重要なのは「難しい予想」を当てることではありません。起きた事実(決算の発表とPTSでの価格ギャップ)に反応し、機械的にリスクを限定した意思決定を積み重ねることです。感情を排したルール運用こそが、初心者の勝率と損益曲線を安定させます。
- 1. PTS夜間市場とは何か——なぜ初心者に有利なのか
- 2. 口座準備:実務フローとつまずきやすいポイント
- 3. 取引の土台:ニュース→板→価格の三点読み
- 4. コア戦略A:半値戻し(Mean-Reversion)
- 5. コア戦略B:高値更新の順張り(Momentum)
- 6. 翌朝の寄りをどう扱うか(持ち越し/手仕舞い判断)
- 7. ロット管理と損益の設計
- 8. 画面設計(初心者用の標準レイアウト)
- 9. 初心者が避けるべき落とし穴
- 10. 具体的ワークフロー(時間軸で手順化)
- 11. 口座開設の実務メモ(初心者向け)
- 12. 学習を加速する記録術(テンプレ付)
- 13. よくある質問(FAQ)
- 14. まとめ——「夜に準備し、朝に迷わない」
- 付録:チェックリスト(印刷用)
1. PTS夜間市場とは何か——なぜ初心者に有利なのか
PTSは証券取引所(東証)とは別に、証券会社のシステム上で売買をマッチングする市場です。国内には複数のPTSがあり、多くのネット証券が夜間(例:16:30〜23:59頃)に取引機会を提供しています。東証の取引時間外にIRや決算が出る日本では、「情報の初動」がしばしばPTSで起きます。ここに、個人投資家にとっての明確な優位性が生まれます。
- 情報の反映が早い:決算短信・業績修正・大型IRが出ると、夜間のうちに需給が動く。
- 相対的に板が薄い:小さな資金でも価格が動きやすく、学習に向く(一方でスプレッド拡大に注意)。
- 翌日の準備ができる:PTSの値動きと出来高から、翌朝寄り付きの戦略とシナリオを事前に作成可能。
欠点も明確です。流動性の薄さ、約定の不安定さ、成行発注が制限される、全銘柄が対象ではないなど。したがって、小さいサイズで、板と出来高を確認しながら、指値中心で運用するのが基本です。
2. 口座準備:実務フローとつまずきやすいポイント
2-1. 証券口座の開設とPTS利用設定
- 主要ネット証券で口座開設申込(本人確認書類・マイナンバー提出、オンライン手続可)。
- ログイン後、PTS取引の利用申請が必要な場合は有効化(約款・リスク説明の確認)。
- 入金方法の準備(即時入金・振込)。夜間に備え、余力を事前に確保。
- アプリ/PCツールのインストール。板(気配)、歩み値、出来高、価格帯別出来高が見える画面を用意。
2-2. 夜間の発注仕様の理解
- 指値中心:夜間は成行が使えない/非推奨の場合が多い。指値で主導権を持つ。
- 有効期限:当日限り(夜間まで)か、翌日に繰り越せるかは証券会社による。
- 注文単位:最低売買代金(100株など)と呼値(ティック幅)を事前確認。
- 手数料:PTSと東証で異なる場合がある。スプレッド込みで総コストを意識。
3. 取引の土台:ニュース→板→価格の三点読み
決算ギャップ・トレードは、「材料の質」「板と出来高の反応」「価格の位置」の三点を同時に見る癖が肝心です。
3-1. 材料の質
良い材料でも「織り込み済み」なら上がりにくい一方、サプライズの方向と大きさが明確だとPTSの初動が強くなります。数字(売上・営業益・見通し)に「上振れ/下振れ」がはっきり出たか、定量的に捉えます。
3-2. 板と出来高の反応
買い板が厚いのに上に飛ばないときは、目先の大口売りが吸収している可能性。歩み値で連続成約方向とサイズを観察し、「成り買い→板が切り上がる→再び成り買い」のリズムが続くかを確認。
3-3. 価格の位置
