積立投資で最初に決めるべきなのは、銘柄ではなく「毎月いくら積み立てるか」です。ここを雑に決めると、相場が少し荒れただけで積立を止めたり、生活費を削り過ぎてストレスが溜まり、最悪は取り崩し(投資信託の解約や信用・カード借入)に追い込まれます。逆に、積立額が家計とメンタルにフィットしていれば、銘柄の細部よりも継続が効いて結果が安定します。
この記事では「積立額の決め方」を、生活防衛資金(緊急予備資金)・税制優遇口座(新NISA/iDeCo)・相場下落時の耐性という3点を同時に満たすように設計します。投資初心者でも実行できるよう、数字の置き方、具体例、よくある失敗と回避策までまとめます。
積立額は「余剰資金」ではなく「家計の設計問題」
よく「余剰資金で積立しましょう」と言われますが、余剰資金の定義が曖昧なままだと、毎月の振れで積立額がブレます。ここでは余剰資金を(収入−固定費−変動費−将来確定支出)から逆算し、さらに「緊急時でも積立を止めない」仕組みにします。
積立額は、次の4つの箱に分けて考えると決めやすいです。
- 生活防衛資金:急な失業・病気・故障・引越しなどに備える現金。
- 短期の目的資金:1〜3年で使うお金(車検、旅行、家具、入学関連など)。
- 長期の資産形成:5年以上の運用前提(新NISAやiDeCoの主戦場)。
- リスク投資枠:経験値を積むための小さな裁量枠(なくても良い)。
このうち「長期の資産形成」に回す金額が積立額です。ただし、生活防衛資金と短期目的資金が不足している段階で積立額を最大化すると、突発支出が出た瞬間に投資を崩すことになります。順番が重要です。
最初に決める:生活防衛資金は何か月分か
生活防衛資金は「固定費×月数」で考えるのが実務的です。生活レベルを落とせない固定費(家賃/住宅ローン、光熱、通信、保険、最低限の食費、教育関連など)を合算し、失業や減収が起きても立て直せる期間を確保します。
目安の月数(考え方)
月数は「収入の安定度」と「家族構成」で決めます。目安は以下です(あくまで出発点)。
- 独身・正社員で収入安定:固定費の3〜6か月
- 扶養家族あり・共働き:固定費の6か月(片方失職でも耐える)
- 自営業・歩合が大きい・転職予定:固定費の9〜12か月
ここで大事なのは「大きく取り過ぎて投資が進まない」よりも、「小さく取り過ぎて投資が崩れる」ほうが致命傷になりやすい点です。積立投資は継続が武器なので、まずは崩れない構造を作ります。
具体例:生活防衛資金の置き方
例として、固定費が月18万円(家賃8万、光熱1.5万、通信1万、保険1.5万、最低食費6万)の人が、6か月分を確保するなら18万×6=108万円です。これを「普通預金のまま」だと誘惑も多いので、給与口座とは別の口座に避難させます。積立額を決める前に、この108万円が未達なら、積立は一時的に小さくしてでも先に埋めます。
次に決める:家計の「積立余力」を数式化する
積立額は気合ではなく、毎月のキャッシュフローで決めます。おすすめは、次の3段階で余力を確定させる方法です。
ステップ1:固定費を確定(削減余地もメモ)
固定費はブレないので、ここを最初に確定させます。家賃、住宅ローン、通信、保険、サブスク、駐車場などです。削れるものがあるなら、積立額の検討より先に固定費の圧縮をしたほうが、将来の積立を太くできます。固定費1万円の削減は、毎月の積立額を1万円増やすのと同じ効果があり、しかも相場に左右されません。
ステップ2:変動費の「下限」を決める
変動費はブレます。だから「平均」を使うと、出費が多い月に積立が破綻します。変動費は「これは最低限かかる」という下限を決めます。たとえば食費、日用品、交際費、医療、交通などを、無理のない下限で設定します。
ステップ3:将来確定支出を積立で先取りする
初心者が最も見落とすのが、年単位で出る確定支出です。代表例は住民税、固定資産税、車検、年払い保険、家電買い替え、冠婚葬祭です。これらを「出たときに払う」とすると、その月に投資を崩します。そこで、確定支出は別枠で毎月積立しておきます。
