日本株『PTS・寄り前気配』を使ったギャップ・リバート戦略:初心者でも実践できる日中デイトレ完全ガイド

投資入門
本稿では、日本株の「夜間PTS(私設取引システム)」と「寄り付き前の気配値(板寄せ)」を組み合わせ、寄り付き直後に生じる価格ギャップの平均回帰(リバート)性を狙うデイトレード手法を、初心者の方でも実践できるレベルまで分解して解説します。単なる概念紹介ではなく、銘柄選定、具体的な発注手順、損益管理、検証(バックテストの初歩)までを一気通貫で示します。

ポイントは次の3つです。①夜間PTSの「行き過ぎ」を検出、②寄り前気配(板寄せ過程)の歪みを確認、③寄り付き~前場にかけての平均回帰を統計的優位性として利用します。これにより、ニュースや夜間の材料で過剰反応した価格が、取引所の正規流動性で修正されやすい傾向を狙います。

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戦略の全体像

この戦略は、夜間の限られた流動性で形成された価格(PTS)と、取引所の寄り付きに向けて受け付けられる指値の集積(板寄せ、気配値)とのギャップに着目します。具体的には、次の手順で実行します。

  1. 前営業日の引け値を基準に、夜間PTS終盤(概ね17:00〜23:59帯)で大きく乖離した銘柄を抽出します。
  2. 翌朝8:00以降の寄り前気配を逐次観察し、PTS方向と逆向きの修正(戻り)傾向、または過剰寄りの兆候(板バランスの傾き)を確認します。
  3. 寄り付き(9:00前後の板寄せ成立)でエントリーし、前場の平均回帰(9:00〜11:30)内で利益確定または損切りの執行ルールに従います。

夜間と寄りの境界に発生する「価格発見のやり直し」を狙うため、ニュースや材料の方向と逆張りする場面が多くなります。逆張りは難易度が高く見えますが、明確な数量管理と撤退基準を組み合わせることで、初心者でも機械的に運用可能なルールに落とし込めます。

基礎知識:PTSと寄り前気配

PTSとは

PTS(私設取引システム)は、取引所外の取引システムです。日中の取引所立会時間外でも売買が可能で、夜間帯(例:17:00〜23:59)に約定が発生します。出来高は銘柄により偏在し、スプレッドや板の薄さから、行き過ぎた価格が形成されやすい特徴があります。

寄り前気配(板寄せ)とは

取引所の立会は9:00に始まりますが、8:00から注文の受け付けが始まり、9:00の板寄せで初値が決まります。この間に表示される「気配値」と「出来高予定」は、市場参加者の指値の集積を可視化したものです。板バランス(最良売買気配の厚み)、気配の更新方向、成行・指値の比率などから、初値の過熱度合いを推定できます。

なぜ平均回帰が起きるのか

夜間PTSでは、①情報の解釈が一方向に偏りやすい、②板が薄く小口の注文で価格が振れやすい、③一部のアルゴが流動性供給を抑える、などの要因が重なりやすいです。翌朝の取引所では機関投資家や裁定参加者も加わり流動性が急増するため、過剰な乖離が修正される場面が一定割合で観測されます。これが本戦略の「エッジ(優位性)」の源泉です。

準備:口座・ツール・取引環境

1) 口座種別とPTS対応

本戦略はPTS価格と寄り前気配の観察が要なので、PTSの板・歩み値・指値が確認できる証券口座が望ましいです。主要ネット証券では、多くがPTS閲覧や夜間発注に対応しています。口座開設時は、アプリ/ウェブの気配表示機能、夜間の指値発注可否、OCO/IFD/IFDOCOの有無、約定通知のリアルタイム性を確認してください。

2) 必須の画面構成

  • PTSの気配・出来高チャート(終盤帯の推移が要点)
  • 寄り前気配(価格帯別の板厚、成売/成買の偏り)
  • ニュースヘッドライン(材料の方向と強度の把握)
  • 発注パネル(寄り付き成行/指値、OCO、逆指値)
  • リスク管理用の損失額モニター(1トレード最大損失)

3) 通信と端末

寄り直後は発注集中でレイテンシが上がりがちです。通信は有線または低遅延回線を推奨し、端末は同時に複数板を遅延なく表示できる性能があると安定します。

銘柄の選び方:スクリーニング条件

狙うべきは「前引け(取引所終値)からPTS終盤にかけて±3〜7%程度の乖離が出た銘柄」です。乖離幅が小さすぎるとサンプルにノイズが増え、逆に大きすぎるとニュース継続性が強く平均回帰しにくくなります。以下は実務的なフィルター例です。