前日終値と比べ、PTS価格が±5〜10%動いているかで戦術が変わります。やりやすいのは、大きくギャップ→半値戻しや、ギャップ後に続伸する順張りです。
4. コア戦略A:半値戻し(Mean-Reversion)
狙い:好材料でPTSが急騰(または悪材料で急落)した直後、過熱の一部が冷める動きを取りに行く手法。初心者に向くのは、小さなサイズでの反発狙いです。
4-1. ルール(買いの例)
- 条件:前日終値に対してPTS価格が+6%以上上昇し、出来高が自社過去PTS平均の2倍以上。
- 板:最良気配のスプレッドが呼値の3刻み以内で、歩み値で連続約定が見られる。
- エントリー:直近高値から38.2%〜50%押した価格帯に指値を置く(複数枚分割)。
- 損切り:押しの61.8%を明確に割れたら撤退。
- 利確:直近高値手前、または押し幅と同等のリバウンドで半分、残りはトレーリング。
4-2. 具体例(数値シミュレーション)
前日終値1,000円→PTS直後高値1,120円(+12%)。
押し38.2%=1,120→1,070円付近、50%=1,060円付近。
1,070円で100株、1,060円で100株の分割指値。
損切りは1,050円割れ、利確は1,110円で半分、残りは1,115円に指値置き直し。
ポイントは「待つ」こと。飛びつかず、押し目ゾーンだけで約定させる。板が薄いときは枚数をさらに落とし、一撃で取ろうとしない。
5. コア戦略B:高値更新の順張り(Momentum)
狙い:サプライズの質が高く、買いの勢いが継続している場面で、「直近高値の上抜け」に合わせて小さく乗る。
5-1. ルール(買いの例)
- 条件:歩み値で高値更新直前の連続成約が確認でき、出来高が増勢。
- エントリー:直近高値+1ティック上に指値(指値成行イメージ)。
- 損切り:直近高値の下2〜3ティック。すぐ戻らなければ撤退。
- 利確:+0.8%〜+1.5%で素早く半分。残りは伸びなければ撤退。
5-2. 実務の注意
- 板が薄い時は約定スリップが起きやすい。最良売気配の枚数を確認し、枚数を抑える。
- 「高値更新→即戻り」はアルゴのフェイクの可能性。同値撤退を躊躇しない。
6. 翌朝の寄りをどう扱うか(持ち越し/手仕舞い判断)
PTSのポジションを翌朝に持ち越すかは、ギャップ幅・出来高・ニュース続報・先物の気配で決めます。
- 持ち越し向き:良材料で出来高も強く、夜間の引けにかけて高値圏で押し目買いが支配。先物も堅調。
- 見送り/手仕舞い:悪材料で出来高が細り、戻り売りが勝つ。先物が重い。IRの中身が曖昧。
初心者は、原則は夜間のうちに完結させる方が安全です。翌朝のギャップは正にも負にも働きます。寄り成行は避け、指値で主導権を維持しましょう。
7. ロット管理と損益の設計
勝ちパターンを作るには、1トレードあたりの許容損失を資金の0.5〜1.0%に固定するのが基本。たとえば資金100万円なら、1回の損失は5,000〜10,000円に抑えます。
- 想定損失幅(エントリー〜損切りの距離)を先に決める。
- 許容損失額 ÷ 損失幅 = 株数でロットを算出。
- 約定しない・滑る前提で、半分のロットで分割発注する。
これだけで、「たまたまの大損」をほぼ防げます。
8. 画面設計(初心者用の標準レイアウト)
- 左:板(最良気配〜5本)、出来高、歩み値。
- 中央:1分足チャート(夜間のみ表示)、価格帯別出来高。
- 右:注文パネル(IFD-OCO/指値・逆指値)。
チャートに多くの指標は不要。価格・出来高・時間だけで十分です。むしろ板と歩み値を音で通知(高値更新・出来高急増時)できると判断が速くなります。
9. 初心者が避けるべき落とし穴
- 成行の乱用:板が薄い時間は一撃で飛ぶ。必ず指値で。
- 一発逆転狙い:ロットを急に上げない。勝ち方を標準化してから。
