのものより、反射的な行動です。下記は初心者がやりがちで、長期成績を壊す典型例です。
1)パニック売り(理由:損失回避バイアス)
評価損が増えると「今売れば痛みが止まる」と脳が錯覚します。しかし、長期インデックス投資で最も効くのは“市場に居続けること”で、居続けられない人ほど平均以下になります。売るなら、暴落で決めるのではなく、事前に定めた資産配分ルールで決めるべきです。
2)レバレッジの追加(理由:一発逆転の誘惑)
下がった局面でレバレッジを上げると、さらに下落したときに強制決済リスクが跳ねます。インデックスの長期優位は「退場しない」ことで成立します。退場確率を上げる行為は、期待値の破壊です。
3)情報の過剰摂取(理由:不確実性を言語で埋めようとする)
暴落時のニュースは、説明としては面白いですが、売買判断としてはノイズになりがちです。毎日理由を追いかけるほど売買回転が増え、コストとミスが増えます。
4)積立設定の停止を“感情”で決める
積立停止は、生活防衛資金の不足やキャッシュフロー悪化が原因であるべきで、恐怖が原因であるべきではありません。停止するなら、停止条件を事前に数値で決めます(後述)。
5)ポートフォリオの「方針転換」を暴落中にやる
銘柄変更や商品変更は、暴落局面でやると“高値で買ったものを安値で手放し、別の商品を高値で買う”という最悪の循環になりがちです。方針転換は、平時に冷静にやります。
暴落時プロトコル:3つの判断だけに絞る
暴落時にやることを増やすほど、判断ミスが増えます。逆に、やることを3つに絞ると勝率が上がります。
判断①:生活防衛資金は守られているか
まず、生活防衛資金が目標額を割っていないかを確認します。割っているなら、投資の最優先は“回復”です。積立額を下げる、現金比率を戻すなど、資金繰りを優先します。暴落で無理をすると、後で必ず売らされます。
判断②:資産配分(アセットアロケーション)は崩れているか
暴落で株が下がると、株比率が低下し、債券や現金比率が上がります。これは“自動的に守りに入った状態”です。ここで方針が崩れると、二度と戻れません。あなたの目標配分に対し、乖離が一定以上ならリバランスの対象です。
判断③:積立は継続するか、条件付きで調整するか
原則は継続です。ただし、現金フローに不安が出たときは、停止ではなく「段階的な調整」で対応します。たとえば、積立額を半分に落とす、ボーナス月だけ止めるなど、ルール化します。
積立投資家の「暴落時の積立継続」ロジック
ドルコスト平均法の本質は、価格が下がったときにより多く口数を買える点にあります。つまり、暴落は長期投資家にとって“買付単価を下げる期間”です。ただし、これが機能するのは「売らない」ことが前提です。
積立を止めるべき“数値条件”の作り方
感情ではなく、数値で条件を作ります。おすすめは以下の2段階です。
- 黄色信号:生活防衛資金が目標の80%を下回ったら、積立額を50%に減額
- 赤信号:生活防衛資金が目標の60%を下回ったら、一時停止し回復を優先
このルールなら、暴落が来ても「止める/止めない」で揉めません。資金繰りの現実に合わせて自動的に調整されます。
具体例:生活防衛資金目標300万円の場合
黄色信号:240万円未満 → 積立を半分
赤信号:180万円未満 → 積立を一時停止
ここで重要なのは、停止したら“再開条件”も同時に決めることです。例えば「240万円を回復したら半額で再開、300万円に戻ったら通常額」という具合です。出口がない停止は、恒久停止になりやすいです。
暴落時の買い増し:やるなら「条件付き」で
暴落時の買い増しは魅力的ですが、無条件にやると資金が尽きます。買い増しは「追加の意思決定」なので、ルールを厳しめにしておく方が安全です。
買い増しの3条件(すべて満たすときだけ)
買い増しをするなら、次の条件をすべて満たす運用が現実的です。
- 生活防衛資金が目標額を満たしている(もしくは100%超)
- 資産配分の乖離が大きい(例:株比率が目標より-5%以上)
- 追加資金は「臨時収入」や「余剰現金」から出す(生活費を削らない)
この3条件は、暴落での“勢い任せ”を防ぐための安全装置です。買い増しは勝負ではなく、アロケーション修正の一部として扱います。
買い増しの実務:一括ではなく分割で