  • 流動性:前日の取引所出来高が一定以上(例:100万株)
  • 価格帯:500円以上〜5,000円程度(スプレッド影響のバランス)
  • 乖離:PTS終盤の加重平均が終値比で±3%超
  • ニュース種別:一過性(格付、目標株価、軽微な決算補足)と継続性(業績下方修正、大型増資、重大事故)を区別
  • 気配の質:寄り前に成行比率が過剰(例:成買70%超)かどうか

上記は万能ではありませんが、初心者が「やってはいけない地雷」を避ける一次フィルターとして機能します。

エントリー・エグジットのルール設計

基本ルール(買いの平均回帰)

  1. 条件A:前日終値からPTS終盤までに−3%超の下落乖離。
  2. 条件B:翌朝の寄り前気配で売り板が厚く、成売比率が高い(過熱)。
  3. 条件C:初値が前日終値比で−2%以下で寄り付く。
  4. エントリー:初値成立後、最初の押し(またはVWAP回復)で成行/指値買い。
  5. 利益確定:初値から+1.0〜1.5%上昇、または前日終値の手前で部分利確。
  6. 損切り:初値から−0.6〜0.8%で逆指値(1回きり、再入場はしない)。

売りの平均回帰(逆方向)

前日終値からPTS終盤までに+3%超の上昇乖離があり、寄り前気配で成買過剰・買い板が偏在し、初値が+2%超で寄るとき、戻り売りを狙います。空売り可能銘柄・規制状況の確認は必須です。初心者はまず買い戦略から始めることを推奨します。

時間軸と保有期間

ポジションは原則として前場内にクローズします。ギャップの解消は寄り後30〜90分内に起こることが多く、長時間の保有はニュース継続リスクを増やします。

資金管理:1トレードの最大損失とサイズ計算

逆張り戦略では、撤退基準を先に決めて数量を算出します。「1トレードあたりの最大損失額=口座残高×リスク%(例:0.3%)」を上限とし、損切り幅(%)から株数を計算します。

例)口座残高 1,000,000円、許容損失 0.3% = 3,000円
損切り幅 0.7% 、初値 1,000円 の場合
必要株数 ≒ 3,000円 ÷ (1,000円 × 0.007) = 428株 → 400株に丸め

手数料、スリッページ、PTSと寄りのスプレッド差を保守的に見積もってください。実損益は理論値より悪化しやすい前提でルールを作ることが重要です。

寄り前の観察:板バランスと成行比率

寄り前8:00〜9:00の間、以下を定点観測します。

  • 最良売買気配の厚み比(売り板/買い板、例:1.7倍以上)
  • 成行の割合(成売・成買の比率、過熱の兆候)
  • 気配の更新方向(値段の切り下げ/切り上げ継続)
  • 出来高予定(約定見込みの規模)

「売り過熱」であれば寄り直後の戻りを、「買い過熱」であれば寄り直後の押しをイメージします。ニュースの継続性が強い場合は除外します(下方修正、重大事故、行政処分等)。

実行フロー:朝のタイムライン

  1. 7:50〜8:20:PTS終盤データの確認、スクリーニング結果をウォッチリストへ。
  2. 8:20〜8:50:寄り前気配を監視。板バランス、成行比率、気配方向を記録。
  3. 8:50〜9:00:発注パネルの準備。逆指値幅、利確指値、数量を事前設定。
  4. 9:00:初値成立を確認し、ルールに従いエントリー。
  5. 9:05〜10:00:VWAPや始値からの距離、板の厚み変化を見ながら利確・損切りを自動執行。
  6. 11:00〜11:30:未クローズがあれば時間でクローズ。原則、持ち越しはしない。

検証(バックテスト)の初歩:スプレッドシートで十分

高度なプログラミングは不要です。スプレッドシートで次の列を用意するだけで、戦略の大枠を検証できます。

  • 日付 / 銘柄コード / 銘柄名
  • 前日終値 / PTS終盤加重平均 / 乖離%
  • 寄り前成行比率 / 板厚比 / 方向
  • 初値 / 高値 / 安値 / 前場VWAP
  • エントリー価格 / 退出価格 / 損益 / コメント

サンプルサイズは最低でも100トレード。勝率だけでなく、平均損益、最大ドローダウン、損切り遵守率を記録し、実運用時の想定変動幅を把握します。

ニュースの強度評価:継続性と一過性

平均回帰の障害は「強い継続ニュース」です。以下は概略の判定基準例です。

  • 継続性が強い:通期下方修正、大型公募増資、重大事故、規制・行政処分、経営破綻懸念。
  • 一過性の可能性:レーティング変更、軽微な提携、短期的な需給要因、メディア露出。

