- 債券投資は「安全資産」ではなく「金利と信用のトレード」
- 債券の収益の源泉:クーポン・価格変動・ロールダウン
- まず押さえるべき指標:利回り、デュレーション、信用スプレッド
- 個人投資家が踏みやすい3つの地雷
- 設計の基本方針:債券を「役割」で分ける
- ラダー運用:個人が最も再現しやすい「債券の型」
- デュレーションの決め方:目的別に上限を設定する
- 通貨リスク:外債は「為替ヘッジするかしないか」を先に決める
- クレジット(社債)を使うなら「景気悪化時に何が起きるか」を想定する
- インフレ対策としての債券:名目債と実質債を区別する
- ポートフォリオへの組み込み例:3パターンの具体例
- 実践チェックリスト:買う前にこれだけは決める
- よくある失敗と回避策
- まとめ:債券は「金利を当てる道具」ではなく「運用を壊さない骨格」
債券投資は「安全資産」ではなく「金利と信用のトレード」
債券投資は「株より安全」「預金の延長」と誤解されやすいですが、実態は金利変動と信用リスクを引き受ける取引です。債券は満期まで保有すれば額面が戻ることが多い一方、途中で売買するなら価格が日々動きます。さらに、インフレや通貨(為替)の影響で実質的な購買力が目減りすることもあります。
本記事では「債券で何をコントロールでき、何が制御しにくいのか」を明確にし、個人投資家が現実的に実装できる運用設計(商品選び・比率・ルール)を作ります。特定銘柄の推奨ではなく、意思決定の型を提供します。
債券の収益の源泉:クーポン・価格変動・ロールダウン
クーポン(利息)
最も分かりやすい収益がクーポンです。年率○%の利息が入る、と理解されますが、実際に大切なのは「その利息が将来の物価と比べて意味があるか」「途中売却時の価格変動で相殺されないか」です。
価格変動(評価損益)
債券価格は金利と逆に動きます。市場金利が上がると、既発債(低いクーポン)の魅力が下がるため価格が下落します。逆に金利が下がると価格は上昇します。ここが株と違う「金利のゲーム」です。
ロールダウン(残存期間の短縮による利回り低下=価格上昇)
イールドカーブが右上がりのとき、同じ債券を保有しているだけで残存期間が短くなり、理屈上は低い利回り帯に移動します。利回りが下がる方向に動くと価格は上がるので、これがロールダウンです。債券投資の「地味だが強い」収益源泉で、ラダー運用と相性が良い要素です。
まず押さえるべき指標:利回り、デュレーション、信用スプレッド
利回りは「表面利率」ではなく「実効利回り」で見る
表面利率(クーポン)は債券の顔ですが、投資判断は「今の価格で買って満期まで持った場合の利回り(YTM)」が基準です。既発債は額面100でなく、プレミアム(100超)やディスカウント(100未満)で取引されます。したがって、クーポンが同じでも購入価格が違えば実効利回りが変わります。
デュレーションは「金利ショックに対する感度」
デュレーションは簡単に言うと「金利が1%動いたとき、債券価格がどの程度動くか」の目安です。直感的には、満期が長いほどデュレーションが長く、金利上昇に弱いです。金利1%上昇でデュレーション7年の債券は概算で約7%下落し得る、というように捉えると実務(運用)で使えます。
信用スプレッドは「倒産しないと信じる対価」
国債より社債の利回りが高いのは、信用リスクの対価(スプレッド)です。景気後退局面ではスプレッドが拡大し、社債価格が下落しやすくなります。重要なのは、社債の値動きは「金利」だけでなく「スプレッド」の変化も効くことです。つまり、長期社債は金利とスプレッドの二重パンチを受ける可能性があります。
個人投資家が踏みやすい3つの地雷
地雷1:長期債=安全だと思って買い、金利上昇で耐えられない
「債券は安全」→「だから長期で持っておけばいい」→「金利が上がり評価損が膨らむ」→「怖くなって損切り」という流れは典型例です。債券は満期まで持てば戻りやすい一方、途中で売る可能性があるなら、デュレーションはあなたのメンタルと資金計画に直結します。
地雷2:為替を無視して外債を買い、利回り以上に円高で削られる