- ニュース未確認:二次情報だけで売買しない。一次情報(企業の公式IR)を読む癖。
- 持ち越しの安易化:翌朝のギャップを「祈る」行為は、初心者の損失の典型。
10. 具体的ワークフロー(時間軸で手順化)
(A)16:00〜18:00:決算・IRの初動チェック
- ウォッチ銘柄のIR更新とPTS価格の変化を同時監視。
- ギャップが±5%以上、出来高が増勢の銘柄だけに絞る。
- 材料の質を素早く評価(上振れ幅、ガイダンス、セグメントの内訳)。
(B)18:00〜22:00:戦術選択と小さく実行
- 半値戻しか、順張りかを決める(両方は狙わない)。
- 分割指値・IFD-OCOを準備し、待ちの姿勢で約定を引きつける。
- 「想定外の値動き」には、即時で損切り。迷ったら撤退。
(C)22:00〜23:59:ポジション整理と翌日の計画
- 持ち越すなら、シナリオとサイズを明文化。寄り付きの指値を準備。
- 持ち越さないなら、夜のうちに完結。体験をメモに残す。
- 翌朝のチェックリスト(先物気配、関連セクター、続報の有無)を用意。
11. 口座開設の実務メモ(初心者向け)
どのネット証券でも大枠は同じです。
- 公式サイトから申込。メール・SMS認証。
- 本人確認(運転免許証・マイナンバー)。スマホで撮影→即時審査が主流。
- ログイン後、取引口座の初期設定(株式、PTSの有効化、入出金、二段階認証)。
- アプリの通知設定(価格アラート・高値更新・出来高急増)。
- 少額でテスト発注(指値・取消・訂正)。実弾投入前に操作に慣れる。
12. 学習を加速する記録術(テンプレ付)
初心者が最短で上達する方法は、同じ型で繰り返し検証することです。以下のテンプレを毎回埋めれば、勝てる条件と負ける条件が数週間で見えてきます。
【日付】 【銘柄】 【材料の要約】(上振れ幅/下振れ幅、ガイダンス、定性的ポイント) 【PTSギャップ】(+◯%)/【PTS出来高】(自社平均比) 【選択戦術】(半値戻し/順張り) 【エントリー根拠】(板・歩み値・価格位置) 【損切り位置】/【利確位置】/【サイズ】 【結果】(約定価格、損益) 【学び】(再現性のある/ない要因)
13. よくある質問(FAQ)
Q1:夜間は板が薄くて怖いです。
— 正常な感覚です。分割・小ロット・指値が基本。慣れるまでは「見送る力」を磨く方が期待値が高いです。
Q2:持ち越しはダメですか?
— ルール化できるまで原則回避。翌朝ギャップはプロでも制御が難しいため、まずは夜間で完結する型から。
Q3:ニュースはどこで見ますか?
— 一次情報(会社開示)を最優先に。要約サイトは補助です。
Q4:空売りは使いますか?
— 初心者は不要。ルール運用と資金管理が身につくまでは、買い戦略のみで十分です。
14. まとめ——「夜に準備し、朝に迷わない」
PTS夜間市場は、情報が生まれる瞬間に最も近い舞台です。事実→反応→位置の三点を見て、半値戻しか高値更新のどちらか一つを小さく繰り返す。ロットは常に一定の許容損失から逆算。この当たり前を継続できる人だけが、損益曲線を右肩上がりにできます。
まずは1ヶ月、同じ手順を反復してください。あなた専用の「勝ちパターン」が、夜の静かな板の向こう側に見えてきます。
付録:チェックリスト(印刷用)
- 一次情報の確認(IR原文・決算短信)
- ギャップ幅(前日終値比%)
- PTS出来高(自社平均比)
- 板の厚みとスプレッド(呼値何刻み)
- 戦術の選択(半値戻し/順張りのどちらか一つ)
- 分割指値の価格帯と枚数
- 損切り位置(ティックで明確化)
- 利確の分割設計(半分利確の水準)
- 持ち越し判断(翌朝の指値、先物気配)
- トレード後の記録(テンプレを埋める)
このチェックリストを毎回読み上げるだけで、感情的な判断をかなり減らせます。
コメント