REIT(リート)は「不動産の家賃収入をみんなで分け合う商品」として説明されがちですが、投資判断で本当に重要なのはそこではありません。REITは株式と同じように市場で毎日価格が動き、価格を動かす最大の要因は金利と不動産利回り(キャップレート)です。分配金が高いから買う、という発想だけだと、金利局面が変わった瞬間に大きくやられます。
この記事では、REITを「分配金商品」ではなく金利感応度の高い資産として扱い、初心者でも再現できる形で、指標の読み方・銘柄選び・買い増し/利確/撤退のルールを一気に整理します。J-REIT(日本のREIT)だけでなく、海外REITやREIT ETFにも共通する考え方です。
- REITとは何か:まずは構造だけ正確に押さえる
- REIT投資のキードライバー:金利とキャップレートの綱引き
- 初心者が必ず見るべき指標:NAV倍率・LTV・FFO
- REITの「高利回り罠」:分配金だけで判断すると負ける
- セクター別の見方:オフィス・住宅・物流・商業・ホテル
- 買い時・売り時を「ルール化」する:金利局面×評価×需給
- 具体例:個人投資家が作れるREITポートフォリオ(3パターン)
- 運用ルール:初心者でも再現できる「3つの防波堤」
- REITと税金:分配金の手取りを正しく見積もる
- よくある失敗パターンと回避策
- 今日から使えるチェックリスト(購入前に10分で確認)
- まとめ:REITは「金利×不動産利回り」を読めると武器になる
- もう一段深く:金利とREIT価格を「式っぽく」理解する
- REITと現物不動産の違い:なぜREITはボラが大きいのか
- 暴落局面でやること:初心者向けの行動手順
- 最後に:REITは「分配金をもらう装置」ではなく「金利に反応する資産」
- 開示資料のどこを見るか:初心者でも迷わない読み方
- REIT ETFの選び方:初心者はここだけ見ればいい
REITとは何か:まずは構造だけ正確に押さえる
REITは不動産を保有・運営する器(投資法人など)に投資し、得られた賃料収入や売却益を投資家に分配する仕組みです。上場しているため、株式と同様に市場価格(株価に相当)で売買できます。
ここで大事なのは、REITの価値は「いま受け取れる分配金」だけでは決まらないことです。REITは不動産を借入(デット)でレバレッジして運用します。したがって、金利が上がると借入コストが増え、分配余力が減り、評価も下がりやすい。逆に金利が下がるとその反対が起きます。
REITのリターンは3つに分解できる
REITの総リターンは、ざっくり次の3つの合算です。
- インカム:分配金(賃料収入などから)
- 価格変動:市場での値上がり・値下がり(倍率の変化)
- 資産価値の変化:保有不動産の評価(NOIやキャップレートの変化)
初心者が見落としがちなのが「価格変動」です。分配金利回りが年4%でも、価格が年-15%下がれば負けです。REITではこの価格変動の大部分が、金利とキャップレートの連動で説明できます。
REIT投資のキードライバー:金利とキャップレートの綱引き
キャップレートとは:不動産の「利回り」
キャップレート(Cap Rate)は不動産の利回りです。シンプルに言うと「その不動産が生む純収益(NOI) ÷ 不動産価格」で計算されます。キャップレートが上がるほど、不動産価格は下がります(同じNOIなら利回りが上がる=価格が下がる)。
金利が上がると何が起きるか:3段階で効く
金利上昇はREITに3段階で効きます。
- 比較対象としての利回り:国債や社債の利回りが上がると、REITの分配金利回りは相対的に魅力が薄れ、価格は下がりやすい。
- 借入コスト:借入の借換え時に金利が上がると、利払いが増え、分配可能額が減る。
- 不動産評価(キャップレート):要求利回りが上がるとキャップレートが上がり、不動産の評価が下がり、NAVが目減りする。
つまり金利が上がる局面では、REITは「分配金が高いから安心」ではなく、むしろ逆風の中心にいる資産です。ここを理解するだけで、REIT投資の負け筋の多くは回避できます。
具体例:分配金4%でも価格が下がる理由
たとえば、あるREITの分配金利回りが4%で、投資家が「年4%もらえるならOK」と考えていたとします。ところが長期金利が上がり、投資家がREITに求める利回りが5%に変わったらどうなるか。分配金が同じなら、利回りを5%にするために価格は下がります。これがREITの価格調整です。
逆に、金利が下がる局面では、分配金が変わらなくても利回りが見直され、価格が上がりやすい。REITで勝つには、分配金の多寡よりも利回りが「どの水準で評価される局面か」が重要です。
初心者が必ず見るべき指標:NAV倍率・LTV・FFO
NAV倍率:割安・割高の基準線