追加資金が30万円あるなら、10万円×3回に分け、週や月で実行します。理由は単純で、暴落は底が見えないからです。分割は心理的にも資金的にも“余力”を残します。
リバランス:暴落時にこそ効くが、やり方を間違えると逆効果
リバランスは、上がった資産を売り、下がった資産を買う行為です。つまり「暴落時に株を買い、平時に株を売る」ことを自動化します。長期運用で最も実務価値が高い技術の一つです。
リバランスの2方式:定期型と閾値型
定期型は年1回など固定で見直します。閾値型は乖離が一定を超えたら実行します。初心者は、ミスを減らす意味で「定期型+大きな乖離のみ閾値発動」の組み合わせが扱いやすいです。
例:目標配分(株80%・債券20%)の人が暴落した場合
株が急落すると、例えば株70%・債券30%のようになります。このとき、債券の一部を売って株を買い、80/20に戻します。これが“暴落時に株を買う仕組み”です。
ただし、初心者がやりがちな失敗は、暴落の途中で何度もリバランスして弾切れになることです。閾値を「株比率が目標から-5%」などに固定し、頻度を制限します。
「現金比率」をどう扱うか:防衛と機会のバランス
現金はリターンを生みませんが、暴落時に“売らない自由”と“買う自由”を生みます。現金比率をゼロにすると、暴落時に選択肢が消えます。逆に多すぎると、長期の期待リターンが落ちます。
初心者の現金設計は二階建てにする
おすすめは、現金を2つに分けることです。
- 生活防衛資金:絶対に投資に回さない。暴落時も守る。
- 戦略現金:リバランスや追加投資に使う可能性のある余剰。
戦略現金は、たとえば「年収の1〜2か月分」など、あなたが“失っても生活に影響がない”範囲に限定します。ここを曖昧にすると、暴落時に生活防衛資金へ手を出し、ルールが崩れます。
ケース別:暴落時の最適行動(3ケースで理解する)
ケースA:投資を始めたばかり、資産がまだ小さい
この段階の最大の武器は「時間」です。資産が小さいほど、暴落は“安く口数を増やせる”期間になります。生活防衛資金が確保できているなら、積立は継続が基本です。むしろ、途中で止めると、将来の回復局面の恩恵を捨てます。
ケースB:資産が増え、評価損が金額として重く感じる
資産が大きくなると、同じ-20%でも損失額が大きく見えます。ここで必要なのは、金額ではなく「比率」で見る視点です。評価損の金額を見続けるとメンタルが崩れるため、チェック頻度を落とし、ルールベース(積立継続・年1回リバランス)に寄せます。
ケースC:住宅ローン・子育て・転職などでキャッシュフローが不安定
このケースは「投資を続ける」より「投資を続けられる設計」が優先です。黄色信号/赤信号のルールを厳しめにし、積立額も最初から小さく設定します。暴落時に投資を守るのではなく、生活を守った結果として投資が守られる、という順序にします。
暴落時に役立つ“見ない工夫”:意思決定の摩擦を減らす
暴落時は、刺激の量が増えます。刺激は行動を誘発します。したがって、刺激を減らす設計が有効です。
- 口座残高のチェックは週1回までに制限する(毎日は不要)
- ニュースアプリの通知を切る(速報は売買判断に直結しない)
- SNSは“見る時間”を決める(無限スクロールは不安を増やす)
これは根性論ではなく、行動経済学的に合理的な対策です。暴落時に最も価値があるのは「余計な売買をしないこと」です。
暴落後に差がつく:回復局面での“やらかし”を防ぐ
暴落を耐えた後、多くの人が回復局面で失敗します。典型は「戻ったから安心して高値で買い増す」「回復が遅い資産を捨てて、上がった資産へ乗り換える」です。これも、安値で売って高値で買う行動になります。
回復局面のルール:リバランスと積立以外を増やさない
暴落後に急回復が来ても、ルールは変えません。積立は続け、リバランスは定期で行う。追加投資は条件付き。これだけで、回復局面のミスは大きく減ります。
暴落時チェックリスト(翌日から使える)
最後に、暴落時に見るべき項目をチェックリスト化します。紙に書くか、メモアプリに貼り付けてください。暴落時は文章を読む気力が落ちるので、短い確認が効きます。
- 生活防衛資金:目標額の何%か(80%/60%ルールに該当するか)
- 積立:継続/半額/一時停止(ルールに従い実行)
- 資産配分:目標からの乖離(-5%以上ならリバランス検討)
- 追加投資:3条件を満たすか(満たさないなら何もしない)