例:車検が2年ごとに12万円なら、12万円÷24か月=月5,000円を別口座に積立。年払い保険が6万円なら月5,000円。こうして「長期投資に手を出さない仕組み」を作ると、積立額を安全に増やせます。
積立額の決定ルール:3つの上限を同時に満たす
ここからが本題です。積立額は、次の3つの上限を同時に満たす「最小値」にすると、継続しやすく破綻しにくいです。
上限A:キャッシュフロー上限(毎月赤字にならない)
式はシンプルです。
積立額 ≤(手取り収入 − 固定費 − 変動費下限 − 確定支出積立)
この式の右辺を「積立余力」と呼びます。積立余力の範囲内で積立する限り、通常月は赤字になりません。
上限B:ストレス上限(下落時に続く金額)
同じ金額でも、人によって耐えられる下落は違います。ここは感情論に見えますが、「最悪の値動き」を想定して数値化できます。
たとえば株式中心のインデックスは、過去に大きな下落(例:短期間で大きく下がる局面)を経験しています。ここで重要なのは「下落が起きても積立を継続できるか」です。積立額が大きすぎると、含み損が膨らむだけでなく、生活費の圧迫が増え、損切りや積立停止につながります。
具体的には、次のチェックをします。
- 積立開始から1年以内に評価額が−20%になっても、積立を止めないと言い切れるか。
- 3年以内に評価額が−30%でも、生活が苦しくならないか。
- もし一時的に積立を下げるなら、どの支出を削るか「事前に」決めているか。
この質問に「多分大丈夫」なら、積立額が高すぎます。投資は続けた人が勝ちやすい構造なので、メンタルを壊す積立額は最悪の選択です。
上限C:制度枠上限(新NISA/iDeCoの枠を意識して最適化)
新NISAやiDeCoは、長期投資のコストを下げる道具です。ただし、枠を「埋めること」自体が目的になると危険です。枠は上限であって、あなたの家計の現実が優先です。
それでも目安として、年間積立可能額に対して「どれくらいを新NISAに回すか」を計画するのは有効です。たとえば、毎月5万円積立できるなら年間60万円です。新NISAの枠があるからといって、無理に月10万円にする必要はありません。むしろ、余力が増えたタイミングで段階的に増額するほうが再現性が高いです。
段階式で決める:積立額を「3レベル」に分ける
初心者がいきなり最適解を当てるのは難しいので、積立額を3レベルで設計すると失敗が減ります。
レベル1(最低ライン):絶対に続けられる金額
相場が荒れても、ボーナスが減っても、体調を崩しても続けられる金額です。目安は「積立余力」の30〜50%程度から始めると安全です。最初は小さくても問題ありません。継続の習慣が付くことが最大の成果です。
レベル2(標準ライン):通常月のメイン積立
生活防衛資金が満額で、確定支出積立も回り、家計が安定している状態での積立額です。目安は「積立余力」の60〜80%。ただし、変動費を削り過ぎて反動(浪費)が来るなら、積立額が高すぎます。
レベル3(加速ライン):臨時収入や昇給分の増額
ボーナス、臨時収入、昇給などで余力が増えたときの増額分です。ここで重要なのは、増額は「固定」ではなく「条件付き」にすることです。たとえば「半年連続で家計黒字なら月+1万円」「生活防衛資金が7か月分になったら月+5,000円」といったルールにすると、景気や家計の変化に対応できます。
具体例で作る:3つのモデルケース
ケース1:手取り25万円・独身・家賃7万円
固定費:家賃7万、通信1万、保険5千、光熱1.5万=約10万円。変動費下限:食費4万、日用品1万、交際1.5万、交通5千=約7万円。確定支出積立:年払い保険や家電などで月1万円。合計で10万+7万+1万=18万円。手取り25万円なら積立余力は7万円です。
この場合、レベル1は月2〜3万円、レベル2は月4〜5万円が現実的です。いきなり月7万円を積むと、交際費が膨らむ月や医療費が出た月に崩れます。まず月3万円で1年継続し、生活防衛資金が固まったら月4万円へ、という段階が堅いです。