NAV(Net Asset Value)は「保有不動産を時価評価した純資産」です。REITの市場価格がNAVに対してどの程度かを示すのがNAV倍率(P/NAV)です。
- 1倍を下回る:市場が不動産価値より安く評価している(割安の可能性)
- 1倍を上回る:市場が高く評価している(成長期待・希少性・低リスク等)
ただし、1倍割れ=即買いではありません。金利が上がる局面ではNAVそのものが下がりやすく、見かけ上の割安が「落ちるナイフ」になることがあります。NAV倍率は金利局面とセットで使うのが鉄則です。
LTV:借金の大きさはリスクの大きさ
LTV(Loan to Value)は「借入÷総資産」のような指標で、レバレッジの強さを示します。LTVが高いほど、金利上昇や不動産価格下落のダメージが増えます。初心者がREITで大損しやすいパターンは、高利回りに釣られてLTV高めの銘柄に集中することです。
見るべきは単純なLTVだけでなく、以下もセットです。
- 借入の固定金利比率(変動金利だと金利上昇が直撃)
- 借入の平均残存期間(短いと借換えが早く来る)
- 返済期限の集中(特定年にドカッと来ると資金繰りが苦しくなる)
FFO/AFFO:分配金の「持続性」を見る
REITの利益は減価償却などの会計要因で実態とズレます。そこで使われるのがFFO(Funds From Operations)やAFFO(Adjusted FFO)です。ざっくり、FFOは「不動産が生むキャッシュフローの原型」、AFFOはそこから修繕などの実質的支出を引いた「より現実的な分配余力」です。
初心者の実務(運用)での使い方はシンプルです。
- 分配金がFFO/AFFOで十分カバーされているか(無理な分配ではないか)
- 一時的な売却益で分配金を盛っていないか
- 修繕や更新投資が先送りされていないか(将来の負担)
REITの「高利回り罠」:分配金だけで判断すると負ける
REITの初心者が最初にハマる罠は「利回りランキング」です。利回りが高い銘柄は、理由があって高いことが多い。典型例は次の通りです。
- 金利上昇で価格が下がったため、利回りが上がって見える
- テナントの退去や賃料下落で、将来の分配が不安視されている
- 借入の借換えが迫っており、利払い増で分配が減る可能性
- 増資(新規発行)で希薄化が起きやすい
利回りは結果であり、原因ではありません。原因を見ずに利回りだけで飛びつくと、損失が積み上がります。
セクター別の見方:オフィス・住宅・物流・商業・ホテル
J-REITでも海外REITでも、不動産のタイプ(セクター)で景気感応度が変わります。初心者は「自分の生活実感」と結びつけると理解が進みます。
オフィス
景気後退やリモートワークの普及で空室率が上がりやすい一方、立地が強い物件は粘ります。見るべきは主要テナントの集中度と平均賃料の改定余地です。
住宅
比較的ディフェンシブで、賃料が緩やかに動きます。初心者のコア枠になりやすいですが、地域偏りや築年数、更新コストは要確認です。
物流
構造的成長が語られやすい一方、供給過多で賃料が伸びない局面もあります。利回りが低い(価格が高い)ことも多く、金利上昇に弱い側面もあります。
商業
消費環境に左右されます。立地の強さとテナントの信用力が肝です。特定テナント依存(大型店1社依存)はリスクになります。
ホテル
景気・インバウンドに強く左右されます。好況時は爆発力がある反面、不況時は分配が急減しやすい。初心者はサテライト枠(少額)で扱う方が安全です。
買い時・売り時を「ルール化」する:金利局面×評価×需給
REITは「いつ買うか」が重要です。ここで初心者が使える、シンプルな意思決定フレームを提示します。
ステップ1:金利局面を2つに分ける
- 金利上昇局面:慎重。買うなら分割、LTV低め、固定金利比率高め、財務の強い銘柄。
- 金利低下・安定局面:追い風。割安圏(NAV倍率低め)を拾いやすい。
「金利が上がるか下がるかを当てる」のではなく、上がる局面では守りを固め、下がる局面では攻めても良いという運用ルールに落とし込みます。
ステップ2:評価(NAV倍率と利回り帯)でゾーンを作る
数値の厳密さより、ゾーン化が重要です。
- 割安ゾーン:NAV倍率が低い・利回りが相対的に高い。ただし金利上昇なら分割で。
- 中立ゾーン:積立・リバランス中心。無理に増やさない。
- 割高ゾーン:利回りが低下し、NAV倍率が高い。新規投入は抑え、利益が乗っていれば一部利確も検討。
ステップ3:需給イベント(増資)を理解して逆手に取る
REITは物件取得のために増資することがあります。増資は短期的に価格の重しになりやすい一方、調達資金で良い物件を買えれば長期的にプラスにもなります。初心者は「増資=悪」と決めつけず、次の観点で判断します。