- 情報摂取:口座・ニュース・SNSの閲覧頻度を下げる
暴落は必ず来ます。重要なのは、暴落で勝つことではなく、暴落で退場しないことです。退場しなければ、長期の期待値があなたの味方になります。逆に、暴落で感情的に動くと、期待値は市場ではなく自分自身によって破壊されます。今日、ルールを作ってください。
商品別の注意点:株・債券・ゴールド・暗号資産で“暴落の顔つき”は違う
同じ「暴落」でも、資産クラスによって下落の速度、回復の形、流動性が違います。混ぜて保有するなら、それぞれの癖を理解しておくと、暴落時に想定外の動きをしても慌てません。
株式(インデックス)の暴落:下落は速いが、回復も速いことがある
株式はリスク資産の代表です。危機局面では一斉に売られ、短期で急落します。一方で、悪材料が出尽くすと反発も速く、底を確認してから買おうとすると乗り遅れやすいのも特徴です。だからこそ、積立とリバランスのような“自動化”が効きます。
債券の下落:金利上昇局面では株と同時に下がることもある
「債券は安全」という理解は半分正しく、半分危険です。金利が急上昇する局面では、債券価格は下落します。株と債券が同時に崩れる局面もあります。この場合、リバランスの“クッション”が弱くなるので、現金(生活防衛資金+戦略現金)の重要性が上がります。
ゴールド:危機で買われることも、ドル高で下がることもある
ゴールドは「危機の資産」と言われますが、短期はドル高・金利・リスクオフの組み合わせで上下します。暴落局面のヘッジとして機能することもありますが、万能ではありません。重要なのは“保有比率を固定し、上がったら売り、下がったら買う”というリバランスの対象として扱うことです。
暗号資産:下落が深く、回復も読みにくい(サイズ管理が必須)
暗号資産は株以上に変動が大きく、-50%〜-80%が現実に起こり得ます。暴落対応で最も重要なのは、最初からポートフォリオ内の比率を小さく設計することです。例えば全資産の5%以内など、下落しても生活や主要資産計画が壊れない範囲に限定します。買い増しも、株よりさらに厳しい条件を課すべきです。
NISA・iDeCo利用者が暴落時に押さえるべき実務ポイント
制度口座は長期運用に向きますが、暴落時に“焦りやすい落とし穴”もあります。ここは知識で潰せます。
新NISA:短期売買をしない前提で、枠の使い方を固定する
暴落時に「枠がもったいないから売って買い直す」と考える人がいますが、頻繁な売買は判断ミスとコストを増やします。枠は長期の資産形成に使う前提で、主力は低コストのインデックスファンドやETFに寄せ、暴落時も原則は積立継続・年1回リバランス、という型を守る方が再現性が高いです。
iDeCo:引き出せない“強制ホールド”をメリットとして使う
iDeCoは原則として途中引き出しができません。これは暴落時には最大のメリットです。人間の最大の失敗であるパニック売りを制度が物理的に止めてくれます。暴落時は「iDeCoは触れない」と割り切り、NISAや課税口座側で資金繰りと配分調整を行うと、全体最適になりやすいです。
暴落耐性ポートフォリオの“最低ライン”を決める
暴落対応は、その場の行動だけでなく、そもそもの設計で8割が決まります。初心者がまず決めるべきなのは、暴落時に耐えられる「最低ライン」です。
最低ラインとは、ざっくり言えば「この構成なら、-30%の下落でも自分は投げ売りしない」と言える状態です。現実的な作り方は、次の2つです。
①株式比率を少し下げる(例:100%株→80%株+20%現金/債券)
②積立額を下げる(例:月10万円→月5万円。生活防衛資金の積み増しを優先)
ここで“攻めすぎた設定”にすると、暴落対応が理論上は正しくても、実際に耐えられません。耐えられない設計は、長期では負けます。まずは勝ち残れる設計に落とし、その後で攻めます。
まとめ:暴落対応は「ルール」「資金繰り」「自動化」で勝つ
暴落時の最適行動は、予言や相場観ではなく、ルール化されたプロセスです。生活防衛資金で“売らない自由”を確保し、積立とリバランスで“自動的に安く買う仕組み”を作り、買い増しは条件付きで限定する。これだけで、暴落のたびに意思決定の質は上がり、結果として長期リターンも改善します。


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