ケース2:手取り40万円・共働き・子ども1人
家計は複雑になります。教育費・習い事・突発支出が増えるため、確定支出積立を厚めに取ります。仮に固定費20万円、変動費下限12万円、確定支出積立3万円なら合計35万円。手取り40万円で積立余力は5万円です。
ここで「世帯年収が高いから月10万円積立」とやると、イベント月の赤字や教育費の増加で崩れます。月5万円を標準にし、ボーナスで教育資金と投資の両方を加速する、という設計が現実的です。子どもの年齢が上がり教育費が増えたら、積立額を下げても良いように「加速ライン」をボーナス中心にしておくと安全です。
ケース3:自営業・月収のブレが大きい
このタイプは「毎月固定で積み立てる」と事故りやすいです。ここでは、固定積立(レベル1)+変動積立(レベル3)に分けます。たとえば、最低ラインを月2万円にして自動積立にし、売上が良い月だけ追加で月3〜10万円を入れる方式です。これなら売上が落ちても固定積立だけは守れます。
さらに、生活防衛資金は9〜12か月分を推奨します。税金や社会保険料の支払いが重なるタイミングがあるので、確定支出積立も強化します。自営業は「資金繰りが命」なので、投資の期待リターンよりも、現金耐性のほうが優先順位が上です。
積立額を増やす「安全な順番」
積立額を増やすときの順番を間違えると、増額した直後に相場が下がって心が折れます。安全な順番は次の通りです。
1つ目は固定費削減です。通信費や保険、サブスクなど、生活満足度を下げずに削れる固定費は多いです。ここで捻出した分は、相場に関係なく毎月安定的に積立に回せます。
2つ目は確定支出の見える化です。車検や税金を毎月積立で先取りすると、投資を取り崩す確率が下がります。結果として積立を長く続けられます。
3つ目が投資の増額です。増額は「生活が楽になったから増やす」が基本で、「相場が上がっているから増やす」は危険です。上げ相場で増やした積立額は、下げ相場で維持できません。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:枠を埋めるために生活費を削りすぎる
制度枠は魅力ですが、生活を壊してまで埋める必要はありません。回避策は「積立額は家計上限Aとストレス上限Bで決め、枠は余力が増えたら使う」という順序を守ることです。
失敗2:ボーナス頼みで毎月の積立がゼロ
ボーナスだけで投資すると、相場に対して行動がぶれます。回避策は、たとえ月5,000円でも良いので「毎月の自動積立(レベル1)」を作ること。市場と距離を置ける仕組みが継続を支えます。
失敗3:下落局面で積立停止→再開できない
積立停止は心理的に楽ですが、再開が難しいのが問題です。回避策は、下落時に「積立額を下げるルール」を事前に決めることです。たとえば「評価損が−20%を超えたら月−1万円、ただし最低2万円は維持」「生活防衛資金が目標未達なら増額しない」など、ルール化すると感情の介入が減ります。
チェックリスト:あなたの積立額は適正か
最後に、積立額を決めたら必ずセルフ監査をします。以下に全部Yesなら、かなり堅いです。
- 生活防衛資金が目標月数ぶんある(または達成までの計画がある)。
- 年単位の確定支出を毎月積立で先取りできている。
- 積立額は家計の黒字を前提にしており、赤字月が続かない。
- 評価額が一時的に下がっても、最低ラインの積立は維持できる。
- 増額は条件付きで、生活の変化に合わせて調整できる。
積立投資は「正しい金額で長く続ける」ほど強くなります。積立額の設計は地味ですが、意思決定の質を大きく左右します。今日やるべきことは、銘柄選びよりも、家計の数字を置いて積立額を決めることです。数字で決めれば、迷いは減り、継続が楽になります。


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