継続ニュースに該当する場合は原則スキップします。平均回帰が起きにくく、逆行トレンドに巻き込まれる可能性が高まります。

ケーススタディ

ケース1:夜間で−4.2%下落、寄り前は売り過熱

PTS終盤で過度に売られた銘柄。寄り前気配では成売比率が75%、売り板が買い板の2.1倍。初値は終値比−2.3%で寄り、寄り後にVWAPへ回帰。初値+1.2%で利確、最大含み損は−0.5%以内。典型的な成功パターンです。

ケース2:夜間で+5.8%上昇、寄り前は買い過熱

PTSで材料が好感され過ぎた銘柄。初値は+3.1%で寄るも、前場に押し戻される。空売り可能であれば戻り売り、未対応なら見送り。買い過熱は「押し目買いではなく押し目スルー」のほうが安全です。

ケース3:継続ニュースで逆行

通期下方修正の翌朝。寄り前に売り過熱だが、初値後も売りが続き、平均回帰せず続落。ストップ安に接近。フィルターで除外すべき典型例です。

ケース4:初値から一気に+2%伸びて不発

売り過熱の買い戦略で、初値後に押しを作らず一気に戻って利確未達のまま反落。機械的に損切りを執行。追いかけ買いをしないことが損失限定に直結します。

ケース5:出来高不足で滑る

要件を満たすが板が薄く、発注サイズに対しスリッページが拡大。勝率は良くても損益が伸びない。最低流動性のしきい値を引き上げ、価格帯も再検討します。

実務TIPS:小さく始めて、規模を段階的に上げる

  • 最初の20トレードは最小サイズで「手順の精度」を上げることに集中します。
  • 約定通知・逆指値の発火確認を必ずログ化し、ヒューマンエラーを潰します。
  • 板の厚みとスリッページの関係を日々メモし、ルールへ反映します。
  • 損切り遵守率が95%未満なら、サイズ拡大は一切行いません。

チェックリスト(寄り前〜寄り直後)

  • [必須]PTS乖離が±3〜7%の範囲か?
  • [必須]前日の出来高がしきい値以上か?
  • [回避]継続ニュースではないか?
  • [確認]寄り前の成行比率が過熱サインを示しているか?
  • [確認]板厚比が一定以上で偏っているか?
  • [実務]逆指値と利確指値を事前設定したか?
  • [実務]1トレード損失上限内でサイズ計算したか?

よくあるミスと対策

  1. ニュースの強度を軽視する → 継続性の強い悪材料は除外ルールに。
  2. スリッページ未考慮 → 板厚と成行量を見て、保守的に前提を置く。
  3. 損切りの遅れ → 逆指値は事前設定、手動裁量は最小化。
  4. 値嵩株で過大リスク → 価格帯フィルターを厳格に。
  5. 保有時間の引き伸ばし → 原則前場クローズを徹底。

用語ミニ辞典

PTS
取引所外の私設取引システム。夜間でも約定が可能。
寄り前気配
板寄せ過程での推定売買価格帯と約定予定量の指標。
板厚比
最良売買気配の数量比。偏りが過熱のヒントになる。
成行比率
成行注文の比率。高いほど寄りでの過熱や窓の拡大が起きやすい。
VWAP
出来高加重平均価格。平均回帰の目安として用いられる。

テンプレート:トレード記録シートの項目例

日付, 銘柄コード, 銘柄名, 前日終値, PTS終盤加重平均, 乖離%, 寄り前成行比率, 板厚比,
初値, エントリー価格, 損切り価格, 利確価格, 退出価格, 損益, コメント

勝ち負けの理由を言語化することで、ルールを客観的に改善できます。

実装メモ:注文タイプの使い分け

  • IFDOCO:エントリー、利確、損切りをワンセットで発注。ヒューマンエラー抑制に有効です。
  • 逆指値(トリガー式):寄り後の急変に自動対応。スリッページは織り込みます。
  • 指値:VWAP付近や節目での約定を狙う。板を読みすぎず、機械的に。

戦略の拡張:売り・サブフィルター・時間統計

経験が積めたら、空売り可能銘柄での戻り売り、前場の分足統計(9:00〜9:30の平均回帰速度)、出来高増加率のしきい値などを追加し、優位性の高い条件に集中します。

まとめ

夜間PTSと寄り前気配の情報落差は、初心者でも再現可能な「観察」と「数量管理」によって収益機会に変えられます。大切なのは、地雷(継続ニュース、流動性不足)を避け、撤退を機械化し、サンプルを積み上げて検証を続けることです。小さく始め、ルールを磨き、段階的にスケールさせてください。

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