- 増資後も1口あたり分配が伸びる見通しか(希薄化を超える成長があるか)
- 物件の質(立地・テナント・契約期間)
- 増資でLTVが改善するか(財務が強くなるなら前向き)
具体例:個人投資家が作れるREITポートフォリオ(3パターン)
パターンA:J-REIT中心の「国内インカム」型
円で完結し、情報も入れやすい。セクター分散(住宅・物流・オフィス等)を意識し、財務の強い銘柄をコアにします。弱点は国内金利ショックに弱い点。したがって、後述する「金利変動の守り」を組み込みます。
パターンB:REIT ETF中心の「手間を減らす」型
個別銘柄分析が面倒なら、REIT ETFで分散を一気に取る方法が現実的です。海外REITも含められますが、為替の影響が追加されます。為替を取りに行くのではなく、長期の分散要素として扱うのが無難です。
パターンC:コア(住宅/分散)+サテライト(ホテル等)型
価格変動が大きいセクターを少額で混ぜ、上昇局面のリターンを狙います。ただし、サテライトの割合は明確に制限し、下落時にポートフォリオ全体が壊れない設計にします。
運用ルール:初心者でも再現できる「3つの防波堤」
防波堤1:投入上限を決める(資産配分)
REITは株式よりボラティリティが低いと感じる人もいますが、金利ショック局面では一気に下げます。まず資産配分として、REITを「何%まで」と上限を決めます。上限があるだけで、利回りに釣られて買い過ぎる事故を防げます。
防波堤2:リバランスの「幅」を決める
毎回の相場観で判断するとブレます。そこで、例えば「目標配分から±20%ズレたらリバランス」のように、幅を決めます。価格が下がって配分が縮んだら買い増し、上がって膨らんだら利確。これだけで、REITの価格変動を味方にできます。
防波堤3:金利上昇局面の買い方を固定する
金利上昇局面では、一括投入を禁止します。分割(例:3〜6回)で、時間分散を徹底します。さらに、財務指標(LTV、固定金利比率、残存期間)が弱い銘柄は避け、まずは守備力の高い銘柄/ETFで土台を作ります。
REITと税金:分配金の手取りを正しく見積もる
REITの分配金は、株式配当と同様に課税されるケースが一般的です。新NISA枠で保有できれば、分配金の税負担を抑えられる可能性があります(制度の詳細は証券会社の取扱いに従ってください)。
初心者がここでやりがちなミスは、「利回りだけ見て手取りを見ない」ことです。税引後利回りで比較しないと、実際のキャッシュフローがズレます。また海外REITや海外REIT ETFでは、現地課税や二重課税調整など論点が増えるため、まずは国内商品から慣れるのが安全です。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:利回りランキングで高利回りに集中
回避策:利回りではなく「財務」「借入条件」「物件の質」「分配の持続性」を優先。高利回りは“要検証”のサインにする。
失敗2:金利上昇で下がっているのにナンピンを加速
回避策:金利上昇局面では分割投入のみ。事前に回数と金額を決めて、感情で増やさない。
失敗3:増資を理解せずに狼狽売り
回避策:増資の目的(物件取得か、財務改善か)と、1口あたり分配の見通しで判断。短期の下落はリバランスで拾う発想も持つ。
失敗4:セクターが偏り、景気悪化でまとめて崩れる
回避策:住宅・物流・オフィス・商業・ホテルのように性格が違う資産を混ぜ、コアとサテライトを分ける。
今日から使えるチェックリスト(購入前に10分で確認)
- 金利は上昇局面か、低下/安定局面か
- NAV倍率は割安・中立・割高のどこか
- LTVは過度に高くないか、固定金利比率は十分か
- 借入の残存期間は短すぎないか、期限集中はないか
- 分配金はFFO/AFFOでカバーされているか
- テナント集中度は高すぎないか、賃料改定余地はあるか
- セクターが偏っていないか(景気悪化シナリオで耐えるか)
- 一括投入していないか(分割・リバランスのルールがあるか)
まとめ:REITは「金利×不動産利回り」を読めると武器になる
REITは、表面的には分配金商品ですが、実態は「金利」と「キャップレート」に強く支配される資産です。分配金だけを見ていると、金利局面が変わったときに損失を抱えやすい。一方で、金利局面と評価(NAV倍率)、財務(LTV・借入条件)を押さえてルールで運用すれば、初心者でも再現性のある形でインカムと価格変動の両方を取りにいけます。
次にやることはシンプルです。まずは自分の資産配分でREITの上限を決め、ETFまたは財務の強い銘柄で小さく始め、リバランスの幅と分割投入の回数を決めてください。REITは「買ったら放置」より、ルールで運用したほうが成績が安定します。
もう一段深く:金利とREIT価格を「式っぽく」理解する