外貨建て債券は「利回りが高い」だけでなく「通貨ポジション」を持つのと同義です。円高になると円換算の資産価値が減ります。金利差が大きい局面ほど、為替ヘッジのコストも高くなりやすい点も見落とされがちです。
地雷3:高利回り社債に寄せ、景気悪化でスプレッド拡大に巻き込まれる
「利回りが高い=得」と考え、格付けの低い社債やハイイールドに寄せると、景気悪化時に価格下落が加速します。株が下がるときに社債も同時に下がると、ポートフォリオの分散が崩れます。債券を持つ目的が「株のリスク緩和」なら、信用リスクの取りすぎは本末転倒です。
設計の基本方針:債券を「役割」で分ける
債券を一括りにせず、役割を分けると判断が一気に楽になります。おすすめは次の3階建てです。
1階:生活防衛・短期資金(キャッシュ代替)
目的は「価格変動を極小化して、必要な時に使えること」です。ここに長期債を置くのは危険です。短期国債、短期の公社債、短期債ETFなどで、デュレーションを短く保ちます。
2階:中期の安定収益(コア債券)
目的は「年率の利回りを取りつつ、株式暴落時のクッションを期待すること」です。ここは国債や高格付け社債中心で、デュレーションを中程度にします。ラダー運用の主戦場です。
3階:戦略枠(機会損益)
目的は「局面によってリスクを取り、上振れを狙うこと」です。長期債(デュレーション長)やクレジット(社債)を戦術的に増減します。ここをコアと混ぜると、運用の意図が曖昧になります。
ラダー運用:個人が最も再現しやすい「債券の型」
ラダー(梯子)運用は、満期を分散して債券を並べる方法です。例えば1年〜5年に毎年満期が来るように買い、満期が来たら一番長い年限を買い足して梯子を維持します。
ラダーの強み
金利が上がれば新規購入分の利回りが上がり、金利が下がれば既存債券の価格が上がる方向です。どちらに振れても極端に外しにくいのが魅力です。重要なのは「金利を当てる」のではなく、金利がどう動いても運用が壊れない構造を作ることです。
具体例:200万円で5年ラダーを作る
例として200万円を、1年40万、2年40万、3年40万、4年40万、5年40万に分けます。1年後に1年債が償還したら、その40万円で新たに5年債を買い足し、再び1〜5年の梯子に戻します。この運用のポイントは、債券価格が下がる局面(=金利上昇局面)でも、償還資金で高利回りの債券を買い直せるため、長期的には利回りが改善しやすいことです。
デュレーションの決め方:目的別に上限を設定する
デュレーションは「数字で管理できるリスク」です。個人投資家は、まず上限を決めるのが実務的です。
目安の考え方
「今後1〜2年で使う可能性のある資金」はデュレーションを極短にします。逆に「10年以上使わない資金」は、デュレーションを長くしても良いですが、途中で売らない前提が必要です。現実にはライフイベントがあるので、全資金を長期債に寄せるのは危険です。
実務ルールの例
コア債券(2階)について「金利1%上昇での下落が最大5%以内」にしたいなら、デュレーションは概算で5年以内が目安です。逆に、長期債を戦略枠で持つなら「最大下落が15%程度あり得る」ことを前提に、サイズを小さくします。
通貨リスク:外債は「為替ヘッジするかしないか」を先に決める
外債は利回りの数字だけで判断すると事故ります。まず決めるのは「円ベースで安定させたいか」「外貨資産比率を増やしたいか」です。
為替ヘッジあり:金利差を利回りに変換しやすいがコストが読みにくい
為替ヘッジは理屈上、金利差や短期金利の状況でコストが変動します。ヘッジしても完全に固定されるわけではなく、商品設計・ロールコスト・金利環境で手取りが変わります。したがって、ヘッジあり外債は「想定利回りのレンジ」を持って運用するのが現実的です。
為替ヘッジなし:通貨ポジションを持つ=リスクもリターンも為替次第
ヘッジなし外債は、株式の外貨建てと同様に通貨の影響が大きいです。円安なら追い風、円高なら逆風。債券部分の利回りが良くても、円高で簡単に相殺されます。目的が分散なら、サイズは「精神的に耐えられる範囲」に抑えます。
クレジット(社債)を使うなら「景気悪化時に何が起きるか」を想定する