難しい数式は不要ですが、頭の中に1本だけモデルを持つと判断が安定します。REITの分配金を「将来もだいたいこの水準で続く」と仮定すると、価格はざっくり分配金 ÷ 投資家が要求する利回りで決まります。要求利回りは、国債利回りなどの無リスク金利に、REIT固有のリスクプレミアムを足したものと考えると分かりやすい。
このモデルのポイントは2つです。
- 無リスク金利が上がると、要求利回りが上がり、価格は下がりやすい。
- 景気不安や金融不安でリスクプレミアムが上がると、同じく価格は下がる。
つまりREITは、金利だけでなく「リスクプレミアムの拡大」でも下がります。例えば信用不安が強まる局面では、金利が下がってもREITが弱いことがあり得ます。初心者はここで混乱しますが、モデルを持っていると「金利は下がったが、リスクプレミアムが上がった」と整理できます。
キャップレートは「金利+物件リスク」で動く
不動産のキャップレートも同じで、無リスク金利が上がれば一般に上がりやすく、物件のリスク(空室率上昇、賃料下落、地域の供給過多など)が意識されればさらに上がります。キャップレートが上がる=不動産価格が下がる=NAVが下がる。NAVが下がると、NAV倍率は見かけ上「割安」に見えやすいので注意が必要です。
REITと現物不動産の違い:なぜREITはボラが大きいのか
「不動産は値動きが小さいのに、なぜREITはこんなに動くのか」という疑問は自然です。理由は主に3つあります。
- 価格が毎日つく:現物は取引頻度が低く、価格調整が遅い。REITは市場が先に織り込む。
- レバレッジ:借入で運用するため、金利や評価変化が増幅される。
- 需給:ETF資金流出入、リスクオフ時の換金売りなど、短期需給で振れる。
したがって、REITを現物不動産の延長で捉えると「想定外の下落」が起きます。REITはあくまで上場商品のボラティリティを持つ、と理解しておくべきです。
暴落局面でやること:初心者向けの行動手順
REITが急落すると、SNSやニュースは「分配金減配」「不動産崩壊」など刺激的な言葉で溢れます。ここでの正しい行動手順を決めておくと、パニック売りを避けられます。
- 下落理由を分類:金利要因か、信用不安か、セクター固有か。
- 財務の安全性を再点検:LTV、借入期限、格付けや資金繰り。
- 分割投入ルールの範囲内で買う:ルール外の追加投入は禁止。
- リバランスで処理:配分が縮んでいるなら、上限内で戻す。
- それでも眠れないなら配分が過大:REITが悪いのではなく、サイズが合っていない。
重要なのは、暴落時に新しいルールを作らないことです。暴落時に作ったルールは、たいてい感情の産物で、次の局面で足を引っ張ります。
最後に:REITは「分配金をもらう装置」ではなく「金利に反応する資産」
REITをうまく使える人は、分配金を見て喜ぶだけでなく、金利とキャップレートの変化を前提に、買い方・増やし方・減らし方をルール化しています。裏返すと、ルールなしで利回りだけ追うと、REITは簡単に牙をむきます。今日のチェックリストと3つの防波堤を、そのまま自分の運用ルールとして採用してください。
開示資料のどこを見るか:初心者でも迷わない読み方
個別REITを買うなら、決算説明資料や有価証券報告書の全部を読む必要はありません。初心者がまず見るべき場所は、毎回ほぼ同じです。
- ポートフォリオ概要:用途(住宅/物流など)、地域分散、上位物件の比率。特定物件の偏りが強いと事故りやすい。
- 稼働率と賃料動向:稼働率が下がっていないか、賃料改定がプラスかマイナスか。数字が小さくても「方向」を見る。
- 財務の要約:LTV、固定金利比率、平均残存期間、借入期限の集中。ここがREITの生命線。
- 分配の内訳:営業収益由来か、物件売却益の比率が高すぎないか。売却益依存は持続性が落ちる。
これだけで「高利回り罠」の大半は避けられます。逆に言えば、ここが弱い銘柄を買うなら、価格変動の大きさを前提に、サイズを小さくすべきです。
REIT ETFの選び方:初心者はここだけ見ればいい
ETFを選ぶときは、難しく考えるより「事故を避ける」視点が重要です。
- 対象指数と地域:日本のみか、米国中心か、グローバルか。為替リスクの有無が変わる。
- 分配方針:分配金を出すタイプか、内部で再投資するタイプか。目的(現金が欲しい/資産を増やしたい)で選ぶ。
- 信託報酬:長期では効く。低いほど有利だが、極端にこだわるより分散と運用継続性を優先。
- 出来高:流動性が低いとスプレッドが広がり、無駄なコストになる。
ETFをコアに置き、個別REITは少額で「理解のため」に持つ、という順番にすると、初心者でも失敗しにくい運用になります。


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