社債のリスクは倒産だけではありません。景気後退では信用スプレッドが拡大し、社債価格が下落します。これは株式の下落と同時に起きやすいので、ポートフォリオ全体のボラティリティが上がります。
個人向けの現実的な運用方針
「債券でリスクを下げたい」なら、社債は高格付け中心にして、ハイイールドは戦略枠に限定します。どうしても利回りを上げたいなら、社債比率を上げるより、満期分散とデュレーション管理を先に固める方が再現性が高いです。
インフレ対策としての債券:名目債と実質債を区別する
インフレ局面で名目債だけを持つと、購買力が削られます。名目利回りがインフレ率を下回るなら、実質的にはマイナスです。一方、物価連動債など「実質価値を守る設計」の債券もありますが、価格形成が複雑で、流動性や期待インフレの変化で値動きする点は理解が必要です。
個人投資家の実装としては、債券だけでインフレを完全に倒しに行くのではなく、株式・不動産・コモディティなどの「実物寄り資産」と組み合わせて、インフレで崩れにくい全体構造にする方が現実的です。
ポートフォリオへの組み込み例:3パターンの具体例
例1:守り重視(価格変動を抑えたい)
株式の比率を抑え、債券は短期〜中期中心。ラダーで満期分散し、社債は高格付け中心にします。外債はヘッジありを主体にし、為替変動でメンタルが揺さぶられないように設計します。
例2:バランス(株式の長期成長+債券で耐久性)
株式比率を高めつつ、債券は中期をコアに置きます。暴落時に「売らない」ためのクッションとして債券を機能させます。長期債やクレジットは戦略枠として小さく扱い、局面で増減します。
例3:攻め寄り(通貨分散・機会損益も狙う)
外貨資産比率を高め、ヘッジなし外債も一定入れます。ただし「債券だから安全」ではなく「通貨の値動きに晒す」と理解し、損失許容度からサイズを逆算します。金利見通しで長期債を増減する場合も、コアを崩さない範囲に限定します。
実践チェックリスト:買う前にこれだけは決める
1. その資金はいつ使う可能性があるか
1年以内に使う可能性があるなら、長期債は不適です。満期・デュレーションを短くし、価格変動を抑えます。
2. 金利1%上昇でどの程度下がると想定するか
デュレーション×1%がおおよその下落率です。自分が耐えられる下落率の上限を決め、そこから年限を選びます。
3. 外債は為替ヘッジの方針を固定する
ヘッジありは円ベースの安定、ヘッジなしは通貨分散。目的を混ぜないことが重要です。
4. 社債は景気後退時に株と一緒に下がる可能性を織り込む
「債券でリスクを下げる」なら、信用リスクを取りすぎない。利回りを追い過ぎない。
5. ルール(ラダー・リバランス)を先に決める
買ってから悩むと、相場の変動に感情が引っ張られます。満期到来時の再投資、比率の戻し方を文章化しておくのが運用の肝です。
よくある失敗と回避策
失敗:利回りが上がったのを見て、慌てて長期債を投げる
回避策:長期債を持つなら最初から戦略枠に限定し、最大下落を前提にサイズを小さくする。コアはラダーで淡々と回す。
失敗:外債で「利回りは取れたのに為替で負けた」
回避策:ヘッジ方針を固定し、ヘッジなしは「通貨ポジション」として管理する。円建てでの許容損失を先に決める。
失敗:社債を増やして分散したつもりが、株と同時に下がった
回避策:債券の役割(防御)を崩さない。利回りを上げるならクレジットではなく、まずデュレーションと満期分散を整える。
まとめ:債券は「金利を当てる道具」ではなく「運用を壊さない骨格」
債券投資の本質は、金利を予想して勝つことではなく、金利がどう動いても資産運用が破綻しない構造を作ることです。個人投資家が再現性高く実装するなら、ラダー運用、デュレーション上限の設定、通貨ヘッジ方針の固定、この3つが中核になります。
債券は地味ですが、ここを固めると株式投資の意思決定が安定します。次にやるべきは「自分の資金の使用時期」と「許容下落率」を数字に落とし込み、コア債券のデュレーションとラダーの年限を決めることです。


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